第49話 もうひと働き!


 両軍とも降着状況のまま迎えた会戦初日の夜……。

 主戦場の動きが止まったため、俺たちも森の中で野営することになった。


「セリーヌ……どう思う?」


 各班の班長を集めて作戦会議。

 と言えば聞こえはいいけど、実際は俺のパーティーが集合しただけ。


 しかもなんと、暗闇の中での会議だ。

 焚き火すると敵に見つかる可能性が高い。そこでイメルダの特殊スキル【バンパイア・アイ】を全員に掛けてもらったの。これ暗視カメラの10倍くらい高性能!


「主力同士に決め手がないので、どっちもラミア狭路をはさんで野営しつつ様子見している。北から公領騎士団が奇襲を掛けられれば戦況は変るかもしれないけど、そこのところは敵も承知の上だから、騎士団精鋭の騎馬隊が突進すれば、すかさず街道の左右から魔法付与された大型射槍が飛んでくるはずだ」


「たしか王国軍って飛竜隊がいたよね? 彼らに敵の魔導射槍機を爆撃してもらったら?」


 セントリーナ王国の誇る【空間爆撃隊】は、ワイバーンを主体とする飛竜騎乗隊で構成されてるんだって。


 ワイバーンの背に竜騎兵と攻撃魔法士が乗って、空から火炎弾や氷弾をお見舞いする仕組みって聞いた。これって地上から魔法士や弓隊が迎撃でもしないかぎり、ほぼ一方的な攻撃になるよね?


「地上が見えないから爆撃は無理だぞ? かといって地上を光魔法なんかて照らしたら、たちまち敵の魔法士の餌食になってしまう。飛竜隊は昼間しか使えないと思ってくれ」


 どうやら騎士団と飛竜隊はライバル関係にあるようだ。

 セリーヌの尖った口調を見てると、まだ公領騎士団に未練があるのかと思ってしまうほどだった。


「うーん……となると、強引に戦況を動かすしかないなー」


 思案しつつ意味ありげな言葉を吐いたもんだから、パーティー全員の視線が集まる気配がした。


「正攻法がダメなら奇策を用いる。これが戦争の常識です」


 いきなりイメルダが、すごくマトモなことを口にした。

 暗闇にうかぶ戦闘用メイド服姿でそれを言うと、どことなく諭されているような気になってくる。


「うん、俺もそう思う。そこでだ。じつは前もって、こんな状況になった時のために、ちょっとした策を用意してるんだ。本来なら公爵に相談してから実行するつもりだったけど……どうも今夜に前倒ししたほうが良さそうだな」


「ボクも春都の考えに賛成する」


 ヒナがなにを察したのか、早くも賛同の声を上げた。

 当然、他の者は理解できず困惑してる。

 そんな中、セリーヌが真っ先に気づいた。


「このまま降着状況が続くと、かならず敵の後続部隊がランドサム辺境砦からやってくる。そうなると、こちらもムーランから出すことになるが、こっちの主力は王国軍だから、本拠地はずっと西の王国本土……つまり敵のほうが本拠地に近いぶん有利だ」


「うん、その通り。時間がたてば俺たちのほうが不利なんだよ。だから速攻で敵の後方を霍乱して、後続部隊が支援にこれない状況を作ることが大事だ。それをうちのパーティーでやろうってわけ」


「あたしたち四人しかいないんだけど? まさか四人で戦争仕掛けるって言うんじゃないでしょーね!!」


 リアナがドン引きしながら聞いてきた。

 腐っても女神だろうに、自分の力を信じられないんかよ。


「だから秘策があるって。召喚スキルで魔物を大量投入できるんだから、俺たちはドサクサにまぎれて敵の中枢だけ壊滅すりゃいいんだよ。ただし俺たちが大戦果を上げたってわかると、のちのち問題になる。だから、あくまで隠密作戦になるけどな」


「いまトレンの森に配備している魔物を移動させたら、こっちの守りが手薄になってしまうが……」


 セリーヌは乗り気じゃないみたい。

 ようは召喚魔物と俺たちで、後方にあるランドサム辺境砦を奇襲しようってことなんだけど、そのせいで冒険者部隊を危険にさらすのは愚策だと思っているようだ。


「大丈夫、森の魔物はそのままにしておく。まだ召喚魔物の在庫はあるから、そっちを使う予定にしてる……てか、最初から後方霍乱用を含めてティムしてきたんだよ。おかげで睡眠不足なんだけど、まあ仕方ないよな」


