第27話 公都プラナに到着


 公都の正門――南大門前に到着したときは、もう午後になってた。


「もう秋も中頃だな……」


 馬車をおりたセリーヌが、南大門前の街道並木を見てつぶやく。

 見れば街路樹の葉が赤や黄に色づいてる。


「秋のつぎは冬? ここにも春夏秋冬ってあるの?」


 門衛のチェックを待ちながら、他人には聞こえない程度の声でささやく。


 でも春夏秋冬って言っても、翻訳スキルで日本語に変換してるだけなんだよな?

 この世界じゃ、秋のつぎに【**】とか別の名前の季節がくる可能性もある。

 ヒナに聞けばわかるんだけど……面倒くさい。


「ああ、いちおうはあるな。ただし、ここらへんだけの話だぞ。北のケルン湖あたりは、もう紅葉が終るころだ。ガンディール山脈を越えたところにあるラーニア大公領あたりだと、もう長い冬が始まっている」


 セリーヌの話を聞きながら、マップのヘルプを開いて地名を検索する。


 一度検索すれば、地名はマップに反映される。

 地名のある地点もスポット的に表示されるようになる。


 この機能を発見したときは嬉しかったなー。

 だって現地に行かなくても、ある程度の情報を検索できるんだから。


 そのほかにも、マップのヘルプはいろいろ教えてくれた。


 リムルティア世界は、地球とおなじような【惑星】に存在しているらしい。

 ただし恒星を公転している惑星は、リムルティアただひとつ。

 ここらへんが初心者女神用に簡略化された世界になってるみたい。


「プラナもずいぶん年季が入ってきたわよねー」


 馬車をおりる寸前になって召喚したリアナが、腰に手を当てながら、城塞都市をかこむ城壁を見てる。


 リアナは女神だから、プラナができた頃のことを知ってる。

 だから言えるセリフなんだろうけど……。

 それって自分がすごいババアだって自白してることに気づけよ。


 おだやかな午後の陽射しに映える石積みの外壁。

 マップのヘルプ(というより地理ガイドに近い)には600年の歴史があるって書いてある。石壁をかざるツタやコケを見ると、たしかにそう思わせる雰囲気がある。


 公都プラナは典型的な城塞都市だ。

 石積みの城壁にかこまれた地域――城内街は、外側から裕福な商人の商店街、1等市民の住居、そして高台につづく傾斜路の先に領主の館が配置されている。


 600年前のプラナは城内街だけしかなかったらしい。

 当時の住民の家と領主館を守るため城壁で囲んだのだから、これはあたり前のことだ


 城壁の外に目をむけると、北にあるケルン湖から流れてくるケルナール川がある。

 ケルナール川はプラナの北で東西に分割されていて、ぐるりと城塞都市をとりまいて流れている。


 いま俺たちがいる南大門は、南側にまわりこんだケルナール川にかかる橋を渡った先にあるんだ。


 そして巨大城壁の西の外側には、600年のあいだに、城内街の4倍くらい広い外区がいく――【ガルム街】が発展した。


 そこは城壁より低いけど、いちおうは石積みでできた壁で守られている。

 城内街からガルム街へぬける門は【西城門】と言われてる。

 一方、ガルム街から外へ出る門は【西外門】と呼ばれているみたい。


 ケルナール川は、ガルム街をまもる壁の外側にそって西へ流れ、北から南西へまわりこんできたもう一本の川と合流し、そのまま南西方向へと流れていく。


 セリーヌは、かって知ったる本拠地とばかりに、身ぶり手ぶりで公都プラナの紹介をしてくれた。


「プラナは交通の要衝だ。西にむかえばアルムント子爵領をへて王都セントリアへいたるし、北はケルン湖からガンディール山脈をぬけてラーニア大公領へいたる。東はカルナール火山の南をぬけてアントハム辺境伯領になるが、その先にあるクラウゼント獣人王国と戦争中のため、現在は入国が制限されている」


「たしか西のほうには帝国があるって聞いたけど?」


 この世界にはまともな世界地図がないため、俺も断片的なことしか知らない。

 それでも西に大帝国、北に魔王国、東に獣人国があることくらいは聞いた。


「バルシアン帝国はでかいぞ。魔王国より広いくらいだ。その先には西大洋が広がっているが、そこの北西沖には、女神リアナを主神と崇めるリアナール神聖皇国がある。リアナ殿の本拠地みたいなところになるのかな?」


「やだ、ちがうって。あたしの本拠地は、あくまで天界だもん。神聖皇国には、むかし聖女アマリナに神託をしてやったのと、5人の勇者を召喚させてやっただけ。なのにとか言いだして、勝手に神聖皇国を名乗りはじめたの。ほんと、勝手なんだからー」


 そう言いつつリアナは、ふふんっとまんざらでもない顔になってる。

 やっぱり熱心な信者がいるのは嬉しいのかな?

