第43話 死闘……ん、違う?


障壁天蓋バリアドーム玉」


 許可をもらったヒナが、いきなりバリアを張った。


 魔人ラガルク……。

 鑑定できないから強さもわからない。


 でも鑑定できないこと自体が俺より強い証拠だ。

 出し惜しみしてる場合じゃない。

 俺がそう思ったくらいだから、ヒナも最初にバリアを張ったんだろうな。


「【分身】【瞬殺】【刺針】、【即死】付与!」


 3人に分身したイメルダが、一瞬だけ障壁天蓋の外に出る。

 すかさず、即死効果を付与した投げ針を投擲した。


 攻撃目標は、ラガルクの命令で突進しはじめた黒装束の10人。


「「極光!」」


 俺とセリーヌの声が重なる。

 俺は極光5の5連発、セリーヌは極光2だから2連発。

 合計で7発で、7人の黒装束が発散させてる黒い霧を消滅させる。


 ――ぐああああッ!


 黒い霧さえなければ、イメルダの攻撃でも効果がある。


 7人のうちの4人が即死した。

 即死判定は確率で決まるんだって。


 いまは【即死1】だから、即死率も60%くらい。

 でもレベルがカンストする10になれば100%になる。


 ただしこれは、武器付与の【即死1】と魔法の【瞬殺1】【弱体1】、一般スキルの【刺針7】の効果を重ねた上でのものだから、【即死】単体じゃずっと低い確率にしかならないみたい。


 しかも即死スキルは、イメルダの攻撃が皮膚を貫かないと効果が出ない……。

 いろいろ誓約の多い能力だけど、さすがイメルダ、うまく使いこなしてる。


 残る6人のうち……。

 即死をまぬがれた3人にも、投げ針は刺さってる。

 そのため撃ちこまれた瞬効性の猛毒で動けなくなった。


「極光、猫ころがし」


 念のため【極光】をかけて、そののち【猫ころがし】。

 最後まで無事だった3人、そろってすっころぶ。


「毒ブレス」


 猫ころがしを見逃さなかったイメルダ、至近距離から毒霧を浴びせかけた。


 ……!


 声を発する間もなく崩れ落ちる3人。

 馬車での道中に襲ってきた者たちと同じくらい強いはずなのに、まるで各下扱い……。


 それだけ、うちのパーティーが強くなったってことだよね。


 あっという間に手下を全滅させられた魔人ラガルク。

 でも、動揺した気配はまったくない。

 あい変わらず座ったまま……。


 攻撃してこないなら……先手必勝!

 そう思って速攻で仕掛ける。


「荷電粒子砲2、最大集束!」


 ――チッ!


 かすかな極高周波音。

 発光もなければ爆音もない。

 でも【荷電粒子砲】単発の威力は、専門魔法8までのどれより強力だ。


「な、なんだとー!」


 ヘルプの説明によれば、荷電粒子砲の最大集束は、厚さ20メートルの鋼鉄壁を一瞬で貫通できるってなっている。


 なのに魔人ラガルクは座ったまま、両手を地面に突き刺した大剣の柄に添えた格好で身動きひとつしない。


 その状態で、身をつつむ暗黒バリアのみで跳ねかえしてしまった。


「小賢しい真似はやめろ。魔法のたぐい、我には効かぬ」


「うるさいわねー、神光!」


 リアナの声。

 おい、障壁天蓋の中でスキル使って大丈夫か?


 そう思ったけど、どうやら女神専用スキル【女神の威光】は魔法を無視して行使できるみたい。


 ――カッ!


 凄まじい光量。でも、なぜかまぶしくない。

 ひたすら荘厳な輝きに目を奪われる。


「むう……」


 神光は女神専用の浄化スキルだ。

 神域能力のため、おそらく邪神が付与した特殊能力【暗黒系】にも効く。

 その証拠に、魔法を完全阻止できると豪語したラガルクのバリアが一瞬で消え去った。


「【爆砕】【質量】【硬化】【貫通】【強速】【乱撃】【破防】【切断】!!!」


 使えそうな武器付与魔法を、これでもかと愛剣【黒震剣】へそそぎこむ。


 ――ブゥン!


 あまりの魔法付与量に、黒震剣の超振動が可聴音として響きはじめる。


「魔法がダメなら……とりゃーッ!!」


 ――ドゥン!


 部屋に響きわたる衝撃波の爆発音。

 パッシブで【身体強化7倍】、事前のスキル行使で【瞬間加速7】、その上で付与【強速】……一瞬で音速を越える。


 事前に物理防御をかけていなければ、音速を越えるときの衝撃波で自分の体がぶっこわれる。もちろん、なんの痛手もない。


 人間の感知できない速さで、剣を大上段にふりかぶる。

 そしてトドメの【乱撃】だ。


 通常でも秒速10回の【乱撃】だが、いまはあれこれ効果が相乗してる。

 結果、なんと秒速490発!!


 ――チュドッドドドドッド――――――ッッッ!!!!


 もう打撃なのが剣戟なのかわからない音が大部屋を大振動させる。

 ゆうに震度7。俺以外は立っていられないはず。

 それでも崩壊しないのは、ここがダンジョンだから?


 ――キイィン!!


