第33話 レベルングは順調?


 神話級モンスターの多段階変異ヒュドラは、一筋縄ではいかない相手みたいだ。


 たしかに、ヒナたちにはアドバイスしてもらった。

 だけど相手のレベルが高すぎて鑑定魔法が効かない。

 だから細かいところがわからないのが痛い。


 しかたなく、ある程度は憶測で準備するしかない。


「ええと……各自で防御系をかけて! 俺も……【魔法障壁4】【物理障壁4】、ついでに【多重防壁3】。【破壊防止3】【切断強化3】【邪気防御3】も追加!!」


 リアナは自分に【加速1】【強化1】をかけてる。

 それが終ると、【木人形1】で木製ゴーレムを召喚した。


 セリーヌは【馬鹿力3】【魔法盾2】【覇気2】【不退転2】【身体強化3】【眼光3】【隠密3】をかけてる最中。


 俺が声に出して術を掛けてるからか、みんなマネして声を出してる。

 これって他人からみたら、けっこう引いちゃう光景だよねー。


「春都。魔法盾を使って」


 うしろに隠れてるヒナが、俺の不手際を指摘する。


「おっと忘れてた、魔法盾!」


 魔法盾3で、3個の空飛ぶ金色の盾が現われる。

 この盾は自動制御魔法だから、出したら勝手に守ってくれるので超便利。


 あらかたの攻撃は、飛びまわる魔法盾で防ぐことができる。

 でも防御できる回数に制限があるから、壊れる前に倒さないと。


 相手の攻撃を完全防御しつつ先手必勝……これが俺の考えた作戦。


 ――ゴッゴッ!


 木人形が腕を振りまわしながらヒュドラに突入する。

 ヒュドラの左の首が炎を吐く。


 たちまち木人形が火だるまになる。

 でも、すぐには燃えつきない。めらめら燃える人形って、なんか強そう。


「行くぞ!!」

「瞬間加速4!」


 セリーヌが突入する寸前、【瞬間加速4】をかけてやる。

 通常の4倍もの加速……ハンパないわ、これ!

 俺でも見失いそうになる。


「乱撃3倍!」


 乱撃3倍――1秒間で30発。

 これでもかとセリーヌが愛剣【蒼輝斬】を叩きこむ。


 まさに生きた破壊槌そのもの!

 いくら変異種でも大ダメージを受けるはず。


「鋼槍玉4連、ぽい」


 ――ドガガガガッ!


 空中に鋼の槍が現われると、すぐ4連続でヒュドラに突き刺さっていく。


 あれ?

 なんか違和感。


「ヒナの魔法玉、びみょーにパワーアップしてない?」


「ボクの魔法玉の自由使用権限は、春都の総合レベルにともなって拡張される。現在は専門魔法2相当まで自由裁量」


 だからそういうの、事前に教えてってば!

 こうなると俺も負けてらんない。


「武器付与、氷結3」


 愛剣【黒震剣】に、水系上位の付与魔法を仕込む。

 ヒュドラは火/毒/電の能力を持ってるけど、水系はなさそうに見える。

 そこで水系の【氷結】を使ってみようって思ったんだ。


「うおりゃ――っ!」


 ――ピキーン!


 太い胴体を黒震剣に切り裂かれ、そこから氷結が広がりはじめる。


「よし、全力で倒すぞ!!」


 ボコスカ、タコ殴り。

 セリーヌと俺、滅多切り。ヒナ、魔法玉投げまくり。


 リアナは……なぜか【眩惑】をかけてる。

 もらったばかりの魔法だから、使ってみたかったんだろうなー。うん。


 わずか、2分少々――。

 ヒュドラは細切れの肉塊に変貌してしまった。


「なんか……拍子抜け。もうすこし強いかって思ってた」


「このヒュドラは閉じこめられてたから、生まれてこのかた戦ってない。大量の魔素で変異して総合レベルとステータスが上がっただけ。戦ってないから魔法やスキルは成長していない」


 ヒナの、いつもの説明。


「そうなん?」


 俺が強すぎたわけじゃないの?

