穴
てん
第1話
グルグルグルグル
同じ所を何度も何度も繰り返し
思い返しては舌を打つ
今日の湿度が余計にそうさせるのか
声を潜めて電話に出る背中
こちらをチラ見し小声で話す横顔
グルグルグルグル
嘘を信じられるほど余裕はない
恋人?と聞いた後の返答のぎこちなさ
グルグルグルグル
腕にまとわりつく土とベチャベチャの長袖
ワカメみたいに額に張り付く髪
グルグルグルグルしながらでも
今日中に畑の雑草を取らねば
早くしないとまた雨が降る
思考はそのまま
両手を動かして
根っこをほじくり出す
正直に言えばいいのにっ!
語尾の強さにまかせて
連なる根っ子をブチブチ引きちぎる
軍手は掌部分が
白色の他に黄緑色がついている
正直に聞けないのはこちらもか
でもじゃあ誘いに乗るなよっ!
グルグルグルグル
ブッチブチブチち
背中と指が痛くなって来た時
ポコっと穴が空いている
親指より少しおおきめの
畑によくある蛇の穴かと通り過ぎようとしたとき
中に絖りをおびた紫のモノ
一見蛇の胴体のような
大きなナメクジのようなモノ
ゆっくりゆっくり穴の中で
全体をくねらせて動いている
この湿気の中の作業にも飽きてたところ
持ち前の好奇心も相まって
穴に近づきしゃがみ込む
そろそろと手を伸ばして
左手の人差し指と中指で
そのモノをつまんでみる
一瞬
モノの動きが早くなったように見え
指が滑りモノを離す
粘液出しすぎ・・・やっぱりナメクジか?
苛立ちも加わった好奇心で
穴をもう一度覗く
穴
穴だけが存在する
中には何も見当たらない
ナニかいた形跡もない
???
湿気で目もやられてるのか
一旦小休憩にしようか
そう思い両膝に手を当て
立ち上がろうとし
何気なく左手を見ると
軍手の人差し指と中指の
腹部分が溶けて肌色が2つ
早々に帰宅し
手を洗い
2本の指を見てみるも
痛みも痒みもない
作業をさぼった事への言い訳を考えつつ
相談という名の
会う口実ができたと
1人ニヤついた
穴 てん @261kne
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。穴の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます