賢者の森【中編】
この世界は『大型結界石』による
結界の中に町を築き、その大きさが権威の証でもあった。
町の長は世界を守る代表も務める。
俺たちの住んでいた村は『ルクシエスのタージェ』の近く。
結界の外だが、魔物の群れが来ればすぐ結界の中に逃げ込めた。
もちろん、それでも恐怖と緊張は常にある。
結界の中がいつも羨ましかった。
安全で、いつも逃げる準備をしておく必要もなく、安心して毎晩寝られる結界の中……。
憧れた。
高い税金を払うのは無理だからと、両親が肩を落とすのも悲しかった。
そんな想いをする子どもが一人でも減らせるなら、ゲームの中のセレーナがアマード様の話に乗るのも無理はないだろう。
「アマードは、本当はその大型結界石を自分の屋敷に使うつもりだったの。町を広げるために使う、なんて嘘だったのよ。それに気づいた主人公に諭されるんだけど、セレーナは信じなくて〜……みたいなストーリー」
「ふむ……」
「でもそれ、まずは『ストラスト』に行ってから起きるイベントであって、こんな序盤中の序盤じゃないし。あと私の追放理由が完全にライズ攻略の邪魔だったからだし」
「あれはサムイボものだったなぁ」
「ふむふむ」
「あの勇者、本当に聖剣に選ばれて召喚されたんでしょうか? ……まあ、あの場にはあの娘しかいませんでしたから、やっぱりあの娘が勇者なんでしょうけど……」
……確かに。
『剣聖』、『聖女』として、勇者召喚には立ち会った。
彼女が聖剣に選出され、召喚されてきた瞬間も見ている。
しかし……俺とセレーナは彼女がこの世界を救う者には見えない。
一方的にこの世界に来てもらっておきながら、そんな事を言うのは失礼極まりないと分かっているが……その上でそう思うのだ。
「ふむ、ふむ、ふむ」
「なるほど……確かに話を聞く限り品行方正という感じではありませんね」
『ふん、我がすでにいないのにもまだ気づいていない! そんな奴は勇者としては認められぬ!』
そう高い声で叫ぶ魔王ステルス。
……まあ、この姿で言われると説得力が違うな。
『それに、真なる災いは大魔王などという存在では収まらぬ! 間もなく
「まあ、儂、見届け役じゃからな」
「「「…………」」」
鎮痛な表情になるのは、俺とセレーナとイヅル様のみだ。
この世界から逃れればよい師匠とステルスはともかく、その災いが起きたら俺たちは……。
「なんにしてもその者が人望ゼロのままなら、この世界は一度滅びるよ。
「時間は少ないのでしょうか?」
「多くはあるまい。じゃが、人間の時間なら少ないわけでもない。せいぜい五年か、六年後」
めっちゃ時間ない。
師匠曰く、
つまり予兆もなく起こるそれに、大陸中を巡って町長を信用させ、結界石を一箇所……希望としては
それを五、六年でやれというのだから。
説得に時間を要さなくとも、結界石の移動と人の移動、その他災害への備え……どう考えても時間がない。
一分一秒も惜しむべきだろう。
……しかし……。
「師匠なら
「出来るぞ。だが、それを行ったところで
「しかし、なぜこのタイミングでこの世界の神は
マドレーヌに手を伸ばし、イヅル様が眉を寄せながら師匠へ問う。
……気のせいかもしれないが、さっきから師匠とイヅル様、ステルスはマドレーヌとクッキーすごい食べるな。
喉渇かないんだろうか?
甘党の師匠がお茶を飲まないのは、割といつもの事だけど……。
「逆かもしれん」
「逆、とは?」
「魔王が弱すぎて人間の間引きが上手くいなかったから、時期を早めた、という事だ。魔王というのは基本、その世界の神が世界を運営していく上で人間の数が増えすぎると呼び寄せるモノじゃから。だがステルスがあんまりにも使えないもんだから、神が痺れを切らして自分で間引きする羽目に……」
『なんじゃとー! 我とて弱くなんぞないわ! 王獣種が人間なんぞを弟子にして鍛えおるから、我でも手に負えぬ化け物が出来上がったのではないか!』
と、俺とセレーナを指さす……指っていうか羽だが。
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