第41話 今日が最終日、どこまで潜れる?
午前中いっぱい、4階層の東にある岩場で、ヘルタースケルトンに率いられたダークスケルトンの集団を狩った。
みんなの実力を考えると、無視して先に進んでも良かったんだけどね。
でもそれだと、リアナが足を切られたトラウマを解消できない。
だから、めっちゃ倒せば、自分のほうが強いって自覚するだろうなーって……。
ヘルタースケルトンはザコだって、体で覚えてもらうことにしたんだ。
その甲斐あって……。
リアナは、お昼になるころには、鼻歌まじりでスケルトン集団を爆砕してた。
だいたい、【加速2】に【強化5】のスキルをかけた上で、【魔法耐性1】がパッシブでかかってるんだから、スケルトンの攻撃なんて当たるわけがない。
その上で【炎爆1】の魔法を連発するんだから、たとえヘルタースケルトンでも、一瞬で骨クズになっちゃう。
でも最後は俺かセリーヌが、光属性の【極光】で消滅させないと倒せない。
他にも【天の裁き】とか光属性の魔法はあるけど、ヘルタースケルトン相手じゃオーバーキルになっちゃうから、現実的には【極光】一択しかないんだ。
とはいえ、リアナがレベル50になったら、特殊スキル【女神の威光】が解禁になる。
【女神の威光】のサブスキルには、光属性の【神光】と【プチ天罰】がある。
だから、リアナもアンデッド系に対処できるようになるんだ。
そうなったら、ヒナの魔法玉も入れると4人が対処可能……。
ちなみに【神光】は、【極光】の下位スキルらしい。
聖光>神光>極光って感じで、ランクアップするんだって。
光魔法は有用だから、最終的にはイメルダにも覚えて欲しいな。
そうは思っていても、レベルアップで獲得できない場合もある。
そんな時のために、俺の【能力収集/能力提供】がある。
だから、光系の魔法やスキルが手にはいったら、今後は優先的にイメルダに提供することにしよう。
ともかく……。
ヘルタースケルトンはドロップが美味しい。
俺のメチャクチャな幸運値でラストアタックすれば、ほぼ確実にレアアイテムを落とす。これを狙わないのは損だ。
ヘルタースケルトンのレアドロップは、【煉獄の黒骨武器(種類はランダム)】【黒骨結晶】【ノーライフの息吹き】の3種類。どれか1個をドロップする。
【煉獄の黒骨武器】は、ミスリル武器に【付与魔法強化】のオマケがついてる。
でも、うちのメンバーの武器はもっと強力だから、これは錬金術で分解して素材にしたほうがメリットがある。
【黒骨結晶】は、すごく硬い黒骨のエッセンスを抽出したものらしい。
これを防具の裏打ちとして加工すると、まるでセラミック製の複合装甲みたいな役目を果たすんだって。これは防具クラフトで絶対採用だよねー。
【ノーライフの息吹き】は、ちょっと扱いにくい素材だ。
もっと上位の魔物のノーライフソルジャーやノーライフキング、これらに類する不死系の魔物が落とす超レア素材で、最終的には【ノーライフキングのマント】を作るのに不可欠なんだって。
とは言っても、ぜんぶヘルプを見て知ったことだから、いまはまだ実感がない。
ともかく、大量のドロップ品をインベントリにため込んだあと、いったん安息所にもどってお昼ご飯にした。
※
そしていま……。
俺たちは、4階層中央から南にかけて広がる、気味の悪い森の北端にいる。
「なに、この森……」
リアナが両手で自分の体を抱きしめながら、ぶるっと身震いしてる。
てか、あんたが知らなくて……いや、もう【すごく物忘れする人】として丁重に扱うことにしよう。うん。
「鬱蒼とした原初の森って感じだけど……あの枝にかかってるの、みんな蜘蛛の巣だよね?」
樹木が密生してて見通しゼロ。
ごちゃごちゃ絡まる枝には、びっしりと蜘蛛の巣がかかってる。
それが風もないのに、ざわざわって揺れてる……。
「ここは【魔樹の森】と呼ばれている。騎士団の演習でも、踏破するのに苦労した難所だった。その原因は、見てのとおりの蜘蛛の巣と密生樹林なんだが……ちょっと見ててくれ」
そう言うとセリーヌは、いきなり【火炎弾】をぶっぱなした!
――ドドン!
――ゴオオーッ!
一気に、枝にからまった蜘蛛の巣が燃えあがる。
――ズゾゾゾゾゾッ!
同時に、周囲の樹々がざわめきはじめた。
「……な、なんだ!?」
「この森は全体が魔樹……つまりモンスターなのだ。さらには、ほらあそこ!」
蠢きはじめた魔樹に混って、巨大なマーダースパイダーが10匹以上も這い出てきた!
