第二章

言霊遣い ザムトは双子竜に襲われる(1)

 初めての旅の始まりは思ったよりも穏やかで。そして静かに進んでいった。


「ザムト!ザムト!あれは何!?」


「んー?あー、えっとザイフォンっていう生き物で食用肉はだいたいあいつから採れるらしい」


「おー!あの美味しかったのはあいつか!」


「ざむぅ………」


「ん?あー、あれは………えっと………カンランチョウって言う鳥で、飛べないんだと。卵が大きくてそれも食べたり肉も美味しい、ってさ」


 灰色の水牛と、赤いドードー鳥が放牧されているのだろうか広い平原の中平和そうに草を食んでいる。見渡す限りに広がる草原にそれらとちょっとした木々、たまに農家や酪農をやっている人達の家がある以外には何もないほどの喉かな光景が馬車の外を流れていく。


 馬車の旅も三日目となると自分は少し飽きてきたものの、この子たちは新しいもの、生き物そして景色に興味津々。次々と新しいものであったりまあ同じものだったりを次々と自分に聞いてくる。旅は順調、三日分も進んでくるとなると城の近くではかなり合った宿屋や軍事施設や蜥蜴の養殖場なども全くなくなり、畑や牧場がメイン、そして森や山と言ったものも増えてきた。


「2人はたくさん新しいものを見つける名人だな」


「ふっふっふー」


「ディアとフェリ見つける、ザムゥ教えてくれる。すごく面白い」



 竜の姿であっちこっちを飛び回るディアに、同じく竜の姿で俺の横の窓に張り付いてずっと窓を眺めているフェリ。外の見方にも性格が表れていてとても面白い。教育学部にいた友人が子供たちを観察するのは楽しいぞぉと言っていた意味がよくわかる。確かにこれは楽しい。


 御者さんの言うところによると今日の夕方ごろに付く街で二泊ほどして馬を休ませてあげるとの事。普段なら魔獣にちょっかいを出されたりもするそうなのだが、そういうこともなく窓の外で蜥蜴で並走する傭兵さんたちも暇そうにうつらうつらしているのは平和な証拠だなぁと少し笑ってしまった。


 実はやけに平和であったり護衛が付いていたりというのは俺が買った馬車の等級によるものが大きい。旅の初めで乗合とはいえこうやって蜥蜴車にのっての旅というのも初めだけ。途中からは問答無用で歩きの旅なのである。初めくらいはゆっくりまったりとしたっていいではないか。


 一番高いのはさすがにそこまではと言った豪勢具合だったので一つ落として、そこそこ金のある商人とかが乗るランクのものにしてみたのだが、客車はずっと座っていてもおしりが痛くならない程度にはふっくらとしていて心地がよいし、風の魔法とやらのおかげで客車事態もそれほど揺れない。おまけに日本のバスくらいには広く、こうやってディアが飛び回っても何ら狭くはないほどの大きさもあるのだ。素晴らしい。それに護衛もついていて万が一の時にも安心と来た。必要なお金は払うべきであるという教訓を自分はこの経験から得たものだった。


 さすがにこの等級のものになると乗る人もそれほど多くはなく、二日目に乗っていた商人の夫婦も降りてしまったために実質貸切。物を盗られたりというのはあまりランクの所為もあり警戒していなかったものの、ほかの人がいない状態だと無警戒で居られるというのは精神的にも楽だった。ディアとフェリをこうやってのんびりさせてあげれるというのもまた良い点である。願わくば最後の街まで他の客が乗ってこないことを祈るばかりであった。


 と、いつのまに人の姿になったフェリがひじのあたりをつつく感覚がして窓の外から目を落とした。


「ザムゥはどうして物知り?」


「んー物知りってよりも、俺の持ってる能力に能力分析があるからそれで見てる、って感じかなぁ。俺も知らない事ばっかりだよ」


「ほぅ……」


 物知りじゃないのかとあきれられるかなと思ったけども、彼女の輝く目を見る限りそうでもないらしい。そんな力があるなんてすごいといった具合か、羨望のまなざしで見られるというのも少しむずかゆかったけども嬉しかった。何せそんな経験これまで生きてきた21年間で早々になかったもの。


「能力分析ってどんなのー?」


 逆さまに浮いているディアが顔を覗き込んできた。器用に飛ぶものであるが、客車も動いている都合油断するとだんだんと後ろに流されていくのはちょっとシュールである。


「その人がどんな力を持ってるかーとかどんな祝福を持ってるかが分かる能力かな」


「ほーすごーい!戦うときとか強い―!」


「た、確かに……」


 盲点である。そうだ、敵のステータスが見える戦いというのは便利である。それ以外にもいろいろと戦い方もあるだろうからそれだけを過信するわけにはいかないが、言われてみれば使わない手はない。今まではつけたり消したりしていたけども今から以前のようにつけっぱなしにしておくのもいいかもしれない。


