初めてのペット
ペットを飼い始めた。両親が生き物ダメな人だったから、一人暮らしになってようやく飼うことができた。
何もかもが初めてのことだ、ちょっと珍しいペットだから指南書は売っていなかったけど、慎重に育てていかなきゃ。
大人しいコだから吠えたり暴れたりはしないと思うけど、何かの拍子に逃げて迷子になったらいやだからタグ付きの首輪をつけて。寒さに弱そうだから服も着せてあげて。
躾ってどうやるんだろう。ケージは必要なのかな。トイレは……教えれば覚えてくれるかな?
あっ、その前に。
「名前っ。名前つけてあげなくっちゃ」
大事なことなのにすっかり忘れてた。緊張してるのかな。
でも大丈夫。もうとっておきのを考えてあるんだから。子供のときからずうっと、ペットを飼うならこの名前って決めてたんだから。
「モモ! あなたの名前はモモだよ!」
怖がらせないように明るく言ってみたら、逆効果だったみたい。ビクって震えて部屋の隅まで逃げてしまった。
そんなに怯えなくてもいいのに。わたしは悪い人間じゃない……よ? まあたぶん。自分で言うのもなんだけど。
んー、どうやったら伝わるかなあ。安直に、ご飯をあげるとか? うん、なんかそれ良さそう、手に持ったエサを猫が食べてくれるテレビCM、あれちょっと憧れてたんだよね。
朝炊いたご飯の残りと、冷蔵庫に入りっぱなしになっていた焼き魚の切れ端とをお皿に盛って、モモの前にそっと置いた。そのまま傍にしゃがみこんで食べる姿を眺めてたかったけど、それだと食べづらいかなって、ちょっと離れたところに座る。
モモは警戒するみたいに、こっちをチラって見た。食べてもいいよって笑い返してあげる。
それでやっと、モモは恐る恐るって感じだったけどお皿へ手を伸ばした。
「あれ? モモって手でご飯食べるんだ」
純粋な驚き半分、これだとCMみたいにはできないなあっていう残念半分で口にすると、ピタッとモモの手が止まった。
また怖がらせちゃったみたいで、ぶるぶる震えながら手を引っ込ませていく。それからゆっくり、モモは顔をお皿へ近づけた。なぁんだ、手、使わないんだ。食べ方を間違えるなんて、モモも初めての空間に緊張してるのかな?
かわいいなぁと頬が緩んじゃうわたしの前で、モモはお腹が空いていたのか、すごい勢いでご飯を食べてる。あはは、鼻先にご飯粒くっついてる。ぽろぽろ涙もこぼしてるし、そんなに美味しかったのかな? よかった。
これならうまくやってけそう、安心だ。あんまりご飯に夢中だから、少しくらい平気かなって近づいてみた。
頭を撫でてみたくて手を伸ばしたら、ヒャって肩を震わせて逃げちゃった。頭のところで腕を交差させて、ぎゅって目を閉じてる。叩こうとしてるって思われちゃったみたい。
そんなことしないよって、口で言っても伝わるか分かんなかったから、ちょっと強引に腕の横から頭に触れた。優しく優しく、かちこちになった体をほぐすみたいに撫でてあげれば、入っていた力が少しだけ緩む。
「大丈夫だよ、モモ」
手の動きと同じくらい優しく言えば、ちょっとだけ開いた目がわたしを見上げてきた。まだ怯えの色に染まっている瞳にわたしの気持ちが伝わるように、ゆったり語りかける。
「モモの飼い主はわたしなんだから。初めてのペットに意地悪なんてしないんだから」
ね? って微笑み掛けたら、モモの瞳が揺れて、また涙がこぼれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます