第44話 つ、つぎは勝つからな~!
なんか、ヒナから聞いた鬼神ドラクの話って……。
これまで聞いてきたリムルティア世界の常識を、全部ひっくり返すようなことばかりだった。
だから場違いなのを承知で聞いてみた。
「えーと……いまはヒナじゃなくて鬼神様です? で、質問してもいいですか?」
「ぶー。なんで、そこ敬語?」
すかさずリアナのツッコミが入ったけど無視する。
「構わぬ」
恐い神様かと思ったら、意外と話できそう。
「……この世界って、女神リアナが創世神だか創造神とかで、1人で作りあげたって聞いたんですけど? それじゃなんで、鬼神様みたいな別の神様がいるんです?」
本人のリアナが目の前にいるけど、こいつに聞いてもわけわかんない自慢ばっかだから、このさい聞いちゃおっと。
「たしかに創世神はリアナ1柱のみ。しかし創世されたあとのリムルティアには、多数の神々が存在している。そこで混乱を防ぐため、この世界の者たちはリアナを創世神、その他を諸神と呼んで区別している」
そこまで鬼神様がしゃべったあたりで、案の定、またリアナが口をはさむ。
「諸神って、本当は精霊なんだよねー。あたしが設定した諸神もいるけど、ほとんどは人々の想いによって産み出された想念神ってわけ。想念神は大きくわけると、土地を守る土地神、種族を守る氏神、自然環境を守る自然神になるんよ。鬼神は鬼人種の氏神ってわけねー」
うむむ……。
くやしいが、今回の説明はわかりやすかった。
「えっと、そんじゃリアナに聞くけど……リアナって鬼神様の上司みたいなもんだろ? それなら、そこにいるラガルクだっけ……あいつが邪神の信者ってわかった段階で、同時に鬼神様を裏切ったこともわかっただろ? なんで、そのことを追求しなかったの?」
「えーと……最初のときは馬車酔いで頭まわんなくてー。でもって、あとになって気づいたんだけど、なんか言いそびれちゃってー」
「あー、はいはい。いつものポンコツ女神のせいなのね」
「ポンコツ言うなー」
「あー、すまんが……身内の漫才は、あとにしてほしいのだが」
ヒナ憑依の鬼神様に怒られちゃったよ。
リアナは上司なのに、威厳ないなー。
「……ともかく、だ。そこにおる鬼人ラガルクは、囚われた
俺たちがあーだこーだと話をしてるあいだ、ずっとラガルクは、両手を大剣の柄に置いたまま黙って座ってる。
もし邪神の呪いで攻撃せざるをえないのなら、とっくにしてるはず。
なのにしないのは、たぶん心の中で激しく想いが
「鬼人ラガルクよ。諸神にすぎぬ我の力では、とうてい異界の邪神にはかなわぬ。だが、こうして女神リアナと使徒たちがいる場では、一時的に呪いを打ち消すことも可能だ。よって
鬼神の言葉の端々まで、悲壮な感触が滲んでる。
神様の力関係は絶対みたいだけど、なんか虚しい。
「あー。俺としたら、むりに戦いたくないんだよね。こっちはこっちで、いろいろ立て込んでるから。だからここは素直に引いてくれると嬉しいな。こっちの用件が一段落したら、そのうち相手できるかもしれないし」
本音は……正直いって、いまの俺じゃ勝てない。
いや、女神のリアナがいるせいでラガルクは手出しできならしいけど、実力じゃ圧倒的にあっちが上。なのにタコ殴りしても、勝ったって言えないじゃん。
だから本心は、土下座してでも帰ってもらいたいんだ。
「………」
無言のまま、ラガルクの体が黒い霧に包まれていく。
どうやら去ってくれるみたい。
黒い霧が晴れたとき、そこには何も残っていなかった。
「………」
なに言っていいかわからない。
き、気まずい……。
「ボク、戻った」
あっ、ヒナ……グッドタイミング!
