ギルド長
ゴブリンの巣を殲滅し終わり、救助者の手当てをしつつ討伐証明部位を回収する。
「タクト様、他にも人間が居りました」
「わかった、応急処置をしてやってくれ」
「畏まりました」
「タクト様、最初に助けた人間が目を覚ましました」
メロウに呼ばれ目を覚ました救助者に話を聞きに行く。
「こんにちは、気分はいかがですか?」
「は、はい、大丈夫です、助けて頂きありがとうございます」
「いえいえ、当然の事をしたまでです」
連れてこられていたのは全て若い女性だった、ゴブリンだからやっぱり繁殖とか?胸糞悪いな。
「皆さんはどこから連れて来られたんですか?」
「近くにあるセイア村からです」
「セイア村?そこにはどれくらいで行けますか?」
「半刻程です」
半刻三十分位か、まぁそれくらいなら送っても大丈夫かな?
「この人達を村まで送ろうと思うけどいいか?」
「はい、御心のままに」
快諾を受けある程度歩けるようになってから移動を始める。
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休憩を挟みながら歩いたため、一時間位かかり村に到着する、村では村人と兵士らしき人が言い争いをしていた。
「……だから早く助けに行くべきだ!」
「なら、この村の守りはどうするんだ!」
「あんた達は守りなんてしなかっただろ!だからうちの娘は……」
うーん、切迫した状況?でも聞く限り助けた人達について言い争いしてるみたいだし話しかけてみるか。
「あのー」
「……だからそれは!」
「あの、すいません!」
「あん?なんだ……」
大きい声で話しかけるとやっと気づいたらしく、村人も兵士も驚いた顔で止まる。
「お、お前達無事だったのか!?」
おぉ、感動の対面だ、しばし喜びが落ち着くまで待つ。
「くっ、人間風情がタクト様を待たせるなど」
「まぁまぁ、少し位待とうよ」
「……タクト様がそう言うのでしたら」
しばらくして落ち着いたのか、村人と兵士が一人ずつこちらにやって来た。
「冒険者の方本当にありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず……」
無事に助けられた事を良かったと思っていると、兵士から思わぬ一言が飛び出す。
「悪いが報酬は払えないぞ」
「はい?」
前提を話しておこう、まず報酬は請求していない、助けたのは偶然だし連れて来たのもそのままにするわけにはいかないからで、言わば慈善事業だ、にもかかわらず人の厚意を何だと思っているのやら。
「えっと、貴方は?」
「俺はこの村の警備のために駐在している部隊長だ」
「そうですか、俺は報酬を求めて来た訳ではありませんが?」
「はっ、どうだかな?冒険者ってのは意地汚い連中だからな」
「ガリックさんあなたは何を!」
村人が部隊長ガリックを責める、助けてもらったのにお礼も無しか。
「部隊長さん、なら何で直ぐに村人を助けなかったんですか?」
「お前には関係無いだろ!」
「それはまぁそうですけど、納得はいきませんね」
「ふん、そんな事知るか!早く出ていくんだな」
そう言って何処かへ立ち去る部隊長ガリック、何か感じ悪いな。
「申し訳ありません、冒険者さん」
「あ、いえ、本当に偶々なので報酬は結構なんですが……」
「……駐在の兵士はゴブリンが来て暫くは戦っていたんです」
「暫くは?」
「はい、勝てないと分かると一目散に逃げ出し」
逃げたのかよ、あの程度のゴブリンに。
「その後、ゴブリンが居なくなってから戻って来て、拐われた娘達を助けるよう言ったのですが」
「なかなか助けに行かず、あの言い争いですか」
「はい」
ダメにも程があるなここの兵士達。
「話は分かりましたけど、俺達じゃあ力になれなさそうです、何か困ったら街の冒険者ギルドに依頼して下さい、力を貸します」
「はい、ありがとうございます」
村を後にする、一介の冒険者に出来る事何て限られてるよな、そう言えばメロウ達がやたら静かだったな、何時もなら怒りそうだけど。
「どうかしましたか?タクト様」
「い、いや、何でもない街に戻ろうか」
「はい」
メロウの方を見ると満面の笑みだった、笑っているのが逆に怖い、何もないといいな。
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村でのひと悶着もあったが無事依頼は達成でき、街にも帰って来れた、報告をするべくギルドへ向かう。
歩いている途中、ギルドの馬車を停めるスペースに朝すれ違った豪華な馬車を見つける。
「あの馬車ギルドの関係者だったんだな」
「それは都合が良いですね」
「何が?」
「いえ、こちらの話です」
クロノが呟く、何か話でもあるのか?
