第50話 パーティー作戦、開始!


 トレンの森からランドサム砦の近くまで短距離空間転移……。

 そう言うのは簡単だけど、じつはどえらくキツかった。


 昼間なら見通し距離で短距離転移できるんだけど、夜はそもそも見えない。

 そこで仕方なく【精密探索7】で探知できる限界(2キロ)地点を選んで転移をくり返したんだ。


「あひ~疲れた~」


 ランドサム砦の南側にある丘の岩影に転移した途端、つい膝をついて愚痴が漏れた。

 いや、魔力が尽きたわけじゃない。MPは1000分の1くらいしか消費してないし、時空ゲート方式の転移は転移酔いもしないから普通は疲れない。


 だから、ひたすら気疲れです、はい。

 転移するたごとに、これでもかと文句を言われたんだもん……。


 トラブルの原因は、砦に着いてから行なう作戦の役割分担についてだ。

 

 パーティー【終末の希望】の登録メンバーは、俺・リアナ・セリーヌ・イメルダの四人。これに登録してないヒナ(そもそもヒナは冒険者登録してない)を加えた五人が正式のメンバーってことになってる。


 でもって砦を攻める分担は、俺とイメルダが砦内部へ潜入、ヒナとリアナとセリーヌが砦の西門の外で召喚獣たちといっしょに陽動作戦を展開することになってる。


 そう転移する前に説明したら、ヒナとセリーヌがが納得しなかったんだ。

 自分たちも砦内に連れていけと譲らず、転移するごとに作戦の修正を要求してきた。

 リアナは別の理由……敵の正面に立って戦うのはイヤって駄々をこねた。


「春都。ボクを連れていかないと、よもやの時にフォローできない」


 ヒナが俺の決定に異議をとなえるのは珍しい。

 それだけ天界システムの予測で、危険と判断する結果が出たんだろう。

 だけど、こっそり砦に侵入するためには、隠密系のスキルか魔法が不可欠なんだよねー。


 隠密系はヒナの魔法玉でも可能だから、たしかにヒナは連れてってもいいことになる。

 だけどそうすると、砦の西門前で戦う陽動班を守る広域バリアを張れる者がいなくなる。いまのところ、俺の【障壁天蓋】かヒナの魔法玉しか、味方全体をカバーできないからね。


「連れて行きたいのは山々なんだけどさー。ヒナにはリアナとセリーヌに防御系の全体魔法玉を使ってもらわなきゃならんのよ。なんせ召喚獣の制御はセリーヌに任せるんだから」


 今回の作戦に投入する予定の召喚獣は、ダークスケルトン【レベル45】100匹/翼竜【レベル40】60匹/暗黒幽霊レイス【レベル48】20匹/アースドラゴン【レベル38】2匹。


 アースドラゴンは、ひたすら業火を吐く役目。ダークスケルトンは主戦力で、レイスはスケルトン部隊の指揮官。翼竜は砦を守る飛竜がいた場合の制空戦闘隊。もし飛竜がいなければ、空から効果的に砦の守備隊を攻める。


 それに砦周辺には、予備戦力となっている後続部隊も一万人くらいいる。

 だから、そいつらも西門のほうへ誘いだすか、砦の城壁の上で応戦してもらわないと困る。


 召喚獣部隊の統率は、軍隊指揮官の経験があるセリーヌが最適だ。

 そのため指揮権を一時的に譲渡する使役付与魔法を使う必要があるけど、それは一瞬で可能なんだ。


「ヒナ、私も春都が心配だ。しかし……私しか魔獣軍団を兵士として統率できないらしいから、私は泣く泣く陽動班に回ることにした。そしてヒナ、おまえしかリアナと私を守れないのだから、ここは心で泣いて引き受けるべきだ」


 言葉の端々で『行きたいよ~』との心の声が叫んでいる。

 それでも、さすがセリーヌ。公私のけじめだけはしっかりしてた。


「……天界システムの未来予測情報では、砦の中で何らかの大きなトラブルが待ち構えているってなっている。この情報は本来、【女神の天啓】として下界にもたらされるものだから、残念だけど細かいところまでは判らない。でも危険なのは確か」


「ヒナ、俺のいまのレベルは158だぞ? 勇者や魔王でも100ちょっとなんだから、そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」


「春都は、あのラガルクに勝てない。ラガルクのレベルを探査できなかったのは、あっちのほうがレベルが上の証拠。リアナが作った世界の範疇ではほぼ無敵でも、いまはそうじゃない。いまは非常事態」


「うぐぐぐ……それを言われると痛い。だけどラガルクみたいに鬼神の加護と邪神の加護の両方を持ってるなんてヤツ、そうそういないと思うぞ。実際問題、ラガルクの手下どもには勝てたし。あいつら、たしかレベル70台だった。だから、あれでも英雄クラスなんだけどな」


「たしかに心配しすぎかも知れない……わかった。でも危険だと思ったら、すぐ念話でボクを呼んで。念話の魔導線を辿って短距離転移するから」


「え? そんな便利な方法あるの?」


「念話の仔細ヘルプに書いてある」


 ううむ……これは俺の失態か。

 まあ、いつでも呼べるってわかったから、それで行くことにしよう。


「うん、それじゃ危ない時は呼ぶ。ということで、そろそろはじめないと朝になっちゃう。セリーヌ、陽動班は頼んだぞ」


「わかった。任せろ」


「イメルダ、ここで【隠密8】を自分に掛けておいてくれ。俺は【完全隠蔽6】を自分に掛けるから。むこうに着いたら、俺の【影隠密4】で二人とも影に潜んで移動する。これでたぶん大丈夫のはずだ」


「承知しました」


「ねーねー。あたしはー?」


 最後まで名前を呼ばれなかったリアナが、ぷくーっと頬を膨らませてる。


「リアナはいつも通りだ。神威スキルで砦全体を威嚇して敵をビビらせる。同時に木人形と鋼鉄人形を召喚して、召喚獣軍団と一緒に暴れさせる。必要なら【プチ轟雷】を使って広域攻撃も許可する。ただし砦は、西門と城壁以外は壊すな。俺たちまで危なくなるからな」


「あ、ちゃんとあたしのこと、考えてくれてたのねー。えへへ、わかったー!」


 ちょろすぎる。

 もともと戦力には入れてないんだよ、危なすぎて。


 でも、いま言った魔法とかスキルは、それなりの威力がある。

 だから自由気ままに使ってくれれば、多少の支援にはなる……そう思ったわけ。


「それじゃ、西門の外に召喚獣部隊を出すぞ!」


 右手を軽く上げ、ひとさし指で召喚魔法を行使する。

 ただそれだけで、軍隊なら二個師団くらいは相手できる強力な召喚獣たちが姿を現した。


「それじゃヒナ。召喚獣たちの後方に、セリーヌとリアナと一緒に転移してくれ。俺たちも作戦を開始する」


「了解。はい、短距離転移玉、ぽい!」


 ヒナたちが転移したのを確認してから、俺たちも続く。


「短距離転移。目標、砦一階のトイレ。行使!」


 事前に砦内部は、精密索敵でマッピングしてある。

 目標がトイレってのが悲しいけど、そこが一番身を隠せるんだから仕方がない。


 というわけで……。

 いよいよ俺たちだけの作戦が始まった。

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