第30話 イメルダは俺のもの!?


 さすがに伯爵邸の食事はものすごく美味しかった。


 とくにオークキングのテンダーロイン・ステーキは、黒毛和牛と黒豚のいいとこ取りみたいで、まったりと口の中でとろけるくせに、なぜか噛みごたえだけはしっかりあり、ほどよい塊となって喉を滑っていった。もちろん味は絶品!


「イメルダ。おまえは本日ただいまより、カンザキ勲功爵の専属メイドとして行動を共にしなさい。春都殿も遠慮せずイメルダを使って欲しい。彼女は勲功爵となったお祝い……殿


 うおぅ……お祝いに人を贈る? どゆこと?

 俺の表情が気になったのか、プラナール伯爵はあわてて言葉を重ねる。


「イメルダは当家のメイドだが、同時に使でもある。したがって使役主の私が春都殿へ譲る権利を持っている。これは貴族ではふつうの事だ。断るとかなりの失礼に当たるぞ」


 断るうんぬんは冗談だろうけど……。


(春都。受け入れて。断ると大変なことになる)


 ありゃ、本当なの?


 ここは個人的な感情はおさえて、受け入れるべき?

 ようは俺が、イメルダを奴隷として扱わなきゃいいわけだし……。


「……慎んでお受けします」


「うむ、良い返事だ。それからイメルダ。すぐに冒険者ギルドへ行き、伯爵推薦ということで、明日から地下ダンジョンへ入場できるようにしてくれ。B級昇格も明日までに完了させておくように」


 うはー。ムチャ言いまくってますよ、この人。

 それとも伯爵級の貴族って、これが普通?


「承知致しました」


 イメルダは視線を上げないまま、深々とお辞儀をした。

 うつむき加減の美しい顔からは、なんの感情も見て取れない。


 すこしだけバンパイアの血が混じってるって言ってたけど、この翳りのある美しさもそのせい?


「して春都殿? ほかに困っていることはないか? 遠慮せず言って欲しい。可能なかぎり対処しよう」


「いろいろとお世話していただき、ほんとうに恐縮してます。でもって甘えついでと言ったらなんだけど……さっきも言いましたけど、俺たち寝る場所すらないんですよ。そこらへん、なんとかなりませんか?」


「貴公らは私の大切な客人だ。なんなら、ここに滞在してもらってもいいが……窮屈に感じているようだな? ならば、こちらで別に住居を用意してあげよう。そうだな……地下ダンジョンの入口に近い場所となると、バンガード通りあたりが良さそうだ」


 新しい名前がポンポン出てくるので、隠蔽モードでこっそりマップを出す。

 思念操作でダンジョンや地名を検索して、ある程度の知識を収集した。


 それによれば、地下ダンジョンはガルム街にあるらしい。

 バンガード通りは、ガルム街につながる西城門に直結している。

 だから城内街――上流階級地区の中で、もっともダンジョンに近い場所……。


「いや……それは、いくらなんでも!」


 知らない人の親切と無償提供には気をつけろ。

 死んだ爺ちゃんの言葉を、ふと思いだした。


「気にしなくていい。これは私の一存ではなく、プラナのギルド総長と話しあった結果なのだ」


 事前に周到な申し合わせがしてあったんだ……。

 ならば一連の親切も、なにか思惑がある?


「春都殿はまだ若い。しかしいずれ、セントリーナ王国にとって重要な人物になると確信している。だから私の対応は営利……先行投資だと思ってほしい。むろん束縛などしない。ただ……王国を見捨てて他国につくのだけは絶対にやめてもらいたい。それだけだ」


 なるほど。地位と名誉とモノをあたえて子飼いにしようというわけだ。

 それならギブアンドテイクで、しばらく甘えてもいいかな。


「ではイメルダ。春都殿とリアナ嬢、ヒナ殿、護衛のセリーヌの4名、そしてお前もいっしょに住むバンガード通りの住居を、夕刻までにかならず用意しなさい。細かい部分はメイド長と執事長に相談すれば良い。資金はすべて私が出す」


 さすがは伯爵、太っ腹!

 ホテルでも良かったのに、たった4日間のために住居を用意してくれるらしい。


 それともこれから先、プラナに滞在している時は常宿として使っていいのかな。

 どっちにしろ時間がない今、心底ありがたい。


「春都殿。私は王都への連絡その他の用事ができたので、残念ながらこれで失礼させていただく。これからもよろしく頼むぞ」


 ここまで細かく用意してるんだから、全部とっくに決まってたんだろうなー。

 なんか運命の神様に踊らされてる気がしてきた。


 んー?