「タクト様、まずは達成報告を済ませてしまいましょう」
「おっと、そうだなメロウ」
中に入り受け付けに向かう、途中でアイナさんが気づき他の職員に何か言っている、俺達何かやったっけ?
「お帰りなさい、タクトさん」
「ただいまです、ゴブリンの討伐と薬草の採取終わりました」
「はい、では確認を」
「あ、そっか、メロウ証明部位と薬草の束出して」
「畏まりました」
すると床にぼとぼととゴブリンの証明部位、ゴブリンの耳が散乱する、あーやっぱり袋に入れるべきだったか。
「タ、タクトさん?」
「すいません、途中で袋が一杯になっちゃって」
「あ、そうなんですか、いえ、そうではなく、今どこから?」
「メロウが空間魔法で……」
「く、空間魔法!?で、伝説の!?」
えっ?空間魔法って伝説上の物なの?割りと一般的と思ったけど、ここでは違うのか。
「そ、それにこの量は?」
「はい、巣に三十匹位居ましたので」
「さ、三十匹!?中規模の群れじゃないですか!?報告では十匹程の群れだったはず……」
あー、報告に誤りがあったようで。
「あと、この一際大きな物は?」
「あ、群れのボスみたいでした」
「どう視てもボブゴブリンの物じゃないですか!?」
「はい、ボスゴブリンの……」
「スじゃなくて、ブです!人間から何度も逃げ延びて知識を備えた、討伐ランクDの魔物です!」
何かすごい事になってる、他の冒険者もこっち見てるし、今度は薬草の束を持って固まるアイナさん、これもか。
「こ、これは?」
「えっと、一応薬草のつもりで」
「これ薬草じゃないですぅ!上位の回復薬をツクル時に使うめったに取れないヒール草ですぅ!!」
フェンの方を見るとバツが悪そうに顔を反らす。
「えっと、じゃあ依頼は未達成ですか?」
「それどころじゃありません!これ一本で薬草の束の十倍はするんですよ!?」
アイナさんの言葉を聞いて、目をキラキラ輝かせ、褒めて!という目を向けるフェン、ごめん素直に褒められない、間違いは間違いだからね?
ぜぇ、ぜぇと息をするアイナさん、何か悪いことしちゃったな。
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アイナさんに報告をしていると、奥から女性が出てきた。
「アイナ、少し落ち着きなさい」
「あ、メグミさん」
メグミさん?確かギルド長だったっけ?長い髪をポニーテールに纏め、切れ長の瞳、そして木刀を腰に下げた出で立ち、まさにサムライって感じの装い、にも拘らず着ているのは白い軍服っぽい物、サムライじゃなくて海軍将校に見える。
「ひょっとして彼が例の」
「は、はい、そうなんですが、持って来たものが……」
「あー、なるほどこれは騒ぎたくなるわ」
二人でひそひそ話していると思ったら、メグミさんが呆れたように苦笑いをしだした。
「質問いいかしら?」
「は、はい」
「あ、緊張しなくていいわよ?簡単にで良いから経緯を聞きたいだけだから」
「は、はい、えっと……」
俺は本当に簡単に経緯を説明した、依頼を受け薬草を探しながらゴブリンの巣を探して討伐、ついでに拐われていた人を救助、それ以外にないしな。
「なるほど、特に問題はなさそうね、ではゴブリンの討伐依頼の報酬、それにボブゴブリンの討伐報酬を上乗せするわ、けど薬草採取の依頼はまだ達成手続きはできないわね」
「はい」
「ヒール草はこちらで買い取りでいいかしら?」
「あ、できれば半分は貰っていいですか?」
「ええ、いいわよ」
メグミさんがてきぱきと話を進める、さすがギルド長仕事が早い。
「それと、あなた達に聞きたいことがあるの、奥の部屋に来てもらえるかしら?」
「はい、構いませんが?」
聞きたいこと?昨日のエニの事かな?
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ギルドの奥、ギルド長の執務室に俺達は来ていた。
「急な呼び出しでごめんなさい、確認したい事があって、あなた転生者ね?」
どストレートにきたな、という事はやはりこの人もか。
「はいそうです、ギルド長もですか?」
「ええそうよ、やっぱり転生者だったのね」
「何かまずかったですか?」
「いえ、まずいという訳では無いんだけどね……」
ギルド長は困ったように苦笑いをしている、何かあるのかな?
