第40話 うちのパーティーは全員チート!


 午後8時になるまで、一心不乱に3階層の魔物を狩った。

 ここでイメルダとリアナのレベルを上げとかないと、4階層で足手まといになる。

 だからもう、心を鬼にして爆速育成したんだ。


にも行ってみたけど、ごくふつうのヒュドラ(レベル32)がちょこんといた。


 部屋に行くころには、みんなけっこう強くなってたから、セリーヌ/リアナ/イメルダの3人で戦わせてみたけど、なんと楽勝で倒してしまった。


 ドロップしたアイテムは、神鋼合金製の長剣。

 宝箱の中身は、中級MPポーションが5個……。

 まあ、ふつうの中ボスだとこんなもんだよなー。


 でもって……。

 今日はもう終わりってことで、4階層の安息所にむかった。


 4階層の安息所は、西側の断崖下にある。

 崖下に窪みがあって、その窪みひとつごとに小安息所が設置されてる。


 ひとつの小安息所は、6人でいっぱいになる狭さだ。

 どうやらパーティー別に休めるように配慮されてるみたい。


 現在時刻は午後8時30分過ぎ。

 リムルティア風にいえば、イリーシアの刻過ぎの半ミリア時……てな具合だ。


 この世界の時刻は、イメルダが持ってる魔導懐中時計を見ればわかる。

 地球の時間単位のほうは、メニュー右上にあるハルマゲドン・カウンターの下にから、これを見てる。


 ダンジョン内も、地上とおなじ時間が流れてる。

 そのため現在の時間がわかれば、外が昼か夜かもすぐにわかる。

 これがあるとないとでは、攻略のスケジュール管理に大きな違いが出るんだ。


 俺たちは、左右が崖の張りだしに挟まれ、上も天蓋状の岩盤になってる安息所を選び、そこで野営することにした。


「あしたは最終日だから、午前中だけ4階層でレベリングして、その後は時間の許すかぎり5階層をめざそうって思ってる」


 インベントリから石突き山羊のブロック肉を取りだし、まな板の上で手頃な厚さに切り分ける。


 インベントリには、前もって入れておいた食事や串焼きその他の予備食が入ってる。

 内部の時間経過がないから、いつでも、熱いものが食べられる。

 だからダンジョン内で、いちいち調理する必要はないんだけど……。


 調理済みの料理をポイって出して、ハイ食事っての味気ないでしょ?

 そう思ったから、手間がかかるのを承知の上で、みんなで作るほうを選んだんだ。


「わーい、お肉だー!」


 肉には目がないリアナが、素直に喜んでる。

 まさに肉食女子……って、ちょっと違うか。


「春都殿……なにか手伝うことはないか?」


 いつもは武器や防具の点検を最優先にするセリーヌが、なんと料理をするって言いだした。


「あー。具だくさんの山賊スープはヒナが担当してるから、ミックスサラダを作ってもらおうかな。手持ちの材料で作れるのは……岩トマトとポール菜のコールスローに、ホウホウ鳥の蒸し煮パクチャ和えかな?」


「ああ、あれはウマい……が、肝心の作り方がわからん」


 前に料理屋で食べたのを思いだして、よだれを垂らしそうになったセリーヌ。

 でも調理法がわからないため、しょんぼりした表情になった。


「大丈夫だよ。パクチャソースはマヨネーズとパクチャペッパー、それにブルーブオイルに塩だけって、もん。ホウホウ鳥は蒸し煮にしたのがインベントリに腐るほどあるから、それを出して表面を火であぶって、あとは細切れにすればいいし」


「そ、そうか? では私はサラダを担当しよう」


 説明を聞いても、セリーヌの不安そうな表表情が消えない。

 スキル【料理レベル5】をもってるのに、作るの苦手なのかな?


