『カジェンドのレッコ』【後編】


「弱ったな」

「そうね……魔物の生贄にしてるだなんて。もし本当なら許せない」

「ゲームにはそういう話はなかったのか?」

「えーと……待ってね、今思い出す……」


 タニアはセレーナの膝の上によじよじと登る。

 すっかり懐いてしまったな。

 最初のあの敵を見る目も最近はされないし。


「思い出した! ファイシドを仲間にする時のサブイベントだわ!」

「え?」


 ファイシド……?

『ファイシドのアルゴッド』のファイシド氏の事では、あるまいな?

 そ、それは——。


「そのファイシドよ。男の町長は仲間に出来るの。もちろんアマードも別でサブイベントがあったわよ」

「な、なんと」

「まあ、アマードは買い物の時に買取額アップと売買価格アップくらいしか役に立たないけど……」

「うー?」

「そうね、タニアにもそのうちお買い物の仕方を教えないとね」


 そう言いながらセレーナはタニアの頭を撫でる。

 タニアはセレーナの膝の上に体を乗せてごろごろと……いささかはしたないのではなかろうか。

 いや、断じて羨ましいとかではない。断じて。


「こほん。……つまりその養護施設の件はファイシド氏のイベント……。俺たちは関わらない方がいいのか? ……だが、それが解決しないとタニアを預けられそうにないし……個人的にも噂が真実ならば捨て置けない」

「そうね……勇者の噂も未だに聞かないし……っていうか聞かなさすぎじゃない? まずくない? 大丈夫なのかしら? 今なにしてるの? さすがにダンジョンの一つ二つはクリアしてないとおかしいわよね? なんでこんなに音沙汰ないの?」

「そ、そうだな……」


 そう言われると……確かに沈黙が不気味では、あるな。


「レティシア女史なら、なにか知ってるかしら? ゲームでは『破竹の勢いで次々にダンジョンを制覇していく』ってあらすじとかにも書いてあるんだけど……勇者……」

「…………」


 破竹の勢い、はある意味間違ってはいない気はするが、ダンジョン制覇の知らせは主にギルドを通して数時間で駆け巡る。

 制覇したところで新たな階層が出るが、勇者がダンジョンを制覇すると、新たな階層は生まれずダンジョンは沈黙するという。

 ……それが聖剣がこの世界に齎された時に『神殿』に与えられた『神託』。

 だがそれを思うとやはり多嵐デッド・タイフーンに関して『神託』がないのはおかしい。

 まさかとは思うが、『神殿』が隠している……?

 隠す理由が分からないのだが。


「うっ! うう!」

「え? なにどうしたのタニア」

「おなか! すいた!」

「さっき食べただろう!?」

「せい、ちょー! き!」

「どこで覚えてきたんだ……」

「し、仕方ないわね……宿の食堂でなにか食べましょう」

「そうだな……」



 ***



 翌朝。

 治療院に立ち寄り、レティシア女史に『ゼイブ』に行く事を告げ、町を出た。

 街を出る時に入り口に魔法石を埋めて、封印を施す。

 これでこの町で行う事はすべて済んだな……。


「いた!」

「いたぞ! おまち、おま、お待ちくださーーい! 剣聖様ー!」

「ああ、良かった! まだいた!」

「?」


 ちょうど魔法石を埋めて雪を被せ終えたところで、町から三人の冒険者が出てきた。

 そんなに慌ててどうしたのだろう?

 近づくと、一枚の紙を手渡される。


「こ、これを……ギルドから手渡して欲しいと……」

「俺宛ですか?」

「は、はい! 『剣聖』ライズ・イース様宛です」

「ギルドから直接ライズ様をご指名なので……」

「ふむ……」


 ギルドから指名で手紙……。

 俺宛の指名依頼、あるいは俺宛の私的な手紙。

 あれ?


「二通?」

「はい」


 ふうん?

 と、二枚の封筒を裏返すと「うぇ」と声が漏れそうになった。

 一枚は『タージェ』の騎士団から。

 もう一枚は『ヨルド・レイス』のサイン。

 ヨルドからの手紙の内容はだいたい想像がつくので、まずは『タージェ』の騎士団からのを開けてみる。


「騎士団から?」

「ああ…………待遇に不満があるなら改善するから言って欲しい、とある。冒険者に戻るので探さないでくれと頼んだのだが……」

「い、今までたらい回しにされていたのね、この手紙」

「そうだな……」


 冒険者宛の手紙は、冒険者が移動するためなかなか届くまでに時間がかかる。

 騎士団がこの手紙をいつ出したのかは分からないが、手紙もさぞやあちこち旅してきた事だろう。

 さて、ではもう一枚も開けてみよう。


「こちらはヨルドからね」

「ああ、決闘の場所と日取りが決まったから、逃げるな、という内容だな」

「いつなの?」

「三日後、泉議会室ドル・アトルのコロシアムで、だ。……なら、先に『ゼイブ』に寄っても間に合いそうだな」

「そうね」

「「「え、ええ……?」」」


 冒険者たちにはドン引きしたような顔をされたが、泉議会室ドル・アトルなら何度も行った事がある。

 座標を覚えてさえいれば、瞬間転移魔法で行くのは容易い。

 それよりも『ゼイブ』の魔物討伐と魔法石を埋めるのが先だ。


「ありがとう。手紙は確かに受け取った」

「あ、は、はい」

「あ、あの……」

「もしかして、大剣士ヨルドと戦うんですか!? 『剣聖』の座を賭けて!?」

「そうなるようだ。三日後だな。おそらく放映されるだろうから、結果は三日後君たちの目で確かめてくれ」


 まあ、負けないがな。



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