『レティシアのフォブル』【前編】


『レティシアのフォブル』——貝殻のように、七箇所突き出た陸地のうちもっとも南にある『町』である。

 南の暖かな気候と、豊富な海の幸に恵まれた『フォブル』は、レティシアという女冒険者によって食の都へと変貌を遂げた。

 俺たちの故郷、南東の孤島『タージェ』とも比較的近い町だが……今回の目的はタニアを引き取ってくれる施設を探す事と、師匠から預かった魔法石を置く事。

 そして——。


「わあー! ここが『フォブル』なのねー!」

「美しい町だな」

『ほほー! ここが人間の町っすかぁー!』

「……」


 レトムにはテイマースキル『幼擬態』で人の腕サイズに小さくなってもらい、町に入る。

 こうしなければ魔物は中に入れない、というのもあるが、この方がタニアの側にいられるだろう。

 レトムをタニアの肩に乗せ、一緒に門を通過する。


「おや、もしや剣聖ライズ様……?」

「え? あ、ああ……ライズは俺だが……」

「すごい! 本物!? ふぁ、ファンなんです! 握手してください!」

「なに!? 剣聖ライズ!?」

「おいおい、本物かよ!?」

「あ、本当だ! 放送で見た通りだ! やべぇ! スゲェ!」

「あ、あの……」


 入り口を警護していた町の衛兵、だと思う。

 わらわら詰め所からも出て来て、あっという間に囲まれてしまった。


『え、マスターめっちゃ囲まれて大人気じゃあありませんかー。有名人なんですか?』

「あー、えー、と、まあ、そうね。人間の町は八つあるんだけど、毎年その八つの町は最強を賭けて武闘大会を開催するの。ライズは三年連続でその武闘大会で個人優勝して、『剣聖』の称号を頂いた騎士なのよ。……まあ、有名人、ね」

『なんと!? えっ、神の神託で『剣聖』だったとかではなく……!?』

「そうよ。ライズは……彼は『神託』で『魔法騎士』を予言されたし、実際彼の職業は魔法騎士なの。けれどその剣技と魔法の合わせ技は見事で、十五歳から十八歳になる三年間連続で武闘大会を制覇した。 八大主町エークルーズの長たちは、その功績を讃えてライズへ『剣聖』の称号を与えたの。神ではなく、人が認めて讃えた剣聖……それが……ライズ・イース」

『っ……』

「?」


 確かに、 八大主町エークルーズ武闘大会で三年連続優勝を果たし、『殿堂入り』という事で十年間の出場資格剥奪をされたのは誉だが、もう一年も前の話だ。

 こんなに「握手してください!」と言われるような存在ではない。

 断りたいのだが、次から次に人が増えて……いや、なんか衛兵以外の、市民みたいな人たちも混ざって来てはいないか!?


「あ、あの! 町へ入りたいのだが!」

「あ、そうでしたね! すみません! 隊長! 自分がライズ様を町の中へご案内してもよろしいでしょうか!」

「ぶぁーか! ここは隊長であるおれが案内するに決まってんだろうが! お前らは通常任務がんばっとれぇ!」

「「「「えーーーーーっ」」」」


 えーーー……?


「ささ、ライズ様、どうぞこちらへ。あ、どこか行きたい場所などございますか?」

「あ、ええと、でしたら冒険者ギルドへ。テイムした魔物を登録したいので」

「かしこまりました。こちらになります」


 髭を生やした男性……衛兵たちが「隊長」と呼んでいた事から、門を警護する衛兵隊の隊長なのだろう……が、町の中へと案内してくれる。

 冒険者ギルドへの道すがら、彼は宿屋や道具屋、武具屋の場所も教えてくれた。


「そうそう、観光も兼ねておられのでしたらビーチや果物ジュース屋はぜひお立ち寄りください! 海で泳ぐのは気持ちがいいですし、新鮮な果物をすり潰したジュースは格別ですよ! ああ、レストランなら南にある『ディーヴァ』という店がお勧めです。海鮮料理が最高でしてね」

「なるほど……夕飯は宿で食べるつもりでしたが……いいですね」


 海鮮料理かぁ……故郷の『タージェ』でもよく海鮮料理……もとい焼き魚、煮魚はよく食べたが、土地が変われば獲れる魚も調理法も変わる。

 二、三日滞在して色々味わうのもいいな。


「セレーナはどうしたい?」

「ええ、私もレストランには行ってみたいわ。タニアにも美味しいものを食べさせてあげたいし」

「?」

『くぁ!』

「!」


 レトムが美味しい食べ物の話をタニアに通訳してくれたらしい。

 美味しいもの、にどうやら反応してくれたようだ。


「こちらが冒険者ギルドです」

「案内ありがとうございました」

「いえいえ、どうぞごゆっくり! 剣聖ライズ様といえば、世界中の騎士の憧れ! お話しさせて頂き光栄です」

「……あ、あはは……」


 ありがたい限りだが……うーん。


「行こうか」

「ええ」


 まあ、なんにしてもまずはギルドへ、だな。

 冒険者ギルドの建物は、真っ白な建物。

 鑑定魔法で見てみると、岩塩でコーティングされている。

 これはこの地域が潮風に晒され続けるから、のようだ。

 さらにその上から特殊な魔法でコーティングをコーティングしているようで、嵐にも強い、と解説が出た。

 うーむ、さすがだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る