 運命の神様……この世界にもいるんだよね?



    ※



 2時間くらいかけた昼食を終えると、ようやく解放された。

 帰る寸前になって、イメルダの所有権を俺に譲渡するため奴隷契約魔法の更新をうけた。


 更新のしかたは、一滴の血を奴隷印にたらすっていう、前世のラノベだとありきたりのやつだった。


 その後、貴族馬車にのり伯爵邸をあとにする。

 馬車は貴族街をすすみ、10分くらいで指定された建物の前に到着した。


 バンガード通りにある下級貴族御用達のアパルトメント【カイーサ・レミア】。

 その名は、セントリーナ語で『若草の香り』を意味してるんだって。


 日本でいえば、建物の1階にレストランがある高級マンションって感じ。

 とはいっても高級マンションなんて中を見たことなんてないから、あくまでネットでの知識なんだけど。


 切石のブロックと焼き煉瓦で装飾された外壁は、けっこう年季がはいっている。

 だけどオンボロには見えない。

 たぶん、こまめに手入れしてるんだろう。


「しゃべっていいぞ」


 部屋に入ってすぐ、リアナに掛けてた【命令】を解除する。


「うっぱーうわうわーふー!」


 それ、何語ですか?

 これまで黙ってただけに、しゃべりたくてウズウズしてたらしい。


 案内された部屋は、まさに上級貴賓室かロイヤル・スイートか。

 いくつも間取りがある、最上階ワンフロアをつかった超豪華な部屋だ。


 主寝室が1つ。副寝室も2つ。従者用小部屋が4つ。護衛控室。主人用書斎。リビングに食堂とキッチン、トイレ4つ。風呂3つ。クローゼット2つ……まさに規格外。


「春都殿には、いろいろ迷惑をかけてしまった……」


 セリーヌが、フルプレートを脱いで部屋着に着替えてきた。もちろん別室でだ。

 胸のでっかいふくらみには、あらためて欲……感心させられる。


 イメルダはといえば……途中で住居の手続きを速攻処理して、住居の玄関につくと別行動の許可を求めてきた。いまごろは伯爵に言われたことを最速で処理してるはず。


 こんなに有能なメイドなのに、よく伯爵は手放す気になったもんだ。


 ところで……

 俺たちの扱いには、はっきりした区別があるみたい。


 それは部屋割りを見ればわかる。

 俺とヒナは主寝室でリアナは副寝室。

 なのにセリーヌには従者用の小部屋があてがわれているのだ。


 リアナが別室なのは、俺との関係がよくわからなかったからだろう。

 愛人ではないとセリーヌが説明したのかもしれない。

 ただし副寝室だから、俺と同格じゃないことだけは確か。


 ヒナは完全に俺の妹扱い。

 俺としてもヒナに手をだすつもりはないから同室でかまわない。


 手を出すといえば……リアナは14歳くらいの超絶美少女だから好みなんだが、あまりのアホさ加減に俺の理性がダメ出ししている。人間、内面も大事だよね。


 問題は17歳のセリーヌ。

 マッチョが好みというわけじゃないけど、スリムな鍛えられた肉体に、出るとこはしっかり出てるんだから、経験のない俺にはまぶしすぎ。


 でもセリーヌは真面目だから、俺の卑猥な視線がバレると何されるか……。

 ここらへん、どうしたら穏便に済ませられるか、まったくわからん。

 精神年齢36歳、肉体年齢18歳(ただし童貞年齢36歳)の俺、この世界でどう恋愛感情と性欲を満たせばいいんだろう……。


 そんなことを考えつつ。

 ラフな格好に着がえてから、リビングにある備えつけのソファーに座った。


「しっかし……いきなり戦争とはドン引きだねー。ヒナは予想してたの?」


 ヒナはけなげにも、俺たち全員ぶんの紅茶を入れてる。


 セリーヌがやると根性いれすぎて、メッチャ渋いのを出しそう。

 俺? うーん、たぶん紅茶とはちがうナニかが完成する気がする。


 だからこれ、ホントはリアナが適任だよな?

