街道


「よし、これで大丈夫だな。行こう」

「ええ」


『フォブル』の外壁のとある箇所に穴を掘り、魔法石を埋める。

 結界を張り、穴を埋め直して立ち上がった。

 完了だ。

 次の目的地は西南方面……『ミレンダのドラドニエン』。

 この町と『ドラドニエン』を繋ぐ街道に出る、アースドラゴンの駆除をして、『ドラドニエン』の冒険者ギルドへ報告する。

 その後、冒険者としての依頼を受けながらタニアを引き取ってもらえそうな児童施設のある最北の町『カジェンドのレッコ』と北東の『ファイシドのアルゴッド』に向かう。

 当然、『ドラドニエン』に着いたら報告以外にも魔法石を埋め込むという作業を行わなければならない。

 まずはアースドラゴン討伐依頼だが——。


「セェイ!」

「ぎゃー!」

「どっせぇい!」

「ぎゃーー!」

「とぅらぁぁぁぁぁっ!」

「ぎゃーーーー!」


 ……街道を塞いでいたアースドラゴンの群れはセレーナの活躍により、一掃。

 まあ、思っていた通りだいたい一撃。

 ああ、あのステータスポイントをすべて治癒魔法に振っていれば……誰もが認める『治癒の聖女』だっただろうに。

 物理攻撃力に極振りしたせいで、完全なる『拳の聖女』に……。


「あ、ごめんねライズ。ライズも戦いたかった?」

「いや、俺は大丈夫だ。それより、周囲を調べてくる。サーチ魔法には、もうアースドラゴンの反応はないが……念のためな」

「ありがとう」


 アースドラゴンも魔王ステルスの出現以降すっかり羽毛が生えて別の生き物のようになったな。

 なんかこう、昔のアースドラゴンは岩のような生き物だった。

 今のアースドラゴンは……羽毛の生えたゴツゴツしたなんかよく分からない珍獣。


「うん、問題なさそうだ。アースドラゴンをしまうよ」

「うん、お願いね!」


 空間倉庫に倒したアースドラゴンの死体を収納。

『ドラドニエン』のギルドにこれを届ければ依頼達成だ。

 アースドラゴンは生体変化で、岩の体が皮がゴツゴツした歯応えのある鳥肉になってしまった。

 ドラゴン種は他の鳥肉に比べると食感が堅めなので、鳥肉を食べ飽きている人々から『珍味』扱いされて人気が高い。

 悲しいかな、この世界の人々はもう肉の味を香辛料や食感、部位などでしか味わえなくなっている。

 魔物の増加や強化より、身近な被害としてもっともダメージを感じたのは肉の種類が『鳥』だけになった事かもしれない。

 いや、鳥だって美味しい。

 セレーナの前世の料理は村に革命を起こしたと言っても過言ではないから。

 主にローストチキン、からあげ、焼き鳥は『タージェ』の町にまで届き、今は名物にもなっている。

 ちなみに俺はあまり人気のない鶏胸肉の唐揚げが好きだ。

 さっぱりしてて脂身も少なく、骨もあまりないから食べやすい。


「うー……」

「うん? どうしたの、タニア」

『食べないのか、と聞いております。翼竜種は狩った獲物を群で分け合いますから』

「なるほど。お腹空いたのかしら? もう少ししたら『ドラドニエン』だから、町に着いたらご飯にしましょう」

『やったぁー!』

「お前が喜ぶのか」

『人間種のご飯美味しいです! もっと食べたい! もっともっとー!』

「「…………」」


 なお、町の外なのでレトムは通常サイズ。

 大人二人、子ども一人を余裕で乗せられる体躯を遺憾なく広げ、上記のセリフを高らかに叫んでいる。

 実に困った翼竜である。


「うー」

「ん?」

『ドラドニエンはどんなご飯が食べられるのか、と聞いております。フォブルで人間種の料理を食べて、タニアも感銘を受けたのでしょう!』

「ああ、なるほど。『フォブル』のご飯美味しかったものね〜。あのレストラン、景色も綺麗だったし……いつかまた行きたいわね……」

「そうだな。宿から見える海もとても美しかったし、『タージェ』からも比較的近い町だし……結婚後にまた行くのもありだな」

「や、やだぁ、んもぅ、また〜。ライズったら本当にすぐそういう事言うんだから〜」

「ぐぅえっ!」


 ドゴォ!

 ……と、気がつけば背中を押されて——感覚的に殴られた気がするけど、多分セレーナ的には軽く小突いたつもりだろうなぁ——地面に顔面からスライディングする。

 気持ち、俺が地面に顔面からスライディングしたにしては、音が異様に物騒なきはするが……ほんの二、三メートルほどなのでダメージは少ない。

 セレーナは照れ屋だからな。

 仕方ない。


「う、うー……」

『こっわ……』

「それじゃあタニアが早くご飯食べたいみたいだし、サクッと『ドラドニエン』へ行きましょう!」

「そうだな」

「うぅ」

『復活早! こわっ!』

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