初仕事
ギルドに入ると昨日より多くの冒険者が居た、冒険者は朝依頼を受けて夕方報告に来るものらしいので当然と言えば当然か。
「うーんカウンター混んでるな」
「では、タクト様先に受ける依頼を決めてしまってはどうでしょう?説明を受けるのはその後でも宜しいかと」
確かにメロウの提案にした方が良さそうだな。
さっそくギルドの依頼掲示板の前に行く、移動しようと動くと同時に掲示板までの道ができた、何か遠巻きにヒソヒソと朝の喧騒とは別の物が話されてるし、ひょっしてあれかな、昨日エニが凄い回復魔法を使ったのが噂になってるのかな?
「して、タクト様どのような依頼を探しますかな?」
「うーんそうだな、まずは簡単な採取か討伐かな」
「畏まりました」
最初という事もあり、あまりむちゃな依頼ではなく手堅い所を狙おうと思う。
「タクト様こちらなど如何でしょうか?」
直ぐにクロノが探して来る、えっとなになに近くの森で薬草採取、十本で一束、一束銅貨一枚(日本円で百円)うん悪くないな。
「それと簡単な討伐はこちらでいかがですか?」
続いてメロウが討伐の依頼を持って来る、こちらはゴブリンの討伐、十体で銅貨一枚だ。
「うん、いいんじゃないか?最初だし」
「では、カウンターへ行きましょう」
メロウ達とカウンターへ行くがやはり目立っている、カウンターに着き並ぼうとするとまた問題が起きた。
「あ、カウンターにご用ですか?良ければ先にどうぞ!」
「え?僕達ですか?いえいえ急ぎませんので」
「おい、あの人達だ先譲れ、隣に並べ!」
と、先に居た人達がみんな譲ってくれた、いや有りがたいけど、ここまでの事なのか?
「お、おはようございます、タクトさん」
「おはようございますアイナさん、さっそく依頼を受けに来ました」
受付嬢のアイナさんに挨拶をしながら、取ってきた依頼書出す。
「はい、確認させて頂きます」
依頼書受け取り受領の手続きをするアイナさん。
「確認させて頂きました、これくらいでしたらタクトさん達なら大丈夫だと思います、それとこちらタクトさん達のギルドカードです」
「ギルドカード?」
「はい、今のランクと受領中の依頼などが確認できます」
「へぇー」
「また、そのカードが有れば他の町でも入る時の審査が早く済んだり、ギルド運営の道具や武器の販売店で優遇して貰えたりします」
中々に便利な物らしいので大切に保管しておく。
「では、御気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
アイナさんにお礼を言ってギルドを出ようとした時、入り口からケインさん達パーティー朱の鳥が入ってくる所だった。
「あ、えっと」
何かケインさんもよそよそしい、何かやったっけ?
「何してるのよケイン、ごめんねタクトくん、おはよう」
「おはようございますクレアさん、ケインさんも」
「あ、あぁ、おはよう」
クレアさんは昨日と同じなんだが、ケインさんはやはり様子がおかしい。
「あはは、ごめんねケインお腹痛いみたいで、気にしないで?タクトくんはこれから依頼?」
「はい、初めての依頼で緊張してます」
「タクトくんなら大丈夫よ、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
クレアさんにお礼を言って改めてギルドを出る。
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タクト達が出ていったギルドの中では。
「はぁ、ちょっとケイン!何してんのよ!」
「うっ、すまん」
「タクトくんと仲良くしてるのが一番ってあんたも分かってるでしょ!」
「まぁまぁ、クレアその辺で……」
「ダメよアイナ、こいつを甘やかさないで!私達の命運はケインに懸かってるんだから!それと、レイト、ミリ―、ガルバ!あんた達もちゃんとタクトくんに名前売っときなさいよ!」
クレアの怒りはケイン以外のパーティーメンバーにも飛び火する、レイトは若い剣士、ミリ―は女性僧侶、ガルバはオッサン重戦士だ。
「無理ですよクレア姐さん、ケインさんが畏縮する相手にあっしが話し掛けるなんて」
「そうですね足が震えてしまうわ」
「あー、さすがに俺もな、できれば関わりたくない」
『だからクレアに任せた』
「あんた達ねぇ!」
クレアの怒りはギルドに響くのであった。
