『カジェンドのレッコ』【中編】


「……ほ、本当に古龍イヅル様がそうおっしゃったのか?」

「信じられないのであればご自分で確認してください」

「私たちは、それまで各地を回り魔法石を設置して多嵐デッド・タイフーンの発生を遅らせる事を最優先にします。でも、それだけでは解決になりません。どうかレティシア様、お力添えをお願い致します」

「…………」


 セレーナが聖女っぽい。

 いや、聖女だった。

 聖女らしくレティシア女史の手前に跪いて祈り、嘆願を加えて立ち上がる。

 この町ですべき事は、魔法石を埋める事。

 そしてこの町の児童養護施設にタニアを預けられるかどうか、見極める事だ。

 ……あ、あと依頼で狩ったクルラビットの納品か。

 忘れるところだった。


「我々はこの町でやるべき事を済ませて参ります。どうぞご自愛ください」

「行こう、セレーナ」

「ええ」


 レティシア女史に話した事が、今後どう影響するのかは分からない。

 だが彼女の協力が得られれば大きい。

  八大型主町エークルーズでは、冒険者協会の会長であるレティシア女史の発言権は大きいからだ。

 どの町も冒険者協会に加入し、冒険者を集め、育てる事で手の回らない結界の外の村を守ったり、魔物に対抗している。

 ……しかし。


「アマードはどういうつもりだったのかしら」

「レティシア女史があそこに大型結界石があるのを聞いたのは、アマー氏ドからの噂だと言っていたな」

「ええ……ますます怪しい……」

「それに、結局この合わせ鏡の魔石は使わなかった。……どういうつもりだったのだろう?」

「怪しい……」


 セレーナはもう先入観バリバリでアマードが悪役決定だなぁ。

 ゲームの中でセレーナを騙す悪い奴。

 もう、それが刷り込まれているのだろうな。


「だが、情報としてはなんにも間違ってはいなかった」

「え?」

「アマード氏は『ククルのダンジョンにいるドラゴンの巣に大型結界石があった』と言っていた。情報そのものはなんにも間違っていない。ビックゾンビドラゴンに進化したのは、レティシア女史と戦いが原因だからだ。結局使わなかったが、大型結界石が根ざしていたならば合わせ鏡の魔石は使う事になっていただろうし、レティシア女史が俺たちの申し出を受け入れてくれたなら、今後 八大型主町エークルーズの大型結界石を移動させるのにこの合わせ鏡の魔石は使える」

「……そ、それはそうだけど……」


 意図が分からない。

 まるでこちらに協力するかのような……。

 だが、セレーナが警戒するのも分かる。

 セレーナの『ゲーム予言』は今のところほぼ確実にそこはかとない形のものも含めて当たっていた。

 今回のアマード氏も、俺たちが勇者殿と同行していたらゲームの通りだったかもしれない。


「まあ、今考えても仕方ないな。合わせ鏡の魔石は空間倉庫にしまってあるし、妙な罠が仕掛けてあっても発動はしない。ひとまずギルドにクルラビットを納品して、タニアを預ける施設の見学。それと魔法石を埋める場所探しだ」

「うっ。そ、そうね。意外とやる事が多い……。あと、ギルドで北東の小島『ゼイブ』のダンジョンにまつわる依頼も受注してきた方が効率いいわね」

「! そうだった、それもあった。ありがとうセレーナ」

「え、えへへ」


 無事に思い出せて良かった。

 というわけで、ロビーで待たせていたタニアとレトムを回収して一路冒険者ギルドへ向かう。

 そこで納品と『ゼイブ』ダンジョンでの依頼を受注し……。


「お腹減った!」

「「…………」」


 というタニアの主張を聞き入れ、昼食を摂ってから児童養護施設へと向かう。

 ここが問題なさそうなら、タニアを預けようと思ったのだが……。


「…………。廃墟?」

「廃墟にしか見えないわね?」

「うー?」


 ちなみにレトムは極寒の地が寒すぎて、俺のコートの中に入り込み、さっきからまったく喋らない。

 羽毛があるのにこんなに寒さに弱いとは……鳥化していても翼竜は翼竜か。

 いや、レトムの事はどうでもいい。

 そんな事より養護施設だ。

 どこからどう見てもボロ屋敷ではないか。


「おや、その建物に用事かい?」

「あ、あの、すみません、この建物……もしかして……」

「ああ、三年前までは子どももいて使われてたんだが……食糧難が続いてしまってなぁ。みんな隣の『ファイシドのアルゴッド』に移っていったよ。でも、あそこの孤児院は変な噂もあったから……元気にしてりゃいいけど……」

「どういう事ですか?」


 通りすがりの町人にさらに詳しく聞いてみると、この町は慢性的な食糧難。

 他の町からの支援が欲しくて作られた児童養護施設だが、それも難しくなり三年前に潰れてしまったそうだ。

 代わりにここにいた子どもたちは、北東の『ファイシドのアルゴッド』の児童養護施設に引き取られた。

 だが、『ファイシドのアルゴッド』の養護施設は妙な噂がある。

 その噂とは——……子どもを魔物の生贄にしている、というおぞましいもの。


「いや、もちろん噂だよ。……でも、引き取られていったって噂も……ないんだよ」

「「…………」」


 セレーナと顔を見合わせる。

 情報をくれた町人にお礼を言って、一度宿へと戻る事にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る