「ほら、じゃないでしょ! どーすんだよ!!」
――ズドドドッ!
あわてて【火炎散弾】を放って焼きつくす。
その後に襲ってこないところを見ると、攻撃された周辺しか反応しないみたい。
「春都殿にすれば、みんなザコだ。安心して任せられる」
マジな顔で言うなよ~。
俺、基本ビビリだから、初見のモンスターって、けっこう恐いんだからね。
「でも……どうすんだ、コレ。森を踏破しないと南に進めないじゃん。西か東に迂回路でもあるの?」
「いや、つぎの目的地は迷宮神殿の廃墟だ。森の中心から、すこし南にいったところにある。どの方角からむかっても、おなじ距離を踏破しなければ神殿にはたどりつけない。かつての騎士団の訓練では、神殿に到達して頂上に立てば、その部隊は訓練達成と判定されたもんだ」
「騎士団ってすげーんだな! あんな森を踏破できるなんて」
マジで感心した。
っていうか、こんなのA級冒険者のパーティーでも踏破できないような気がするぞ。
「いや、難関ではあるが……基本的に問題はない。あの森は、焼き払えば踏破できる。どちらかといえば経験値稼ぎの場だ」
たしかに【火炎連弾】で、かんたんに撃破できたけど……。
「焼き払ってる最中にリポップしないの?」
「他のモンスターとは違い、森の再生には丸一日かかる。だから騎士団だけでなく冒険者たちも、ここを踏破する時は集団になって協力していた。みんなで焼き払ったら、あとは解散して、さっさと先に進むのがルールだ」
「ふーん。ってことは、前もってここを踏破するのに、複数のパーティーに声をかけとくわけか。あっ! そういや2階層の安息所で、ガルバンクのヤローがレグルスさんに、5階層に行きたいからパーティーに入れろって言ってたの、あれ、まともな理由だったんだ!」
「私はその場にいなかったから知らんが……まあ、そういうことだな」
「春都。焼き払うのは簡単だけど、マーダースパイダーがドロップする【神絹の糸】は、優秀なレア素材だから色々と利用できる。もし防具を強化したいのなら、ここで大量に確保しておくことを推奨する」
ヒナが久しぶりにアドバイスしてくれた。
わざわざ言うくらいだから、きっと凄い素材なんだろうな。
なら、集めなきゃ。
「ええとセリーヌ。とりあえず攻撃した魔樹だけ、反撃してくるんだよね? でもって個々の魔樹に巣食ってるマーダースパイダーだけ襲ってくる……これで間違ってない?」
「それで合ってる……と言いたいところだが、じつは違う。最初はその通りなんだが、連続して森を焼いていると、そのうちマーダースパイダーが暴走する。そうなると焼却に関係なく、マーダースパイダーのスタンピードが起こる」
「うわー」
この世界に降りてきた途端、魔物のスタンピードに巻きこまれた俺。
しっかりトラウマになってる……。
「心配しなくていい。ダンジョンのスタンピードに比べれば段違いに規模が小さいし、相手はマーダースパイダーだけだから、それほど恐れるものではない。なんなら私が1人で前衛を担当してもいいが?」
「いや、それはダメだ!!」
思ったより強い語気になったので、セリーヌがビクッと身を震わせた。
「前衛は俺がする……っていうか、焼き払うのもスタンピードを殲滅するのも俺だけでやる! みんなはうしろで防御しつつ、相互に支援しあって!!」
もうだれも、危ないめにあわせない。
その思いが強すぎて、つい大声を出してしまった。
「春都殿……」
セリーヌがなんか言いたそうだけど、言えないでいる。
「春都様?」
そこにイメルダが、いつもの落ち着いた声で語りかけてきた。
「……ん?」
「セリーヌ様は先ほど、ここは経験値稼ぎの場所と申されました。なのに春都様だけで稼がれるのは、すこし欲張りなのではないでしょうか?」
「あ、いや……そんなつもりは……。それに、パーティー組んでるんだから、みんなにも経験値は入るし」
「経験値は入っても、スキルや魔法をレベルアップさせるためのポイントは、与えたダメージに比例して個人に入ります。春都様はわたくしどもを、スッカスカのレベルだけ高い冒険者になさりたいのですか?」
うう……。
いちいち言われる言葉が痛い……。
「わかったよ! それじゃ最初に、みんなで火系の魔法を放ってくれ。これで全体的にファーストアタックは取れるはずだ。それで魔樹と蜘蛛が出てきたら、あとは俺に任せてほしい。ヒナはだれか危なそうになったら、神域玉以外はすべて使用していい。これでいいだろ?」
「御無理を言って、申しわけありません」
イメルダが深々と頭を下げる。
これ俺……手玉に取られてない?
