第13話 この世ならざるものを作ってみた。
いま、スターラさんの店にいる。
薬屋と道具屋。さらには錬金術師もかねている店だ。
「ええと……変なこと聞くみたいだけど、この店に、腐ったものを食べて腹が痛くなったとか、傷口が膿んでひどいことになってる患者って、来ない?」
店のカウンターにいたスターラさんに、中級と高級のHPとMPポーションを注文しながら、さりげない感じで聞く。
「ああ、そういった患者がでたら、出張することもありますよ。そんな客には、痛み止めの薬を処方して、教会かギルドで治癒系魔法をかけてもらうよう薦めてます」
「そうなんだ。でもさ、治癒魔法で治ったように見えても、すぐ再発する患者がいない? 何度も熱をだして、そのたび弱っていくような人。最悪、死ぬこともある……」
「ええ、います! ちょうどいま町に、先日の魔物との戦闘で怪我をした衛士がいます。傷は治癒魔法で治ったみたいですけど、なぜか熱が下がらないんですよ。体調も悪化してます。私どもは【悪血病】って呼んでますが、ああなると残念ですが、治るかどうかは運まかせですね」
スターラさんの話を聞いて、俺は心の中で叫んだ。
(やっぱりだ! これなら作る意味がある!!)
じつは朝飯を食べたあと、食堂のおばちゃんに頼みこんで、厨房の倉庫でちょっとした採取をしてきた。
話を聞くまでは、取ってきたモノをどうするか迷ってたんだけど、ようやく決心がついた。
「スターラさん。これ見てくんない?」
「うわっ、汚い! それ青カビじゃないですか!」
ドン引きされた。
当然の反応だよなー。
俺が皮袋の紐を解いてチラリと見せたのは、野菜や果物につく青カビだ。
地球だと、ミカンとかが腐るとよく見られるやつ。
厨房の倉庫にあった破棄野菜と果物から簡単に集められた。
もちろん、地球の青カビと似たものかどうかは鑑定済みだ。
これから俺は、この世界にこれまで存在しなかったモノを作る。
ここ数日、地球のネットやここの情報を検索しまくって、なにかできることはないか調べてた。基礎知識さえあれば、ネットはまさに宝物庫そのものなんだ。
生前は大学の理工学部を卒業して、化学薬品とかをつくる会社で開発をしてた。
だから錬金関連は、俺の本業にちかい感じ?
これを生かさない手はないって思ったわけ。
「まあ、そう言わないで。これから面白いもんを見せてやるから。ちょいと調合室を借りるよ」
「春都さんなら構いませんけど。いっぱいポーション買ってくれる良客ですからね。でも、あまり変なことはしないでくださいよ」
青カビを見せたあとだから、かなり不安そうだ。
許可をもらって奥にある調合室にはいる。
「ええと……まず水をまぜてと」
調合室にあるクリスタル製の容器に青カビを入れて、つぎに精製水を注ぎこむ。
それから風飛蜘蛛の糸で編まれた
俺がなにするか知らないスターラさん、せっせと木板にメモしてる。
さすが錬金の専門家だ。すっかり科学者みたいな態度になってる。
この世界にも理系脳っているんだねー。
まあ、俺がいまやってる事も、もとからある基礎知識でネットの情報を選別して学習したもんだから、俺のオリジナルってわけじゃないけど。しつこく調べりゃ、たいがいのモノは作れるんだから、ほんと怖いね、ネットって。
「あきれた事するんですね。カビは
うしろから肩越しに見ているスターラさんが、2本の枝分かれした角をゆらしながら聞いた。
「それが違うんだな。ええと、酢と
「酢はなんでもいいんですね? それならカーマ酢があります。ええと……重曹って?」
カーマ酢っていうのは、サラダのドレッシングにも使われてる果物酢だ。
宿の食事でも普通に使ってるから知ってる。
うーん、重曹……ちょいとヘルプの検索記録書を見よう。
いつでも参照できるように、ウインドウは秘匿した上で開きっぱなしにする。
なになに……重曹は塩を電気分解して水酸化ナトリウム溶液を作成、それに二酸化炭素を反応させて作るとな。
「塩はあるでしょ? だったらいま、重曹をつくる」
「塩……錬金用の純度の高いものですか?」
「うん、たぶん」
「あとで料金もらいますからね。はい塩」
日本で普通に売られてる精製塩みたいなのを渡された。
「これを水に溶かして、電撃……そおーっと」
磁器製の器に塩水を満たし、そこにそっと電撃魔法で電気を通す。
ものすごく弱い電流にするのに苦労したけど、なんとか爆発させずにできた。
ちなみに、俺のステータスを見ても【電撃】の記述はない。
そのかわり【轟雷爆撃】がある。
