予選敗退の続き

@tanaka1024tnk

予選敗退の続き



「そーれ!!」

掛け声が遠くに聞こえる

ボールが落ちる

落ちる

誰も拾えない、あるいは拾わない。

気付けば

サーバーが変わってる

あ、さっきトイレですれ違った子だ、なんでこんなときに、こんなこと。

「そーれ!!」

また掛け声が遠くに聞こ


「しゅうちゅう!」


今度は、近くからも聞こえた。

小さいけど、とても掛け声とは言えないけど、きっと絞り出した声なんだろうな。

あみはカラオケあんな上手いのにな、あんなに声が延びるのにな。

ボールが落ちる

落ち

あみが拾う、カラオケでマイクをひょいっと持つ細い腕でボールをはじく

必死に

必死にはじく

あみが必死にはじいたボールを

あたしが必死にトスにする

誰よりも必死な顔でうみがトスをスパイクにする

その時だったんだろうな

「あぁそうだよね」

ブロックが、私たちの必死なスパイクをはじいた。

ボールが落ちる

落ちる

セミが鳴いてる

ボールが落ちてる

誰も拾えないあるいは

誰も拾わない

だって拾おうとしたら

拾おうとしたら


「ありがとうございました!!」


先輩は来てない、後輩もそんなに来てない。

でも感謝してる、来ない先輩にも後輩にも、色々お世話になったんだもん。

確か色々有ったもん

そのままロッカールームに、足が勝手に動いてるみたいに歩いてた

着替え中みんな黙ってた

でも知ってる、安心してる、これはそういう沈黙じゃない

「取り敢えず、お疲れ様。俺はこの後男子の方の審判と監督会があるから、反省会はその後で、二時半位までは自由時間だ、着替えと水分補給はすぐにしとけじゃあ、解散!」


ハゲ山がなんか決まり悪そうに話してた気がする

しばらく立ち尽くしてたんだけど

あみが吹き出して、

みんな糸が切れたみたいに笑いだした。

「いやウチら弱すぎっしょ!」

「結局公式戦一回も勝てなかったね!」

「後輩とか全然みにきてねーじゃん!!」

「わりと真面目にやってたんだけどねぇ」

「最後の最後で完全試合って!!」

ね、

ほんとにね

「あーおっかしバカじゃんね」

ほんとにね

こういうときのみんなの誰も不幸にしない空気がちょっと苦手だった。

でも誰も不幸にさせまいとするみんなのことは大好きだった。

バタンッ

うみがロッカーを強く閉めて出てった

今までで上手くいってたことが

今日は上手くいってなかった

うっすら感じてた事が、その音に全部集約されてる気がした。

大会とかでる部活動で悔しいとか、悲しいとか思わないですむ方法は2つあって、一つ目は一回も負けずに優勝する事、2つ目は、はじめから勝とうなんて思わないこと。

うちらは田舎の弱小バレー部だけど、部員はほとんど小学校からの友達だったから、全然それでよかった、一緒にいるだけで楽しかった。

だから私たちは2つ目の方法で悲しんだり悔しい思いをしたりしないように、

してきた。

してこれた。

これなら簡単だと思ってた。

でも本当は優勝するのと同じくらい難しかったのかも

実際私含めてみんなユニフォームをぎちぎちに握りしめてた

うみも、

「あたし行ってくるね」

そうだ、行かなきゃ、あたしが行かなきゃ、キャプテンだし、友達だし。

うみはきっとトイレにいる、遠くに行っちゃうようで近くにいる。


途中で気づいた。

実はずっと前から、こういう日が来るんじゃないかと思ってたのかもしれない。


うみはトイレの鏡をみながらこういった

「私、ばかみたいだよね」

決めてた、何て言うか決めてた、て言うか、

うみが教えてくれたんだよ。

「うん、私も、みんなもばかみたい」

「でも」

でも

「ほんとのばかじゃないよね」

鏡を見ていたうみが鏡越しの私を見た。

その目は鏡越しの自分自身を見てるようにも見えた。

「いこ、お弁当食べよ」

「うん」


夏が終わったら秋が来て冬が来るらしいまだまだ私たちはこれからだ、あっという間だって、そうはさせるか。

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