限りなく平等で理想的な世界

遊馬海里

限りなく平等で理想的な世界

教室の前に人だかりが出来ていた。その全員がクラスメイトなので私は疑問に思う。ただでさえ廊下は寒いのだから暖房の効いているであろう教室に入ればいいのにと、そう思うが先にクラスメイトの熱視線が教室のある一点に注がれているのが分かった。私も例のようにその視線の先を注視する。クラスメイトのAくんである。さてはまた私たちを楽しませることをしているのかと思ったのもつかの間、どうも様子がおかしかった。

違和感の正体はすぐに分かった。針葉樹の隙間を抜けて射した陽の光がその正体を顕にしたのだ。

そう、A君は死んでいた。胸に包丁を突き刺したまま。


叫び声が上がる。


「今のが私の知っている全てです。」

その後叫び声を聞いた職員が駆けつけ、すぐに警察が呼ばれた。






私たちは皆等しく死刑になった。日本の裁判官は有能だ、一人を皆で殺したからといってその命の価値が等分される筈もなくクラスメイト全員に死刑を宣告した。

それでいい、それがいい。

私たち全員の命でA君の命の価値に届くのだ。

もしあのままA君の死因が自殺と断定されてしまっていたらそれはただ一人で死んだに過ぎない。

命の価値は高まらない。

私たちは皆A君に救われたのだ。そんなA君の命の価値がちっぽけであっていいはずがない。

だから殺した。

正確に言えば死体を刺した。

クラスメイト全員で一人一刺し。

それは一人の読書家の女の子の提案だった。

アガサ・クリスティのオリエント急行殺人事件。

物語では犯人に強い恨みを持つオリエント急行に乗っている容疑者全員が被害者を刺し殺すというもので、探偵は刺し傷がバラバラであり乗車人数と合致することから犯人は全員だということを推理したとのことだった。

だからこその一人一刺し。

そうすれば刺し傷はクラスメイト十四人分それぞれ異なるものとなり、通例で行けば犯人は私たち全員ということが分かるだろう。

日本の警察官も優秀だろうから、それから裁判にかけられて私たちが死刑になるというのは容易に想像ができた。

A君一人の命で私たちクラスメイト十四人の死刑が執行される。

この世界では命の価値は平等じゃない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

限りなく平等で理想的な世界 遊馬海里 @IRIMAKAIRI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