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「さすがにちゃんと準備はするべきだよな」
今、俺は武器を持っていない、せめて剣くらいは欲しい、なのでさっそく武器屋に来たのだ。
ギルドに併設する武器屋、ギルドカードを見せると割り引きしてくれるらしい。
「タクト様、こちらなどいかがでしょう?」
「うーん、ちょっと長いかな?ロングソードよりもショートソードの方が小回りが効くし、洞窟でも振りやすいって聞いた事がある」
「流石タクト様博識ですね」
「ではこちらのショートソードと盾でよろしいですかな」
「そうだな、後は防具を……」
「防具はこちらでご用意しました」
「え?おぉ何か凄そうな防具!」
ドラゴンメイルって言うんだっけ?頑丈そうな革鎧だ。
「これどうやって作ったんだ?」
「良い素材が手に入りましたので作ってみたのですが」
「良いね気に入ったよ」
「何よりでございます」
剣と盾だけ買って店を出る、メロウ達にも防具をと思ったが必要ないと言われた、何でも元々身に付けている物がそんじょそこらの物では遠く及ばないと言う事だ、流石神話の魔物。
装備を整え街の門へ移動する、門につくと何人かの冒険者が居た。
近づいて会話を聞く限りどうやら門の警備をしているらしい、昨日は居なかったと思うけど勝手に入ったらダメだったのか?などと考えていたら冒険者の一人がこちらに気づいた。
俺達に気づいた冒険者は慌てて仲間に声を掛けている、それを聞いた仲間達は門の壁に背をつけまるで整列するように並んだ。
「ご苦労様です!いってらっしゃいませ!!」
えっ!?これ俺達に言ってるの?他に通る人居ないし間違いか?と思い冒険者の方を見ると、まんま軍隊の敬礼をしていた、ベテランらしい冒険者は称えるように、新人らしい真新しい装備を着けた冒険者は憧れるように敬礼をしていた。
………いったい誰に!?俺達まだなにもしてないよ!?いや、ひょっとしたらこれがこの街の送り出し方なのかも知れない、うん、そう信じよう、だって後ろを歩くメロウ達は興味無さげだもの。
若干戸惑いを受けつつ街の門を潜る途中、前方からすごい勢いの馬車が走って来た、よそ見をしていたため発見が遅れ慌てて避ける。
「邪魔だ!」
避けたにもかかわらず御者に怒鳴られる、御者をしていたのは白銀の鎧を着た男だった、馬車も豪華な物だったので乗ってるのは貴族か何かか?
「あの者、タクト様に何と無礼な!」
「まぁまぁ落ち着きなメロウ、きっと何か急ぎの事があったんだろ」
怒り心頭のメロウを宥めつつ馬車を見送る、方向的にギルドの方っぽいな。
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タクトの見送った馬車にはこの街のギルド長メグミが乗っていた。
まだ朝の喧騒が残るギルドに勢い良く中に入るメグミ。
「メ、メグミさん!」
入って来たメグミに一番に気づいたアイナの声でギルドに居た全員がそちらに目をやる。
「アイナ、慌てて帰って来たんだけど、状況は?」
「はい、実は……」
アイナは昨夜起きた事を簡単にメグミへ説明した。
「なるほどそんなことが……」
「ギルド長信じられないかもしれませんが、私達が証明するわ、何せ目の前で見ていたんだから」
「朱の鳥の証言なら間違いないわね」
Aランク冒険者パーティー朱の鳥には、ギルド長であるメグミも大きな信頼を置いている、がそれに異を唱える者もいる。
「それは如何なものでしょうかね、ギルド長」
ギルドに入って来たのは馬車の御者をしていた白銀の鎧を着た男、パーティー名はまだないBランク冒険者チームのリーダーだった。
「どうゆう事メイツ?」
メイツと呼ばれた男は歩きながら答える。
「ギルド長、彼らが嘘を言っているかもしれないと言ってるんですよ」
「嘘を?」
「だって考えてみてください、千匹近いバジリスクが大量発生して、四人で全てを倒したなんて信じられますか?」
「確かに耳を疑いたくなるわね」
「それに、門の前には戦闘の跡が全く無かったじゃないですか」
「そ、それは彼らが……」
「じゃあその彼らは今どこへ?」
メイツの質問にアイナが答える。
「もう既に依頼を受けて街の外へ……」
「はぁ、これじゃ証明にはならないのでは?」
「俺達の他にも多くの冒険者が目撃しているんだぞ!?」
「まぁ、落ち着きなさいケイン」
「……メグミさん」
ケインを宥めつつメグミはメイツに鋭い視線を送る。