「とにかく、あなたが転生者という事で今回の件はわかったわ、ちゃんと報酬は払われるんで安心して」
「はい、ありがとうございます」
「では、あとは受付で報酬を貰って下さい」
ギルド長に言われて部屋を出ようとしたが。
「タクト様、わたくしとクロノは今後についてギルド長にお話が聞きたいので、少し残っても宜しいですか?」
「わかった、じゃあ先に酒場に行ってるから」
人間と積極的にコミュニケーションを取ろうとするのは良いことだ、心配する必要なかったな。
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タクトが出ていった後のギルド長の執務室、室内には重い空気が流れる。
「残って頂いてありがとう、夜にこっそり使者を出そうと思っていたけど、手間が省けました」
「貴女にお礼を言われる謂れはありません、我々にも用件があったのですよ」
「その用件とは?」
「外に停めてある馬車は貴女のですかな?」
「ええ、そうよ?」
「では、御者をしていた男が何処に居るか御存じですかな?」
「知っているけど、貴方達はそれを知ってどうするの?」
「殺します」
その瞬間空気が一気に冷えた気がした、同時にギルド長メグミは酷く後悔をする、メグミは転生する際に鑑定のスキルを手に入れていた、これは物や人物の詳細を読み解く力、しかしここ数年使うと言えば冒険者が持って来た物資の質が良いか、持って来た物に偽りは無いか、盗まれた物では無いか等である、人に使う事は無くなった、自分より強い者などせいぜい他のギルド長ぐらいだから。
自分より強い者など数えるくらい、だから慢心していた、実力者が力を隠すことがある事を、最初に目の前に立ったタクトを基準にしてしまった、タクトは確かに他と比べたら強い、だがメグミには遠く及ばないそんな彼を基準にしてしまったのが彼女の過ちだった。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、こんな殺気今まで受けた事ない!何なのこの人達!?)
ここでようやくメグミは鑑定を使う。
メグミのスキル鑑定による結果
名前:メロウ(ゴーゴン)
種族:魔神
年齢:???
性別:女
Lv????
攻:???
防:???
魔力:???
速:???
運:???
スキル:解析不能(エラー)
名前:クロノ(サイクロプス)
種族:魔神
年齢:???
性別:男
Lv????
攻:???
防:???
魔力:???
速:???
運:???
スキル:解析不能(エラー)
(名前と種族と性別しか解らない!?どんだけレベル差があんのよ!?あと種族"魔神"って人ですらなかった!?それを従えてるあの子何者!?)
「どうかしましたかな?」
「いいえ、何でもないわ」
冷静を装うメグミ、だが内心では。
(何でもないわけないでしょ!あー、早く帰りたい、早く帰って寝てしまいたい、そして今日という日を終わらせたい!)
内心では冷や汗を流しながら現実逃避に走っていた。
「ゴホンッ、気を取り直して、申し訳ないのだけど御者をしていた冒険者の情報を渡すわけにはいかないわ」
「……何故ですかな?」
室内の圧が増す、常人なら気を失うほどの圧、しかし悲しいかな、メグミは仮にもギルドの長、それなりの実力者故に耐えられてしまう。
(できれば気を失ってしまいたい)
「御者をしていたのは、そこそこ優秀な冒険者なの、彼を失うのはギルドの損失、延いては街の危険に繋がる可能性もあるから」
「なるほど」
(まぁ、実際は冒険者の保護もギルドの職務のうちだからなんだけど、クエストで死ぬならまだしも、殺します宣言されてたらさすがに守らないわけにはいかないのよね、どんなクズでも)
「なので、その冒険者にはこちらから厳罰を与えます、それじゃあダメかしら?あ、もちろんタクト君にはお詫びをさせてもらうわ」
「ふむ、それならまぁいいでしょう、ただ二度目はありませんよ?」
またしても放たれる重圧にメグミはコク、コクと首を振ることしかできない、とそこに扉を叩く音が響く。
コンコン。
「ギルド長、朱の鳥のケインさんとクレアさんをお連れしました」
「入りなさい」
ガチャッ
「失礼します、メグミさん用事って……」
「おや?これはケイン殿、今朝ぶりですな」
入って来て早々にケインは石化する。
「すいません、お邪魔でしたかね……?」
「待ちなさいケイン、貴方達に話があったから呼んだのよ」
立ち去ろうとするケインを引き留めるメグミその心は。
(これ以上一人で話しなんて無理!逃がさないわよ!)
