資金力だけでゴブリンを倒す
アノを小一時間ベッドで休ませる。
寝ている彼女の姿をよく見てみると、身体は小さくても羽が生えている以外は完璧に人間で、ますます、目の前の出来事が現実であるということを思い知らされる。
そうしているうちに、彼女は目を覚ました。
『あー、びっくりした! まさかこの世界で希少宝石を拝めるとは……』
「そんな価値があるものなのか?」
『価値あるなんてもんじゃないよ! 私の世界ではガァラスが産出される鉱脈を目当てに戦争が起きたこともあるくらいよ?』
そりゃ凄い。でも異世界ではビー玉が天然で生成されるのだろうか。それも不思議なことだが、この世界では簡単に工場で大量生産されることは言わないでおこう。
「一ついる?」
『え……本当に! いや、ダメダメダメダメ! 勇者から賄賂を貰ったなんて言ったら神様に怒られて、燃やされて廃棄処分になっちゃう!』
「そら大変だな……」
賄賂なんてそんな大げさな。
『変な誘惑しないでよね、本当に!』
妖精は頬を膨らませて怒る。それにしても、そんなに価値のあるものならこれは使えそうだ。出発する準備としてビー玉を鞄に忍ばせた。
そして俺は『外でなんとか頑張って独り立ちする』と書置きだけ残して、異世界に出発することになった。妖精曰く一度チャネルを閉じると約一年は返ってこれないらしい。構わない、この世界に未練なんて全くないのだ。
アノに導かれるまま子供机に入る。まるで絵具を何色も入れて混ぜたかのような、ビビッドな色使いの空間に引き込まれたかと思うと、気がついたときには異世界に小さな村にたどり着いていた。
まるで中世ヨーロッパのような世界観。
木造または煉瓦造りの低い建物が等間隔で立ち並ぶ。
『来た感想はどう?』
「思ったより変わった世界でなくて良かったよ、道行く人も地球と同じで普通そうだし」
『そりゃ、ようござんした!』
「で、最初はなにからすればいい?」
『はい、指示待ち人間きたー! 勇者なんだから自由に動きなさいよ。とりあえず武器屋いって装備揃えるとかさー、ドラ○エとかやったことないのかよー!』
「それくらいあるわ!」
妖精であるお前はあるのかよ、と思いつつもとりあえず武器屋を探して歩き出す。アノの力なのか看板など町の文字や言葉が日本語で聞こえ見えてくるのが、ご都合主義だがありがたい。
「なぁ、アノ。聞きたいんだが、俺ってRPGでいうレベルってどのくらいだ?」
『レベル1に届かないくらいね』
「はあっ? レベル1未満ってことか? それってどれくらいだ?」
『ゴブリンに殴られたら一撃で首吹っ飛ぶくらいかな? スライムに体当たりされたら全身骨折するくらい。ちなみにこの世界で一番弱いのはスライムだから!』
「それって、めっちゃ弱いってことじゃん。レベル上げすらできないのでは……」
『私もそれに気がついて、気が滅入っているところなのよ。それにあなた外れスキルどころかスキルなにも持ってないわよ』
「は? ノースキルだと? 普通こういう展開だと超レアスキルとか持って異世界にいけるもんじゃないのか!?」
『私を責めたってなんにも出てこないわよー、とりあえずスライム倒せるようになるまで、地道に筋トレするしかないんじゃない?』
「やだよ! 部活でも筋トレが一番苦手だったんだぞ!」
『ちょっと! やる気なくさないでよ、お願いだからぁー』
アノとの間に険悪な雰囲気が流れ出したとき、一つの事件が起きた。
向かおうとしている武器屋の方から騒ぎ声が聞こえてきたのだ。
『誰か助けてくれー! ゴブリンが町中に入り込んだ』
『武器屋で物色しているぞ、装備されたら危険だ!』
その方向を見てみると、まるでプロレスラーのような体形の怪物が武器屋をしっちゃかめっちゃか荒らしていたのである。たちの悪いことに、武器を盗んでそれを装備しており、さらに強力になっていた。
「や、やべぇ。あんなのに絡まれたら首飛ばされちまう!」
その光景をみて、完全に逃げの体制を決め込んだそのときだった。
ゴオォォォ! スパーン!
突然なにか切り裂くような音が聞こえると思ったら、暴れていたゴブリンの身体が胴から真っ二つに切断されていたのだ。
『おい、あれは強豪パーティ<キス・オブ・ドラゴン>の魔法使いじゃないか?』
『間違いない、ヴィオラ様だ!』
歓声の先には紫のケープで全身を纏う聡明そうな美少女がいた。まるで絹のような白い肌が美しく、ケープを羽織っていてもスラッとして美しいスタイルが想像できる。
「すげぇな、あんなに可愛いのに鬼のように強いのかよ……ん?」
俺の脳内には一つの閃きがあった。
あの美少女をパーティに引き込めば、俺が戦う必要ないんじゃないの?
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