 それが狂信者じゃなければいいんだけど……。


「はい、次……あっと騎士様でしたか。いちおう身分証を確認させていただきます」


 俺たちの番になって、門衛がセリーヌに気づいた。


「セリーヌ一般騎士だ。公領騎士団の第2突撃隊に所属している。こちらはアナベルの冒険者ギルドに所属するC級冒険者たち。伯爵様より呼びだしを受けてやってきた。これがギルド長の推薦文、こっちが伯爵様の召喚状だ」


 セリーヌは自分の騎士章といっしょに、推薦文と召喚状を広げて見せた。


「……たしかに確認しました。どうぞお通り下さい!」


 門衛の態度を見るかぎり、公領騎士ってのはけっこうな身分のようだ。

 俺たちはセリーヌがひきいる一団ってことで、なにも聞かれず通された。

 それだけ信用も高いってことだよね?


 馬車の御者台ぎょしゃだいに座ってるムーリムさんが声をかけてきた。


「では皆様。私はここでお別れです。明日の朝には、定期馬車の御者として出発しなければなりませんので。ご縁があれば、定期馬車でお会いしましょう」


「おせわになりました!」


 今後アナベルへ行く時には、馬車は使わない。

 長距離転移スキルがあるから、また乗せてくださいとは言えなかったんだ。

 ここらへん、もうすこし口達者になれればと思うんだけど、まだ無理だよなー。


 ムーリムさんの馬車を見送ったあと、南大門を抜けて城内にはいった。

 するとそこには、ホントに中世ヨーロッパそっくりの町なみが広がってた。


 田舎者丸だしで、キョロキョロと眺める。

 そしたら苦笑したセリーヌに声をかけられた。


「さて、春都殿……これからの予定なんだが」


「まずは宿を決めるんじゃないの?」


「いや……伯爵様からは、プラナに到着したらすぐに館へ出頭するよう命じられている。おそらく先方で宿の手配もしてあると思うから、へたにこちらで決めないほうが良い」


「ふーん、そこらへん知らないことだらけだから、ぜんぶセリーヌに任せるよ」


「あー、お菓子屋はっけんー!」


 すっ飛んでいこうとするリアナの襟首をつかみ、強引にとめる。


「うろちょろしたら迷子になるだろうが!」


「あたし、子供じゃないもんー!」


「春都。迎えが来ている」


 ヒナがつんつんと俺の右腕の袖をひっぱる。

 示されたほうを見ると、ムーリムさんの旅客馬車の5倍は立派な四頭だて貴族馬車が、ででーんと待ち構えていた。


「あ、いかん! 執事長殿が待っている」


 あわてたセリーヌが馬車へ走る。

 すこし話をしたあと、俺たちを手まねきした。


「このまま馬車にのって、北の高台にあるやかたへ直行するそうだ」


 バシッと執事服を着こなした初老の男性が、洗練された態度で一礼する。


「私めはエヴァンス・ディアナ・プラナール伯爵様に御仕えしているベルトランと申します。領主館においては執事長を任されております。それでは……伯爵様がお待ちになられておりますゆえ、お早く御乗車願います」


 言葉はていねいだけど、けっこう急かされてる?

 でも到着予定は、本当なら明日の朝だったよね?

 なのに、なんで迎えが来てる?


 うーむ。わからんことだらけ……。

 こっそりセリーヌに聞いてみた。


「そりゃ伯爵様は、村長さんとかギルド長と、魔道具をつかった念話で連絡を取りあってるからな。御者のムーリムさんも道中の報告を門衛に入れてるから、私たちの予定を先んじて知ってるのは当然だと思うぞ」


 あ、そうか。

 言われてみれば、なんかムーリムさんが御者台で魔道具を使ってたような気がする。


 そういや俺、念話とかの通信手段、魔法やスキルで持ってなかったな。

 リアナは【神話】とかいうチートスキルをレベル30で覚えるみたいだけど、俺もそんな感じのスキルをもらえないかな……。


 まあ、いざとなりゃヒナの念話玉があるか。


 そうそう……。

 道中の戦闘とかで、またレベルが上がったんだ。

 今回のレベルアップで面白かったのは、いまさら専門魔法1に【昏睡1】が追加されたこと。


 これまでも低いレベルの魔法があとになって追加されたことがあったから、そのうち魔法の数がすくないところには追加があるかなって思ってたけど、まさかレベル1とは。


 いまのステータスは、こんな感じ。

 ちなみにステータスポイントは、あらたに1000ポイントをHPにふった。

 命大事に……は鉄則だからね。



 氏名・種族 神崎春都 18歳(ハイヒューマン)