 だけど当人、1階レストランの店売コーナーで買ってきたクッキーを夢中で食ってる。まったくやる気ナシ。


「ボクとしては、戦争には、いずれ巻きこまれると予想していた。でも未来は不確定だから、正確な予測は不可能。春都が戦争に参加することが決定した瞬間、カウンターの残数が減った。回避不可能なイベントなのに最初からマイナスということは、今後の春都の判断と行動でプラスに転嫁できる可能性があるってこと」


 ヒナの返事を聞いたリアナが、クッキーを口に入れたまましゃべる。


「もぐもぐ……なんか変なのよねー。古代神殿イベントが、なんでここまで大事おおごとになるんだか。あたし領主のイベントなんて、ちょこっとしか設定してなかったって思うんだけど……うぷっ!」


 喉をつまらせた……。


「うげっほ!」


 おい、クッキーのカケラを飛ばすな!


 領主イベント……?

 ああ、そういやこいつ創世の女神だった。

 あまりのおバカさ加減に、つい忘れてしまう。


 創世したからには、最初から予定されてるイベントも作ったってことだ。

 まあヒナの言い分だと、後付けで天界システムが派生させたものが大半みたいだけどね。


「おまえが知らんのに俺が知ってるわけなかろー? それに地球でやってたゲームじゃ、領主のからむイベントなんて飽きるほどあったし。おまえの世界設定、スッかスカじゃねーの?」


「スカじゃないもん! あたしだって平時のイベントならイヤってほど用意したもん。でもいまはハルマゲドンストーリーが分岐修正されて進行中でしょ? これ、大きなイベントっていうより、扱いなんだからね!」


「なに、それ?」


「特別シナリオは、後付けで追加されるみたいなもんよ。今回は従来のハルマゲドンストーリーが、邪神ラゴンの介入で強制的に分岐修正されたの。いまはそれが進行中だから、その最中は常設型イベントの進行が制限されるってこと」


 ゲームそっくりすぎて、さすがにへこむ。

 もう少し、オリジナリティを出せんかったもんかね。


 ところで……。

 ヒナがコメントをはさむ様子はない。

 ってことは、リアナの言ってることは、おおむね正しいってことだ。


 セリーヌは話を理解しているのか、それとも違うのか、黙ったまま紅茶を飲んでる。


「この世界に最初からハルマゲドン関連のシナリオが仕込まれてるってのは、言われなくても知ってるよ。それを回避するため俺が呼ばれたんだからな。だけどなに? 邪神の介入で修正されたって? そんなの知らんぞ!」


 そういやヒナも教えてくれなかったな。

 もしかして、リアナしか知らない女神の秘密?

 んなわけ、ないよねー。


「だから、さっきも変だって言ったでしょ? あたしが用意してたシナリオだと、春都が旅に慣れるまで戦争イベントは発生しないはずなの。もっぱら各地の古代神殿を解放することになってたのに……なんかシナリオが勝手に書き変わってるみたい。そう思ったの!」


「それ、大問題なんですけどー」


 創世の女神が作ったシナリオが、俺たちの知らないところで改竄されてる。

 こんな恐いこと、そうそうないって。


 俺の疑問にはヒナが応えてくれた。


「それ、天界システムが全部門非常警戒態勢エマージェンシーモードになったせい。リアナが春都を呼びこんだ時点では、まだ邪神の直接介入は予測されてなかった。実際に介入が確認できた段階で、天界システムはシナリオの最適化を実行した。それがいまの現状」


「ってことは、天界システムは状況を把握してるってこと?」


「ううん、状況はきわめて流動的。だから予想外のことが発生するたび、場当たり的に対処している。そのせいで春都に確定情報を出せなかった。なぜなら春都の決断による未来線の選択と修正で、状況は刻一刻と変化していくから。ただ……以前より許容できる範囲が狭まっている。許容限界をこえると一気に破滅が到来する」


 ヒナの話を聞いて、ちょっと考えこんだ。

 なんで俺、ここまで真剣に世界の破滅を止めようとしてるんだろうって。

 いわゆる、素朴な疑問ってやつだな。


「なあ、リアナ。おまえが女神としてちゃんとしてなかったから、リムルティア世界が滅びかけてるんだよな?」


「う、うん……まあ、そう言われれば、そうなんだけどー」


「それならなんで、すんなり滅ぼさなかったんだ? 失敗した場合、それなりの覚悟はあったんだろ?」


「いやー! 人格失いたくないー。もっと、やりたいことあるよー!」


 こいつ……そんな利己的な理由で。

 自己中だった俺でさえ、いろいろ自分以外のことを考えてるってのに。


 そりゃリアナが人格を失うのって、不老不死の女神には耐えがたいほど恐い事なんだろうけど……。


 でもそれ、人間が死ぬのと同じじゃない?


