みんなに冷たいクラスの彼女は、かまってちゃんな僕だけのカノジョ

葉月治

一章 僕にフラグなんて立てれる力は無いです......

第1話 僕のカノジョ


「はい、あーん!」

「ん」


 桜の花も、とうの昔に散り果て、夏の兆しを見せつつある桜の木下で、僕は箸に挟まれた卵焼きを、素直に口で受け取った。


「どうだった?」

「ん、うまかった」


 僕が、咀嚼する姿をみて、箸を嬉しそうにカチカチ鳴らし喜んでいる。


 そう、本当に笑顔で喜んでいる。


「それくらい、クラスでも笑ってくれたらな......」


 僕の何気ない一言を、何人たりとも聞き逃すものかと......まあ、実際はそこまで意識してないのだろうが、全くもって聞き漏らさず、


「そんなの恥ずかしい......」


 顔を赤くして僕の言葉を可愛げに否定した。まあ、あんな性格なら、クラスでも浮かなくて済んだだろうに......。


 柔らかなそよ風が長くきめ細やかな髪をサラサラと揺らす。


 まったく、今思えばなんでこんな子と一緒にいるんだか。


 僕が、君のことで考え方をしているのにもかかわらず、僕に向かって太陽のような眩しい笑顔を輝かせた。


 僕に、僕だけに見せる君の笑顔を。

 僕の、僕だけのカノジョの笑顔を。




 ★

 ★




「日暮さん、今日さあ......」

「私、用事があるから」


 ホームルームが終わり、各々が帰宅の準備を始めた頃、彼女はそう言って、クラスの女子のお誘いに、耳一つ傾けず、教室を後にした。


 クラスに、一瞬静寂が流れるが、誰がきっかけかは、分からないが、何事もなかったかのように、活気が戻ってくる。


 無論、騒音にも近い話し声の中に、『またか』なんて声も聞こえる気がするが、俺には気にする必要もない。


 基本ぼっちの俺は特に誰かと話すこともなく彼女の、いや、カノジョとの待ち合わせ場所にすぐさま足を向けた。


 ついさっきクラスを出た、あの美しい後ろ姿を追いかけて。




 ☆

 ☆




 俺が学校の裏門に着くと、彼女はカバンを後ろ手に、艶やかな髪をいじりながら、わざとらしくそっぽを向いた。


「遅れて悪い」


 声をかけてみたが、やっぱりわざとらしく反応しない。このままでは拉致があかないと思い、たぶんして欲しいだろうことをしてみることにする。


 僕は彼女の手を握り、耳元に口を寄せて、


「待たせたな」

「......うん」


 ようやく反応した。いや、俺に、イケボ属性が付いていればもっとよかったんだろうけど。


 彼女は、ようやく僕に向き直った。


「どうして分かったの?」

「君が、僕に勧めた漫画の中にあったんだよ。ていうか、君絶対知っていただろ?」


 彼女は照れたように、頭に手を当て分かりやすく顔を赤くする。ちなみにこれはぶりっ子ではなく、素でやっているので、ある意味すごいと思う。


「それじゃあ帰ろっか」


 そう言って、自らの手を差し出す。


「ん」


 僕もその差し出された手を取り、優しく握り返し、僕たちは歩き出す。


 校舎裏にいる僕たちの背中に、どこが足取りを軽くしてくれるようなそよ風が、僕たちの背中を優しく押したような気がした。


「今日はどこ行こっか?」


 彼女は僕の方を向き、可愛らしく小首を傾げた。


「あんまし、同じ学校の奴らがいないところがいいな」

「そうだね」


 彼女は僕の横で無邪気に笑った様な気がした。


 彼女は僕の手を握ったまま、日の光が照りつけるアスファルトの地面までスキップすると、


「今日も楽しみだね。雅人まさと


 僕にしか見せない、最高に輝いているとびっきりの笑顔をみせた。


 彼女は僕のクラスメート。そして、彼女は僕のカノジョ。


 僕のカノジョこと、日暮優希ひぐらしゆうきとの、平凡な放課後が今日も始まる。







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みんなに冷たいクラスの彼女は、かまってちゃんな僕だけのカノジョ 葉月治 @hazukiosamu

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