第18話 新しい武器ができたぞ!


「ほい、これがリアナの武器。防具は【女神の衣】のままでいい? 鑑定してみたけど、へたな中級重装備より防御力があるから」


 朝一番で武器を作った。

 そして朝食の時、宿の女将に、リアナが仲間に入ったことを知らせて宿の登録を更新した。

 もちろん明日、 旅立つことも伝えておく。


「えー。なんであたしだけ木の杖なのー」


 せっかく早起きして作ってやったのに文句を言われた。


「だってリアナ、レベル1じゃんか。セリーヌの武器とおなじレベルのを作っても装備できないって」


「むー」


「それに木の杖って言うなよ。これ、ただの木じゃないんだぞ。材料は魔樹の枝だし、杖頭つえがしらにはを装着してる。へたな鉄の杖より攻撃力はあるんだからな」


「どうせなら、魔石じゃなく魔結晶のほうがいい!」


「魔結晶? ああ、のことね。クラフトのヘルプで見たけど、それ俺にも作れるみたい。今度、ヒマをみて作ってみようって思ってる。でもリアナの杖には使えないなー。いまのMP値じゃ、一瞬でMPぜんぶ吸いとられて気絶するのがオチだから」


 ヘルプによると、この世界には天然の魔結晶があるらしい。

 俺も作れるみたいなことが書いてあったけど、人工魔結晶は一般人には作れないともあるから、これまた俺のチート能力らしい。


「そんなはずないもん! あたし無限のMP持ってるもん!!」


「無茶いうなー。おまえ、自分のステータスを確認したことある?」


 そう言うとリアナのステータスを強制表示する。

 これは俺だけのチート特権。

 でもふだんはトラブル防止のため、なるべく同意してもらってるけどね。



 氏名・種族 リアナ(堕天女神)

 職業 魔法士 (春都の眷属)

 総合レベル 1

 スキルポイント 0


 HP 560

 MP 820

 物理攻撃 15 物理防御 18

 魔法攻撃 31 魔法防御 39

  素早さ 11 知力 3

   幸運 14 器用 16


 生活魔法 種火/飲料水/微風/土塊/浄化


 専門魔法1 火玉1/風刃1灯光1

 専門魔法2 石槍1/麻痺1/治癒1/状態回復1


    神術 全域厄災神術【天威轟雷】(レベル999で解放)

       女神の本気(レベル上限突破で解放)


一般スキル 加速1/強化1

      杖術1

      神話(高位聖職者との遠隔通話。レベル30で解放)


特殊スキル 完全回復(レベル100で解放)

      完全修復(レベル200で解放)

      蘇生(レベル500で解放)

      女神の威光(レベル50で解放)

      木人形1(木製のゴーレム。レベル20で解放)



「な、なにー、これ!!」


 リアナのスキルは凄い。

 ただし凄いやつは、みんなレベル制限がかけられてる。

 ステータスは、一般人の子供とおなじくらい……。


 茫然としているリアナに、ヒナが追い討ちをかける。


「リアナの女神としての能力は、下天して肉体を持ったせいで封印された。もとのままだと、現在の肉体では耐えられない。これが大神様の天罰。だからリアナは、こつこつと一般人のように努力してレベルを上げなければならない」


「なるほど……まえは女神だから偉そーにできてたわけで、肉体をもって一般人並みになれば、初心にもどって頑張るしかない……なかなか大神様も粋な処分をしたもんだねー」


 これはおちょくってるんじゃなく本音だ。

 俺とヒナの会話を聞いていたセリーヌが、むずかしい顔になってる。


 そりゃ女神様と信じてたリアナが、ただの小娘に堕天させられたんじゃなー。

 パーティーの戦力としても微妙だし。


 ちなみに兄のルフィルさんは、朝飯を食べたら一目散に開拓農場へした。

 新しい生きがいを見つけられて、すごく頑張ってるみたい。


「春都殿。リアナ殿のステータスだと、迷いの森でもかなりつらいぞ? 午前中は町の中で私と鍛練して、すこしでもレベルを上げたほうが良いのではないか?」


「たんなる鍛練だと、午前中いっぱい使っても、せいぜい2か3レベルしか上がらないでしょ? 魔物をたおせばパーティー効果で経験値獲得10倍が適用されるから、多少危険でも実戦で鍛えるべきだと思うけど……」


「あ、あ、あたしは女神なのよ!? 女神が闘うなんて聞いたことないわよ!」


「リアナは、もう女神じゃない。。肉体的にはボクとおなじ。だから戦って強くならないと生き残れない」


 あれ? ヒナはステータスがないから肉体の強さも不明じゃなかった?