「ともかく春都様の作戦を聞かないと始まりません。あまり時間もありませんので、さっさと説明して頂けませんか?」


 イメルダが、食事とか風呂を早く済ませろというのと同じ口調で迫ってきた。

 これ、なかなかプレッシャーなんだよねー。


「わかった。それじゃ圧縮念話で送るから、ちょっと集中して」


 圧縮念話って、地球世界だと【高速バースト通信】みたいなもんかな。

 言葉じゃなく思念をそのまま圧縮して送るから、同じ時間で100倍以上の情報を伝えることができるんだ。


 ただし、受け手の念話レベルがある程度以上であることと、けっこうキツい集中力が必要になる。ぼーっとしてると頭の中をかき回されちゃうから、へたすると意識を持ってかれることになるんだ。


「……はうっ!」


 想定通りというか……。

 リアナがぶっ倒れた。

 元女神も、いまじゃ並みの人間以下にまで劣化してるみたい。


「なるほど……」


 セリーヌが感心した表情になってる。

 こちらはしっかり受け止めたらしい。


「どうやら、わたくしめが今回は主役のようですわね」


 まんざらでもないイメルダが、するりと暗器を取りだした。

 そういや彼女、亜人バンパイアの暗殺者だから、暗躍はお手のものでした。


「ボクは春都についていけばいいの?」


 ヒナには俺の専用サポートを頼んだ。

 もうみんな、けっこう強くなってる。

 だから、よほどのバケモノでも出現しないかぎり大丈夫……のはず。


 さらに言えば、セリーヌとリアナは召喚魔物と一緒に陽動を仕掛けてもらうから、砦の中に侵入するのは俺とイメルダとヒナってことになる。


「ああ、イメルダは下手にサポートしないほうが本領を発揮できると思うから、単独で動いてもらう。だからヒナは俺が戦ってるあいだ、魔法玉で支援してほしい」


「強いという点では、春都が一番だけど……」


「いや、なんか嫌な予感がするんだ。俺の予感って、どうも予知能力っぽいんだな。そんな魔法やスキル、持ってないのに……。でも、なんとなくヤバいのがわかっちゃう」


「……もしかすると、それは【希望∞】の副次的な作用かも。ぼんやりとでも未来の危機を予知できないと、いつどこでハルマゲドン・カウンターが変動するかも判らないから」


「あっ! そういや今日は、まだカウンターを見てなかった。ええと……」


 メニューを開いて確認する。


「……63日って、変わってないじゃん! 森で大勝利したっての、評価対象になってない?」


 きっと増えてるって確信して見たから、残念感がハンパない。


「まだ評定中ってことだと思う。この戦争、どちらが勝つかでカウンターが大きく変動する。これは容易に予想できること。つまり春都は、まだ決定的なイベントをクリアしてない」


「なるほど……となると、これから行なう奇襲がソレっぽいな。こりゃ失敗できないぞっと」


 すこし茶化した言い方になったのは、ヒナの言葉で他のみんながすごく緊張したからだ。


「それじゃセリーヌ。俺たちがこれから秘密作戦を実施することを、レグルスさんに知らせてくれ。俺たちが戻ってくるまで、レグルスさんを傭兵部隊の仮指揮官に任命するから。それと第3班のA級魔導師アンリーナに、召喚魔獣たちの制御を委任する。この二人がいれば、まあ朝までなら大丈夫だろ」


「わかった。すぐ伝えてくる」


 こういった時のセリーヌは素早い。

 あっという間に気配が消えた。


「さあ、セリーヌが戻ってきたら出発だ。ランドサム辺境砦は行ったことないから遠距離転移は使えない。そこで精密探索7で探知できる最大距離で短距離転移をくり返す。リアナは酔い止め処置をヒナにしてもらえよ。むこうに到着して使い物にならなかったら、即座に隔離部屋にもどすからな」


 リアナでも、特殊スキルを使ってくれれば得難い支援になる。

 だからゲロ吐いて使えない状況だけは避けたい。


「わ、わかったわよ……」


 そういうとリアナは、自分のポーチから酔い止めポーションを取りだした。

 それを飲んだあと、ヒナの魔法玉で【自律神経強化】の魔法を掛けてもらった。


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