「もし不安だったらヒナに相談して。スープの仕込みは終わってるはずだから、あとはほどよく煮えるのを待ってるだけのはず。ヒナ、いいよね?」


 少し離れたところで、スープ鍋を見てるヒナに声をかける。


「スープ完成まであと30分弱。その間、セリーヌの手伝いができる」


「ヒナ殿、済まない……。せっかく料理5のスキルを持ってるのに、肝心のレシピを知らないのだ。女子として恥ずかしすぎる……」


 これまでのセリーヌは、冒険者と騎士との両立で精一杯だったんだろうな。

 だから、せっかくの料理スキルを生かせる機会がなかったんだ。


 なのに【料理】のレベルが5もあるのは、おそらく警備隊や騎士団とかで、強制的に食事当番をやらされてたからだろう。


 軍隊や警備隊の食事なんて、食えりゃいいってレベルらしい。

 そう、アンガスさんから聞いたことがある。

 そんな料理でも、数をこなせばレベルは上がるってこと。


「イメルダのほうは……あれ? もう出来ちゃったの?」


 イメルダの担当は味の調整が難しい、川ハゼのアンチョビ漬け&仙人ニンニクのブルーブオイル塩パスタだ。


 塩辛いアンチョビと香りがつよい仙人ニンニクを、あっさりとしたブルーブオイルで焦げないように炒め、そこに塩と茹でたパスタを入れてさっと炒める。


 材料がシンプルなだけに、火加減・塩加減によっては食えたもんじゃなくなる高難度の料理だ。


 それだけに、いまのところイメルダ以外には作れない。

 ちなみにイメルダの料理スキルは、なんとレベル7!


 俺の料理師匠2のほうが上なんだけど、なんでかイメルダが作ったほうが美味しい。

 やっぱクラフト系のスキルは、レベルが高けりゃいいってわけじゃないみたい。


「はい。パスタはできたてが一番美味しいですので、いまはインベントリに入れてあります」


「あれ? イメルダのインベントリって、時間停止機能付きだっけ?」


「いいえ。入れたのは春都様のインベントリです。先日に頂いた春都様謹製のショルダーポーチを、春都様のインベントリにつなげさせて頂きました」


「せっかくあげたんだから、自分のにつなげればいいのに……」


「わたくしのインベントリは粗末なものですので、あまり役にたちません」


 たしかに奴隷のインベントリだと、最低限のスペースしか与えられない。

 たとえ生まれつきチートなインベントリを持っていても、奴隷に落ちた時点ですべての付与機能を使役主に奪われてしまう。


 これを知った時、本気でイメルダの奴隷使役を解除しようって思ったけど、それはヒナに止められた。


 この世界の常識だと、伯爵クラスから奴隷として与えられた場合、最低でも一年間は解放できないみたい。早々に解放するのは、提供した者の顔に泥を塗る行為なんだって。


「うーん、じゃあ仕方ないなー」


 そのうちポーチのほうに魔導術式を追加して、イメルダのインベントリ機能を拡張してやろう。


 インベントリ機能は、各人の固有能力に直結してる。

 だから生まれつき機能が決まってるけど、レベルが上がれば機能が追加される可能性は残ってる。


 でもそれは確実じゃないから、ポーチに機能を追加することで、間接的にインベントリ機能を拡張するのは意味のある事なんだ。


「春都様。今日のパスタは格段の出来ですので、それでご機嫌をなおして頂けますか?」


「えっ? あ、はい……」


 なんか返事したときの態度から、気分を害したって勘違いされたみたい。

 実際は、そんなことないんだけどね。


 ここらへん、イメルダは気を回しすぎだよなー。


 30分後……。

 ささやかながら、あったかい山賊スープにイメルダ謹製の絶品パスタ、セリーヌの愛情がてんこ盛りのミックスサラダ、そして俺の力技による山羊肉ステーキによる饗宴がはじまった。


 思えば前世では、会社から帰っても1人ぼっちのアパートで、コンビニ弁当かインスタント食品、菓子パン、スーパーの惣菜とかで夕食にしてたよな……。


 給料が安すぎて、外食なんてぜいたく、よっぽどじゃないとできなかったから。


 それが今じゃ、みんなと楽しく会話しながら豪華な夕食をたべられる。

 これだけでも、こっちのほうが全然いい!


