第42話 迷宮神殿で待ってたものは……


「これピラミッド……だよね?」


 森に隠れて今まで見えなかったけど……。

 目のまえにある神殿、地球のマヤ遺跡にある神殿ピラミッドに似てる!


「春都殿、階段だ!」


 ピラミッドの正面に走っていったセリーヌが、大声で俺を呼んだ。


 なぜか神殿遺跡の周囲には魔物が1匹もいない。

 あれだけ魔樹の森にはいたのにね。

 もしかすると、神殿周囲って安息所みたいなもん?


「他に入口は見当たらない……上がるしかないよね?」


 ピラミッドのむこう側は、すぐ崖が迫ってる。

 もし5階層へ通じる下降路があるとすれば、ピラミッドの頂上にあるはず。


「ああ、騎士団の訓練でも、頂上にある台座の入口前が終了到達地点になっていた」


 自問自答だったのに、わざわざセリーヌが答えてくれた。


 ともかく……今日は最終日。

 イヤでも夕方にはダンジョンを出て、あしたの朝には伯爵邸に行かなきゃならない。


 となればザコは無視して、突進また突進……。


「と、その前に……溜まってる能力と経験値、配布するぞー!」


 わざわざ安全地帯を設置してあるってことは、この先に強敵が待ち構えてるってことだよね? それなら準備万端整えるのがマナーってもんでしょ。


「すまん、春都殿?」


 ステータス画面の収集能力欄を見てたら、セリーヌが遠慮しがちに聞いてきた。


「ん、なに?」


「邪魔して申しわけないんだが、森での戦闘でレベルアップしたら、よくわからんスキルが追加されたんだが……」


「あっ、レベル50で追加される特殊スキルか!」


 特殊スキルは、キリのいいレベルで追加されることが多い。

 てことは、けっこう期待できるかも?


「【魔装鎧1】というスキルなのだが……名前からすると魔法の鎧みたいだが、これだけでは何のことやら……」


「あ、そうか。セリーヌたちのステータス表示だと、スキルの説明は見れないんだったね」


 ヘルプや検索はもちろんのこと、スキルや魔法の名前をタッチするとポップアップする簡易説明とかも、俺だけしか見れないチート仕様っての、すっかり忘れてた。


 セリーヌたちが自分の能力を知るには、実際に使ってみるか、すでに持ってる人に聞くしかないんだよね。まあ、うちのパーティーに限っては、俺かヒナに聞けばわかるけど。

 セリーヌのステータスを強制展開して見る。


「ええと……【魔装鎧】だよね。短時間、あらゆる攻撃を完全吸収するんだって。んー、なんかよくわからんけど、ものすごいスキルってことだけはわかるような……ヒナ、実際どうなの?」


「相手の攻撃を完全に吸収することで、自分のHPを回復できる。当然、ノーダメージ。レベルによって装着時間が変る。レベル1は1分間。レベルごとに1分間ずつ追加される。上限突破をしない場合、レベル10で10分が最大値。あくまで攻撃の吸収だから、仲間の回復とかは吸収しないできちんと効く」


「使いかたによっちゃ、無敵のスキルになるよね、コレ!?」


 まさにセリーヌのためにあるスキルだよな。

 前衛で攻撃受けまくってピーンチ!

 そんなときに使えば、完全防御しながらHPまで回復できるんだもん。


「こ、これがあれば……私は皆の役にたてる!!」


 チートばっかのパーティーの中で、一般人っていう負い目を感じてたセリーヌ。

 それだけに、この特殊スキルは嬉しいんだろうな。


「ねーねー、あたしも魔法とスキルの追加、あったよー!」


 リアナが負けじと口を突っこんできた。

 でもリアナの場合、中途半端なレベルアップだから、きっと通常の追加なんだよなー。


「期待はしないけど、言ってみ?」


「ぶー。あたしのも、レベル50突破のやつなんだけどなー」


「な、なに!? 魔樹の森を殲滅しただけで、レベル50突破しただと~!!」


 まあ、数千匹の魔樹と蜘蛛を殲滅したんだから、それくらい上がるか。


 さっきセリーヌに聞いたら、騎士団の演習では、幅10メートルくらいを焼き払って道を作るだけで、俺たちみたいに森全体を消滅させるなんて無理なんだって。そりゃそうだ。


「聞いて驚け~! な・ん・と、【女神の威光】が復活したんだよ~!!」


「うっ、予想外に凄そう……だけど、ようわからん」


「【女神の威光】は、もともとあたしが持ってた女神スキルなんだ~。今回レベル50突破で、やっと実装されたんだよねー。サブスキルには【神光】【神威】【プチ天罰】の3つがあるの。それぞれの説明は、春都の能力で勝手に見てね~」


 手抜きか!

 まあ、時間が惜しいから無視する。


「それから、専門魔法4で【プチ轟雷1】もついたぞー! 特殊スキルは【鋼鉄人形1】、それと一般スキルだけど、パッシブ枠で【物理耐性1】も追加されたんだからねっ!!」


「へっ、へぇ~。そりゃ凄いねー(棒)」


 自分が持ってない魔法だから、さっぱりわからん。

 でも驚いてやらないと後で面倒くさいから、驚いたふりをする。


 ただ……リアナの神術で最大威力って言ってた全域厄災神術【天威轟雷】、その一部の名前がついてる以上、けっこうな威力がありそうな感じはする。


「春都。【プチ轟雷1】はリアナ専用の女神魔法。神術に入れるほどではないため、魔法に入れられてる。単発魔法で、威力は【天威轟雷】で無数に落ちる雷の中の1本の1000分の1。レベル10で100分の1まで威力があがる」


 せっかくヒナが説明してくれたけど、もとの【天威轟雷】の威力がわからんから、やっぱり、ようわからん……。


「まあ、凄いってのだけは理解した。となると……イメルダも、もしかしてレベル50になった?」


「はい。専門魔法に【身代り1】。、特殊スキルに【分身1】が追加されております」


 ちょい待ち!

【分身】とか【身代り】ってけっこうチートだけど、【悩殺】【夜伽】ってなによ、ソレ!!


 聞きたい!

 マジで聞きたいけど……真面目なセリーヌの視線が恐い……。


「あうう……それじゃ配布しますね……。セリーヌには、魔法【貫通】、昇格したのが【状態回復4】【治癒7】、武器付与【火装1】……今回はこれで勘弁してね。残り2人の追加を増やしたいから。経験値配布で、総合レベルは57!」


「リアナは、魔法が【水弾1】【回避1】【風斬1】、魔法昇格が【土壁3】【麻痺3】、スキルが【蜘蛛の巣1】【硬直1】【樹液1】だな。総合レベルは51」


「イメルダは魔法が【看破1】【弱体1】……あ、魔法4【瞬殺1】もあげるね。スキルは【影踏み1】【芽吹き1】、説明はあとで。魔法昇格は【毒霧7】【毒牙8】【麻痺5】、武器付与に【即死1】、防具付与に【物理反射1】、スキルが【短剣術4】【刺針7】【毒ブレス7】……ふう、けっこう凄くなったな。総合レベルは一気に50、おめでとう!」


 これで全員レベル50突破で、冒険者Bクラスに到達した。

 Bクラスになるのが目的だったから、いちおう達成だよね。


 ついでに……。

 そっと自分のステータスも見てみる。


 レベル158。

 うわー、2しか上がってない。


 さすがにこのレベルになると、階層全体を殲滅しても2とか3しか上がらないんだ。

 まあ、そのうち1人で、高難易度ダンジョンの完全殲滅をしてみよう。

 そうすりゃ、それなりに上がるだろ。


 でも、ひとつだけ嬉しい追加があった。

 それは女神の加護3【時空遮断1】。いつのまにか追加されてたんだ。

 たぶん邪神の介入が明らかになった時点で、天界が緊急追加したんだろうな。


【時空遮断1】の機能は、例の暗黒ボールのように、邪神のパワーを使った時空魔法に対し、その効果をシャットアウトするものなんだって。


 あのボールは脅威だったから、正直これはすごく助かる……。


「こんなとこかな……。時間もないから、さっさと先に進もう」


 ピラミッドの斜面に沿って造られた急な階段。

 そこを全員が、風のように駆け上がっていく。


 途中の階段に、踏むと落とし穴が開く罠が仕掛けてあった。

 だけど、パーティー全員が加速系のスキルをかけてたせいで、落ちる前に罠エリアを通過してしまった。


 これには全員、ビックリ!

 もう俺たち……レベルはともかく、能力的には一般冒険者を逸脱してる?


「頂上、到着!」


 休むまもなく頂上の様子を見る。


 頂上には翼竜の巣がたくさんあった。

 いきなり襲いかかってきたけど、こいつらレベル40台だから、俺が先頭にたって片っぱしから叩き落とす。こんな所で時間を浪費したくないもんね。


 中央にある巨大な女神リアナの神像(美化されすぎ!)の台座に、神殿内部へむかう下降階段の入口が開いてる。


「あーん、たまごー!」


 リアナが翼竜の卵を見て、なんと食べたそうにしてる。

 おまえ、翼竜ってトカゲとかヘビの親戚だぞ? よく食う気になるな。


「今日は急ぐからダメ!」


 強引にリアナの手を引いて、螺旋状になってる下降階段を降りはじめる。

 途中で出会った魔物は、暗黒幽霊レイス

 物理破壊が不可能な魔物で、普通の武器だと通用しないってヘルプに書いてある。


 そこで全員、武器に魔法を付与して瞬殺!


