第23話 助けるつもりが窮地に追いこまれた?


「ヒナが言った通り、襲われているのは2人だな」


 馬車をおりた地点から短距離転移して、いまは森の木陰に潜んでいる。

 木立が切れた場所で、2人が5人に襲われてるのが見える。


「うげー」


 あ、リアナが転移酔いした……。


「襲われてるのは2人。そのうち護衛が1人……どっちも女?」


 自分の目で見たことをセリーヌに確認する。

 襲っているほうは5人。いずれも黒装束で、アナベルの広場で出会った連中に似ている。


「うむ、それで間違いないようだ。あの護衛の女、騎士や衛士ではないな。見るかぎり冒険者の双短剣使いのようだ。双短剣使いは近接戦闘に有利な職だから、多勢を前にしても、なんとか持ちこたえている」


 さすがアナベルの警備長、状況を適確に把握してる。


「ヒナ。あの黒い服の5人、こないだの2人と同じじゃない?」


「おそらく。気配を断っているから断定はできないけど」


 さすがに見た目だけで同じ連中とは決めつけられない。

 でも、もし同じ連中だとしたら、いくら護衛が強くても勝てないはず。


「よし、助けることに決定だな。あんなムチャする連中、悪いに決まってる!」


「殺していいのか?」


 セリーヌが平然と聞いてきた。


「あ、いや……さすがにそれは……できれば殺さずに捕縛して、双方から事情を聞いてみたい」


「あやつら、かなりの手練だぞ?」


「まあ、やってみるさ。!」


 猫ころがしがレベル3になったので、全体魔法として使えるようになってる。

 これはめっちゃ便利。


 その場にいた全員――襲った側5名と襲われた側2名が、みんなスッ転ぶ。


「重力自在、重力捕縛」


 転んだ状態で重力をかけて動けなくする。

 もちろん捕縛したのは襲っていた側だけだ。


「な、なにヤツ!」


 いきなり横から正体不明の魔法をかけられた5名、あきらかに動揺している。


「事情は知らんけど、なんか穏やかじゃないみたいだから止めにはいった」


「邪魔だてするな! 貴様らには関係ないことだ!!」


 どうやらリーダーらしい男が、俺にむかって文句を言ってる。


「うーん……関係ないけど気にはなる。あんたたちに襲う正当な理由があるなら、俺たちは手を引いてもいいけど……」


「ちっ、問答無用だ。クセル、やれ!」


 リーダーが横で転んでいる女らしい黒装束に命令する。

 全員、顔まですっぽり隠しているから、まるで忍者だ。

 2人は体つきから女みたいだけど、もしかすると小柄な男かも。


禍津之黒風まがつのくろかぜ!」


 聞いただけでいやーな気分になる術名……。

 なんと5名の黒装束が、何事もなかったかのように立ちあがる。


「あれ? 俺の魔法、効いてなくない?」


「春都。この人たち、暗黒魔法の使い手。気をつける!」


 いや、そう言われても暗黒魔法なんて知らんし。

 さすがにヘルプを見る余裕もない。


「煉獄の断罪!」


 セリーヌがいきなり大技をぶっぱなした。

 10本の炎をおびた片手長剣が空中に現われる。

 これ、亡霊騎士のいた大広間の宝箱にあったスクロールの魔法だ。


「いけっ!」


 ――ズドドドドッ!

「ぎゃああぁーっ!」

 ――ギイイィィン!


 2名の黒装束が剣に貫かれて炎上する。

 しかし残りの3名は、黒いもやのようなものを出して跳ねのけた。


「ヒナ、なんか対抗手段ある?」


「暗黒魔法を封じる魔法玉がある。でも高位魔法だから連発できない」


「それでいい、使って!」


「ぽい、邪封玉」


 ヒナがポッケから魔法玉をとりだして敵の頭上に投げる。


 ――カッ!


 まばゆい光が発生して黒い靄を吹き飛ばす。

 黒装束のひとりが杖を掲げた。

 杖が、まるで紫外線に照らされた蛍光物質みたいに光りはじめる。


「てやっ!」


 杖で魔法をかけようとしていた黒装束に飛びかかる。

 俺の黒震剣をなめるなよ!


