第22話 旅の途中の出来事。


「うヴぉえぇ――」


 リアナが馬車酔いしてゲロしてる。

 アナベルを出発してすぐリアナを召喚したのはいいけど、まさか酔うとは……。


 リアナが吐きだしたブツは、なんと俺のインベントリに入ってる。

 しかたないので、あとで破棄しよう。


「ちょ……ちょっとで、うぇ……と、とまって!」


「まだ出そう?」


 俺の呼びかけに、顔をコクコクしてる。


「すみません、止まってくれます? 連れが苦しがってるもんで」


 町長さんにやとわれた御者ぎょしゃのムーリムさんに声をかける。

 ムーリムさんは、もともとアナベルと公都をむすぶ定期馬車の御者なんだって。


 なのに今日は、特別に俺たちのためだけに馬車を操ってくれてる。

 ほんと、感謝しまくり。


 馬車がゆっくりと止まる。

 さすが乗ってる者に対する気づかいが素晴らしい。


「さあリアナ。そとで思いっきり……やってこい」


「………」


 返事もせずに飛びでていく。

 マジでつらそう。


「ヒナ……なんか酔いどめの魔法玉みたいなの、ない?」


「ある。でもこれから先、酔うたびに魔法玉をつかうことになる。それより我慢して慣れるほうがいいと思う」


「うーん。地球じゃ酔いどめの薬で一時しのぎしても、そのうち慣れる感じだったけどなー。人によって違うのかな?」


「春都殿。はやく慣れる方法ならあるぞ。塩水を大量に飲ませて、吐けなくなるまで吐かせるのをくりかえせば最短時間で慣れる。これは騎士団の修行法にもなってる」


 いやいやいや……。

 セリーヌ、それ拷問だって。


「……ん?」


 ヒナがちいさな声をあげた。


「どうした?」


「ここから北西。しばらく行った森の中で、だれかが襲われている。ただ、それほど切羽つまってるようには見えない。強い護衛がいる」


 ヒナの広域探査能力は、俺の精密探査より精度がいい。

 精密探査の【精密】は、探査した場所を網羅する能力……素材その他のくわしい分布を確認できるという意味だ。


 だから単純に人間や魔物がどれくらいいて、その者がどういった状況かって調べたい場合だと、広域探査のほうが正確にわかるみたい。


「ここから見える?」


「馬車から降りないとわからない」


「それじゃ外にいこう」


 ぞろぞろと3人そろって馬車をおりる。

 リアナは、すこし離れた街道沿いの草地でゲーゲーしてる。


「森って、あの遠くに見えてるやつ?」


「そう。ボクの広域探査だと、5人が2人を攻撃中。攻撃されてる側は1人が防衛、1人は非戦闘員と出ている」


 俺の精密探査じゃ7人の人間がいるってしか表示されない。

 ここらへん、ちっとも精密じゃない……。


「うーん……行ってみるかな? ここからじゃ状況わからんし」


「春都殿。人助けか?」


「いや、まだわからない。もしかしたら盗賊とかをだれかが討伐してるのかもしれないし。だから短距離転移で現地にいって、自分の目で確かめようかって思うんだけど」


「それなら私も賛成する」


「ボクはつねに春都の決断を支持する」


 2人は同意してくれたけど……。


「リアナ……おまえ、たしかいま、レベル20まで上がってるよな?」


「うげ……」


 声をだす余裕がないらしく、かすかに頭を縦にふる。


「悪いけど、いっしょに転移してくれない? もしトラブってバトルになったら、リアナのレベル上げに利用するから」


 今度はぶんぶんと顔を横にふる。


「はい、神経鈍麻玉」


 ヒナが得体のしれない魔法玉をさしだす。

 ただちに鑑定。


(神経鈍麻。状態回復魔法で回復できない部類の神経症状を緩和する魔法。自律神経失調に有効。使いすぎると鈍感になる副作用がある)


 うん、リアナなら使いすぎても問題ないよな?

 納得して魔法玉をつかう。

 ふわふわとした金色の光がリアナを包みこむ。


「……あ、あれ? なおったー!」


「ほう、それはよかった。それじゃムーリムさん、すこし待っててくださいねー」


「待つのはいいですけど……旦那、無理しないでくださいよ」


 公都までの護衛は必要ないって町長さんに言ったから、身を守るのは俺たちでやるしかない。そのことをムーリムさんは心配してるらしい。


「戦闘になる前提でいくから、各自で防御系魔法をかけておいて」


 俺も全体魔法の【魔法障壁】【物理障壁】【邪気防御】をかける。


 つぎに、武器付与魔法の【質量】【硬化】【貫通】【強速】、防具付与魔法の【硬化】【破壊不可】【重量減】【慣性減】をかける。


 常時スキルで身体強化6倍と魔法強化6倍がかかってるから、こんなもんでいいだろ。


「用意できた?」


 リアナ以外の全員がうなづく。


「リアナ……なにモタついてる?」


「だって、あたしの身を守るための特別な神術……【天の守り】が使えないんだもん!」


「……どれどれ?」


 リアナのステータスを強制開示する。



 氏名・種族 リアナ(堕天女神)

 職業 魔法士 (春都の眷属)

 総合レベル 20

 スキルポイント 0


 HP 1560

 MP 1820

 物理攻撃 65 物理防御 68

 魔法攻撃 71 魔法防御 89

  素早さ 41 知力 4

   幸運 31 器用 36


 生活魔法 種火/飲料水/微風/土塊/浄化


 専門魔法1 火玉3/風刃3/灯光2

 専門魔法2 石槍2/麻痺2/治癒2/状態回復2


    神術 全域厄災神術【天威轟雷】(レベル999で解放)

       天の守り(レベル888で解放)

       女神の本気(レベル上限突破で解放)


一般スキル 加速1/強化1

      杖術1

      神話(高位聖職者との遠隔通話。レベル30で解放)


特殊スキル 完全回復(レベル100で解放)

      完全修復(レベル200で解放)

      蘇生(レベル500で解放)

      女神の威光(レベル50で解放)

      木人形1(木製のゴーレム。レベル20で解放)



「うん、レベル888になったら使えるんだって」


「うそっ!」


「なんで俺がウソつかなきゃいけないんだよ。とりあえず【加速1】【強化1】が使えるみたいだから、それ使っておけば? あー。レベル20になったから、特殊スキルの【木人形】も使えるぞ……ってか、おまえレベル20になってるの知らなかったんか?」


 申しわけなさそうに、セリーヌが割り込む。


「春都殿。じつは……リアナ殿は私の後方にかくれた状態で、攻撃魔法ばかり使ってレベルを上げたのだ。そのため守護系の魔法やスキルは使わなかった」


 うわー、こいつレベリングまで手抜きしてる。


「わかったよ。リアナのことはセリーヌにまかせる」


「春都殿、確認のため聞いておくが……相手が有無を言わせず攻撃してきたら、どの程度の反撃をすればいい?」


「うーん。攻撃されたからって、いきなり殲滅するのは問題ありすぎだから、可能な限り生きたまま捕縛ってことにしてくれない? ただし攻撃されてる側の人の命が危なそうだったら、その時は倒していいって思う」


 時間がないので咄嗟に判断したけど、自分でもこれでいいのか迷ってる。

 こうなったら、当たって砕けるしかないか。


「承知した」


「それじゃ行くぞ。転移!」


 遠くにかすむ小さな森を見ながら短距離転移する。

 瞬時に風景が切りかわった。


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