 わずか一時間ほどで最下層に到着してしまった。


「うわー、でっけー!」


 思わず声が出るほど、でっかい扉がある。

 扉の表面には、なにやらいわくありげな文様やら古代文字やらが刻まれてるけど、ようはここ、中ボス部屋だよね?


「えーと……セリーヌ。ここの中ボスって?」


「リッチマスターだ。死霊系モンスターでは中の上くらいの強さで、総合レベルは50。騎士団の演習では、こいつと戦うのはダメってことになってた。そのため小隊長クラスの特別演習でしか使われなかったはず」


「みんな、レベル50越えたから大丈夫だな。よし、入ろう!」


 時間的に見て、短時間でリッチマスターを撃破しないと、5階層に行く余裕がなくなっちゃう。ここはサクッと終わらせたい。


 ――ギギギイイイィィー。


 きしむ音がすごいけど、これダンジョンの演出だよね?


「………あれ?」


 体育館くらいある大きな部屋。

 でも中央にいるはずのリッチマスターがいない。


「臭っさー!」


 リアナが部屋に入ったとたん、顔をしかめて大声を出す。


「ん? なんも匂わんけど?」


「アレよアレ! 破壊神の邪気の匂い! 鼻が曲がりそー!!」


 なんで?

 中ボス部屋なのに邪神の匂い?


 そう思いながら部屋の中を見まわす。

 奥の暗がりが、やけに暗い。


「神光!」


 もうたまらんとばかりに、リアナが【女神の威光】のサブスキルを行使する。

 さっき見た説明によれば、【神光】は浄化の光……最上級の光系浄化能力なんだって。

 ――サア――ッ!


 微風が通りすぎる感触。

 奥の暗がりをおおっていた漆黒の霧が一発で晴れる。

 すぐに生活魔法【灯光】の効果があらわれた。


「天界の使徒どもよ……待っていたぞ」


 地に響く重低音の声。

 本来なら宝箱がある台座に、大きな体をした男が腰を降ろしてる。


「だれだ!」


 自分でも間の抜けた問いかけって思ったけど……。

 口に出ちゃったもんは仕方がない。


われはラガルク・バール。魔人族の鬼人種にして鬼人王バールの末裔。お前たちに恨みはないが、ここで死んでもらう」


 なんか日本の時代劇で聞けそうなセリフだけど、声そのものに威圧スキルが掛かってるのか、ふつうじゃない圧迫感が襲ってくる。


「あんたでしょ! カタン教団つかって、あたしたち襲わせたの。あんときの匂いと同じだから、すっきりてっきりわかっちゃうもんねー!!」


 リアナが指をびしっと突きつけてタンカを切る。


「精密鑑定……おわっ!」


 俺の精密鑑定が、瞬時にはね返された。

 こいつ、俺よりレベル高い?


 珍しくヒナが俺の横にならんで口をひらく。

 この無表情は天界モードだな。


「魔人ラガルクよ。鬼人種は本来、天界の理の内にある存在。なのになぜ、異界の邪神に従っている? 魔王国を統べる魔王とて、女神リアナを信奉していることには変わりないはず……」


「……おまえが使徒代表か。だが、いまさら天界に言いわけするつもりはない。行くぞ」

 ラガルクが右手を上げると、たちまち漆黒の霧が複数湧きあがる。

 つぎの瞬間、10名以上の黒装束が出現した。


俺「【邪気防御】【魔法盾】【身体強化6倍】【魔法強化6倍】!」

リ「【魔法耐性】【物理耐性】【木人形】【鋼鉄人形】っと!」

セ「【魔法盾】【強化鱗】【身体強化】【覇気】【不退転】【馬鹿力4】!」

イ「【硬化】【物理防御】【魔法防御】【俊足】【隠密】!」


 全員が身を守るための魔法やスキルを行使する。


 ただしリアナだけ、なぜか攻撃系の【木人形】と【鋼鉄人形】まで唱えてる。

 カンフー木人形と鋼鉄製のゴーレムが1体ずつ現われ、すぐさまラガルクに向かっていく。


「ちょ、まっ……いいか」


 相手の力量がわからん状況で、無策のまま戦闘に突入するのはマズイ。

 チラリとそう思ったけど、もう始まってしまった……。


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