 疑問視しつつ死んだヒュドラを鑑定してみる。


 死んだら高度隠蔽も解除されるから、本当の姿が見れるはず。


「レ、レベル175!? インフェルノアビスヒュドラ……なにこれ!!」


 俺のレベル、いま156。

 現在は経験値ストック中だから、勝手にレベルアップはしない。


「レベルは変異によって大幅に上がるけど、その間まったく戦ってないから、ステータスの上昇は最小限。魔法やスキルも初期値のまま。だから勝てた」


 俺が納得してなかったからか、ヒナが重ねて説明した。


「だよなー、楽勝すぎたもん。でもレベル高いぶん、あれこれゲットできるんだろ? 結果的にラッキーだったじゃん」


 大量の魔法とスキルが、収集能力欄に収納されてる。

 もちろん途方もない経験値も。


「レアドロップがある!」


 目ざとくセリーヌが叫ぶ。

 視線を移すと、見事な装飾が施された短剣が落ちていた。


「鑑定」


 呪いのアイテムを疑い、拾いあげる前に鑑定する。


「呪いは……ないな。だって。ちょっと改造すればイメルダ用の暗殺武器に仕立てられそうだな」


「ちょ、は、春都殿! その短剣、売ればになるぞ。それをイメルダ殿のために改造するなんて正気の沙汰じゃない!!」


 セリーヌが血相を変えて抗議した。

 貴金貨は貴族や王族専用の大型貨幣で、白金貨100枚の価値があるらしい。

 白金貨1枚は日本換算だと10万円……。


 ということは……い、1億円!!!

 宝剣ってのダテじゃなかった。


 うーむ、盛大に決心がゆらぐ。

 でも決めた。


「600年かけて育まれたアイテムだから、たぶんもう二度とドロップしないだろ? だからこそ、イメルダのために使ってやりたいんだ。セリーヌたちの武器は、レベルアップにともなってしょっちゅう更新しなくちゃならんけど、暗殺者の武器は信頼第一だから一生モノじゃん? それをプレゼントしてやりたい」


 問題があるとすればレベルによる使用制限だけど、いまの俺は錬金師匠4だから、まあ何とかなるだろ……なるよね?


「いいんじゃないのー」


 金銭感覚に乏しいリアナが、即答で賛成してくれた。


「ま、まあ、春都殿がそう申されるのなら……」


 セリーヌは、金にこだわった事を恥ずかしがってる。


「ボクは全面的に賛成する」


 うん、ヒナがそう言うの知ってた。


「まあ……金銭的には、これがあるし」


 インベントリにヒュドラを入れながら言う。

 多段階変異種だから極めて貴重……だから分別せず丸ごと入れる。

 解体はギルドに任せるつもり。


 下手するとドラゴン素材より高価かもしれない。

 当然、売れば大金が転がりこむ。


 ちなみに、ここはC級むけの3階層。

 だから今後、中ボス部屋ここでヒュドラがリポップしても、おそらくC級むけの小さな一般ヒュドラしか出現しない。


 つまり神話級ヒュドラは、これっきりの敵だったわけだ。


「あ、レベルが上がったー。【神話】、きたー!」


 リアナが言った【神話】は、神話級とかの意味じゃない。

で、リアナだけ全世界にいる高レベル聖職者と会話できる能力らしい。


 これはレベル30で解放されるはずだから、ヒュドラを倒した経験値で一気に30を突破したことになる。もちろんパーティー特権でのレベルアップだ。


「うん? 私もレベルアップしたが……なぜか【念話】が追加されてるぞ?」


「あ、俺も。なんで?」


 ヒナは最初から神話相当の天界のシステム通信を持ってるから、これで全員が【神話】もしくは【念話】を体得したことになるんだけど……なんで?