つい心の声が漏れそうになる。
「ヒナ~。なんかいろいろありすぎて、もういっぱいなんだけど……もうこれで、レベリング終わりにしない?」
「鬼神の件は、天界システムでは処理できない。邪神はこの世界を滅ぼす者。だから邪神が絡む案件は、すべて春都に任されてる。春都がハルマゲドン・カウンターをプラスで維持しているかぎり、邪神は間接的にしか影響を及ぼせない。この段階では、春都とパーティーメンバーが協力すれば対処できる」
「ええと……それについては後で考える。いまはダンジョン攻略を終るべきかの話。だって4階層ボス、なんかラガルクのやつが倒しちゃったみたいだから、もうここにいる意味ないと思うんだ」
「それは春都が判断すればいい。ステータス的には、パーティー全員、じゅうぶん戦争に対処できる程度にはなってる。さっさと獲得魔法とスキルを配分して宿にもどり、戦争に行く前にやるべきことを終わらせるべきだと判断する」
そうだよなー。
公爵様による大規模転移は、明日の正午ってなってる。
それまでに、できれば一度アナベルにもどって、セリーヌのお兄さんの手を復元してやりたい。
ついでに、アナベルでの事業の進捗状況も知っておきたいし。
あ、公都のギルドや鍛冶屋にも立ち寄らなきゃ……。
やること一杯あるじゃん!
「わかった。それじゃ、ちょちょいと配分して帰ろう」
軽すぎる言葉を最後に、怒涛のレベリングは終了となった。
※
ふと気づいたら、俺の特殊スキルに【SP配分】がついてた。
これ、他人のステータスポイントを配分できる能力なんだって。
この世界の住人はSPを自由に配分できないらしい。
面倒でも神殿や教会にいき、女神の加護の力で配分してもらうんだって。
SP配分は女神教会の占有事項だから、1ポイント割り振るのに最低で金貨1枚もするらしい。いくら稼ぎ頭だからって、ぼったくりすぎ……。
しかも高位スキルに加算するには高い神聖能力が必要なため、値段は級数的に跳ね上がっていく。
だから一部の王侯貴族しか利用してない。
庶民はしたくてもお金が足りないから、泣く泣くあきらめてるみたい。
したがって他人に知られず、無料かつ自在に配分できるメリットは計り知れない。そういうことで、【女神の加護3】のひとつとして発現したんだろうね。
それから、魔法やスキルのいくつかが【限界突破】できるようになった。
それぞれ自動で突破しちゃうから、なんか【能力統合】とかも勝手に追加されてた。
あれこれ統合された結果、魔法の位階が無意味になったらしく、これまでの位階が消えて、新しく【一般魔法/スキル】【高位魔法/スキル】【神威魔法/スキル】に区分され、見た感じがすっきりした。
【能力統合】は完全自動みたいで、自分であれこれ算段できないみたい。
統合された能力は残らず強力なものになってるけど、詳しいことはヘルプを見ないとわからない。
……けど、なんで【猫ころがし】が神威スキル?
まあ威力は文句ないけど、なんか違う気がする。
収集した魔法とスキルの配分に関しては、ちょっと前にしたばっかだから、今回はオマケみたいなもんになった。あれこれ変わった結果が、これ。
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氏名・種族 神崎春都 18歳(ハイヒューマン第2段階)
職業 超級魔剣導師
称号 ドラゴンバスター/インフェルノバスター/燃やし尽くす者
レベル 158
ステータスポイント 0
HP 1356600
MP 1491300
物理攻撃 25610 物理防御 26230
魔法攻撃 26260 魔法防御 27240
素早さ 4550 知力 4225
幸運 7010 器用 5311
希望 ∞
生活魔法 種火/飲料水/微風/泥煉瓦/清浄/防音/灯光
一般魔法 火砲1/風斬1/石砲1/昏睡3
大炎球5/殲爆5/鋼槍5/極光5
破壊防止5/切断強化5/邪気防御6
魔法障壁6/物理障壁6/影隠密4
高位魔法 大治癒6/大回復6/火炎連弾4/大旋風4/重力自在6
多重防壁6/隕石落下2/大竜巻1/岩石爆流1
障壁天蓋6/轟天爆雷3/記憶改変2/魔法反射2/物理反射2
神威魔法 竜神炎息2/天の裁き3/猫ころがし6/荷電粒子砲2
流星雨2/大洪水1/樹林襲来2/殲滅フレア4