 たしか俺の場合も……。

 世界が滅んでも俺の魂は消滅せず、輪廻のらせんに戻されるって聞いたような記憶が……。


 これって一般人の魂が来世に転生するのとおなじだから、俺としては記憶がなくなる以外のデメリットはないはず。


 リアナの場合は転生しないで、最高神に取りこまれるんだっけ?

 そして最高神の魂から、あらたな女神が生まれる……。


 どっちにしろ、俺とかリアナっていう個性は消滅するんだから同じだよな?


 ならば潔く破滅させて……。

 いやいや、そうなると邪神の思惑にのっちゃうか。


 うー。

 なんか当初の予定と違ってきてなくない?


 ティーカップを置いたセリーヌが、ぽつりとつぶやく。


「つくづく思うが……リアナ殿は女神らしくないな。そこらにいる小娘以下だ」


「あのさ……俺、ふと思ったんだけど。世間知らずって点じゃ、天界しか知らない女神って世間知らずの最たるもんじゃない? ふつうは地上に降臨しないみたいだし」


「うむ。いくら地上のことを知識として知っていても、実体験がなければ耳年増になるだけだ。聞けば女神は、いろいろ地上に影響を与える経験を積んで出世するみたいだから、今回の破滅を回避すれば、それなりに地位が向上するのかもな」


「セリーヌ、正解」


 ヒナがさりげなく採点する。

 話の内容をチェックしてくれるのって、けっこう助かる。


「となるとリアナ殿は、春都殿の補佐はともかく、相談役としては適任ではない。私としては、任務として同行しているあいだは相談に乗ってやれるが……任務が終われば別れることになる。だから、その後が心配だ。春都殿は、もうすこし仲間を増やしたほうが良いかもしれぬ」


「仲間というか、イメルダが専用メイドになったけどな。彼女のことはまだ未知数だけど、たしか使役奴隷って主従関係は絶対だね? それが本当なら、裏切ることはないと思うけど……相談役はどうだろ?」


 裏切らない存在と、仲間として相談できる存在とはイコールじゃない。

 俺としては、イメルダが仲間になってくれることを願ってるけど、こればっかは相性もあるし……。


「……私としても、許されるなら春都殿といっしょに旅をしてみたい。ともに戦うと驚異的にレベルが上がるのも魅力的だしな。どこまで強くなれるか自分を試してみたいのだ」


「俺としては歓迎するけど……ダメなの?」


「それだと騎士を辞めねばならぬ。兄がアナベルで農業をやると決心したいま、私だけがふらふらと冒険の旅をするわけにはいかんだろう?」


「ルフィルさんの腕……ヒナなら治せるんだけど。治ったら冒険者に戻れるじゃない?」


「うむ。こんど町に帰ったとき、ぜひ治してほしい。だが、それと農業を続けるか否かは別問題だ。私個人の考えだが……もう兄の身勝手で冒険者に戻ることはできないと思う。アナベルにとって、あの開拓地は死活問題にまで発展しているからな」


 だまって聞いていると、セリーヌの表情がだんだん深刻になっていくのがわかる。

 なんか俺、また勝手な行動で悪いことしちゃった?

 ううう……またぞろ自己嫌悪が……。


「私も騎士として何ができるか、真剣に考えねばならない時期にきている。春都殿やヒナ殿、リアナ殿のように途方もない力を持っているわけでもないのに、なぜ一緒にいるのか、そこから考えてみる」


