第24話 初日の出
テレビでは今まさに新年へ向けてのカウントダウンが始まっている。
私は冴子さんと寄り添いながらその様子を見ていた。
『5、4、3、2、1、ハッピーニューイヤー! あけましておめでとうございます!』
画面の向こうでは派手な音を立てて花火が上がる。外からもどこかで上げられた花火の音が聞こえて来た。
「冴子さん、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう、
「はいっ! よろしくお願いします」
私たちは向かい合って、うやうやしく三つ指をついて挨拶を交わしたのだった。
「年明けちゃいましたね。何だかこの一年もあっという間でした」
「そうね。年々、お正月が来るのが早くなってる気がする」
「それは私もですね。去年は冴子さんといっぱいいっぱい過ごせましたから、とっても楽しかったです。今年も冴子さんと色んなものを見て、出かけて、同じ時間を過ごしたいです」
「うん、私も。奈津とたくさん思い出作りたい」
冴子さんに抱きしめられて、新年から大好きな人に触れられている喜びに、私の心はぽかぽかと温かい。
「カウントダウンも終わりましたし、冴子さんもう寝ますか?」
「奈津眠そうね。そうしようか」
私たちは居間を片づけて寝る準備を始める。
何気なくスマホを見ると、妹からラインが来ていた。おめでとうの挨拶と、祖父と初日の出を見に行く報告が来ていた。
「冴子さん、初日の出って見たことありますか?」
「大学生の時に一回だけ
「そうなんですね。私は一回もなくて」
「早起きして初日の出見る? 動画でライブ配信もあるから、家でも見られるし」
「いいですね。見ましょう。晴れるといいですね」
私たちはベッドに入り、初日の出に備えて眠りについた。
ピピッピピッと鳴る目覚まし時計の電子音で、私は夢から覚めた。
せっかく冴子さんと温泉に入りに行く夢を見ていたのに。ちょっとだけ時計が恨めしくなる。
時計に手を伸ばそうとしたら、先に冴子さんが止めてくれた。
「奈津、起きた?」
すでに目覚ましが鳴る前から起きていたっぽい冴子さんが私の頬に触れる。
「⋯⋯おはようございます、冴子さん」
「はい、おはよう。初日の出どうする、見る? 奈津はまだ寝たいんじゃない?」
「冴子さんと初日の出見たいので起きますよ〜」
私たちはもぞもぞと布団から這い出した。部屋の中が暖かい。先に起きた冴子さんが暖房をつけていてくれたのだろう。朝に弱い私が起きやすいようにと。
「奈津、ちょっと初日の出について調べてたんだけど、家から30分くらいのところにある海浜公園で、初日の出が見られるらしいのよ。配信じゃなくて、実際に見に行ってみない?」
「本物の初日の出を、ですか?」
「奈津の気分が向かないなら、無理して行かなくてもいいんだけど。朝にドライブしつつ出かけるのも悪くないかなと思ってね」
新年初日から早速冴子さんは思い出を作ろうとしてくれている。
「早朝のドライブなんて素敵ですね。行きましょう、初日の出を見に」
私たちは急いで身支度をして、家を出た。やはり一月の朝はまだ寒い。冷たい空気が肌を刺す。そんな寒さから逃げるように、冴子さんの愛車に乗り込んだ。
外はまだ薄暗く、夜の気配と朝の気配が混じり合っている。
車はそんな街の中を静かに駆け抜けた。
横を向けば運転する冴子さんの横顔がある。真っ直ぐに前を見据える瞳に、前はもっとどきどきしながらここに座っていたことを思い出す。
今では冴子さんが隣りにいるのは、空気があるみたいに当たり前になっている。
途中でコンビニで温かいココアを買って、私たちは海浜公園までやって来た。
海の見える場所に行く頃には空は水色とオレンジのグラデーションをなしていた。
周りには私たちと同じく日の出を見に来た人たちが何人か来ていた。
みんな初日の出を今か今かとわくわくしながら待っているのかと思うと、私の気持ちも跳ね上がる。
「冴子さん、晴れててよかったですね」
「きれいな初日の出が見られそうね」
私たちは並びながら、今年初めて昇る太陽を待ちわびた。
予め確認していた日の出時刻が迫っているのを時計で確認し、私たちはいつの間にか手を繋いでその瞬間を目にしようと東の空を見つめる。
時は訪れ、太陽が少しずつ顔を出し始めた。ゆっくりゆっくりと、柔らかな光りが満ちてゆく。
離れたところから歓声が上がる。
「あけおめー!」
「ハッピーニューイヤー!」
「初日の出だ!」
聞こえて来る楽しそうな声に改めて新年を迎えたのだと実感する。
「冴子さん、初日の出きれいですね」
「来てよかったね」
「はい」
(今年も冴子さんと幸せな時間を過ごせますように)
私は輝く太陽に願いを込めた。
今この瞬間を、そして今年の一日一日を大切に生きていこう。大好きな冴子さんと一緒に。
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