武器付与 熱炎5/氷結6/乱撃6/空斬6/破防6/切断6
爆砕5/質量5/硬化5/貫通5/強速6
防具付与 硬化6/破壊不可6/重量減6/慣性減6
一般スキル 剣術皆伝8/瞬間加速7/遁走4
高位スキル 精密探索7/精密鑑定7/精密抽出4/究極整体3
錬金師匠7/木工師匠3/彫金師匠3/織物師匠3/料理師匠2
神威スキル SP3倍/能力統合
経験値獲得10倍/必要経験値10分の1
無制限空間収納/言語理解(全自動、翻訳/記述/念話MAX)
女神の加護1 空間転移6/能力擬装6/完全隠蔽6
女神の加護2 地形改変6/経験値譲渡
女神の加護3 時空遮断1/SP配分
特殊スキル 眷属召喚/隷属/能力収集/能力提供
パッシブ別枠 HP常時回復5/MP常時回復5
身体強化7倍/魔法強化7倍
収集能力欄
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氏名・種族 リアナ(堕天女神)
職業 魔法士 (春都の眷属)
称号 インフェルノバスター/嗅ぐ者
総合レベル 52
スキルポイント 0
HP 6120
MP 7240
物理攻撃 291 物理防御 322
魔法攻撃 431 魔法防御 465
素早さ 75 知力 13
幸運 96 器用 64
生活魔法 種火/飲料水/微風/土塊/浄化/灯光
専門魔法1 火玉10/風刃6/睡魔5/石化5/土壁3/水弾2
専門魔法2 石槍4/麻痺5/治癒8/状態回復7/炎爆3/氷爆3/風斬1
専門魔法3 眩惑3/魅了3/遅延2/回避1
専門魔法4 プチ轟雷1
神術 全域厄災神術【天威轟雷】(レベル999で解放)
天の守り(レベル888で解放)
女神の本気(レベル上限突破で解放)
一般スキル 加速4/強化6/声援3/硬直1/樹液1
杖術4/蜘蛛の巣1
パッシブ別枠 魔法耐性1/物理耐性1
特殊スキル 神話(念話上位互換)/鼻利き2/女神の威光
完全回復(レベル100で解放)
完全修復(レベル200で解放)
蘇生(レベル500で解放)
木人形5/鋼鉄人形1
女神の威光のサブスキル
神光(浄化の光)/神威(神威圧)/プチ天罰(光属性の魔法攻撃に神槍の物理攻撃が重なる)
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氏名・種族 セリーヌ 17歳(人間)
職業 冒険者/悩める乙女
称号 インフェルノバスター/決断せし者
総合レベル 57
スキルポイント 0
HP 9180
MP 7920
物理攻撃 574 物理防御 585
魔法攻撃 252 魔法防御 273
素早さ 210 知力 176
幸運 92 器用 115
生活魔法 種火/浄化/温水/粉砕/癒し/灯光
専門魔法1 石つぶて10/鉄拳7/磐石7/火炎耐性4/毒耐性4/雷撃耐性4
専門魔法2 投岩8/火炎弾6/強化鱗3/状態回復3/治癒6/極光3
専門魔法3 魔法盾5/魔法槍4/目潰し4/貫通1
専門魔法4 光剣1/昏迷1
武器付与魔法 加速9/氷結6/火装1/斬撃6/空斬5/乱撃5
防具付与魔法 強固5/軽量5/反射1
パッシブ別枠 HP・MP自動回復2
一般スキル 剣術9/片手剣9/打撃6/咆哮5
槍術3/馬上槍2/物理抵抗2/魔法抵抗2
身体強化7/眼光7/隠密6/粘着3/ドリル突き4
看破1/覇気7/不退転5/念話1
料理5/鑑定5/修理1
特殊スキル 馬鹿力4(短時間、全能力が4倍)
煉獄の断罪3(炎剣を同時に16本出現させる。レベルは威力に関係)
魔装鎧1(短時間、あらゆる攻撃を完全吸収)
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氏名・種族 イメルダ 28歳(亜人バンパイア)
職業 メイド(奴隷)/暗殺者
レベル 50
スキルポイント 0
HP 4216
MP 3326
物理攻撃 385 物理防御 410
魔法攻撃 216 魔法防御 243
素早さ 236 知力 157
幸運 26 器用 133
生活魔法 種火/微風/灯火/消毒/浄化/罠/介護
専門魔法1 火炎弾6/毒霧8/雷撃5/気迫5/忍び足8
専門魔法2 窒息4/硬化4/毒牙6/麻痺6/業火2/弱体1
専門魔法3 物理防御2/魔法防御2/看破1
