『ククルのダンジョン』【中編】
「『ククル』のダンジョンはこの先だ。ここは三層構造になっていて、入り口から最初の層は『アキスの洞窟』。二層目を『ククルの洞窟』。三層目が『ククルの洞窟ダンジョン』となっているんだ。知っていると思うが、ダンジョンは一度制覇されると、元ボス部屋が階段に変化して新しい層が出来るだろう?」
「え、あ、う、うん、は、話は聞いた事があるけど……」
「このダンジョンは二回ほど制覇されているんだ。だから地下二階と地下三階がある。今のボス部屋は地下三階の最奥だ。そして、その危険性を周知するために元々の名前であった『アキスの洞窟』を地下一階の名前として使っている。『ここから先は、本当に強い魔物の出るダンジョンだぞ』という意味だな」
「そ、そうだったんだ……」
「うー?」
タニアにはまだ少し難しいか?
なんにせよここから先、魔物のレベルが跳ね上がる。
それでも俺とセレーナの敵ではないが。
「…………」
「セレーナ?」
「ね、ねえ、この治癒魔法書、持っていかない?」
「……まさかそのルクニスを仲間にするつもりか?」
「いやぁ、その……ルクニスはショタキャラだからタニアと友達になれるんじゃないかなぁって……思ったんだけど……だめかしら?」
「タニアの友達……? ……ふむ……」
しょた? はよく分からないが、タニアと仲良くしてくれそうなら……。
……なるほど、タニアを任せられる護衛というわけだな?
治癒魔法士ならばうっかり怪我をしても治してくれるだろうし……なによりタニアとレトムを預けられる人間が増えれば俺がセレーナと二人きりでデートしたり出来るようになる!
そもそもこの旅路の本来の目的の一つは、婚前旅行!
婚前旅行なのに全然セレーナと仲を深めていない気がする。
これではだめだ、本来の目的が果たせていない!
もしかしたらセレーナも俺と同じ気持ちだから、その治癒魔法士を仲間にしようと……?
「ふっ……」
「?」
なるほど、そういう事だったのか!
それならば俺から反対する理由はないな!
「いいんじゃないか? 俺とセレーナは治癒魔法、簡単なものしか使えないしな」
「そ、そうよね! 私、『聖女』なのに初級のファーストヒールしか使えなくて困ってたの……この魔法書で勉強して、使い終わったらルクニスを仲間にしてルクニスに治癒魔法を教われば聖女っぽくなれるわよね!」
「…………。うん! そうだな!」
まさかの自分用……?
一応初級以外使えないのを気にしていたのか?
まあ、『聖女』なのに初級しか使えないのは……確かに前々からどうかと思ってたしな……。
俺たちレベル100を超えてから、生半可生物の攻撃力より防御力の方が高くなったから、傷そのものを負わなくなったけど。
セレーナに至っては物理攻撃力ばかり上げるから「殺られる前に殺る」聖女になったけど。
俺は少しそれでいいんじゃないかな、と思ってたんだが。
「それに、ルクニスってお料理が上手いキャラなの!」
「ん?」
「ほら、私の場合料理を作るとすべて『毒付与』になるでしょ? ルクニスの場合はそれと逆で、料理を作ると『回復効果付与』がつくのよ。料理のメニューによって付与される効果も変わるから、美味しいご飯が野宿でも食べられる……じゃ、なくて、食べるだけで身体強化バフが付与されたり……。ね? ルクニスを仲間にするとすごくお得でしょ!?」
「……そうなのか」
『レッコ』に行ったら料理の本、買い漁ろう。
覚えよう。俺も、料理。本格的に。
「さて」
治癒魔法書を手に入れ、さらに下層へ進む。
アマードの依頼の品……大型結界石は最下層のボス部屋だと聞いている。
しかし、今更だがこの依頼の矛盾点に気がついた。
……大型結界石があるのに、このダンジョンが魔物の巣窟であるという点だ。
大型結界石があれば魔物は結界の中に入れないどころか近づく事もない。
そんな結界石があるのに、なんでこのダンジョンは今も魔物で溢れているのか?
単純に大型結界石が『起動』していないから、と思うが、それならばそもそも大型結界石に魔力が通っていないという事になる。
魔力が通っていないなら、大型結界石が根を張っているとは考えづらい。
根を張っていないなら、アマードに預けられたこの手鏡の魔石は……必要ないような……?
「セレーナは、どう思う?」
「なにが?」
「アマードに預けられたこの手鏡だ。合わせ鏡にすると魔力を遮断すると言っていただろう?」
「うーん? ゲームの中には登場しなかったアイテムなのよね……。大型結界石はシンプルに『大きすぎて運べない』だったから」
「ふむ……確かに大型結界石は三メートルはあるというよな……」
「ええ」
俺たちの出身地、『タージェ』の大型結界石も、ダイヤ型の三メートル級の巨石だ。
結界石も魔石の一種だから、あそこまで大きいものは超レア。
だが俺の空間倉庫を使えば、三メートルだろうが何メートルだろうが収納は不可能ではない。
そんなわけで普通に横取りして
「……なんだか嫌な予感がするな……」
「その手鏡の魔石? まあ、確かにゲームに出てこないアイテムだから、ちょっと気味が悪い感じはするのよね」
「俺もセレーナも『鑑定』が苦手だからな……」
「う、うん」
『鑑定』魔法を使っても、シンプルに『手鏡の魔石』としか表示されない。
不気味だ。
「うー! あ、あれ!」
「!」
階段を降りた時、タニアが指差す。
その部屋にいたのは……。
「ビックゾンビドラゴン……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます