資金力だけで美少女魔法使いを仲間にする①

「村人のみなさん大丈夫ですか? お怪我はないですか?」


ヴィオレと呼ばれる美少女魔法使いは、住民の安全を確かめるべく一人一人に声をかけて回っていた。強いだけでなく性格までいいなんて、ますます自分のパーティに引き入れたくなる。


「なぁ、アノ。彼女のレベルはいくつだ?」


『便利道具みたいに使わないで欲しいなぁ! そうね、レベル37といったところかしら。超強いと思う。少なくともこの大陸のモンスターなら大抵は歯が立たないんじゃない?』


「それはいい。早速交渉するとするか……」


『はぁ? 彼女はすでに別のパーティに属しているのよ? それにあんたみたいなクズ雑魚勇者の仲間に入ってくれるはずないじゃない!』


「ディスりすぎだろ! まあ、正攻法でいったらな……でも俺にはコレがある」




夜になった。ヴィオラが所属するパーティ『キス・オブ・ドラゴン』が宿泊する宿屋の近くにいった俺は、ラウンジで話をするパーティの会話を聞いていた。


「ヴィオラ、挨拶は済んだのか?」


豪華な装備に身を纏う青年がヴィオラ話しかけている。


「ええ、いよいよ魔王が住むダンジョンに向かう日が来たのね。最後に私の生まれ故郷まで寄ってくれてありがとう」


「ここまで長かったけど、ようやくここまでたどり着いた。この大陸の魔王は他の大陸と比べたら弱いとは聞くが、決して楽な戦いではないだろう」


「不安はないわ、大丈夫よ。私たちなら……」


「そうだな。明日も早いしもう寝よう。おやすみヴィオラ」


「ええ、おやすみなさい」


青年はヴィオラに手を軽く振ると、自分の寝室がある二階に向かっていた。ラウンジには一人になる彼女の姿。これはチャンスかもしれない! 宿屋に入り、黄昏る彼女にむかって近づくこととする。


「こんばんは、この村のものなんですが少し訪ねたいことがあって、いいです?」


「……? え、ええ……」


ヴィオラは少し戸惑ったような表情をしてこちらに振り返った。


「昼間の活躍みました、お強いんですねぇ」


「あ、ありがとう」


「さっきお話していた方は勇者さんですか?」


「そんなところかしら、彼はパーティのリーダーなの」


「凄く強そうな方ですもんねぇ、ずっと一緒に冒険してきたんです?」


「そうね。彼を含めた4人のパーティで。私がレベル3のときから一緒に冒険してきたのよ」


「なるほど! それで、明日魔王を倒しにダンジョンに行くと」


「よく聞いてたのね……その通りだけど」


「うまくいくといいですね。魔王を倒すと国から沢山の報奨金が貰えるって話ですし。それでこの貧乏な村を復興するのがヴィオラさんの目的ですもんね」


「なんで、そんなこと知っているのよ……気色悪いわ。あなた何者?」


「ただの村人ですよ、事情はあなたの家族からお聞きしました」


「私の家族に……? あなた怪しいわね」


「まぁまぁ。で、提案なんですが……」


「な、なに?」


「すこーしの間だけ。1年間だけ俺のパーティに加入してほしいなぁ。なんて思うわけで」


「なに言ってるの? そんなこと出来る訳がないじゃない!」


「もちろん、タダとはいいませんよ」


そういって、俺は鞄の中からビー玉を一つ取り出すと彼女に手渡した。

ヴィオラは目を丸くしてそれを見つめている。


「こ、これって! まさか……」


「そのまさかです。これ一つあればこの村を復興することも訳ないんじゃないですか? 国の報奨金をパーティのみんなで分けるよりもはるかにお得だ」


「でも、私がいないと……魔王を倒しにいけない」


もうパーティを抜ける前提で話している。意外とチョロイのかもしれない。そんな彼女の台詞を聞いて、もうひと押しだと感じた俺はさらに畳み掛ける。


「別に俺も魔王を倒すつもりなんですよ。だったらどのパーティにいても同じじゃないですか。魔王を倒していまのパーティに属してわずかな金を受け取る。または俺のパーティに属してこの宝石を受け取る。復興どころか村は都会に発展するだろうなぁ、どっちがいいかは明白なはずだ」


「でも、彼らを裏切ることになっちゃう……」


俺は鞄から、さらに一つビー玉を取り出して彼女に握らせた。

彼女の手がいっそう汗ばんでいくのを感じる。


「ヴィオラさんがその気なら、魔王を倒す前にこれはこの場でお渡しします」


「う、嘘でしょ……!?」


「一緒に俺と魔王を倒しましょう!」

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