「それで、メイツ何が言いたい?」
「彼らが嘘の証言をして、ギルド長をわざと会議に参加させ無かったのでは?」
「な、何で私達が!?」
「クレアも落ち着きなさい」
「理由は簡単ですよ、自分達のこの街唯一のAランクというポジションを守りたかった、でしょ?」
「はぁ!?」
怒りながら叫ぶクレアの声を無視して、メイツは得意気に話を続ける。
「みんな知っての通り今回のギルド長の護衛は、僕達のパーティーがAランクに昇格するかの審査でもあった」
メイツのパーティーは多くの冒険者に名が知れている、実力はそこそこ有るのにリーダーの人間性に難有りという面でだが。
「そこで朱の鳥は自分達以外のAランクパーティーができるのが気に入らず、今回のように妨害に出たのだよ!」
「出たのだよってあんたねぇ」
クレアを初め朱の鳥パーティーの面々は呆れるしかできない。
「なるほどならメイツ、アイナや他の冒険者についてはどう説明する?」
メグミが半ば呆れながらメイツに聞く。
「買収したのでしょう」
「な!?」
あろうことか冒険者どころか職員を買収して、従わせたと言うメイツ。
「彼らはかなり儲けを貯めていたらしいですからね、こういった時に備えていたのでしょう」
「それはギルドハウスを買うために」
ドン!という音がクレアの言葉を遮った、音の発生源はケインの拳と受付の机。
「てめぇいい加減にしろよ?」
「おぉ怖い、図星ですか?」
「二人共止めなさい!」
まさに一触即発の二人の間にメグミが割って入りため息を一つこぼす。
「わかったわ、メイツ貴方をAランクに昇格するわ、同時に貴方のパーティーはAランクパーティーと認定します」
「メグミさん!?」
「ほぉ?よろしいんですか?」
「その代わり今回の件について、これ以上言い掛かりは辞めなさい」
「言い掛かりなんて……」
「辞めなさい」
静かに言うメグミに気圧されるメイツ、メグミからは確かな怒りが伝わってくる。
「……ふ、良いでしょう、では我々はこれで」
悠々とギルドから出て行くメイツのパーティーの背中を睨み付けるケイン。
「メグミさん納得いきません!」
「いいのよ別に実力はない訳じゃないから、これ以上話を聞いてる方が毒だわ、それより奥で詳しい話を聞きたいから朱の鳥は来てちょうだい」
こうして一悶着の後、ギルドはいつもの喧騒に戻っていく。
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街を出たタクト達は草原を歩いていた。
「この先の森でゴブリンが巣を作ってるみたいだな」
「その討伐が今回の依頼ですね」
「ついでに森の中で薬草を探せば一石二鳥だ」
しばらく歩くとすぐに森に着いた。
「さて、ゴブリンの巣は何処にあるかな」
「森を焼き払いますか?」
「いや、ダメだろ」
「はい……」
メロウが怒られてしゅんとする、従者は物騒な発言が多いんだよな、ちゃんと見とかないと何をやるやら。
「手分けして探すか?」
「いえ、タクト様それは危険です、馴れない森ですので」
「うーん確かに、なら地道に探すか」
「はい、薬草を集めながら探すのが堅実かと」
クロノの言う通りそれが一番か、さてじゃあ薬草をどうやって探すか。
「タクト様!これ薬草です!」
「え?解るのか?」
「はい!匂いで!」
フェンがひくひくと鼻を動かす、さすが狼鼻が良い。
「よし、じゃあフェンに薬草探しを任せる!どんどん採って行くぞ!」
「おー!!」
十本一束はすぐに集まった、その過程でゴブリンの巣も見つける事ができた。
「巣って言うからにはかなりの数が居るんだよな」
「えぇ、恐らく三十程は居ますね」
「よし、行くぞ!」
「お待ちくださいタクト様」
いざ巣の中へと思ったがクロノが待ったをかけてきた。
「どうしたクロノ?」
「御身に何かあってはいけません、ここは私達が」
「いや、大丈夫だろう」
「しかし……」
「なら、俺は二番目でどうだろう?」
「……畏まりました、では先頭は私が」
「ではわたくしが三番目を」
「エニ、四番」
「じゃあ、僕が殿だね!」
順番も決まったし改めていざ巣の中へ。
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洞窟に作られたゴブリンの巣に入ると、悪臭が漂ってきた。
「う、臭い」
「縄張りを示すため壁に糞尿を塗り込んでいる、様ですな」