専門魔法4 身代り1/瞬殺2
武器付与 即死2
防具付与 物理反射1
一般スキル 短剣術5/隠密8/暗器術8/刺針8/尾鞭6/毒ブレス5
交渉5/俊足3/影踏み1/芽吹き1/念話1
料理8/裁縫5/掃除4/洗濯4/夜伽1
特殊スキル 影縫い3(暗器の針で相手の影を突き刺し、短い時間、自由を奪う)
分身1/悩殺1/バンパイア・アイ1
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と、まあ……。
ヒナによれば、これくらいあれば戦争に行っても大丈夫らしい。
ということで怒涛のレベリングが終了し、全員で自宅へ転移した。
でもって帰宅後。
拠点を『自宅』とか『アパルトメント』とか呼ぶのもなんだし、建物全体の名前になってる【カイーサ・レミア】って呼ぶのも、占有してるのが1フロアだけなのでおかしい。
そこでパーティーの拠点名を決めようということになり、アレコレ考えた結果、これから拠点が増えていくことも考慮にいれて【プラナハウス】になった。
拠点名が決まってホッとしたのも束の間……。
もっと大事なことを決めてないことに気付いた。
それは、俺たちのパーティー名。
本来ならギルドに登録しなきゃならないんだけど、アナベルのギルド長がアンガスさんだったもんで、これまで『春都のギルド』で通っちゃってたんだ。
でも明日には公式に名乗らなきゃいけないから、あわててつけることにした。
決まった名前が【終末の希望】……なんだかなー。
でもって、イメルダが夕食の準備をしてるうちに、やれることをやっておこうということになった。
まずはセリーヌとヒナを連れて、砦町アナベルへ長距離転移することになった。
これはヒナの魔法玉で、セリーヌのお兄さん(ルフィル)の失った左腕を再生するためだけど、そのほかにも色々とやらなきゃいけないことがあるんだ。
じつは宿に戻ったら、イメルダを通じてプラナール伯爵からの伝言が届いていた。
それによれば……。
セリーヌが公領騎士を辞したせいで、これまで騎士の地位で行なっていた砦町アナベルの警備長も解任となり、上司だった警備隊長のミクランが無能であることが露呈してしまった。
なんでも、公領東部や辺境伯爵領から避難してくる戦争難民が急増しているのに、ミクランはまったく対処できなかったんだって。いままでセリーヌに丸投げしてた無能上司なんだから当然だよね。
しかたなく、冒険者ギルドと新設された開拓団が混乱をおさめているという。
そのことが出陣前で神経を尖らせている伯爵に伝わったせいで、あわれミクランは即刻クビになってしまった。
当然、後任の守備隊長が任命されるはずだけど、そうはならなかった。
公領騎士団はいま、一人でも多く戦闘要員が欲しい。だからアナベルにいる守備隊も、全員を公都へ戦時召集してしまったのだ。
守備隊がいなくなれば、砦としての機能も消失する。
残っているのは、砦に付随して発展した町部分だけだ。
つまりアナベルは、ここにきて『砦町』から、ふつうの町に扱いが変更されてしまったってわけ。
この措置にあわてた町長が、ギルド長のアンガスさんに泣きついた。
そして伯爵への念話装置による緊急嘆願が行なわれた。
で……結果的に『アナベル自警団』が公認されるとともに、自警団をふくむアナベル全体の責任を負うという意味で、なんとカンザキ勲功爵――つまり俺が、あたらにアナベルの領主に強制任命されてしまったのよ、トホホ。
とはいえ、俺をアナベルに縛り付けるのが目的じゃないので、当面は町長とギルド長、そして自警団長に抜擢されたルフィルさんの3人が、合議制で代官を務めることになった。
それらの打ち合わせもかねて、短い時間だけどアナベルに行かなきゃならんことになったんだ。
それから、出かける理由はもうひとつある。
これは明日にも始まりそうな戦争に直結することで、秘密扱いになってる。
まあ、ここだけの話、『カンザキ勲功爵の策略』ってやつを実現するため、あれこれ準備をしなきゃならないの。そのためアナベルだけじゃなく、いくつかの場所へ長距離転移する必要があるんだ。
というわけで夕食前というのに俺たちは、アナベルに遠距離転移したのだった。
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