第32話 神話級モンスター、きたー!


 結局……。

 3階層の安息所で1時間くらい待って、大半の冒険者が出かけたのを確認してから、ようやく出発した。


 なんで待ってたのかといえば、あせって身バレするのはイヤだから。


「ここまで倒した魔物から、いくつか魔法とスキルを手に入れた。セリーヌとリアナに譲渡できるけど、いる?」


「はあ?」


 リアナは無反応。

 セリーヌはすごく驚いてる。


「ほら、ヒナが言ってたじゃん。【能力収集/能力提供】の特殊スキルが追加されたって。あれを使うと、倒した魔物から魔法とかスキルを手にいれられて、それを仲間に譲渡できるんだよ」


 そう言うと、ステータスに新設された【収集能力欄】を見せる。



 収集能力欄

  生活魔法 灯光/癒し

  専門魔法 眩惑1

   スキル 粘着1/ドリル突き1/遁走1


「セリーヌは【灯光】もってなかったよね? じゃ譲渡と。【癒し】は、これもセリーヌだな。【粘着1】と【ドリル突き1】もあげる。【遁走1】は……リアナにやると逃げまくりそうだから、これは俺と。それじゃリアナには【眩惑1】を……おっ! これ専門魔法3じゃん!!」


 リアナのステータスを見たら、しっかり専門魔法3に【眩惑1】が入ってる。

 たしかこれ、ダマシタヌキの魔法だけど、けっこう優秀な魔物だったんだな。


「えへへへ……専門魔法3が使えるようになったー」


 でれ顔になって喜んでる。

 もはや万能女神の面影、片鱗もないなー。


「生活魔法の【癒し】は、回復系魔法を持ってなかった私には助かる。ありがとう!」


 セリーヌが笑顔で感謝の言葉を口にした。

 いや、しょせんは生活魔法なんだけど……。


 なんか、昨日あたりから素直すぎない?

 心境の変化でもあった?


「これで収集能力欄は空になった……っと。そうそう、経験値も溜めてるから、今日寝る前に分配するね。それもあるから、これからガンガン稼がないと」


 そこまで言って、ふと考える。


「うーん……よく考えたら、イメルダとの差が開いちゃうな。この次からはイメルダにも頑張ってもらうか。きのうステータス見たら、いちおうC級冒険者もってるみたいだし。総合レベルも21あったから、どこかで集中的にレベルアップさせるか」


 3階層の通路を歩きながら、ぶつぶつ言ってる俺。

 気になったのか、セリーヌが怪訝そうに聞いてきた。


「イメルダ殿は非戦闘員ではないのか?」


「うん、基本的にはそうなんだけどね。でも一緒に旅をするんだから、最低限の強さは身に付けてもらいたいんだ。俺たちが強くなればなるほど、相対的にイメルダの危険度が大きくなっちゃうだろ? これは避けたいんだ。それに……イメルダのステータス、見せてもらった?」


「いや見ていない。春都殿は使役主だから見る必要があるだろうが……彼女が自主的に見せでもしないかぎり、気にしないのが冒険者のマナーになっている」


「そうなん? でも一度は、パーティー仲間として見といたほうがいいと思うけどなー。なんせイメルダって、職業欄に【暗殺者】ってあるんだもん。気になるだろ?」


「な、なんと!!」


 セリーヌが、ひょいと体をかわすポーズで驚いた。

 も、もしかして、オチャメぶりっこした?


「お、おう……やっぱ知らなかった? 伯爵の騎士だから知ってるかもって思ったんだけど」


 伯爵の館には、専門の衛士や騎士がいなかった。

 セリーヌたち公領騎士団の屯所は屋敷のとなりの敷地にあるけど、屋敷内には命じられない限り入れないみたい。


 もちろん執事やメイド、庭番、馬屋番、コックなどは多数いた。

 だけど防衛担当は誰もいなかった。だから不思議に思ったんだ。


「もしかして伯爵家の使用人は、メインの職業とは別に、隠された裏の職業を持ってるんじゃない? メイドや執事が戦闘や治療の技能を持ってれば、なんかあったとき役にたつもんね」


「うーむ。詳しいことは知らんが……そのような事を聞いたことはある」


「だろ?」


「そういえば……伯爵家のメイド長に聞いたんだが、コック長が薬士くすしを兼任できれば毒見が完璧にできるそうな。当然、伯爵家のコック長は薬士の技能持ちだ」


「それ以外にも、いろいろ考えられるぞ。コックが格闘士の職をもってれば、厨房の刃物はもちろん、あらゆる調理器具が武器になる。庭番は衛士や警務、植物をあつかう意味で妖精魔法士。馬屋番は獣操士ライダーとか錬獣士トレーナー、それこそ捕獲士ティマーでもいい」


「あの伯爵様だ。冗談じゃなく、使用人にはそういった技能を持たせているかも知れんな」


 うんうん、セリーヌと意見が一致して嬉しいぞ。

 つまりイメルダは、伯爵のメイドと護衛を兼任するため、【暗殺者】の職を獲得させられた可能性が高い。


 となりゃ話は簡単。

 あとは俺が10倍レベリングで、暗殺者の能力を急成長させればいい。


「ねー。暗殺職って何やる人なのー?」


 おい。

 もう言い疲れたけど、創世神のリアナが知らないでどーする。

 召喚されるごとに、記憶を天界に置き忘れてきてないか?


