賢者の森【後編】
『それに最近の神々は我らを呼び寄せる割に、異界から人間を攫ってきて強化しおる! おかげで我らおまんま食い上げじゃ! どーゆーつもり!? アレどーゆーつもりーぃ!?』
「そうさなぁ……しかし、その分昨今の『界の狭間』はおぞましい。転生した死後、輪廻の輪に迎えられなかった勇者、英雄、賢者と呼ばれし者たちの魂が流れて堕ちてエグい事になっておる。……アレは近く『空間』の魔王【エア】がすべて啜り上げるだろう。そうなれば——……」
……どうなるのか。
師匠でさえ口にしなかった。
ただ、師匠の普段穏やかな顔立ちが消えたのでろくな事にはならないのだろう。
「…………あ、皆さんお茶が冷めてしまいましたね。私、淹れ直して参ります」
「ありがとう、セレーナ」
「「『大丈夫!!』」」
「え?」
「イヅルや、儂、あの、お前がブレンドしたハーブティーが飲みたいのう! とても飲みたい!」
「了解致しました八雲様! お任せくださいすぐに淹れて参ります! ライズとセレーナもどうですか飲みますか!? 飲みますよね!? 飲んでください! 体にいいですよ!」
「え? あ、は、はい、そ、それじゃあ……」
「私も、ぜひ……?」
なぜイヅル様はあんなに鬼気迫る表情でお茶を……?
そんなに自信作なのか……?
しかし、そんなものを俺たちのような人間が頂いてよいのだろうか?
セレーナのお茶から瘴気が漏れているので、飲みたくないのかな?
「やだもう、儂の年齢で耐毒が上がるとかマジありえんのじゃけど……」
『我もだ……魔王と王獣種の耐毒上げるとかマジヤバだろ……』
「え? なんですか?」
「『ナンデモナイヨー』」
師匠、すっかり魔王ステルスと仲良く……。
師匠は子どもの姿をしておられるせいか、小鳥と仲良くする姿は微笑ましいな。
「そんな事よりも、お主ら二人これからどうするんじゃ?」
「そうですね……故郷の『タージェ』に戻る前に、二人で旅行しようかと思っていました。そして故郷に戻ってから正式に結婚しようかと……」
しかし今の話を聞いた限り、このまま婚前旅行を楽しんではいけない空気だよな……。
どうしたらいいものか……。
「ふむふむふむ。ならば
「!
「どうにかは出来んけど発生時期を遅らせる方法はある。
「!」
なんと、さすが師匠!
地図を渡すと、魔法石を置く場所に丸をつけていく。
それは
「とはいえ、大型結界石を大陸中心……
「ありがとうございます! 行ってきます!」
「婚前旅行、楽しんでくるんじゃよ」
「はーい!」
こうして俺とセレーナは師匠に十二の魔法石を預かり、改めて旅立った。
地図に記された場所にこの魔法石を置く事で、
このままなにもしなければ五年後、あるいは六年後に発生する
「思ったよりも長い旅行になりそうね」
「そうだな。けど、まあいいじゃないか。俺はセレーナと長く一緒にいられるのは嬉しい」
「ライズったら、もう……」
「結婚したらすぐに子どもが出来そうな予感がするからな……二人の時間を思う存分楽しみたい。あと、ついでに新築資金も貯めておこう。子どもの事を考えると、家が二軒建てられるくらいのお金があると安心だ。俺たちの村はタージェの近くだが、結界の外にあるし……出来る事なら村全体を覆う外壁が造れれば一番いいのだが……さすがにそれは難しいだろうし……」
「ラ……ライズったら……さすがに色々考えすぎじゃない?」
「そうか?」
セレーナと、セレーナとの子どもの安全を思えば村に外壁を造るくらいは普通では……。
しかし、セレーナの子ならきっととても可愛いんだろうな。
賢く優しい子に育つよう、俺も頑張ろう。
俺たちのように冬、飢える事がないよう食糧も空間倉庫にたくさん備蓄しておきたい。
空間倉庫は師匠に教わった魔法の中では特に役立っている。
空間の中は時間が停止しているから、ここにたくさん貯めておけば将来きっと役立つぞ。
魔王ステルスのせいで鶏肉しか食べられない世界になりつつあるが、その魔王を封印した今、かつてのように多種多様な魔物が戻ってきて牛肉や豚肉、ボア肉、魚肉も……いろんな肉が食べられるようになるだろう!
いや、肉だけではダメだな、野菜もしっかり食べられるように——……。
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