『ゼイブのダンジョン』【前編】
北東の小島『ゼイブ』。
『レッコ』と『アルゴッド』の間にある大橋を渡り、氷結樹の森の先にあるダンジョン。
制覇回数はゼロ。
ダンジョンの入り口に魔法石を埋めて結界を張り、あとは依頼をこなすのみ……なのだが。
「見て、ライズ。真新しい足跡」
「
「「…………」」
『ゼイブダンジョン』の推奨レベルは35〜40。
冒険者ならば中堅からそこそこの上級者向け……。
単独とは、最大パーティーメンバー五人のところをたった一人で活動している者の事を指す。
俺とセレーナならば単独で『ゼイブダンジョン』攻略に赴いても、なんら問題はないが……限界突破しているわけではないのにここを単独で挑む冒険者は少しレアというか……。
「よほどの実力者か……あるいは……」
「バカか無謀か考えなしか……の、どれか……ね?」
「うー?」
「うーん、どうしましょうね? 放って置いてもいいんだろうけれど……」
「様子だけ見てくるか」
「そうね……このダンジョン、見るからに『ククル』並に寒そうだし……。討伐依頼の魔物はダンジョンの中?」
「サーチしてみたが周辺の森にはいないようだ。ダンジョンの魔物だろう。……討伐依頼が出るほどの魔物だが詳細があやふやなのが気になるところだが……」
「鳥化が進んでから、魔物の生態系もかなり変わったものね……。『とにかく危なそう』というだけで討伐依頼が出たりもするし……まあ、みてから決めましょう」
「そうだな」
というわけでダンジョンに入る用事が出来てしまった。
単独でダンジョン入りした者も気にはなる。
足跡を見る限り女性のようだった。
女性の冒険者で、単独……かなり無謀にも思うが……俺の横に余裕でやり遂げられる女性が存在するので不可能ではないとも思う。
『ゼイブダンジョン』は巨大氷結樹の中を上に上がっていくタイプのダンジョン。
中は螺旋階段があり、足跡は上へと伸びていたが……。
「きゃーーー!」
という悲鳴が上から聞こえてきて驚いた。
今の声は……。
「行きましょう、ライズ!」
「タニア」
「うっ!」
タニアを抱き上げ、瞬歩で声のした二階へと登る。
俺は嫌な予感がして堪らないが、セレーナは……。
「いや、やめて……誰か助けて!」
「ユイ様!」
二階フロア。
カラフルな毛の生えた……なんだろうな、あれは。
とにかく大きな二足歩行する羽毛に覆われた、鳥の嘴がある変異個体が、腕輪振りかぶって勇者殿に襲いかかっているところだった。
聖剣は部屋の隅に落ちており、彼女は丸腰。
俺は思わず部屋の入り口で足を止めてしまった。
だがセレーナは一度も立ち止まらなかった。
振りかぶった魔物の手が勇者殿に届く前に『聖防壁』を展開して阻み、魔物の腕が弾かれた瞬間を狙って一っ飛びでそこまで行くと拳を突き出す。
「聖拳突!」
「ギョハァ!」
魔物が少し可哀想な容赦のなさ。
くの字に曲がった巨体は、そのまま壁まで吹っ飛ぶ。
誰がどう見ても今ので魔物は即死だろう。
最初は調査してから、生態系に悪影響そうなら……と思っていたが……ふむ、『魔物鑑定』を使って調べても『特異変異個体』と出る。
……依頼にあったのはあの魔物だろう。
仕方ないので空間倉庫に魔物の死体を納めて、勇者殿の聖剣を拾いに行く。
「大丈夫ですか?」
「…………な、なんで上手くいかないの……なんで……なんで!」
タニアを片手で抱えたままなので慎重に体を落とし、聖剣を拾い上げる。
勇者以外が扱っても、聖なる神力は扱えないという。
だが、床を殴りながら悔しがる彼女が勇者だとはやはり思えない。
聖なる神力……聖剣の力は、振るうだけで魔物を滅すると『神託』で語られていたと聞く。
俺たちが期待しすぎたのか、彼女が最初に聖剣を振るった時以来……その力は見られなくなった。
「どうしてお一人なのですか? 他の仲間は?」
「みんな、
「……まさか……他の仲間たちにも色目を使ったのですか?」
「!」
ガバリと起きあがった勇者殿が、俺を見るなり鋭かった眼差しをキラキラとした期待の眼差しに変える。
あ、これはなにも変わっていないな。
というか、タニアが見えていないのだろうか?
「ライズ〜! やっぱり私のところへ戻ってきてくれたのねーーー!」
「…………」
避けた。
飛びつかれたくなかったのと、俺はタニアを抱えているし俺の胸の中はセレーナのものだからだ。
時々タニアに貸し出し可、寒さに弱いレトムが入っていたりするけれど。
勢いそのままに、床に顔面をこすりつける勇者殿。
『鑑定』を使うと、彼女のレベルは11。
俺たちがパーティーから離脱した頃と、ほとんど変わっていないではないか。
そしてそんなレベルでこのダンジョンに挑むとは……。
氷結樹の森ですら推奨レベル25のはず。
なんたる無謀……。
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