「イメルダの専門魔法に【忍び足4】【窒息1】とかあった。これは正面から戦うんじゃなく、背後から忍びよって、こっそり命を奪うためのものじゃない? 【気迫】もあるけど、これは相手を脅すスキルだから、たぶん戦闘を回避する場合とか逃げるときに必要なんだろうな」


「ふーん、暗殺者って言葉どおりなのねー。なんか裏ネタでもあるんかなーって思ったけど、違ってたみたい」


 なんだよ、その裏ネタって。


「一般スキルも【隠密2/暗器術5/刺針4】って、けっこう物騒だぞ。トドメは特殊スキルの【影縫い】。これと一般スキルを組みあわせると、こっそり敵に近づき、刺針で相手の影を縫いつけて行動を奪える。そこを暗器でぐさっ……これ、俺の【影隠密】魔法より実戦むきだよ」


 暗器術で急所をひと突き……これを不意打ちでやられると、俺でも殺されるかも?

 それくらい恐ろしい技だ。


「なんか悪巧みに使えそー」


「俺としちゃイメルダに、そんなことさせたくないな。でも鍛えれば、戦力的にはレベル以上に強くなりそうな気がする。だからイメルダは、俺たちにとってけっこう役立つ戦闘力になれるんじゃない?」


 メイドは主人のために尽くす。

 いつもは俺たちの活躍を陰から見守っているが、いざとなれば命を助るほどの力量を発揮する。そんな存在になって欲しい……。


「春都。会話中にごめんだけど……先のほうからイヤな気配を感じる」


 話に参加してなかったヒナが、きちんと周辺警戒をしてくれてたみたい。

 セリーヌはすでに、愛剣【蒼輝斬そうきざん】を構えている。

 俺も【黒震剣】を構えながら【精密探索】を使ってみる。


「あそこに隠し部屋がある」


 マップを見ると、通路の右の壁に、巧妙に隠された入口がある。

 ポイントしてみると、『肉眼や通常の探索などでは看破できない』ってコメントが書かれてた。


 入口を解放するには、仕掛けられた罠――【毒針】と【毒霧】【瞬間切断】の罠を解除しなければならないらしい。


「すこし下がって。


 たんに罠を解除するだけじゃ入口は開かない仕組みだ。

 罠を作動させるのがトリガーって、なんか嫌らしい。


「重力制御5、閉鎖空間」


 入口にある罠すべてを包みこむように、重力制御で閉鎖空間を形成する。

 閉鎖された空間が、虹色のバブルのように見える。

 これは空間を強引にネジ曲げる力技だから、強力な内向きの障壁になるんだ。


「風爆!」


 バブルの中で風の爆発を巻きおこす。

 一瞬、バブルが大きく膨らむが、すぐに元にもどる。


 ――キキキン!

 ――バシューッ!


 罠の【毒針】【毒霧】が作動した。


「清浄。閉鎖空間、解除。微風」


 まずバブル内部の毒素を浄化。

 閉鎖空間を解除して、空気の入れ替えをする。


「重力制御1、局所過重!」


 ――シャッ!

 ――ズゴゴッ!


 重力制御で、【瞬間切断】の術式を作動させたのち押し潰す。


【瞬間切断】は、切れ味絶大な【かまいたち】のようなものだ。

 凶悪なことに、首の高さを横になで斬りするよう設定されている。

 なにも知らずに罠にはまれば、毒で動きを制限された上で首チョンパ……。


 ゆっくりと壁の石組みが開きはじめる。

 部屋へ入れるようになった。


「春都殿。気をつけたほうがいい。中から強い殺気が漏れ出ている」


 魔導波なら俺も感じてる。中にいるヤツの魔力がビンビン伝わってきてる。

 なんせ600年近くも封印されてきた3階層の中ボス部屋だ。


 おそらく中の魔物は、溜りに溜まった魔素を吸って何段階も変異しているはず。

 こうなると相手のレベルは未知数……。


「……三頭のヒュドラだ!」


 セリーヌが一番に相手の正体を看破した。

 もしかして、これが個人修練度ってやつ?

 俺の【精密鑑定】でも、なかなか正体がわからなかったのに……。


 ヒュドラのもつ隠密スキルのレベルがハンパない。間違いなく限界突破してる。

 精密鑑定スキルを重ね掛けして、ようやく姿が見えるようになった。


「リアナ、情報ない?」


「えーと、えーと……」


 記憶にございませんでは済まんぞ。

 これ、おまえが設置したモンスターだろ?


「一般的なヒュドラは、猛毒を吐く多頭蛇の魔物となっているが……」


 役にたたないリアナに代わり、セリーヌが助言する。


「ヒナ、アドバイスして」


「一般的なのはセリーヌが言ったとおり。多頭だけど単一スキルで攻撃してくる」


「左の首、火吐いてるぞ。右は雷光、真ん中は毒霧? 単一スキルじゃないじゃん!」


「うん、間違いなく上級変異種。部屋に封印されてたせいで、天界データにも記録がない。だから、こんなアドバイスしかできなくてごめんなさい」


 もとのヒュドラのデータはあるけど、封印中に変異したあとのデータはない。

 言われてみりゃ当然かも?


「いいって。セリーヌの意見とあわせると、けっこう参考になったから」


 さて、どう攻めよう。

 鑑定してもレベルが不明なのは、俺よりずっと上だからだ。

 つまり最上級の勇者でも勝てない神話級の強敵……。


 でも実際問題として、レベルはともかく、俺のほうがステータスの数値は上のはず。

 まあ、戦ってみればわかるか!


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