神殿の中で【3】
「…………」
だがそこから分かるのはルクシエス様相手でも『神殿』がなんの情報も出していないという事。
こんなに信心深い支援者にも、なにも告げていない……という事は……三つの可能性が考えられる。
一つ、本当に『神託』がない。
二つ、『神託』はあるが、隠されている。
三つ、『神託』はあるが、ルクシエス様には隠されている。
……ルクシエス様のこの性格……もとい信仰心の深さなので、もし『神託』を教わっていたら秒速で動く。
誰よりも全力で動く。
ちょっと多分こっちが迷惑に思うくらい動く……!
なので、それを危惧してルクシエス様にのみ、隠されている可能性が否定出来ない……悲しい事に……。
「あ、そういえばルクシエス様。もしかして他の町長も来ているんですか? 今日は
「ん? ああ。
「なるほど……」
全員揃っているかどうかはルクシエス様もご存じないのだな。
だが、ある程度の町長は来ているだろう。
新たな勇者に顔と恩を売っておきたいと思うのが町長だ。
前回の勇者の時は事前告知もあったから、全員揃っていた。
こんかいは俺とヨルドの決闘の
それをどの程度重要視するかは、町長次第。
ルクシエス様は……まあ、言わずもがなだが……。
「来るかい?」
「え、いいのですか?」
「媚びを売ってタージェの騎士団に帰ってきて欲しい」
「…………俺はルクシエス様のそういうところは割と本気で好きですよ」
下心が仕込めないところ、好き。
そうしてルクシエス様について、『神殿』の会議室に入る。
するとそこには三人の長が待ち構えていた。
「遅いぞルクシエス。……ん? 貴殿はライズ・イースではないか。先程の勝負、実に見事であったぞ」
「ありがとうございます、スタンディー様」
南東の町、『ラオンヘッド』の長、スタンディー様。
硬派で曲った事を嫌う方だ。
「やはり来ていたのね。セレーナが勇者召喚に立ち会っていたから、あなたもすぐ神殿に来ると思っていたわ」
「はい。お久しぶりです、レティシア女史」
南、『フォブル』のレティシア女史。
微笑むその表情には憂いが差している。
彼女には俺たちの目的を話してあるからだろう。
今日、その話をするかどうかは悩みどころだろうな。
「おお、ライズ殿! 大変でしたね!」
「は、はい」
そしてこの人が一番まずい。
西『アマードのストラスト』のアマード氏。
依頼の品である大型結界石は空間倉庫に入っているが、まだ手渡してはいない。
……アマード氏の思惑が分からない以上渡すよりはこの町に置いておきたいのだが……さて、どうしたものだろう?
「他の町長は?」
「前々からの予定があり、来れないそうよ」
「そうか、残念だな」
「しかし、ご協力は惜しまないと返答頂いております」
「それはそうでしょう。前回の勇者殿は残念でしたが、今回の勇者殿にはその分頑張って頂きたいものですからね」
「そ、そうね」
そして取りまとめ役は副神殿長か。
レティシア女史は俺たちの目的を知っている分、『神殿』とアマード氏へ不信感が強い。
アマード氏は腹の中が分からないが、ルクシエス様と副神殿長は当然『神殿』側。
まったく読めないのがスタンディー様だ。
この人がどこへつくかで色々傾くか……さて。
「ところでライズ殿、その抱いている娘は?」
「あ、はい。とある事情で保護した娘です。北東の『アルゴッド』にある施設に預けようかと思っていたのですが、あまりいい噂を聞かないので調べてからにしようかと思っておりまして……」
「『ファイシドのアルゴッド』の孤児施設の噂か。我の耳にも入っている。魔物に孤児を食わせているという噂だろう?」
「な、なんですって!?」
「そのような噂が? ファイシド殿はそれについてなにかおっしゃつておるのですかな?」
「なんと恐ろしい! 神への叛逆にも等しい!」
「落ち着いてください、レティシアさん、ルクシエスさん、副神殿長様。噂でしょう? スタンディーさんもただの噂をそのように軽々しく口にするものではありませんよ」
「ふん」
アマード氏が宥めてくれたので、レティシア女史もルクシエス様も席に座り直す。
副神殿長はまだ顔を赤くしているが、こればかりはアマード氏の意見に賛成だ。
それに、あまりその話題を長引かせたいと思わない。
「そうですね、俺も信じられませんから……直接この目で確認しようと思っています」
「そ、そうか。ライズがそう言うのなら……まあ、噂だしな……うむ」
「そ、そうね。取り乱してごめんなさい」
「それがいいですよ。現地に行かなければ分からない事もありますからね!」
「…………そうね。ドラゴンだと聞いていたのに、ビッグドラゴンがいたりするものね」
「……はははははは」
「…………」
めちゃくちゃギスギスしてる……。
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