『カジェンドのレッコ』【前編】
『カジェンドのレッコ』。
大陸最北端の町である。
万年雪と氷山に囲まれたその町は、一年でもっとも気温が上がっても、二桁行かないという。
救急、という事で入り口で行われるいつもの下りをすっ飛ばし、俺たちは治療院にきていた。
「本当に助かった。ありがとう」
「いえいえ。むしろたった一人であんなところに……それも
翌朝、治療を受けて目を覚ましたレティシア女史にセレーナが聞くと、申し訳なさそうに「大型結界石があそこにあるという噂を聞いて……」と小声で答えてくれた。
思わずセレーナと顔を見合わせる。
「あ、あの、それ、大型結界石を、私たちもアマード様に依頼されて取りに行ったんです。そこに出るのはドラゴンだと聞いて……」
「! そ、そうだ! 私もドラゴンだと聞いのだ。だが、実際いたのは、ビックドラゴン……通常のドラゴンの二倍の大きさだった。……それに、偵察のつもりだったのに、産卵直後だったせいかすぐに見つかって襲って来られて……」
「え? ……卵……」
あっただろうか?
セレーナと顔を見合わせるが、記憶にない。
「卵は一つしかなかった。……そういえばいつの間にか消えていたな」
「ふむ、戦闘の時に割ってしまったのかもしれませんね。……それで、相討ちになって飲み込まれたんですか」
「うっ……は、恥ずかしながら。……いや、本当に……今度こそダメだと思った。魔物の胃の中に入るのは二回目だが、まったく私は運がいいぜ」
「…………」
どんな人生を送ったら魔物の胃に二回も入る事になるんだろう?
素直にこうはなりたくない。
そして、さすがは冒険者協会を立ち上げた冒険者の頂点……。
「それで、君たちもあそこに大型結界石を取りに来たのか?」
「はい。アマード様の依頼で」
「じゃあ、まさか大型結界石を手に入れたのか!?」
身を乗り出して瞳を輝かせるレティシア女史。
さて、どうしたものだろう。
でも、ちょうどいいかもしれない。
「実は、レティシア女史に協力して頂きたい事があるんですが……」
「え? な、なんだ急に改まって。命の恩人と『剣聖』『聖女』の話なら、そりゃもちろん聞くが……」
元々大型結界石を手に入れたら
だからこれは、渡りに船だ。
俺とセレーナは、師匠に聞いた話と目的を洗いざらいレティシア女史に話した。
五、六年後、この世界は神の変革『
俺とセレーナは師匠や古龍イヅル様に、それを遅らせる術を持たされている事。
『
そして、その対策には各町にある大型結界石を、大陸中央にある
「…………っ」
「協力してくれませんか? 我々は入手した大型結界石を、
「そんな簡単に出来るわけがないだろう!?」
「もちろんです。そんな簡単に出来る事ではない。そんな事は分かっています。……町の結界の中に入れず、町の結界にすぐ入れるような場所で俺たちは生きてきた。……本来なら大型結界石を動かす事すら不可能……」
「でも、やらなければあらゆる生き物が滅びるかもしれない。世界のあり方が変わるのです。人間も魔物も動植物も……あらゆるものが今までのように住めない世界になる事も考えられる。……それを知ってなお、なにもせずにいるなんて私たちには耐えられない」
「っ」
そう、ただの災厄ではない。
これは改変なのだ。
神がこの世界をどのように変えるのか、神にしか分からない。
それとも神は『神託』で我らに改変の内容を教えてくれるのだろうか?
そして、もし『神託』をお与えになるつもりがあるのならもっと早く『神殿』に『神託』をお与え頂きたいのだが!
「で、でも、『神殿』はなにも……」
「ええ、そうですね。けれどもしかしたら直前まで『神託』がないのかもしれない。ですが、少なくとも今から働きかけねば、世界中の人々を救う事は不可能です。『神殿』に『明日世界に
「…………」
「備えなければなりません。来ると分かっているのなら、来ると分かっている人間が、最低限」
レティシア女史もさすがに突飛すぎると思っているのだろう。
だが俺たちは譲るつもりはない。
少なくとも古龍イヅル様の名前を出せばたじろぐ程度には効果がある。
それはレティシア女史が『賢者』古龍イヅル様に面識があるからだろう。
彼女は世界トップクラスの冒険者。
イヅル様の逸話は多く知っているはず。
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