「春都殿、サラダのおかわりはいらぬか?」


 美味しくできたのが嬉しいみたいで、セリーヌがやけに薦めてくる。

 これは断われない。


「もぐもぐ……あのさ。食事が終わったら、今日の経験値譲渡と獲得した魔法とスキルを分配するからね。あした5階層に降りるためには、ぜったい必要なことだから」


「今日はみんなが頑張ったので、さぞや成果もたくさん得られただろうな。楽しみだ」


「あ、いや……頑張ったっていっても主に2階層と3階層だから、イメルダはけっこうレベルアップすると思うけど、セリーヌとリアナは相応しか上がらないと思うよ。でも収集能力の提供のほうは、数をこなしたぶん沢山あるから、こっちは期待していいと思う」


 あくまで今日は、イメルダの総合レベルを上げるためのものだった。

 でも実際にやらせてみたら、イメルダのキャラクタースキルが凄すぎて、2階層では敵なし、3階層でも中ボスを除けばソロでも大丈夫だった。


 でもそれは、やらせてみてわかったことだから、すっ飛ばかして4階層に行けたわけじゃない。


「私はもう、冒険者として生きることに決めた。だから明日の5階層では、絶対にヘマをしない。そう決心した」


 やっぱセリーヌ、気にしてるんだな。


 4階層でも、セリーヌがソロでヘルタースケルトンの集団に囲まれたらヤバイ。

 だけどあの時は、ガルバンクの魔法玉のせいでああなったわけで、ふつうは1匹か2匹しか出現しないはず。


 てことは中ボス以外、4階層でも、ほぼセリーヌだけで対処できるんじゃないかな?

 ヒナの意見も聞いたけど、いまのパーティーで5階層に行っても大丈夫らしい。


 ひどい怪我をさせない範囲で、可能なかぎりレベルを上げる。

 それが俺の作戦なんだから、もうガルバンクみたいなアクシデントは御免だ。


「パーティー仲間が力をあわせて戦うことで、1ランク上の敵でも撃破できる。明日はその連携を中心に訓練しつつレベリングするから、その覚悟で挑んでほしい」


 とか偉そうに言ったけど……。

 俺もパーティー連携なんて、前世のゲームでしか知らない。

 でもヘルプと検索、それにヒナのアドバイスがあれば、なんとか対処できるはず。


 残りの猶予は、あす1日のみ。

 明日までに鍛練目標を達成できれば、戦争に参加しても大丈夫。

 だから、がんばらなくっちゃ……。


 食事を終えて、いよいよ能力と経験値を提供する時間になった。


「今回はイメルダを優先する。ええと……生活魔法の【浄化】と【罠】、魔法の【麻痺】【業火】【物理防御】、スキルの【短剣術】【俊足】を提供するよ。それから経験値譲渡で、イメルダの総合レベルが39まで上がったから、これで4階層の出だしはなんとかなるって思う」


「たった一日で、18もレベルが上がったのですか?」


 滅多なことでは感情を顔に出さないイメルダが、心底から驚いてる。


「だって自分で稼いだのとあわせて、20倍の経験値獲得増加だもん。セリーヌとリアナはもう慣れてるけど、イメルダもはやく慣れてね」


「………」


 イメルダが黙りこんだ。

 なんとかして、自分を納得させてるみたい。


「つぎはセリーヌ。生活魔法は【灯光】だけか。魔法は……あっ! パッシブの【自動回復】がある。これ、MPとHPの両方を回復させる優れものだよ! これを提供するけど、ムチャしちゃダメだからな」


「わかった。肝に命じておく」


「あとの魔法は、【状態回復】だな。セリーヌはすでに【治癒】【極光】を覚えてるから、これでいいだろ。スキルは……提供できるのは【物理抵抗】かな?」


 スキルの【物理抵抗】は魔法の【物理障壁】とは違って、肉体そのものに抵抗力をつけるものだ。


 俺は持ってないけど、かわりに魔法の【物理障壁】がある。だから両方もってないセリーヌにプレゼントしたんだ。


「それからスキルの【覇気】、これは重ねあわせでレベルが上がる、と。あ、魔法の【治癒】がたくさんあるから、これも4個重ねてレベル5にできる。総合レベルは……おめでとう! レベル50だ!!」


