第13話 番外編 冴子と薫子
夜中に起きてビールで晩酌していると、
「何、人の家で勝手に飲んでるのよ」
「ちょっとお酒飲みたくなって。別にいいでしょ。私がお土産で持って来たお酒なんだし。冴ちゃんも飲まない?」
誘ったら冴子も棚からグラスを持って来て席に着いた。
「晩御飯の時にお酒飲まなくなったのって、
冴子は昔からお酒には強く、本人も好きでかなり飲むタイプだった。今日は一滴も飲んでいない。
奈津さんが言うには「冴子さんお酒あんまり好きじゃないですよね」らしい。
普段、会社の飲み会でもあまり飲まないと聞いた。家でもたまにしか飲まないという。
「奈津はお酒強くないのよ。この間、飲み会で悪酔いしちゃって、それが後を引いてるみたいで今全然飲まなくて」
「合わせてあげてるんだ。優しいね冴ちゃん」
「奈津はすぐ私に合わせようとするから。飲めないのに付き合わせたら可哀想でしょ」
初めての年下の彼女は大層、可愛いのだろう。いちいち他人に合わせたりしない冴子がそんな風になるとは、これは成長なのか。奈津さんが特別なのか。
「ねぇ、どうして奈津さんと付き合おうと思ったの? 今までのタイプと全く違うじゃない」
「告白されたから」
「それだけ?」
「それだけ」
冴子は元々、自分からアプローチして落とすのが好きだったから意外だった。
「ふーん。告白されて嬉しかったんだ」
「まぁね。前から可愛いなとは思ってたし」
「どんなところが?」
冴子は色々と思い出しているのか遠い目をしてしばらく考える。
「あの子、分からないことがあると私に聞くのよ。他にももっと話しかけやすい人いるのに。それこそ姉さんも知ってる
「遊びで後輩に手を出したらダメでしょ。何で遊びじゃなくなったの」
「何でだろう。多分、奈津も私がそこまで本気じゃないって気づいたんだと思う。そのせいで散々、奈津から煽られて正直ムカついた。でもね、奈津はいつも私を真っ直ぐ見るの。全部見通そうとでもするみたいに。真剣に。この子、私に本気なんだなって気づいてその時にちゃんと向き合おうって思ったら、私も本気で好きになってた。それだけ」
「随分と熱のこもった『それだけ』ね」
「聞いておいてケチつけないでよ」
「ケチはつけてないよ。冴ちゃんが本気で恋愛してるなら、私は何の文句もないから」
「私がまるで本気で恋愛して来なかったみたいじゃない」
「違うの? 今までの恋愛も冴ちゃんなりに本気だったかもしれないけど、私から見てると駆け引き楽しんでるみたいで、何か危うかったのよね」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「冴ちゃんが駆け引きとかそんなこと関係なく、誰かを大切にしたいって思える相手に出会えたなら、私としても安心して田舎に戻れるし良かった」
冴子は恋愛をゲームみたいに楽しんでいるのではないかと危惧していたけど、今はそんな心配はしなくて良さそうだ。
何より奈津さんについて話す冴子は実に幸せそうに見える。多分、本人は気づいてないのだろうけど。
「ところでこの写真、何で送って来たの? 自慢?」
私はスマホに送られて来た写真を冴子に見せた。
「見せびらかしたかっただけ」
その写真は冴子が自撮りしたものだった。ベッド上に冴子と奈津さんが並んでいる。奈津さんは冴子とお揃いのパジャマを着て気持ち良さそうに眠っていた。
一枚目は冴子がこちらに視線を向けている。二枚目の冴子は奈津さんを見つめている。その慈愛に溢れる眼差しは私でさえ初めて見た。冴子が心から奈津さんを大事にしているのが表情だけで分かる。
「他に見せびらかせる相手なかなかいないもんね。また、自慢したくなったら送ってよ。いつでも話聞いてあげるからさ」
「うん」
冴子は話したくてたまらそうな顔をしている。
「もっと飲む?」
冴子が傾けたグラスにお酒を注ぐ。
私はそれから惚気話をたっぷり聞かされてしまったのだった。
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