「リアナが【神話】を体得したことで、パーティー仲間も自動的に【念話】で会話ができるようになった。これはパーティー版の女神の加護。ただしパーティーから外れると使えなくなる」


 ヒナの口調じゃ、どうも天界システムのサプライズみたい。

 ていうか、この【念話】、ようはパーティー用のボイスチャットだろ?


「はるとー。見てみてー! あたし総合レベル34になったー!」


 そう言いながら、リアナが自分のステータスを見せる。



 氏名・種族 リアナ(堕天女神)

 職業 魔法士 (春都の眷属)

 称号 インフェルノバスター


 総合レベル 34

 スキルポイント 40


 HP 2960

 MP 3120

 物理攻撃 126 物理防御 164

 魔法攻撃 155 魔法防御 146

  素早さ 56 知力 10

   幸運 65 器用 44


 生活魔法 種火/飲料水/微風/土塊/浄化/灯光


 専門魔法1 火玉3/風刃3/睡魔2

 専門魔法2 石槍2/麻痺2/治癒3/状態回復3

 専門魔法3 眩惑2/魅了1/遅延1


 神術 全域厄災神術【天威轟雷】(レベル999で解放)

    天の守り(レベル888で解放)

    女神の本気(レベル上限突破で解放)


一般スキル 加速2/強化2/声援1

      杖術2


特殊スキル 神話

      完全回復(レベル100で解放)

      完全修復(レベル200で解放)

      蘇生(レベル500で解放)

      女神の威光(レベル50で解放)

      木人形2



 おっ、一般の冒険者にくらべても、すこし強いくらいになった?

 木人形もレベル2になってる。


 でも、【魅了】魔法って……なんか邪悪な使いかたしそうなんですけど。


「春都殿、私のステータスもチェックしてほしい」


 なんかセリーヌがモジモジしながら言ってきた。

 見せたいなら自分で開いて見せればいいのに。

 まあプライバシーの最たるもんだから、きっと恥ずかしいんだろうな。



 氏名・種族 セリーヌ 17歳(人間)

 職業 公領一般騎士/悩める乙女

 称号 インフェルノバスター


 総合レベル 42

 スキルポイント 120


 HP 4450

 MP 3530


 物理攻撃 288 物理防御 313

 魔法攻撃 134 魔法防御 143

  素早さ 124 知力 117

   幸運  75 器用 76


 生活魔法 種火/浄化/温水/粉砕/癒し


 専門魔法1 石つぶて7/鉄拳3/磐石3

 専門魔法2 投岩4/火炎弾4

 専門魔法3 魔法盾2/魔法槍2/目潰し2


武器付与魔法 加速7/氷結5/斬撃5/空斬4/乱撃4

防具付与魔法 強固3/軽量3


一般スキル 剣術6/片手剣6/打撃3

      槍術3/馬上槍2

      身体強化4/眼光4/隠密4/粘着1/ドリル突き1

      料理5/鑑定3/覇気3/不退転3


特殊スキル 馬鹿力3(短時間、全能力が3倍)

      煉獄の断罪2(炎剣を同時に14本出現させる。レベルは威力に関係)



 リアナとセリーヌに称号がついてる。

 あ、俺にもついてる。

 インフェルノバスターって……インフェルノアビスヒュドラを倒したから?


 んんんん……セリーヌの職業欄に【悩める乙女】って。

 そもそも職業か、これ?


 あれこれ座りこんでチェックしたいけど……先を急がないと。

 そう思い、ざわめく心を封印して2人に声をかける。


「みんな、聞いて! ここが中ボス部屋なら、近くに下への階段があるはず。隠し部屋にいるところを、ほかの冒険者に見られたくない。だから、さっさと4階層にいこう!」


 そう宣言して精密探査を実行する。

 通路の先を右に曲がり、すこし先に行ったとこに階段があった。


 いよいよ本命の4階層だ。

 ここはB級冒険者用だから、C級のセリーヌたちを効率よく育てられるはず。

 さあ、行こう!


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