 でもいま、『ボクとおなじ』って言ったから、本当に一般人のレベル1相当?

 となるとこれから先、たとえ魔法玉があっても、ヒナを守るの苦労しそうだなー。


「へーんだ! あたしは春都の眷属だから、死んでも隔離空間にもどるだけだもん。再召喚されたら肉体とかステータスは元にもどるもんねー」


 基本的にはリアナの言うとおりだ。

 きのうの夜、眷属召喚スキルのことを勉強したからわかる。


 でも死んだあとの再召喚には制限がある。

 一種のデスペナルティらしく、と書いてあった。


「ヘルプで見たけど、眷属が死んで帰還した場合、一日の拘束ペナルティが掛けられるみたいだぞ。この拘束ってのがいまいち不明だけど……」


「ひっ……」


 リアナの反応が、やけに大袈裟。

 なぜだろうと思ってヒナを見る。


「隔離空間での拘束とは、指定された時間、身動きひとつできなくなることを意味している。隔離空間で幽閉され、さらに完全に動きを封じられる。それが1日続く。食事や睡眠も不可。これは拷問」


 なるほど……。

 そりゃ酷い仕打ちだ。


 ところで、トイレは?

 あー。これは聞かなくていいや。


「まあ……なんだな。死なないように頑張れ」


「そんなー」


「というわけでリアナの件は終わり。セリーヌは、渡した武器の効果を把握できたか?」


 セリーヌには先に、新作の武器を渡してある。

 いまの【錬金師匠】はレベル3。

 だからアダマンタイトを材料に使えるようになったんだ。


「いや……まだだ。あまりにも素晴らしすぎて、つい見惚れていた」


 もらった武器を手に、ぐへへへと涎をたらして惚けている姿を想像した。

 うーん、セリーヌならありそうで怖い。


「セリーヌは切るっていうより、たたき潰すような戦い方だろ? だから切れ味より、鉈のような頑丈さと重さを重視したんだ。アダマンタイトとタングステン、クロムの合金で鍛造してみた。たぶん……ここらへんじゃ一番硬い防御系モンスター……グランドタートルの甲羅も、いまのセリーヌならたたき割れるはずだ」


「前にもらった神鋼大剣でも、心から感謝しているのに……」


「おーい、いつまで神鋼剣を使うつもりだよー(棒)。これからのレベルアップを考えると、さっさと上級の武器に代えたほうがいいって!」


「……わかった。この大恩、かならず返す」


 深々と頭をさげるセリーヌ。

 感謝されるのは慣れてない。ついドキドキしてしまう。

 それをごまかすため、急いで自分の剣をインベントリから取りだす。


「俺のは、これ!」


 見せびらかすように鞘から抜く。

 渾身の品ができたんだから、すこしぐらい自慢してもいいだろ?


「漆黒の剣身……刃だけが青白く輝いている。これは……か!?」


「いや、いわゆる魔剣じゃない。だけど機能はかぎりなくそれに近い。しかも魔剣とちがって、剣にこめられた魔力がなくなっても自壊しない」


 クラフトの情報で知ったけど、いまの俺だと一般的な【魔剣】なら作れる。


 いわゆる【魔剣】は、魔力を付与するために魔石もしくは魔結晶が埋めこまれている。その上で武器に魔法術式を刻みこみ、戦闘時に自動で魔法が発動するよう仕組まれている。


 ようは武器自身が魔法をつかうような仕組みだ。


 限界まで能力を発揮させるブースト装置を組みこんだようなモノだから、1回の使用で武器そのものが壊れてしまうらしい。


 世に出まわってる大半の魔剣が窮余の一撃用なのは、そんな理由があるからだって。


 ただし、特殊な魔剣も存在してるらしい。

 たとえばダンジョンの宝箱から入手できるものや、ボス級モンスターのレアドロップ品がそれだ。


 こっちの魔剣は壊れない。

 だけど意志を持っていて、なかなか言うことを聞かない厄介な代物らしい。


「魔剣じゃないのに魔剣の機能があるって……。いや、それはさすがに……伝説に記されているじゃあるまいし」


「……偶然できちゃったんだから仕方ないだろー。ミスリル/チタン/タングステン/クロム/バナジウム/炭化珪素/オリハルコン/アダマンタイト、それに神鋼を、何度も配合率をかえてしてたら、3種類の合金ができちゃったんだよ」


「3種類? それをどう使ったんだ?」


「よくぞ聞いてくれた。剣身のほうは、アダマンタイトとタングステン/炭化珪素を8200度の高温で溶かして、そのあと1万気圧の超高重力下で、芯になる部分を非結晶加圧鍛造した。その上で、オリハルコン/ニッケル/バナジウムの合金板ではさみこんで連続鍛造したら、なんでか真っ黒になっちゃったんだ」


 セリーヌが興味深々で聞いてるから、こっちもつい熱が入ってしまう。


 でも……俺の説明、きちんと理解できてる?