「ゴホンッ、改めてケイン、今朝貴方達から聞いたのは彼らで間違いないかしら?」
「はい、彼らが昨日この街を守ってくれた英雄です」
クレアがメグミの言葉を肯定する。
「勘違いしないで頂きたいのは、報酬はケイン殿にちゃんとお支払頂くという事ですね?」
「それはこちらも承知しているわ」
「英雄などという言葉で報酬をはぐらかされたら堪りませんからな」
ケインに対して、分かっていますよね?と言わんばかりに視線を送るクロノ。
「それで、昨日の街の防衛についてギルドからも報酬を出したいと思うのだけど」
「ふむ、特に必要なものはありませんな」
「なら、ケインにしたタクト君に城を上げると言うのに、協力する形で報酬としたいのだけど、どうかしら?その方が確実性を持てると思うのだけど?」
「ふむ、いいでしょう」
(よし、ここまで計画通り)
幾らトップ冒険者のケインと言えど、城処か屋敷でも用意するのは簡単ではない、なのでギルド長メグミに泣きついたのだ、それに対してギルド長はケインを手伝うと言う形でギルドの報酬とした、事前にケイン達にクロノ達が他に報酬を要求しなさそうなのは調査済みである。
「では今回の話は以上です、続いて冒険者としてケイン達とクロノさん達に依頼があります」
「……依頼ですか?」
ケインが嫌な予感を感じ聞き返す。
「ええ、二組には王都に行って貰いたいのです」
「王都に?」
「そう、昨夜の騒ぎで私は会議に出ず引き返してきてしまったから、その経緯についての手紙を届けてもらいたいの、手紙はクロノさん達に、その案内をケイン達にね」
「あぁ、なるほど」
「ケイン達は良さそうね、クロノさん達は?」
「お待ちなさい下等種、わたくし達の行動はタクト様がお決めになります、わたくし達ではなくタクト様に懇願しなさい」
(うっ、クロノさんは以外にこっちの話を聞いてくれるけど、メロウさんは聞く耳持たずって感じね、ちょっと苦手かも)
「そうですね、私もメロウと同じ考えではありますが、タクト様に言葉添えくらいはしましょう」
「そうですか、ではお願いします」
(ふう、やっぱりクロノさんは友好的ね助かるわ)
「ええ、それがタクト様の望みですから、そちらが友好的な間はこちらもそれなりの友好は持ちますよ、ただ価値がないと判断した場合はその限りではありません」
(……心読まれてる!?)
「では、タクト様もお待ちですので酒場まで行きましょうか?タクト様もお喜びになられると思いますしね」
「いや、私はまだ仕事が……」
「まさかとは思いますがお断りなどしますまい?」
「……はい」
小さく返事をするメグミ、その肩を叩くケインとクレア。
「メグミさん、逃がしませんよ?今度はこっちが道ずれにします」
「メグミさん?タクトくんとは仲良くしといた方がいいですよ、行きましょ?」
ケインは先ほど逃げられなかったから、クレアは自分と同じ苦労を人にも味わわせたいから、それぞれ肩を掴む手に力を入れる。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
所変わってここはギルド併設の酒場、そこには空白地帯が出来ていた。
「クロノとメロウ遅いな」
「そうですね、先に食べちゃいましょうか?」
一足早く来ていたタクト達は飲み物のみを先に注文し、クロノ達を待っていた。
「うーんもう少し待ってみようか、二人はお腹減った?」
「僕は大丈夫です」
「エニも………平気」
エニは限界が近そうだな間がちょっと長かった。
「タクト様、お待たせしました」
おっ、やっと来たか、声のした方を向くとメロウとクロノに加えてギルド長とケインさん、クレアさんがいた。
「おぉ、ケインさん達も一緒なんですね」
「あ、ああ、俺達もギルド長に呼ばれててな」
「そうなんですか」
「その話は後にしましょう、先に食べましょう、今日は私の奢りよ!」
「いいすかメグミさん!」
「ええ、じゃんじゃん飲みなさい!」
(私も飲んで忘れたいから……)
「よっしゃー!飲むぜ!」
こうして宴が始まった。
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