資金力だけでパーティを最高ランクにする⑤
『グランシルバ・イージス』を事実上乗っ取ったことで、街の住民の反感を買い、四方八方を囲まれてしまった俺は窮地に立たされていた。
『ふざけんな! よそ者が勝手にやって来て好き放題やりやがって!』
『グランシルバの平穏が崩れてしまうじゃないか! ここはただでさえ魔王に目をつけられている土地なんだぞ!』
『カーミア様! 私たちのことを見捨てないでください!』
住民からの不満の声は絶えない。カーミアに身柄を拘束され対応を焦っていたとはいえ、影響も考えないままその日のうちにパーティを乗っ取ってしまったことは完全に失敗だった。
「チッ、面倒なことになっちまったな!」
「どうするの~? ボク知らないよ?」
「なんとか、住民を説得することはできないのか?」
「嫌だよ。そこまでする義理ないじゃん! それに魔王を倒す勇者様になるんだったらこれくらい対応して貰わないとね♪」
カーミアはニヤニヤとした表情でこちらを伺うだけで、なにもしようとしない。
俺の手持ちにはいくらでも宝石(ただのビー玉だが)がある。住人の人数が多いがこれだけ資金があれば彼らを黙らすことは訳ないだろう。やるか? 某社長のように盛大なお年玉キャンペーンを! 俺を指示してくれるんだったら毎日宝石が当たるチャンス! みたいなやつを!
「マ、マッテクレ! 金なら! 金ならある……!」
復讐をされる小金もちの小悪党みたいな台詞を言いかけたそのとき『バシッ』と背後から頭を叩かれた。振り返るとヴィオラの姿があった。
「あなた、また金で解決しようとしているんでしょう?」
冷めた表情のヴィオラがため息をついた。
「この状況を解決するにはそれしか方法がないだろう?」
「大金を払えば納得する人は多いかもしれないけど……ここまで事態が大事になったら、それだけでは済まないと思うわ。あまり人のことを馬鹿にしない方がいいわね」
「こんなときに説教かよ……」
「はぁ。性格悪いんだから説教の一つくらいしたくなるわよ。ここでどうすればいいか。相手の気持ちに立ってみれば分からない?」
「相手の気持ちに……?」
このとき俺の頭の中によぎったのは、学生時代の記憶だった。
アプリ開発をしていたチームメンバーが次々に金の力で引き抜かれた結果、俺は今まで仲間だと思っていた奴に裏切られた気持ちになった。人の心なんて金と権力があれば簡単に奪われることを知った。
あの孤独な俺に。俺自身がかけて欲しかった言葉は。そんな言葉は……。
俺は軽く深呼吸をして、囲っている住民全員に聞こえるように大きな声で叫んだ。
「俺は! 『グランシルバ』を見捨てることはしません!」
あの時、確かに資金不足で開発していたアプリは完成できなかった。一緒に作っていたメンバーに裏切られ、共にした時間までも無駄になったような気がしたけど。そこで得た経験は力になっているはずだし。全て無駄だと決めつける必要はなかった。『金の力で全て奪われた訳じゃないと』と俺が俺自身を見捨てない。それが大事だったんだと思う。これは住民にむけた台詞でもあり、過去の自分にむけた台詞でもあった。
『見捨てないっていうのは、どういうことだ?』
住民の一人が質問してきた。一瞬だけ垣間見えた心の隙間。勢いでもいい過半数の人間を納得する説明を頭からひねり出すんだ!
「皆さんに約束します! 必ず一か月以内に魔王を倒して大陸中に平穏を取り戻します! それに『グランシルバ・イージス』は一時的に解散しますが、メンバーの大半は残り続けるので大丈夫です! 連れて行くのはこの淫乱女だけです!」
「ちょっと! 淫乱女ってボクのこと?」
頬っぺたを膨らませて怒るカーミアは無視して、台詞を続ける。
「この街に引きこもり続ける『旧グランシルバ・イージス』よりも、俺たち『新生グランシルバ・イージス』は積極的に魔王討伐するので、結果的に街に平穏を与えます! どうか、一か月間だけ俺達に支持をください!」
一か月は流石に言い過ぎたような気がする。これで期限内に目標を達成できなければ、もはやこの大陸で生きていくことは難しいだろう。この約束は確実に守らなくてはならない……。
『その約束、本当だろうな!?』
『でも、カーミア様だけでなく、ヴィオラ様もいる。リーダーは頼りないが魔王に一泡吹かせてくれそうな感じはするな……』
『信じていいのか!』
「ま、任せてください……」
『なんか、自信ない感じじゃねーか!』
住民の勢いに気圧される俺。その時、様子を見守っていたヴィオラが前にでた。
「皆様、大丈夫です。責任は取ります。私たちの命にかえても魔王を討伐しますので。安心してお待ちくださいね」
美しく微笑むヴィオラの前に住民は一気に大人しくなる。やはり同じ台詞でも言う人間が違うとここまで変わるものか。こういうとき彼女の存在は頼りになる。
それにしても……。
あぁ……言いきってしまった。
とりあえず腑に落ちた住民はその場から去っていったが、俺はその後姿を後悔しながら見送っていた。
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