『ククルのダンジョン』【前編】


『アマードのストラスト』から北へ進むと大橋があり、それを渡れば北西の小島『ククル』にたどり着く。

 周辺の森は鬱蒼うっそうとしており、クルラビットを依頼量狩り終えれば、いよいよ本命の場所となる。

 しかし、ここで一つの問題。

『ククル』には洞窟のダンジョンがあり、地下へ行くごとに気温が下がるため『極寒洞窟』の名で呼ばれていた。

 なので——。


保温暖房ホットホット!」

「あったかーい!」

「うあー!」

『温かい! これは快適です!』


 寒いところ嫌いの師匠が編み出した新魔法『保温暖房ホットホット』!

 この魔法をかけると一定時間体を暖かな膜が覆い、どんなに寒い場所でも活動する事が出来る。


「寒くなったらかけ直すから言ってくれ。……では、行こう」

「「『おー!』」」


 本当はタニアは町に預けてきたかったのだが……『ストラスト』はいささか不安だしレッコは遠回りになるからあまり長く一人にしておくのが不安だし、という事で同行させる事にした。

 まあ、俺が魔物を蹴散らして進めばセレーナがタニアの護衛に専念出来るし、問題ないだろう。


『…………いや、なんとなくそんな気はしておりましたが』

「?」

『マスターとセレーナ様は一体レベルいくつなんですか?』


 レトムの疑惑の眼差しに、セレーナと顔を見合わせる。

 あれだろうか、このダンジョンの推奨レベルが35なのに、俺とセレーナが大体一撃で魔物を沈めて戦闘描写すらないから不審がられたのだろうか?

 確かに一撃で倒せるからな。

 正直雑魚相手だと戦闘描写スキップしたくなるだろう?

 仕方ないよな。


「私は今レベル150よ」

「俺は158だな」

『…………。……? ん? え? お待ちください? レベル上限99って知ってます?』

「信じられないだろうが上限は突破している。俺とセレーナの師匠が、レベル限界の超え方を教えてくれたんだ」

『え、えええー!? そ、そんなバカな!? い、一体どうやって!』

「それは教えられない。簡単ではないし、師匠にも口止めされている」


 レベル上限99……そう、この世界のレベルの上限は99だ。

 その上限を突破する方法は師匠に聞いた。

 ……レベル上限を突破する方法……それは、

 この世界のことわりは、この世界の中では絶対の概念。

 だからこの世界の外側に出れば、レベル上限を突破する事が出来る。

 そうすればこれまで同様、戦えば経験値が入り、レベルが上がるのだ。

 もちろん、上限が上がった分レベルを上げるのに必要な経験値は跳ね上がるが……。

 そしてこの世界の外——『魔王城』がそれに該当する。

 なので俺たちはしばらく魔王城に勝手に入って、魔王城でレベル上げに一年を費やした。

 あんまり俺たちが毎日通うもんだから、魔王ステルスが「うるせー! 俺んちんだぞここー! ゲームみたいにしつこく通ってレベル上げしてんじゃねー!」とわざわざ出向き、セレーナの『聖なる腹パンチ』により敗北、能力とレベルが封印されたのだ。

 つまりレベル上限である99になってから魔王城でレベル上げを行えば誰でも限界突破が可能。

 だが、そのレベル99へ達するまでが大変だ。

 迂闊に推奨レベル70の魔王城に、踏み込まれても困る。


「……た、たにあ」

「ん?」

「たにあも、れべるあげ、たら……れべるひゃくに、なる?」

「え? あ、ああ、無理ではないと思うが」


 タニアが喋った。

 珍しく興味を惹かれる内容だったらしい。

 しかし、レベル100を目指す?

 タニアが?

 ま、まあ、将来的には十分あり得るだろうが……。


「そうだな、大きくなったら俺とセレーナの弟子にしてあげよう。でも、このダンジョンはタニアにはまだ早いから、芋虫蝶を倒すところから始めような」

「う、うんっ!」


 素直。

 しゃがんで目線を合わせ、頭を撫でる。

 最近ようやく少しずつだが、笑ってくれるようになったな……。

 ……しかし、タニアが興味を示すのは飯か戦いか、というのがなんとも……なんとも……!!


「ん?」

「どうかした?」


 また少し進んだところに、魔法書が鎖に繋がれている?

 なんでこんな場所に魔法書が……しかも鎖でがんじがらめ……。


「あ! これ!」

「? セレーナ、これがなにか知っているのか?」

「ルクニスを仲間にするためのサブイベントアイテムだわ。でも、なんでこれがここに……? ゲームでは『アキスの洞窟』にあるはずなのに……」

「『アキスの洞窟』? ……ここだぞ?」

「え? …………。え? ここは『ククルのダンジョン』じゃないの……?」


 ……そういえばセレーナは地図を見るのが苦手だったな。

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