『レティシアのフォブル』【後編】


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

「ええと、まずはこの手紙を『タージェ』の騎士団に届けて欲しい。追跡魔法と、輸送が無事に完了した場合の知らせつきで」

「かしこまりました。お預かりします」


 手渡した手紙を、受付嬢は手早く処理してくれる。

 追跡魔法と、輸送完了の知らせが届くよう付与魔法をかけ、転送陣の描かれた台の上へ載せた。

 すると手紙は運び屋の元へと転送される。

 これで配達の手続きは完了。


「それから、俺と彼女の冒険者証の再開、有効期限延長手続きも」

「お願いします」

「かしこまりました。お預かりし…………」


 ん?

 冒険者証を手渡したつもりだったが、固まられてしまった……?

 あまりにも見事な硬直に、俺とセレーナは顔を見合わせる。


「あの、なにかおかしいですか?」

「どうかしましたか?」

「ッァ……!? イ、イイエッ……!? ……エッ? ほ、ほ、ほほほほほ本人様……!?」

「え? 冒険者証は本人以外所持出来ませんよね?」


 そういう魔法がかかっている。

 他者が他者の冒険者証を借りる事も、持つ事も不可能だ。

 これは持ち主の生命力と繋がっていて、持っている者は死者から奪った事になる。

 当然、それは法で禁止されている!

 もちろんパーティーが全滅した場合、遺体とともに冒険者証を回収する事もあるが、その場合はギルドで冒険者証を回収許可された者だけだ。


「…………」

「「?」」


 そんな事は、冒険者ギルドの受付嬢なら手百も承知のはず、なのだが……。


「あ、握手してください。ファンです」

「「え」」


 受付嬢が突如真顔で差し出してきた手に困惑する。

 しかし、握手しないと仕事を続けてくれる感じもしないのでおずおずと手を差し出した。

 五回くらい勢いよく上下に振られてから、彼女の顔はほんわぁ〜と満面の笑みに……。


「ありがとうございます! ……サインとかももらえたりは……」

「す、すまないがそういうのは……」

「ですよねぇ……!」

「あの、手続きをお願いしてもいいでしょうか?」


 ひ、ひぃ……!

 隣からセレーナの殺気が……!


「あ、こほん。も、申し訳ありません。すぐにお手続きを行います。ええと……ライズ・イース様とセレーナ・リースアイ様ですね……冒険者ランクは、B……Bぃ!?」


 そんなに驚く事だろうか?

 冒険者ランクBは十段階……上からS、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの中では上の方だろう。

 だが、勇者とそのパーティーメンバーは活動をしやすくするため、Bランク冒険者証を得ている。

 俺とセレーナは元々持っていたが、そう珍しいものでもないはずだ。


「え……『タージェ』で騎士もやっておられるんですよね?」

「騎士になる前は冒険者だったんだ。十五歳から登録出来るだろう?」

「えっ! じゃ、じゃあ武道大会で優勝なさった時すでに冒険者で……!?」

「はい」


 十歳の時に『神託』で将来の予言を頂き、セレーナと共に師匠に弟子入りした。

 師匠の修行は、それはもう厳しいものだったが…………それはもう……それはもう…………おかげで『タージェ』の騎士に十五歳で入隊出来たし、ちゃんと『魔法騎士』にもなれたな。

 冒険者の資格は持っておくと便利だったから、十五の時にはすでに取得していたが……今更そこに驚かれるとは?


「今まで『タージェ』の騎士として冒険者は休業していたのですが、また使えるようにして頂きたく」

「あ、は、はい! そ、そうでしたね! はい! 有効期限の再開と延長手続き……はい、すぐに……」


 大丈夫か、この人……。


「……ええと、約一年間の使用形跡がないので、ブランク一年と判断し、お二人のランクがBですので……Cランク依頼の討伐任務を一回こなして頂く事になります。依頼書はあちらからお選びください」

「分かりました。セレーナ、選んできてくれないか?」

「ええ、分かったわ」

「それから、テイムした魔物の登録もお願いします」

「かしこまりました。魔物をお預かりします」

「レトム」

「くぁ!」


 タニアの肩からレトムが受付カウンターに登る。

 受付嬢はレトムにテイムモンスターの証である首輪をつけて、タグにレトムの名前と所有者を記載してくれた。


「これで完了となります。冒険者証にも自動で反映されますので。……他にもなにかございましたらお気軽にどうぞ!」


 うーん、グイグイくるなぁ。

 ありがたいけど……。


「この町に児童養護施設はありませんか?」

「児童養護施設ですか? ええと、そういうのはありませんね……」

「そうですか……。そういう場所がある町はご存じでしょうか?」

「ええと、少々お待ちください」


 わざわざ調べてくれるらしい。

 受付嬢が調べてくれている間に、セレーナが依頼書を持ってきた。

 西南方面……『ミレンダのドラドニエン』とこの町を繋ぐ街道に出る、アースドラゴンの駆除。

 アースドラゴンは図体が大きく、防御力がとても高い。

 並の冒険者ならあの防御力を崩すのに苦労するはず。

 Cランクの依頼としては納得だな。

 ……まあ、セレーナの右ストレートで一撃だろうけど。

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