 最後の一瞬だけ、脳の芯まで響く澄んだ音がした。


「あ……」


 握り締めてた【黒震剣】が消えた。


 ――カン。


 ちょっと遅れて、右奥の床に【黒震剣】が落ちる音がする。


 なにが起こった……。

 うろたえた視線でラガルクを見る。


 あい変わらず台座に腰をおろしたままだ。

 ただし床に刺さっていた大剣が、いつのまにかラガルクの右手に持たれている。


「黒震剣で切れない……?」


 俺が錬金で作りあげた超硬度合金は、この世界には存在しない。

 その合金で造られた黒震剣と高速振動刃が合わされば、この世に切れないものはない……はず。


 そう、ついさっきまで信じてた。

 だが違ったみたい。


「高速で振動する刃か。妙な付与能力だな。しかし無駄だ。振動するというからには、一定間隔で前後に移動するノコギリ刃が基準となっているはず。ならば1往復する時間内に、ノコギリ刃のあいだを狙ってこちらの刃をあてれば、容易に跳ねのけることができる」


「な、な、なんだとー!!!」


 われながら、ボキャブラリーがないと思った。


 いや、言ってることは正しいんだけどね。

 それを現実にやるのは人間業じゃないだろ。


「【魔装鎧】【煉獄の断罪】【ドリル突き】!!」


 セリーヌがバリアから飛び出てきた。


「春都殿! はやく剣を!!」


 そう言いつつ、煉獄の断罪3で産み出された16本の炎剣を突入させる。

 セリーヌ自身も、【魔装鎧】で無敵状態になって【ドリル突き】で突っこむ態勢に入っている。


「お、おう!」


 ――ちゅどーん!


 音速を突破して剣を拾いにいく。

 その横を、ゆっくりと回転しながら突入していくセリーヌが見える。

 すべてが加速されてるため、視覚も相対的に強化されてるんだ。


 実際は、セリーヌの突入速度もジェット旅客機なみの亜音速なんだけど、俺が速すぎて相対的にゆっくりに見えてしまうみたい。


「鬼斬!」


 太い吐気の音。


 ――シュッ。


 俺の目でもようやく見える速さで、ラガルクが大剣を振る。

 驚いたことに、いつのまにかラガルクが立ちあがってる。


 ――ガンッ!!


 大質量の金属と金属がぶつかる音。


「きゃあーっ!」


 場に似つかわしくない、色っぽい声。

 セリーヌが跳ね飛ばされて床を転がっていく。


「切ったつもりだったが……」


 解せぬといった表情を浮かべ、ラガルクが自分の剣を見ている。

 どうやら無敵スキル【魔装鎧】の効果までは感知できていないようだ。


 でも……。

 こいつ、マジで強すぎる!


 どうすりゃいい?

 とりあえず時間を稼いでみる。


「おまえ……そんなに強いのに、なんで邪教教団なんかの手先になってるんだよ!」


 返事を期待しての問いかけじゃない。

 仲間の態勢を立て直すための時間稼ぎだ。


 ところが……。

 予想に反して声が返ってきた。


「……応える義理はない」


 うーん……。

 なんか違和感があるんだよねー。


 これまでの戦いを思いだすと、手下の黒装束連中は、まったく感情がない感じの行動をしてたってのに、なんでこいつだけ自己主張する?


 違和感は天界システムも感じたみたいで、ヒナが口を挟んできた。

 もちろん別人格モード。


「鬼人ラガルクよ。天界が支援する者たちを討伐するのに、わざわざ名乗った意味を問いたい。鬼人王バールの末裔……その名は魔人族にあって栄誉ある名だ。しかし、この場で名乗ることは、かえって、その名を汚す行為とはならぬのか?」


 あれ?

 いつものヒナ解説モードとは喋りかたが違う。

 もしかして、別の天界住民が乗っ取ってる?


「その口調……」


「ほう? もう100年以上も昔のことなのに、よく覚えておるな」


「まさか鬼神ドラク様?」


 不動の姿勢を崩さなかったラガルクが、はじめて動揺をあらわにしている。


「ああ、我はドラク。そちが成人の祝福を我が神殿で受けたとき我はこう言った。鬼神の名において、鬼王の末裔に【牙の紋章】を授ける、と。その紋章は、いまもそちの右肩に残っておるであろう?」


「そ、それは……ドラク様から受けた祝福は、たとえ親兄弟であろうと漏らしてはならぬ神秘拝受事項……。それを知るのは、我とドラク様のみ。間違いない……」


 ラガルクの動揺が最高度に達し、つぎの瞬間、一気に静まった。


「我が子ラガルクよ。いま我の声を伝えしこの者は、天界システムが地表にもたらした神造人間だ。もっぱら異世界からの稀人まれびとたる神崎春都の案内人として働いておるが、同時に天界と地上界をむすぶ伝達役も担っておる」


「おお、鬼神ドラク様……鬼人種にとり貴方様は、創造神リアナ様をも凌ぐ最高の戦闘神……し、しかし……遅すぎた……我は……我は……」


 激しい悔恨が身を襲っているのか、ラガルクはふたたび大剣を地面に突き刺すと、それで身を支えるのが精一杯の状態になった。


「鬼人ラガルクよ。天界の調べによれば、そちはカタン教団によりバール一族の末裔を人質に取られ、やむなく教団のしもべになっておるようだな」


 うわー。

 神様がダイレクトに話しをしてる!


 ……って。

 よく考えりゃリアナも女神じゃん。


 それにしても。

 ここにきて、あっと驚くワケあり展開だよねー。


「う……ぐっ」


「そちは、カタン教団が邪神ラゴンの使徒であることを承知しておろう? なのに、なにゆえリムルティア世界を統べる天界にそむき、異界の邪神に荷担する。その行為、我……鬼神ドラクに対する明らかな背信であること、承知の上であろうな?」


 あまりの展開に、俺をふくめた人間勢、ただただぽかーん。

 いま戦闘中のはずなんだけどなー。


 まあ、たっぷり時間は稼げたから、結果オーライだけどね。

 さて。これから先、どうなっちゃんだろう……。


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