 翻訳後でも、けっこう地球の専門用語が残ってない?

 まあこっちも、ネットで検索した用語を鵜呑みにして使ってるだけだから、偉そうに言える立場じゃないけどね。


「この2種類の合金の組みあわせは凄いぞ。硬さはアダマンタイトと変わらないのに、粘り強さはバネ用の鋼鉄をこえるんだ。傷やひび割れをおこしても、内部に封入されている高圧金属ナノ粒子のはたらきで、瞬時に自己融合してもとにもどる。常識的に考えて、この剣を折ったり傷つけるのは不可能だろうな」


「なんと! それで、それで!?」


 もう身を乗り出して聞いてる。

 セリーヌって、ものすごく武器が好きなんだね。


「肝心の刃には第3の合金……魔力伝導率の高いミスリルを主成分とし、それにクロム/タングステン、秘密の味付けにビスマスをちょびっと。この配合だと、んだ。俺の両手長剣は、切れ味を優先したかった。そのため戦闘時には、常時魔力を注入する仕様になってる」


「切れ味優先……春都殿の神鋼剣も、武器付与で硬化と切断が付けられるようになっていたが、それとどう違うのだ?」


「この剣には、俺が作ったが組みこまれてる。これについては説明が長くなるから、またの機会にな。天然の魔結晶と似たもんだって思えば間違いないよ」


「うううむー。天然の魔結晶なら知ってるが、ものすごく高価な品だぞ? そのかわり、魔石の数千倍ものMPを蓄積できると聞いたことがある。そちらも凄く気になるが……いずれきちんと説明してくれるよな?」


「すまんな。でもって……人工魔結晶は俺のMPを吸って溜めこみ、相手を切ったとき、。こいつに切れない物質はない。もちろん、押し切るためのパワーと時間は必要だけどな。名付けて黒震剣こくしんけんだ」


 刀身が黒だから【黒震剣】、シンプルでいいでしょ?


「ぐぬぬ……私の剣にもめいが欲しい……」


 セリーヌがうなるような声で言った。


「自分で名前つければ?」


「えっ? いいのか!? 剣の銘は、造った者がつける決まりだが……」


「いいって。自分を守る大切な武器なんだから、愛着をもてるように使う者が名前をつけるべきだ。もちろん、売ったり譲渡したりしない大前提だけどな」


「そんなこと絶対にしない! これまでの神鋼大剣もサブの武器として、私が死ぬまで大切にとっておく。これはもう……家宝だ!!」


 うんうん。そこまで大切にされれば、武器冥利に尽きるというもんだ。

 つくったお父さん……いや俺もうれしい。


「それじゃ時間がもったいないから、そろそろにいこう。リアナは後方支援担当だから、最初はセリーヌが前衛でカバーしながら効率よくレベリングしほしい」


「承知した。私は準備完了だ」


「了解……で、ヒナはどうする?」


 俺とセリーヌが盛り上がってたせいか、ヒナはテーブルで静かにお茶してた。


「ボクは留守番してる。リアナにつき合う理由がない」


 まことにもって冷たい返事。

 ヒナとリアナのあいだにある溝は、そう簡単には埋まらないみたい。

 これは時間が必要かな?


「わかった。なんなら寝ててもいいぞ」


「ねえ、お弁当はー」


 ほー。

 対するリアナ君は余裕だねー。


「弁当は固パンとチーズ、あとは水筒の水だ。10分で食べられるように、みんなひと口サイズにしてもらった。セリーヌのインベントリに入れてあるから、自分の判断で昼飯にしてくれ。それじゃいくぞ! 長距離転移、西の森!!」


 その後……。

 2人を西の森までおくり、俺だけもどってきた。

 こっちはこっちで、やることがある。


 俺は宿をでると、広場の北側にある街路をすこし行ったところにある鍛冶屋へむかった。



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