言霊遣い ザムトは双子竜に襲われる(2)
と、視野にふけっていた時に2人ともが人の姿で、角どうしをコツコツとぶつけているのが目に入った。人の姿だとこめかみのあたりからにょきっと生えている角はとても短く可愛らしいもので、その結果角をぶつけようとしているのが頭をごっちごっちとぶつけているように見えてしまっている。まあ可愛らしい事この上なかった。そして、すごく嬉しそうな顔をしていて頬まで赤らめてしまって、拝みたくなるレベル。今すぐ携帯を取りだし動画に収めたい衝動にかられる。
「何やってるんだい?」
「フェリと一緒だといつも元気が出るのがね、気の所為じゃなくて嬉しいの」
「ディアとずっと一緒って書いてあるの嬉しい」
つまりは嬉しいとこうやって角をお互いぶつけ合うと言うことなのだろう。愛情表現のひとつなのだろうなあと納得した。
「そう、あいじょーひょーげん」
「フェリは考えてることが分かるもんな」
「うん」
嬉しい事があるとね、角をぶつけるの!と言いながらまたフェリとディアがこちこちと目の前で見せてくれた。結構な勢いでぶつけるので角が割れてしまうのではないかと少し心配してみたがまあ折れたら折れた時なのだろう。まあ俺が気にすることでもなさそうである。
と、フェリがふわふわと飛んできたと思えば自分の頭の横をわしわしと何かを探すかのようにかき分けてきた。何だろう何かついていたのだろうか。それともマスクをつけていたせいで変な癖でもついていただろうか。
「ざむぅは角ないね」
「人族にはないかなぁ」
「じゃあ嬉しい時どうするの?」
「嬉しい時……」
これがカルチャーショックというものか。どうするのという純粋な知識欲をぶつけられた思わず考え込んでしまった。ハグか?笑いあう?海外だと頬を合わせたりとかするって聞いたけども日本人はそんなことしないし、お礼を言うは嬉しいの表現でもないし。やっぱりここはオーソドックスにハグか。
「ディア、こう手を広げて」
「こう?」
「そうそう」
フェリもその真似をしていたのをまとめてがばっと抱きしめてあげた。これをハグという、と大真面目に説明をしつつ。その実ずっと車いすだったせいもあり、ハグを他人としたことというのはこの世界に来るまではなかったのだがまあその辺りはいいだろう。2人も楽しくなってきたのか小さい手が自分の背に回ってギュッと抱きしめてくれるのは暖かくてたまらなく好きだった。
「じゃあザムトに好きって伝える時こうする!」
「あはは、ありがとう」
ダメだ、親バカになってる。間違いない。2人の頭をよしよしと撫でているととても癒される自分がここにいた。これが世間一般で言うところの目に入れても痛くない、と言うやつだろう。まぁ実際にそれを口に出したらじゃあやれと言わんばかりに言霊が反応しそうで怖いから言えないのだが。
「ことだま?」
「美味しいのか?」
珍味です。調理次第では即食あたりします。尚先日無事に食あたりした結果身長が10センチばかり縮みました。つらい。そんな弱音も言えないこれである。美味しい部分もまぁ、全く無いわけでもないのだけども……如何せん不便なところの方が目につく事が多いのが現状。本当に困ったものである。
「美味しくはない……けども俺が持ってる祝福のひとつかな」
「ほうほう。他にはザムトはどんなのを持ってるのかききたい!」
と、彼女が宣うので自分の能力について簡単に話すことにした。まぁ、言霊と食べたら能力が奪える的なものと、お菓子のカバン程度なのだけども。他のは言う必要もないかなと思う。知るべき時があれば知るだろうけども、必要が無いことは話すべきでもないと思う。
あと、このタイミングで俺が実はものすごく遠い場所から来て、全くこの世界のことか分からないこと、あとは戦った経験などもないことも伝えておいた。自分の能力についても分からないことだらけな事も。
「じゃあさ、じゃあさ。ザムトもディアとフェリと一緒!初めての旅だ!」
ゴチンとディアが角を俺の頭にぶつける。
「おそろい」
反対側の頭をフェリがゴツンと。嬉しいの表現であるので我慢したいのだけどもこれがなかなかに痛い。目の端に火花を散らしながらグワングワンとする頭を冷やすかのように客車の窓に頭を押し付けた。頭をぶつけるとバカになるというがあれが本当だったら俺はあっという間にIQが著しく低下することは間違いないだろう。
「わかんないことは一緒に考えるしかないね!」
「そうだなぁ……俺も知らない事ばかりだしなぁ」
が、この会話が悪かった。
「ざむぅ。なま?」
「え?何が」
「食べると能力もらえるの。なま?焼いてもいいの?」
一度も試したことが無いからこの質問はある意味盲点であった。正確には考えない様にしていたのだけども、これはなかなか重要な問題。確かにどのような状態なら能力ないし祝福の確保ができるのか否かはいつかは試さないといけなかったのだ。何せザムトさんから頂いた謎の蒼い球もあるのだ。
しかし、だ。食品衛生管理の厳しい日本に生まれたから余計に生というものへの抵抗というのはとても大きかった。勇者云々によって体が強化されているとはいえ、胃袋や内臓まで強化されているとは限らないのだ。どうしたものだろうか。いや、本音を言うと調理済み以外は食べたくない。それに限る。