 職業 魔導剣豪/錬金マスター

 称号 ドラゴンバスター/闇を狩る者


 レベル 156

 ステータスポイント 800


 HP 1073900

 MP 1176500

 物理攻撃 21100 物理防御 23110

 魔法攻撃 24940 魔法防御 25850

  素早さ 4481 知力 4014

   幸運 6840 器用 5198

   希望 ∞


 生活魔法 種火/飲料水/微風/泥煉瓦/清浄/防音/灯光


 専門魔法1 火弾8/風刀8/石弾8/昏睡1

 専門魔法2 大炎球3/殲爆3/鋼槍3/極光3

       大治癒4/大回復4

 専門魔法3 火炎散弾2/大旋風2/重力自在4

       破壊防止3/切断強化3/邪気防御3

 専門魔法4 魔法障壁4/物理障壁4

 専門魔法5 多重防壁3/魔法盾3

 専門魔法6 轟雷爆撃2/隕石落下1/大竜巻1/岩石爆流1

       天の裁き3/障壁天蓋4

 専門魔法7 竜神炎息1/影隠密3

 専門魔法8 轟天爆雷2/猫ころがし3

 専門魔法9 荷電粒子砲2/記憶改変1

専門魔法10 流星雨1/大洪水1/樹林襲来2/殲滅フレア3

       魔法反射2/物理反射2


武器付与魔法 熱炎3/氷結3/乱撃4/空斬3/破防4/切断4

       爆砕3/質量3/硬化3/貫通3/強速4


防具付与魔法 硬化3/破壊不可3/重量減3/慣性減3


一般スキル 剣術皆伝5

      精密探索4/精密鑑定4/精密抽出2

      究極整体2/瞬間加速4

      錬金師匠4/木工師匠2/彫金師匠1/織物師匠1/料理師匠1


特殊スキル 眷属召喚/隷属

      女神の加護1 空間転移3/能力擬装3/完全隠蔽3

      女神の加護2 地形改変3


パッシブ別枠 HP常時回復3/MP常時回復3

       身体強化6倍/魔法強化6倍


       スキルポイント3倍

       経験値獲得10倍/必要経験値10分の1

       無制限空間収納/言語理解(全自動、翻訳/記述)



 変わったところは、職業が魔剣士から一気に【魔導剣豪】に格上げされたことと、あらたに【錬金マスター】が加わったこと。称号に【闇を狩る者】がついたのは、たぶんカタン教団と敵対したからだろうな。


 全体的に魔法やスキルのレベルが上がってる。

 ヘルプによると、個々のレベルは一般人だと10でカンストするけど、俺の場合は限界突破のチート能力があるので、レベル10になったら自動で上位バージョンにアップデートされるみたい。


 総合レベルのほうは、カンスト999だからまだ気にする必要はないけど、これもカンストしたら限界突破するんだろうなー。


 となると本当の上限って9999? それとも無限?


 馬車にゆられながら、高級そうな大通りにある貴族の邸宅とかを見ていく。

 同時にセリーヌが街の案内をしてくれている。


「城塞都市は貴族だけでは成り立たない。だから城内街は敵に攻められた時の避難所的な役割があるが、生活の中心とはいえない。ゆえに公都プラナの中心はと聞かれれば、それは間違いなくガルム街と答えるべきだろう」


「ガルム街って、どこにあるの?」


 MAPでは地名だけ表示されてるけど、実際の通路がどうなってるかまではわからない。だから聞いた。


「ガルム街は、別名【新市街】とも呼ばれている。城内街とはべつに、西城門の外にある石壁にかこまれた広大な外区がそうだ。そこが一般平民の居住区――ガルム街となっている。ただし一部の貧乏貴族や没落貴族、一代かぎりの名誉貴族も住んでいるが……」


 ここは公都であって王都ではない。

 最上位が公爵だから、貴族といっても領地なしの下級貴族がほとんど。


 だから大部分の住人は、名誉貴族として扱われてる大商人や引退したS級以上の冒険者、勲功あった騎士、それらの家族らしい。


「ふーん。ガルム街って下町みたいなもんかな……あ、いや、これ独り言だから気にしないで」


「そうか……ならば続きを言うぞ? ガルム街と都市の外をつなぐ西外門の外に、都市に入れてもらえない流民や戦争難民、貧民たちが住みつき、かなりの規模のスラムを形成している。ここのところ戦争が絶えないため、とくに東のアントハム辺境伯領からの流民がひどいようだ」


 そのほかのことも、セリーヌはいろいろ教えてくれた。

 こっちとしては、館につくまでに可能なかぎりの情報を集めたいから、けっこう真剣になって聞いたつもり。


 話を総合すると……。

 現在は、上品な貴族街よりも庶民的なガルム街のほうが活気に溢れているらしい。

 スラムの住人も、入城税を払ったり入城手形をもっていればガルム街までは入れる。

 そのためガルム街の市場とか工房とかは人でごった返すことになる。


 スラムの住人は、貴重な労働力。

 だから身元を保障する手形があれば、簡単に行き来できるよう配慮がなされている。


 手形は雇い主があたえる決まり。

 入場税をはらって入る者は、売春や盗品売買、悪巧みその他、正規の就労とは認められない職に従事する者になる。そうでなければ旅人や旅商人など外部の者。


 でも彼らは、この世界の都市を支える重要産業の担い手でもある。

 そのため悪人であっても、現行犯で捕縛されないかぎり見逃されている。

 ここらへん、ブラックな香りがプンプンしてるね。


 上流階級の者たちも、うしろめたい企てをする時などは、身分をかくしてガルム街へはいるらしい。そのせいで、ますます渾沌にみちた場所となるわけだ。


 あれこれ考えてるうちに、伯爵様の御屋敷の前に到着してしまった。

 さあ、ここからが正念場だ!


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