「うおおおっ!?」


 光る杖を軽々と切断する。

 切られると思っていなかったのか、黒装束は露骨に狼狽してる。


「峰打ち!」


 ――ドカッ!


 これは技の名じゃなくて言葉どおり……でもないか。

 黒震剣は両刃の剣だもんな。

 だから正確には、剣の横腹――平たい部分で殴った。


 黒震剣は、刃のあるほうで切るとなんでも切断しちゃうから、生け捕りするにはこうするしかない。


「やめろ、これが見えないか!」


 俺が黒装束の1人と戦ってるあいだに、ちゃっかり敵のリーダーが、襲われていた2人のうちの1人を人質にとっていた。


 人質はぐったりしてる僧衣の女の子のほう。

 それまで護衛していた女は、黒い縄のような魔法でがんじがらめにされていた。


「おのれ、卑怯な!」


 セリーヌの動きが止まった。


「ほーん。なんで俺たちが攻撃をやめんといかんの?」


 俺の言葉に、リーダーがたじろく。


「お、おまえ……こいつが殺されてもいいのか?」


「だって俺たち、通りすがりの他人だもん。なんも関係ないでしょ、その人と」


「春都殿、それはちょっと……」


 やめてセリーヌ、ドン引きするの。

 これ、あくまで演技……ハッタリ。

 ピンチなのに、これしか思いつけなかったの!


「瞬間加速」


 一瞬、リーダーの気がセリーヌにそそがれた。

 それを見逃さず、瞬間加速で一気に間をつめる。


 当初の予定とは違ったけど……。

 相手の気をひけたから、まあ成功ってことで。


「乱撃、峰打ち!」


 ――ドガガガガッ!


 秒速10回の峰打ち。

 たぶん、ものすごく痛い。


「ぐう……」


 一瞬で気絶する。


「障壁天蓋」


 襲われていた2人に完全防御のバリアドームを張る。

 これでひと安心……と。


「さて……面倒くさいから、隷属!」


 とっておきの特殊スキルをくらいやがれ!

 リーダーをふくむ黒装束3名、力が抜けたみたいにへたへたと座りこむ。


 はじめて隷属スキルを使ったけど、これヤバイ。

 隷属は本来、魔物を捕獲ティムするための特殊スキルだ。

 でも俺のは特殊で、生きてる者ならなんでもティムできるんだって。


「うーん……。これでこいつら、俺の眷属になったはずだけど……」


 ティムした生物は、例外なく俺の眷属になる。

 その上で眷属のクラスを設定することになるけど、いまはこのままでいい。


「春都、防御!」


 いきなりヒナが叫ぶ。


「障壁天蓋!」


 時間がなかったので、そばにいたセリーヌと俺だけバリアでつつむ。


 ――ゴウッ!


 前にアナベルで見た、漆黒のエネルギーボールだ。

 障壁天蓋をすっぽりと覆いつつんでいく。


 大丈夫か?

 そう思ったけど、思えたってことは大丈夫ってことだ。

 バリアの周囲の地面がごっそり消失したけど、バリアは健在。


「なにが起こった……」


 セリーヌが理解できず茫然としている。

 そういえばセリーヌは、この攻撃を受けるのはじめてか。


「伏兵がいる……また仲間を殺しやがった」


 セリーヌに倒された2人だけでなく、リーダーを含めた3人まで消滅している。

 つまり全滅。


 ってことは……。

 5人とはべつに、どこかに6人めの敵が隠れてるってことだ。


 あのエネルギーボール、俺たちを狙ったんじゃない。

 形勢不利をさとった6人めが、味方が捕虜になるのを恐れて使ったみたい。

 まったく……血も涙もない連中だよね。


 エネルギーボールを放った敵は、まだそこらへんにいる。

 恐ろしいくらいの殺気がただよってる。


 どうすれば、この状況から逃げ出せる……?


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