第38話 セリーヌへのプレゼント。
「えええええ――っ!? 騎士をやめちゃったのー!!」
伯爵のところに行ったセリーヌは、そこで公領騎士の辞職願いを出しちゃったんだって。
辞職の理由は、これから俺といっしょに行動するのに、騎士としてじゃなく冒険者としてしたいからだって。
たしかに……騎士は、規則でがんじがらめにされてる。
しかもセリーヌは、アナベルの現役警備長だ。
こんな状況で長期間、俺のパーティーに参加してるんだ。
あれこれ気になって集中できないのは当然かも?
今回の大怪我も、騎士の甲胄にこだわらなければ……。
そう考えるのも無理はない。
だって騎士団の防具なんて、見た目は凄いけど、実際はタダの鋼鉄製甲胄だもんね。
セリーヌくらいの冒険者だったら、もっと自分の戦いかたにあった防具や、魔法がエンチャントされてる防具のほうがいいに決まってる。
それらが積もり積もって今回、騎士職へのこだわりから、みんなに取り返しのつかないほどの迷惑を掛けてしまった……。
俺はそんなこと思ってないんだけど、すくなくともセリーヌはそう思ってしまったらしい。
騎士としてのセリーヌは、あの爆発とともに死んだ。
ならば今の自分は、助けてくれた仲間のために尽くすべき……。
すごくセリーヌらしい、生真面目な決断だ。
だから俺たちも、彼女の決心を受け入れることにした。
「ああ、やめた。伯爵様に理由を告げたら納得していただけた。だから、あとのことは心配しなくていいが、春都殿のサポートだけは命をかけてやり遂げろと言われた。それが辞職を許す条件だそうだ。もちろん私は快諾した。最初からそのつもりだからな」
おいおい伯爵さん、なんてこと言ってくれたの?
重すぎるよ、それ。
「そこで春都殿……厚かましい申し出なのだが、私用の防具を作ってくれないだろうか。騎士用のフルプレートより防御力が高い防具となると、町で買うとべらぼうな値段になるから、私の資産では買えないのだ。だから恥を忍んで頼む……」
あー。
セリーヌも、あの甲胄じゃダメだって気づいたんだな。
「わかった。あしたの朝、手持ちの素材で作ってやるよ」
「すまない。本当に足手まといになることばかりで……すまない」
「あのさ……セリーヌ。これから本当の仲間になるのなら、その態度はやめてほしいな。これまでも騎士の義務でつき合ってたわけじゃないだろ? 俺はとっくの昔に仲間って思ってたんだから、もう遠慮はしちゃダメだ。おまえが倒れたら俺たちもヤバくなる。だから強化する。そう思ってほしい」
椅子に座り、うつむきながらしゃべってたセリーヌ。
いきなり顔をあげて俺を見た。
――ぶわっ!
ホントそんな感じで、セリーヌの目から涙が溢れはじめる。
これまで内に秘めてた思いが、いっきに噴き出た感じ。
「そ、そうと決まったら、今日は早寝しなきゃなー(棒)。みんなも疲れてるだろうから、さっさと寝ようねー(棒)」
女の子の涙には、まったく慣れてない。
思わずセリフが棒読みになる。
でも、だれも動かない。
しかたなく、俺が率先して主寝室のベッドに潜りこんだ。
布団をかぶって寝たふりをしてたら、なんかモゾモゾ動いてる。
「………?」
「春都殿……今夜だけは、となりで寝させて欲しい」
足のほうから、セリーヌが這いあがってくる。
「ちょ、ちょー」
「一世一代の決心をして冒険者になったのだ。御褒美に……いいだろう?」
「はるとー。あたしもー」
「むう。みんながそうするなら、ボクも」
「お、おい、コラ! 入ってくるな!! あーヒナ、下着になるんじゃない!!」
あせってベッドを抜け出そうとしたら、全員の手足でがんじがらめにされた。
ふりほどこうとしたら、あちこち柔らかいモノが……。
ふにゃーと力が抜ける。
「い、いっしょに、眠るだけだからな! それ以外、なんもナシだからな!!」
「はるとー。それ以外ってなあにー」
コノヤロ、知ってて聞いてるな!?
あっ、セリーヌの巨乳が左腕に……。
やわらかい感触に挟まれて、とても眠れない……。
「皆様、お休みなさいませ」
なぜか楽しそうなイメルダの声。
イメルダまで入ってくるかと思ったら、しっかり自室へ去っていった。
生まれてから、もっとも長い夜が始まってしまう!
と……思ったら、疲れてたせいでストンと意識を失ってしまった。
※
だれよりも早く目をさました。
もう、ばっちり。
もちろん何もしてない。
なにも、なかったよね?
ううう……記憶がない。
よし、ばっくれよう!
「さて、作るか」
主寝室をあとにして、リビングにある暖炉の前にいく。
煉瓦が敷かれた暖炉の前の床にあぐらをかく。
インベントリから防具の材料になる素材を取りだしていく。
セリーヌは前衛でタンク役と近接戦闘役をこなすから、防御力と耐久力をあげる仕様にするつもり。
でも金属プレートみたいに、重くて動きを妨げるものは使わせたくない。
そうなると、軽くて丈夫な特殊素材を使ったものしかないよね?
