神殿の中で【1】
『この世界に住むすべての民よ! 神の声! 神託である!』
「!?」
コロシアムが突然聞こえてきた声に歓声を困惑に変える。
声の方を見上げると、放映魔法で神殿内部が映されていた。
台座には聖剣。
セレーナの言った通り、神殿長は俺とヨルドの決闘を出しにして勇者召喚をやり直すつもりらしいな。
しかも放映魔法まで用いてとは……前回の勇者よりも大々的だ。
セレーナたちが気になる。
レトムを手で呼び寄せ、神殿に急ぐ。
その間も、放映魔法に映る神殿長は喋り続けていた。
『神は前回の勇者を、この世界を救うにはまだ幼いと判断なされた。前の勇者は神に選ばれておきながら、元の世界へ帰りたいと宣ったのだ! 慈悲深い神はその幼い少女の願いを聞き入れ、勇者を元の世界にお返しになった! だが! しかし! それでは我らはどうなろうか! そう! 世界の危機は、未だ健在!』
話が長い。
神殿に着いてしまった。
「レトム、俺の鎧の中へ」
『は、はい』
神殿では魔物は忌避される。
レトムを隠し、神殿に入るが長話はまだ続いていた。
まあ、言いたい事をまとめると、『前の勇者は帰っちゃったから、新しい勇者を今から召喚するね』って事だ。
もうそう言えばいいものを……。
「ライズ殿!」
「!」
「お久しぶりです。先程の決闘、お見事でした。やはり『剣聖』は貴殿にこそ相応しい」
「あなた方は……」
神殿に入ってすぐの礼拝堂。
そこを通り過ぎての廊下で、意外な二人と遭遇した。
聖騎士ロニと弓士サカズキだ。
彼らは舞踏大会でも戦った事があるし、最初の勇者、ユイ殿をサポートするよう
「ライズ殿もやはり新たな勇者殿のサポートメンバーに?」
「……いや、セレーナとここで合流する予定だったんだが……」
「聖女殿なら、新たな勇者殿のお迎えに参加して欲しいと神官の方々に乞われ、聖剣の間へ連れて行かれましたよ」
「む……」
動きが早い。
自分たちの利になりそうな事は、目敏いと言うべきか。
しかし……。
「ではセレーナと一緒にいた娘はご存じないか? 俺とセレーナで保護していたのだが……」
「ああ、あの金髪の少女……。確か食堂で待っていると……」
「え?」
「ああ、なんでもお腹が空いたとか言っていましたね」
「…………」
本当に食べる事に積極的だなぁ!
朝ご飯、たくさん食べただろうに!
「あ、ありがとう。迎えに行ってくる……」
「ライズ殿」
「?」
まだ、なにか。
振り返ると神妙な面持ちの二人。
「……実は我々もお二人と別れたあと、勇者殿とお別れしまして……」
「ああ、やはりそうだったんですか」
『ゼイブのダンジョン』でユイ殿は一人だった。
盗賊のジャディが見限る事はなんとなく予想がついていたが、義理堅い二人まで彼女の側に居なかったのにはかなりの理由があると思う。
まあ、ユイ殿の日頃の行いを見ているとわからないでもないが。
「……これは懺悔なのです。我らはがユイ殿を見捨てなければ、彼女は『帰りたい』と望まなかったのでは、と」
「我々は忍耐が足りなかったのでしょうか……」
「…………」
そんな懺悔は俺ではなく神にでもしてくれ、と思う。
なぜ、ここで。
まあ、頭の上から聞こえてくる神殿長の長話はだんだん神への賛辞になりつつあり、いつ勇者召喚に漕ぎ着けるのやらという感じだ。
俯く彼らはまた新たに召喚される勇者のサポートメンバーとして、声がかかったらしい。
俺とセレーナは旅をしていたから、その話は来ていない。
きても受けるつもりはないが、少なくとも……。
「……ユイ殿が『帰りたい』と叫んだ場に、俺とセレーナはいたんです」
「えっ」
「彼女はこの世界を『ゲーム』だと思っていたようでした。そして、現実に『死』を実感して恐ろしくなったのでしょう。……その姿を神は憐れまれたんだと思います。次に来る勇者殿がそうでない事を祈りましょう」
「……では、我らのせいでは……」
「さて……」
それは俺が答えられる質問ではない。
ユイ殿が彼らに見放されたのは彼女自身のせいだと思うが、そこまで調子に乗らせたのは彼らにも責任がある。
……もちろん、俺とセレーナも含めて。
次の勇者とはちゃんと話し合えばいい。
俺が救いたいのはこの世界……セレーナと生きていく場所、未来だ。
それがはっきりと分かった今、俺がなすべきは
だがその前にタニアのお迎えだな。
「タニア」
「あ、らいず」
神殿の食堂に行ってみると、お皿を空にしたタニアが顔を上げた。
おお、ちゃんとスプーンを使って食べている!
……その代わり口の周りは汚いがな。
「タニア、セレーナのところへ行こう」
「うっ!」
紙ナプキンでタニアの口の周りを拭いてから、そう声をかけると座ったまま両手を広げられた。
抱っこ、の意味。
はいはい。抱っこ抱っこ。
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