フェンが顔をしかめる涙目だ、狼の嗅覚にこれは辛いだろうな。
「どうにかならないか?」
「では臭い消しの結界を使いましょう」
「臭い消しの?」
「はい、本来は自分の臭いを消しますが、副次効果で周りの臭いも消してくれます」
「よし、メロウ頼んだ」
「はい」
メロウが魔法を使うと同時に臭いもしなくなる、便利な魔法だ。
「フェン大丈夫か?」
「はい!ありがとうございますタクト様」
「いや、お礼を言うならメロウにな?」
「はい!ありがとうメロウ!」
「いいのよ、全てはタクト様の御心のままに」
臭いも無くなったし奥へ進む、進むとすぐにゴブリンが出てくる、緑色の肌をし、子供位の身長エニより少し小さいくらいか。
乱戦になるが常に誰かが俺の背中を守ってくれる、かなりやり易い。
「ほっと、やっぱりショートソードは振りやすいな、それにこの防具動きやすいのに頑丈だ」
「お褒めいただき光栄ですタクト様」
十数匹いたゴブリンもすぐに片づく、討伐を証明する耳を切り取り、袋に詰める。
「こんだけ多いと大変だな」
「見てくださいタクト様!もう袋がパンパンですよ!」
フェンが嬉しそうに見せてくる、もう少し大きい物を用意するべきだったか。
「仕方ない他に使ってない袋に纏めよう」
「そうですね、あ、纏めた物はわたくしが空間魔法で保管しますね?」
「……なら普通に直接空間魔法で保管したら良いんじゃないか?」
「……さすがタクト様、聡明です」
メロウって時々抜けてる?
「じゃあメロウ、頼んだ」
「はい」
メロウに回収を頼み奧を目指す、奥には開けた場所がありそこでは多くのゴブリンと一際大きなゴブリンが鎮座していた。
「ふむ、どうやら群れのボスらしいですな」
「なら、あれを倒せば終わりか」
「では、ここから焼き払いましょうか?」
「可能ならその方が早いかな?少なくとも牽制にはなるし」
そう思い観察していると、奥に倒れた人影が見えた。
「ちょっと待て!あそこに人が居るぞ!」
「……見るにまだ生きているようですな」
「クロノ、助けられそうか?」
「タクト様が望むのでしたら、容易いかと」
「わかった、人命を優先にする!他にも人が居るかもしれない、出来る限り助けるんだ!」
「畏まりました」
「行くぞ!」
クロノ達に確認し走り出す、先ずは倒れている人の安全を確保する、盾にされたらたまったものじゃない。
すぐに倒れている人の近くにいたゴブリンを切り飛ばし安全を確保する。
「傷が酷い、エニ回復を!」
「はい」
「メロウは魔法で牽制、味方を巻き込まないように注意して」
「はい、タクト様」
「フェンはエニと救助者を守れ!」
「はい!」
「クロノは俺と残っているゴブリンを倒す!」
「畏まりました、御背中お守りします」
救助者を守りつつ従者に指示を出す、目の前には二十数匹のゴブリンとそれを統べる王、正直アラサーにはキツイ。
ゴブリンを相手取り大立回りをしていると、ボスゴブリンがのそりと立ち上がるのが見えた、座った状態でさえ170㎝ある俺より高かったのに更に高くなった、こいつどうやって洞窟に出入りしてるんだよ。
巨体もさることながら、長い腕と長剣が更に脅威になる、普通洞窟では振れない程の長剣しかし、ここは洞窟の奥に広がる開けた空間、横凪ぎに振り回してくる。
「仲間ごとかよ!?」
悪態をつきながら何とか避けようとするが、繰り出された横凪ぎを止める人物が一人、クロノだ。
「ふむ、なかなかの業物ですな、誰かの落とし物でしょか?」
素手で横凪ぎを止め長剣の品定めをするクロノ。
「さ、さすが」
「ほっほっほ、何を仰いますタクト様ならこれくらい直ぐに出来るようになりますとも」
いや、無理じゃね?こんな話をしている間もボスゴブリンは、何とか剣を動かそうとしているがびくともしない。
「さて、そろそろ静かにしていただきましょうか?」
そう言ってクロノが腕を一振り、恐らくナイフで切り裂いたのだろう、見えなかったけど、すると糸の切れた人形のようにボスゴブリンは倒れ、残りのゴブリン達は統率が無くなる、後は簡単だった出口へ逃げようとするゴブリンは、いつの間にか待ち構えていたクロノによって刈り取られ、有象無象と化したゴブリンは牽制から残党狩りに移行したメロウの魔法で倒されていく。
こうして初仕事は幕を閉じていく、やっぱり俺は活躍できてなくね?
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