 誉められたセリーヌ、顔まっか。

 すごく喜んでる。


 ちなみに……。

 すでに持ってる魔法やスキルと同じものは、だ。


 重ねあわせるとレベルが上がるから、同じものが何個あっても無駄にならない。

 ただしレベルが高くなると、1レベル上げるのに何個か必要になるみたい。


 俺のパーティー仲間は、この仕組みがあるおかげで、よその人たちよりずっと強い魔法とスキルを手に入れられる。


 ただし……。

 重ねあわせは俺のチートスキル【能力収集】あってのことだから、一般人はどうあがいても不可能だ。


 だから、もうみんな、同レベルの冒険者とは比べられないほどの強者に育ってるんじゃないかな。


「最後はリアナ。リアナは油断しすぎるとこがあるから、ヘルタースケルトンに切られちゃったんだよな? だったら提供するのは、スキルの【強化】3個一択! これで一気にレベル5になるから、今後は戦闘開始前にかならず掛けること。あと【治癒】2個で、セリーヌと同じくレベル5だ。総合レベルは46。もういっぱしの冒険者だな」


「ぐへへへへ~。これで無双できる~」


 だから……それが油断なの。


 残ってるのは、初級魔法と初級スキルばっか。

 それでも重ねがけすれば役にたつから、適当にばらまいていく。


 結果、リアナは魔法が【火玉8】【風刃5】/【睡魔4】/【石化4】、スキルが【加速4】/【強化7】/【声援3】/【杖術4】に大幅アップした。


 セリーヌは魔法が【石つぶて9】/【鉄拳6】/【磐石5】/【雷撃耐性3】/【投岩6】、スキルは【咆哮4】【隠密5】【覇気6】【鑑定4】になった。


 イメルダは魔法が【火炎弾3】/【毒霧5】/【雷撃3)/【気迫5】/【忍び足6】に、スキルが【隠密5】/【刺針5】/【尾鞭4】/【毒ブレス4】になった。


 俺は経験値をぜんぶ譲渡したから、総合レベルのアップはなし。

 まったく戦わなかったから、魔法とスキルのレベルアップもなし……。

 だからじゃないけど、あしたは俺も稼ぐからな!


 それにしても……。

 ふつうの冒険者だと、どう頑張っても数年はかかるレベルアップを、たった2日で達成してしまうのって、ほんとチートだよねー。


 そんな……数年もかかるはずないって?


 そう俺も思ったんだけど、よく考えるとこのダンジョン、最低でもCランクじゃないと入れないんだよね。


 たとえばセリーヌは、アナベルの警備長をしてた頃からC級冒険者だったけど、あの頃の強さは、ソロだと2階層のゴブリンカーネルにさえ瞬殺される程度だったよね?


 リアナも同じ。

 最初に降臨した時点では、イメルダと同じくらいのレベルだった。

 だからあの頃だと、このダンジョンの2階層のザコ相手でも死んじゃう。


 となると、ふつうの初心者が安全に稼ぐには、もっと低ランクのダンジョンやフィールドに行くしかない。


 そこで一日がんばっても、討伐数のわりに得られる経験値がすごく少ない……。


 こうなると総合レベルだけじゃなく、スキルや魔法のレベルも上がらない。

 収集能力を使ったスキルや魔法の提供も受けられないから、わずかな数の低レベルスキルと魔法だけで戦わなきゃならなくなる。


 そもそも一般の冒険者だと、のきなみステータスの初期値が低いでしょ?

 ダンジョンに入る前の、イメルダのステータスを見れば一目瞭然。


 たぶん気のせいじゃなくて、うちのパーティー効果って、ステータス値の上昇率にも多少は影響してる気がする。


 ここらへんすべてを入れた上で、駄目押しのなんだ。

 考えてみれば一般冒険者って、なんか可哀想だよね。

 努力の割りに見入りが少なすぎて……。


 とか、考えながら……。

 俺以外のみんなを、明日にそなえて眠りにつかせる。


 安息所にはダンジョン謹製の簡易バリアがあるけど、たいしたもんじゃないから見張りは必要だ。


 最初の見張り番は俺で、3時間後にセリーヌ、つぎがイメルダ。

 リアナには危なっかしすぎて任せられないし、ヒナは明日のサポートのため寝てもらった。


「くーくー」


 黙って座ってると、だれかの寝息が聞こえてくる。

 みんな、強くなった実感を噛みしめながら眠ったのかな……。


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