だれも反論しないので、この作戦で行くことにする。
「それじゃみんな、火炎系魔法を放って!!」
――ズドドドドドドドドド――ッ!
全員が広範囲に、火炎系魔法をばらまきはじめる。
一回の攻撃で、左右100メートルくらいの範囲が燃え上がった。
――グオオオオオ――ッ!
そりゃ、そうなるわな。
100匹以上の魔樹が、燃えながら押し寄せてきた!
魔樹のあいだを、400匹くらいのマーダースパイダーが、ガサガサと足音を響かせて走ってくる。
「ひっ、え、炎爆!」
「煉獄の断罪!!」
「業火」
俺も【火炎散弾】で、広範囲に殲滅中。
それぞれが得意な火系魔法やスキルを使用する。
セリーヌの【煉獄の断罪】、そういや炎剣を駆使する火系スキルだったな。
ヒナは後方で待機してる。
ステータスが存在しないから、レベリングする意味がないんだ。
だから下手に魔物を倒すと、みんなのレベリングの邪魔になる。
必然的に、補助系の魔法玉でサポートするしか役目がない……。
つぎつぎと燃え尽きる魔樹。
しかしマーダースパイダーは火に強いらしく、なかなか燃えつきない。
「鋼槍!」
生き残ってる蜘蛛を、鋼槍の連発で確実に串刺しにしていく。
「移動障壁玉、ぽい」
ヒナの魔法玉が割れると、そこから5枚の移動する障壁が現われた。
これ、【魔法盾】の魔法玉版だよね。
ひゅんひゅん飛び回る障壁盾で、突進してきた最後のスパイダーが粉砕される。
「つぎ行くよー。みんな射ってー!!」
息つく間も与えずに、第2波攻撃を実施する。
こんな気味悪い森に、大切な時間を取られたくない。
でも、みんなのレベルアップも必要……。
まあ、いざとなったら、高位の広汎殲滅魔法で全滅させるつもりだけどね。
一時間後……。
「ぜーぜーぜー」
「はぁはぁ……」
「………」
ヒナはともかく、イメルダの息が上がってないのはさすがだ。
インベントリからMPとHPポーションを取りだして、ヒナ以外に手渡す。
ヒナは回復するステータスがないから、ポーションじゃなく治癒系の魔法玉で肉体だけ回復するんだって。
「自動収拾」
インベントリの機能を切り変えて、ドロップしたものを自動収拾する。
この機能はいつもONにしておくと、いらないものまで拾ってしまう。
だから通常はOFFにしておいて、使いたい時だけONにするんだ。
山のように落ちてたドロップ品が一瞬で収納される。
「さて、ここはもう、これくらいでいいかな?」
個人ぶんだけでもけっこうな経験値が入ったのか、だれも反論しない。
「それじゃ最後は……【流星雨】!!」
あの、【メテオ】である。
かの有名な広域殲滅魔法、あのメテオである!
ゴゴゴゴゴ……。
ダンジョンの中なのに、空の上に無数の隕石が出現する。
でもレベル1だから、個々の大きさはボーリングの玉くらい……。
――グバッ!
魔樹の森に、プチなディープインパクト。
いくら高位魔法でも、レベル1じゃショボいよなー。
――ゴオオオオオオ――ッッ!!
それでも……森全体が燃えあがる。
「ダメ押し。【竜神炎息】!」
――ブオオオオオ――ッ!!
流星雨だけだとキル数は稼げるけど、森を燃やし尽くす力は弱い。
だから専門魔法7の【竜神炎息】も使ってみた。
これ、ドラゴンブレスの最上位バージョンなんだって。
またたく間に、魔樹の森が灰塵に帰していく。
「ええと……鎮火させる適当な魔法がないや。【大洪水】だと問題ありすぎだし……ヒナ、たのむ!」
「はい。【特別警報大雨玉】、ぽい」
――ザアアアア――ッ!!
これ、いわゆる特別警報レベルの集中豪雨。
『50年に一度あるかないかの、多数の命が危険にさらされるほどの雨』だよね?
てか、それ日本の気象庁基準じゃん。
天界、やりたい放題だよねー。
でも、みるみる鎮火していくから許す。
「自動収拾」
火が消えたら、ふたたびアイテム集め。
ついでに高級MPポーションを取り出して、MPを全回復する。
「さて、神殿が見えた。行こうか」
「あらためて思うが……春都殿ってバケモノだな」
それ誉め言葉じゃない……。
けっこう傷つきながら、焼けた上に水びたしの地面を進む。
神殿には意識して流星雨を落とさなかったから、ほとんど無傷のままだ。
さて……。
つぎは、どんな魔物が待ち受けてるかな。
わくわくしたら、ちょびっとずつ傷心がいやされてきた。
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