「ザムトはごはん食べたときにその能力使えたのか?」
「いや……言われてみれば何も無かったかな」
街でいろいろなものを食べたが確かに得た能力はない。つまりは調理済みはなし、ということが早々にわかってしまった。ああ、何ということだろう、せめて生にしてほしい。踊り食いとか勘弁である。本当に勘弁である。
「うーん、ディア食べる?」
「キラキラ目を輝かせて何を言ってるんだ」
思わず真顔で反論してしまった。
「ちょっと噛みつかれるくらいなら大丈夫大丈夫!」
「いやいやいや待ってくれ。ディア。落ち着こう。」
落ち着こう。もちろん言霊の加護の効果はあった。が、すっと瞬間で落ち着いたかと思ったがその後またパァっとワクワクと笑顔になるから強制的に言霊で落ち着かせることにも失敗。子供の感情の起伏を舐めていた。竜の姿にディアがポンと戻ったと思いきや器用に鱗を1枚剥がして自分の手にほれ食えと言わんばかりに渡してくる。
剥がしたてなせいで少し柔らかいから食べた瞬間に口の中が血みどろということはないだろうが、いきなり体の一部だったものをはい、と渡される方の気持ちにもなって欲しい。
「ピィッ!」
「食え、じゃないよ全く………」
でもじーっと見つめる二対の視線に耐えられる訳もなく、俺は乗ってるのか乗ってないのかすら分からないような軽さのそれを泣く泣く口に入れた。魚のお刺身についていた鱗を飲み込んだと思えば……と言い聞かせながら。
「どう?」
「いや、反応は無いかも………」
ステータス画面にも変化なし。うむむ、とステータス画面と睨めっこしていたところポンポンと肩を小さな手で叩く感覚。
「ざむぅ?」
「どうしたフェリ」
ふっとそっちを見れば突然口に柔らかい感覚と、視界にキラキラと輝く銀色の光。フェリの顔がドアップで、その大きな瞳に自分のアホ面が大きく映り込んでいる。あまりのことに頭の中が真っ白になった。
が、次の瞬間その目的が何なのか俺は直ぐに分かることになる。口の中に生暖かい何かと血の味がぶわっと広がってきたのだ。慌ててばっと顔を離したものの既に手遅れ。抗議のために口を開こうとするも無意識にそれを飲み込んでしまい………
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《能力を獲得しました》
《心見》
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ガッと、突然硬い何かで頭を思いっきり殴られたような衝撃と共に視界の端にそんな文字が浮かぶ。痛い……マジで痛い。電車に乗る時に通りすがりのお姉さんに楽器ケースを後頭部に振り向きざまに決められた時ばりに痛い。能力の代償がIQかっ!?と泣き言を漏らしたくなるも、漏らした瞬間にガチで頭が悪くなっては堪らない。
「だ、大丈夫ザムト!!?」
『大丈夫かな大丈夫かな大丈夫かなどうしようどうしようどうしよう』
「えっ?」
「ざむぅ?」
『むぅ、しまった』
声だけでなくそれに被さるように副音声のように別の声が被ってくる。
『あー、この仕事金払いは良いけども暇すぎる………』
『あれ?道間違えた?馬車が戻ってきたぞ?』
『こんな馬車で優雅に旅したいもんだねぇ』
『腹減ったー』
『お腹空いたぁ………いや今はザムト!』
その声はディアとフェリのものだけでない。恐らくこの客車の周りにいる御者さんや護衛の方々、道端にいた農家さんなど色々な声であろう。それもおそらくは心の声。それがわんわんとまるでハチの羽音のように頭に響いてくるのだ。煩いことこの上ない。
「これ。フェリの心見か………」
「たぶん?」
ずーっとどうしようを連呼しているディアを安心させるためにもずっと頭を抱えて前かがみになっている訳にもいかない。未だにズキズキキリキリとする頭を擦りながらゆっくり俺は身を起こせば落ち着いた心の中とは裏腹に目いっぱいに涙を湛えたフェリと目が合った。
「心配かけてごめんよ」
「…………うん」
しかし、だ。これがそのままというのは些か問題があるのではないだろうか。煩くて仕方がない。そう考えてゴソゴソと自分の自己空間から取り出したるは鞄に縛り付けていたバンダナ。大学で雑多に廊下に積まれたカバンの中から直ぐに荷物を識別するために付けているやつである。100均でよく売っているような赤いそれを帯状に畳み、フェリの腕にそっと結びつけてあげると不思議そうにそれを2人はまじまじとみつめる。
「俺は言霊遣いで、このバンダナとフェリに魔法をかける。フェリはこのバンダナを腕につけている時は心見は使えない」
と、まぁ。こんなものでどうだろう。いまいちどこまでこの言霊とやらが仕事をしてくれるのかは分からないから出来たらいいなぁとか、そのレベルなのだけども。
「どう?上手くいってるといいのだけども」
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