資金力だけでパーティを最高ランクにする④

「カーミアちゃん達をお金でどうにかしようっていうの?」


「ああ、これだけの宝石を見たことはないだろう。全部で5つある。これを全てお前らにやる代わりに『グランシルバ・イージス』の名を俺たちに譲り渡して欲しい!」


カーミアの喉がゴクリ鳴る音が聞こえる。隠し持っていたガラス玉をばら撒くことはそれを容易に奪われてしまうリスクを孕んでいたが、街の治安を守るパーティがそんな行動を取ることは考えにくい。悩んだ末に取ったギリギリの行動だった。


「いやいや、いくらそんなもん積まれたって! 金でなんとか動くとかそういうパーティじゃないか……ら!?」


俺は袋からさらに、5個のガラス玉を取出し彼女の前に見せつける。


「ひいっ! な、なにこれ! なんでそんなにガァラスを持ってるの?」


「俺たちを拘束するならそれでもいいけど。そしたらこの契約はなしだ。この資本力があればパーティをSクラスにする方法なんて他にいくらでもある。チャンスを逃しつつあるのはそっちの方だぜ!」


口から出まかせだった。

この契約を断られたら追い込まれるのは、もちろんこちらの方だ。


「こ、これだけあれば……世界中のイケメンを集めて……毎日あんなことしたり、色んなもの吸い取り放題じゃない?」


心の声が漏れているように思えるが……?

とにかくもう少し押せば陥落しそうな気がする。


「分かった! じゃあ一年間限定で構わない、一年間だけ『グランシルバ・イージス』の経営権を明け渡してくれるだけでいい!」


「け、経営権? 一年間だけ?」


「一時的に俺のパーティになって貰う、それだけだ。期間が終わったら俺はきっぱりと身を引く!」


周りの空気が一瞬どよめいた。一年間限定でも問題ない。この冒険そのものが短期決戦の予定なのだ。そして、最初に重めの交渉を行ってから、少し譲歩した提案をすると受けて貰いやすい『ドアインザフェイス』交渉術の基本的な方法だ。


「ほ、本当に一年間だけ……? それだけなら……いいかも?」


「ああ、俺たちの目的はこの大陸にいる魔王を倒すために『Sランク』パーティの冠を借りたいだけなんだ。もともと別に変な目的じゃない!」


俺たちの方を見つつ、内輪で話し始める『グランシルバ・イージス』のメンバー。最初は交渉に聞く耳持たなかったはずが、ガラス玉を出したことによって、どんどんこちらのペースに持ち込めてきている。いい調子だった。


「それと、もう一つ条件がある。ここで一番腕の良いヒーラーを俺たちのチームに一年間だけ入れさせて欲しいんだ」


俺の台詞を聞き、周りの人間は一気にザワッとした空気になる。

……どうしたんだ、もしかしてこれは禁句だったのか?


「そ、それってカーミアちゃんのことじゃない!」


「ま、マジか!」


しまった、腕の良いヒーラーを引きこめれば今後の冒険で助かる。という算段で交渉したが、まさかそれがカーミアだったとは。サキュバスなのにヒーラーというギャップが凄いような気がする。

なんだか面倒ごとが起きそうな気がして、台詞を撤回しようとしたその時。


「い、いいよ……痛くしないでね」


カーミアは両手をもじもじと弄りながら、肯定の返事をした。


『カーミア様!? そんな簡単に受けては!』


「だってぇ、これだけお金出されちゃったら……。期間限定だし『グランシルバ』の財源も潤うと思わない?」


『しかし……』


「さあ、この場で決めて貰うぜ!」


「グランシルバは魔王に目をつけられていますし。それ故、度重なる防衛費に予算も不足していると聞いていますが」


ここがチャンスと認識したのか、隣で様子を見ていたヴィオラが口を開く。


「そ、そうだよね! 『グランシルバ・イージス』のみんな。悪いけど……私の一存で決めちゃう! その契約飲むことにするわ!」


彼女の鶴の一声で交渉は成立し俺たちはその場で解放された。

これで誇り高き『Sランク』パーティは、ガラス玉たった10個で自分の手中に入れることができた。やや強引だったが、金の力があればパーティを手に入れることも訳ないのだ。

ギルドメンバーの目は俺たちに向かって痛く突き刺さっていたが、俺は「契約は契約だからな!」と捨て台詞を吐きカーミアの手首を引いた。

さっさと『グランシルバ』の街を後にしようとしたのだ。


「ふふ、案外強引に引っ張るのね。私自身はあなた達についていくことは決めたけど……」


カーミアは小さくフフンとなにかを企むようにほくそ笑んでいる。


「な、なんだよ。まだなんか文句あるのか?」


「思い知ることね。スポーツチームの選手が丸ごと入れ替わったとして、そのチームの価値がなくなったと言えるかしら?」


「どういう意味だよ……」


「分からないなら教えてあげる『グランシルバ・イージス』の本質。それは他でもないファンの存在なのよ」


「なに……?」


気がつくと俺たちの周りには、『グランシルバ』の住民だろうか、老若男女多くの人間が自分達のことを取り囲んでいた。


「なんだ、この人達は……!」


住民の一人が「『グランシルバ・イージス』の乗っ取り反対!」と叫ぶと、次々に追従してくる住民。どこから情報が漏れたのだろうか。


俺はハッとした。


長年『グランシルバ』の平和を守ってきたチームがいなくなってしまうことに、街中が反対している……。パーティ買収というのも簡単にいく訳ではないということか。


カーミアは、ペロッと舌を出して笑ってみせた。


「不可抗力だって。ボク、ハメハメは好きだけど、ハメるつもりはないからね」


「下ネタを聞いている余裕なんかないからな! どうする、この状況……」

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