「錬金師匠4、素材加工」
ミスリル/オリハルコン/アダマンタイトを、髪の毛の太さの糸に加工していく。
「織物師匠1、紡績」
三種の金属糸を寄り合わせ、そこにインフェルノアビスヒュドラの血を精製した神級魔防薬を染み込ませていく。
この神級魔防薬は、ヒュドラのスキル【猛毒】【業火】【雷撃】を完全無効化するトンデモ性能を持ってるんだ。これは付与魔法と違って常時発動だし、金属糸に浸透して一体化するため効果が消失することもない。
「錬金師匠4、鍛造」
つぎにインフェルノアビスヒュドラの鱗を重ねて鍛造し、ハーフプレートやウエストガード、アームカバー、すね当てなんかを作っていく。
「織物師匠1、機織」
金属糸だけだと重くなるので、鋼鉄なみの強度をもつカイザースパイダーの糸でアンダーウェア用の布を織る。
「錬金師匠4、一体化」
アンダーウェアとハーフプレート/ウエストガードを、それぞれ着やすいように一体化成形する。
これで見た感じ、ビキニアーマーみたいなエロさはなくなる。
セリーヌのビキニアーマーは見てみたいけど、実用性を考えると却下だよね。
「錬金師匠4、鍛造」
小さな合金板を作る。
これは各防具に取りつけるネームプレートみたいなもので、それに常時発動型の付与魔法を刻みこむことで、さらなる性能アップをめざすつもり。
「彫金師匠1、魔導彫金」
せっかくだから、ちょっと豪華に【彫金】で魔導術式を刻んでいく。
付与するのは【HP常時回復1】【MP常時回復1】【硬化2/不破壊2/軽量2/慣性減2】。
もう絶対にセリーヌを傷つけないって、強く思いを込めて刻んでいく。
とはいっても絶対無傷って、一般付与魔法じゃムリなんだけどね。
せいぜいダメージを軽減するくらいが精一杯。
「できた……鑑定」
(【古き蛇神の装身具】SSS級防具。あと少しで神話級。固有能力として【金剛阻止】を保有。【金剛阻止】は、相手の攻撃力を超加重で受け止め威力を半減させるスキル。同時に受けた物理攻撃力の半分を反射する)
思ってたより凄いのができちゃった……。
「あふぅ……ああ……あれ?」
寝ぼけ眼でセリーヌが寝室から出てきた。
「おあっ!」
セリーヌ、下着姿!
「う、上着! 上着、着て!!」
「うん……あ、きゃあっ!」
あ、想定外にかわいい声。
真っ赤になって自分の部屋に走っていく。
「ふあああ……おはよー」
リアナも下着姿。
いったい何があった!
「リアナ、着がえてこい。帰還!」
「あう、ひど……」
ヒナは……まだ寝てるみたい。
なんか、どっと疲れた。
さて、気を取りなおそう。
まず顔を洗って朝食を食べる。
それが終わったら、セリーヌに防具の具合を見てもらう。
ちなみに……驚いたことがある。
それはイメルダのメイド服。
伯爵邸で働くメイドたちは、2種類のメイド服を支給されてるんだって。
ひとつは日常業務用のメイド服。
もうひとつは戦闘用メイド服だ。
そこらへんに売ってるハーフプレートより防御力が高く、【刃防】【衝撃減少】が常時付与されてる魔道具でもある。もちろんオーダーメイドだから、買うとしたらめっちゃ高いはず。
でも、うちのパーティー用としては物足りない。
だからこれも魔改造する!
そうそう、ヒュドラからドロップした純粋なオリハルコンの短宝剣、これもイメルダ用に魔改造しなきゃ。
結果……。
戦闘メイド服には、オリハルコン極微糸で編んだチェーンメイルを裏打ちして、物理防御と魔法防御の両方を大幅に向上させた。
その上でイメルダの職業特性を最大限に生かすため、胸元にナツメ大の魔結晶を取り付けた。
魔結晶を使って、服全体に【速度増大】【重量軽減】【慣性軽減】【刺突力増大】を常時付与する魔法術式を縫い込んだのよ。どう、すごい?
短宝剣は錬金師匠5で再鍛造して、純度と硬度/柔軟度を飛躍的に向上させた。
その上で刀身部の両側に2個ずつ、合計4個の魔結晶を埋めこんだ。
この魔結晶はバッテリーみたいな働きをするんだ。
使用者の魔力を注いでもいいけど、大気中の魔素を常時チャージしても満タンにできるから、こっちのほうが勝手がいいはず。
魔導術式は柄の部分に刻んだ。
常時発動するのは、俺の黒震剣とおなじ【高速振動】。
それプラス【不破壊】と【貫通力増大】。
戦闘時に魔力をそそいで発動するのが、今回の目玉――【光刃】。
これは短剣の刃の先に、最長2メートルもの光の刃を発生させる術式だ。
しかも魔法破壊力だけでなく、なんと物理破壊力もある。
なんか昔に見た宇宙SF活劇に出てくる光の剣みたいだけど、じっさいそのイメージで作ったんだからしょうがないだろー。
【光刃】単体だと大した威力はない。
でもこれに【高速振動】【貫通力増大】【刺突力増大】【速度増大】が加わると、けっこう恐ろしいことになる。
まだ実験してないけど、たぶんあのスカルドラゴンの硬い骨でも、キュウリを切るみたいにスパスパ切れちゃうはず。
突けば突いたで、最強の甲羅をもつアダマンタイトグランドタートルの甲羅すら貫通できるって思う。まあ、試してないから憶測だけど。
名づけて【
これはイメルダのたっての望みで、俺がつけさせてもらった。
超がつくくらい純度をあげたアダマンタイトは、透き通るような紅色になる。
ところが魔力を流すと、一転して漆黒に変化する。
まさに暗殺のための武器……。
ということで【紅闇】と名づけたんだ。
レベル20台のイメルダに持たせる武器じゃないって?
だって……もう傷ついてほしくないんだもん。
過保護って言いたきゃ言っていいよ。事実だから。
というわけで……。
武器と防具を渡したあと、2時間ほどで大量の買い物をすませる。
そして俺たちは、ふたたび地下ダンジョンに入った。
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