「ディアとフェリも見てほしい……だめ?」


「いいよ……っといけない。えっと『この室内に内の声が聞こえない結界を俺が解除するまで張る』」


 ふわーっと自分を中心にシャボン玉のようなものが広がっていき、最終的にこの客車を満たすほどに広がった。。これでたぶん行けるはずである。イザラさん曰く能力分析云々は隠せとのこと。そういう結界があるかは分からないが自分の場合言霊でだいたい何とかなるから現状はこれで何とかなればいいなぁと思う限りである。


「じゃあフェリから見るなー」


「うん」


_______


名前:フェリ

種族:竜族

属性:浄化

職業 : 奴隷

状態 :


祝福

《冥王の加護》: 冥王の加護を得る。暗視や毒、状態以上の耐性を得る。


能力

《心見》: 相手の思考が読める。


称号

《双子竜》:双子のもう一人がいると能力が強化される。またもう一人とは以心伝心、居場所も特定可能。

《魔王イザラの加護》: 体力、魔力が上昇する。同族の気配を感じることができる。

《勇者の名づけ子》: 勇者ザムトによって能力が大幅に強化された状態。


______


 こんな感じとやんわりと伝えられそうなものを分かりやすく伝えてみたが半分くらいしかわかってないのか、頭の上に浮かぶ?がまるで見えるようであった。首をかしげて目をパチパチとしている。


 確かに冥王云々は必ず持っているようである。そして《心見》を詳しく見てみればこれがまたまたすごい。これってよく小説などである読もうと思った相手の心の声が聞こえるものだろうか。それとも雰囲気だけなのだろうか。試しに心の中でフェリ、ディアの頬をつついてみ?と念じてみると、つんつんと控えめにつつくから間違いない。本当に思考そのものが読めるようである。


「フェリ、いろんな人の声がずっと聞こえてうるさいとかあるかい?」


「……慣れた」


「なるほど……次の街に付いたらちょっと何とかならないか考えてみるよ」


「!!」


 ぶんぶんと思いっきり首を大きく上下させる彼女。よっぽど困っていたのかもしれない。早く気が付いてあげればよかった。いや、普通初日に見るべきだよなぁと今更ながら思う。そして次はディアの番である。


_______


名前:ディア

種族:竜族

属性:浄化

職業 : 奴隷

状態 :


祝福

《冥王の加護》: 冥王の加護を得る。暗視や毒、状態以上の耐性を得る。


能力

《炎の手》: 思いのままに炎を操ることができる。

《天の瞳》: 遠くの今起こっている事象を見ることができる。


称号

《双子竜》:双子のもう一人がいると能力が強化される。またもう一人とは以心伝心、居場所も特定可能。

《魔王イザラの加護》: 体力、魔力が上昇する。同族の気配を感じることができる。

《勇者の名づけ子》: 勇者ザムトによって能力が大幅に強化された状態。


______



「…………ディア、ものすごく遠くのものが見えたりする?」


「うん!籠の中に居た時暇だったからずっとそれ見てた!フェリも見えるよね?」


「フェリは見えないよ?」


「ほえ?」


「それがディアの能力だね。遠くのものを見れるって書いてあるよ」


 なお、炎の手の事は黙っておいた。今試す!と言われたらこの木製の客車がどうなってしまうかわかったものではない。でも言われもしないとこうやって知らずに一生を過ごすということもあるだろう。自分だってイザラさんに言われなければこうやって能力分析のことすら知らなかったのである。


 と、ここでふと美琴ねぇはこの能力のことを知っているのかと疑問に思った。持っているのは間違いないとして、それを使っているのかどうかというところだろう。少し引っかかってはいたのだ。自分の祝福を見ていればあの時にもう少し怪しんだものなのに、対した反応もなしにあの場で解放してくれたのだ。もしかしてあの便利画面を見ていない気すらしてくる。


 じゃあ逆に、だ。彼女の状況とあの下心が滲み出ていた神官らしきおっさんがいることを念頭に入れてみる。もし、自分達が何も知らない勇者を手玉にとるとしたらどうするか………俺ならどうする。自分の中でそれはすぐに思い浮かんだ。まずは情報を絞るのではないか、と。少しずつこの世界の情報を与えて相手に自分に頼る構図をとらせる。そして同時に相手の情報を一つでも多く搾り取る。そうして手玉にとる……なんだ。イザラさんが自分にしていたことではないか。


 少しばかり自分はくすっと笑ってしまった。実際に人間、えっとこの世界では人族だったか。それよりも竜族の方に好意を抱いてしまっているからまあまあ狙いは当たっていたのではないか。一つ運がよかったとしたら、イザラさんは自分を処分するものとも、利用するものとも思わずに面白そうなものと判断された事だろうか。


 そんな様子を見たらそりゃあザムトさんも俺にイザラさんへの遺言を頼むわなぁとも思う。隣でしゃべってるんだもの、ちゃんと伝えてくれるだろうという安心と信頼を、正体を明かさないイザラさんとすぐに馬車から降りて引き返そうとしなかった自分がぶち壊したというわけだった。自分自身で難易度を爆上げしてしまったことに若干頭を抱えてみるもどうにかなるわけでもなく、俺は心の中で溜息をついた。


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