 セリーヌは自分で気づいているか知らないが、いま人生の帰路に立っている。


 このまま騎士団にいれば、これまで通りの生活を送ることができるだろう。

 しかしそれは、明日世界が破滅するかも知れない現実から、あえて目をそらすということだ。


 世界の運命を俺たちにまかせ、自分は完全な傍観者として生きる。

 はたして、なんでも自分で解決してきたセリーヌに、座して傍観ができるだろうか……。


 すくとも俺がその立場だったら、命あるかぎり悪あがきする。

 能力の有無なんて関係ない。


 他人に自分の運命を決められるのがイヤなんだ。

 もっとも地球では、そのせいでリストラされたけど。


 空気が読めない性格だったから、中学高校とイジメにあった。

 その時に学んだ。だれも助けてくれない……って。

 我慢していれば、だれかが救ってくれるなんて甘い考えは、中学の時に捨てた。


 いじめるヤツには、いつか仕返しをしてやる。

 そう思って耐えた。


 でも、仕返しする機会は訪れなかった。

 なぜなら、自分に力がなかったから。


 その経験が、いま役立ってる。

 いまの俺には力がある。

 自分をしっかり守れる。


 自分を守れるようになって、ふと気づいた。

 この力、身近になった者も守れるんじゃないかって。


 だから俺は、独りよがりの性格をなおそうって思ったんだ。

 そう思って努力したら、徐々にだけど性格も変わってきた。


 これ、俺だけじゃなく、セリーヌにもあてはまらない?

 それともセリーヌは、俺とは違う考えなんだろうか?


「人の運命なんて、この先どうなるか、だれもわかんないだろ? それを証明してるのがこの俺だもんな。ほんのちょっと前まで、地球にいる36歳の冴えないおっさんだったんだぜ?」


「その話は前に聞いた。この世界のごたごたに巻きこまれ、なんともご愁傷さまとしか言いようがない」


「さすがに前世の終わりのころは人生詰んだって思ったけど、心の中じゃ、まだなんとかなるって思ってた。。いまは勇者とか救世主なみの扱いだ。こんな人生、予想できないだろ? セリーヌも人生っていう点じゃ、おなじって思うぞ」


「………」


「セリーヌは俺と出会ったことで、これまでの人生から外れそうになってる。それが良いことか悪いことか俺にはわかんない。けど、これだけは言える。人生の選択は、他人にまかせるんじゃなく自分自身ですべきだ」


 俺自身は、とても自分でえらんだとは言えない。

 なんせリアナの身勝手な理由で、とんでもない運命に巻きこまれただけ。

 だから、せめてセリーヌには自分で決めてほしい……。


「その通りだな。まったく……春都殿は、普段はバカなことばかり言う軽率な男だが、肝心なところでは誰よりも頼りになる。やはり女神に選ばれた特別の存在なんだろう」


「そうよー。春都は地球にいた75億人の中で、だんとつトップの逸材なんだからね!」


 リアナ……いまそれ言う?

 それって単に、リムルティア世界との適合率が一番高かっただけでしょ?

 適合率が高いと能力を発揮できる度合も高くなる。ただ、それだけのこと。


 俺が努力した結果じゃないし、人生を意図して選んだわけでもない。

 完全な偶然、……。


「ほう、それは凄いな。私もあやかりたいものだ」


 ほらー。

 しっかり誤解された。

 まったく……リアナに喋らせるとロクなことにならない。


 でも、すこしだけセリーヌの表情がやわらいでる。

 それが見れただけでも、話をした甲斐があったかな?


「うーん……話はこれまで! 夕食までには、まだ時間があるよね? 部屋に風呂があるから、まずセリーヌとヒナの2人で入ってみて。俺はイメルダが帰るのを待ってるから」

 風呂は3つあるけど、それぞれ別に入るなんて贅沢ダメでしょ。

 日本みたいに、蛇口を捻ればお湯が出るわけじゃないんだし。


 お湯を湧かすのは魔法でもできるけど、べつに用意されてる桶で暖めて風呂にそぞぐ必要がある。ちなみにシャワーは水だけで、しかも自分で上の桶に入れる方式だ。


 だから今日は、主人用の風呂だけを使うつもりだ。


「あたしもお風呂に入りたい! 春都となら、いっしょに入ってもいい!!」


「リアナはつぎに入れよ。いっしょは断固拒否する」


「ちぇ」


 なに考えてるんだ、こいつ……。


「セリーヌ。いっしょに入ろう?」


 ヒナがセリーヌの手を引いてる。

 ほんのちょっぴり、ヒナと代わりたいって思ってしまった。


 結局……。

 イメルダが帰ってきたのは、夕食のすこし前になってからだった。


 明日は、夜が明けたらすぐ地下ダンジョンに行くことになった。

 ダンジョン探索のための準備も、伯爵家の使用人をつかって買い集めさせたらしく、なんと荷馬車に山盛りの品が届けられた。


 まあ、いくら荷物があっても、無限収納に入れちゃうからいいんだけどね。

 ともかく準備はできた。

 明日からは怒涛のレベリングだ!


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