轟雷爆撃は、電撃の上位魔法にあたる【雷撃】と【爆砕】の複合魔法かつ広範囲魔法で、専門魔法レベル8……だって。当然、最下位互換の【電撃】も単体で使えるって書いてある。
「これをいったん、インベントリに入れて個別に分別……水酸化ナトリウム溶液だけ取りだす、と」
さっき塩水が入ってた容器に、いまは水酸化ナトリウム溶液が入ってる。
つぎに、手を空中にかざす。空気をインベントリに入れる。
分別された二酸化炭素だけ取りだして、水酸化ナトリウム溶液の中にすこしずつ噴出させる。残りの酸素とか窒素は空中にもどす。
「うーん、うまくいかんなー」
なかなか二酸化炭素が反応してくれない。
重力魔法で、ほんのすこし圧力をかけてみる。
だいたい5気圧くらい。すると反応しはじめた。
容器の底に沈殿したのが重曹。
上澄み液を捨てると、生活魔法の【微風】と【種火】をつかって乾燥させる。
すぐに純白の重曹粉になった。
「はい、これが重曹。作り方、覚えておいてね。これ、酵母を使わないで簡単にパンとか膨らませるのに使えるから、けっこう売れると思うよ」
いまやって見せた調合は、たぶんスターラさんにもできる。
電撃を持ってないなら、誰か魔法を習得してる者に頼めばいい。
初級魔法だから、きっと大勢いる。
問題があるとすれば二酸化炭素の入手。
二酸化炭素は、炭や木材を完全燃焼させて発生させ、それを空間収納できるバッグなり倉庫なりに分別収納する。容量制限や個数制限があっても、たぶん問題ないはず。
俺の無限収納が特別なのは無限だからで、制限のあるものは一般人もけっこう持ってるって聞いてるから、こっちは問題なし。
あとは重力だけど、これは圧力容器を作ってやれば解決する。
事前に加圧した圧力容器の中に、空間収納していた二酸化炭素を入れるのは誰にでもできるから、これも問題はない。
完成した重曹は、ひとまず横において……。
青カビを濾過した液体に、太陽草からとった植物油をまぜる。
これは油にとける不純物を除去するためだから、精製度の高い油ならほかのものでも大丈夫だ。
「ええと、つぎは活性炭だけど……」
該当するものがないか周囲をさがす。
薬草を
できた活性炭をいれた金属鍋に、さきほど油をまぜた液体の水溶液の部分だけ入れる。
しばらくかきまわして、さらに不純物を取りのぞく。
「酢をくれ」
酢を別のクリスタル容器に入れ、そこに鍋から液体を注ぎこむ。
活性炭が混じらないように、ゆっくり慎重に……と。
「最後だ。重曹を」
まず重曹を水に溶かす。
それをすこしずつ、クリスタル容器に注ぎこむ。
これは酢を中和する作業だから、泡の出具合を見ながら、用心深く中性になるよう調整する。
「よし、できた」
ここまで2時間くらいかかってる。
もうすぐ正午。さすがに汗かいた。
「なにができたんです?」
完成した液体をガン見しながら、スターラさんが興味津々に聞いてきた。
クリスタル瓶に小分けされた淡い褐色の液体。
本当は無色透明なはずだけど、そこまで精製するのは無理みたい。
「この薬で【悪血病】の患者さんを治すことができるんだ」
「……なんですって!」
「ほかにも、高熱を出して息がぜーぜーしてる患者とか、火傷したあと皮膚がべろべろになってる患者を、最終的に死から助ける薬にもなる。それから、たぶん……流行り病とかあると思うけど、その中の一部にはすごく効くはず。こればっかは、投与してみないとわからないけどね」
「嘘でしょ? そんな話、聞いたことありませんよ! なんて名なんです、この薬!?」
「ペニシリン……ってことにしておく。なんせ、いま名前つけたばっかだから」
こっちの世界にくる前……。
地球では例のウイルスによるパンデミックの影響がまだ色濃く残ってた。
だからネットにも、感染症に関する情報もあちこちにあふれてた。
もっとも、ペニシリンは細菌には効くけどウイルスには効かない。
そんな基本的なことすらネットで調べて知ったくらいだから、俺もアレコレ偉そうに言える立場じゃないんだけどねー。
ともかく、この世界に役立つものはないかって考えたとき、ペニシリンを最初にチョイスできたのは、すべてネットのおかげなんだ。
もちろんスターラさんから、町にいる感染症をわずらった衛士や冒険者のことを聞いたのが、最終的に『作ろう』って決心した原因だけど。
ところで……。
名前をつけてから気づいたけど、この薬、きちんと完成してるんだろうか?
ネットの情報と俺の知識を照らしあわせる限りじゃ、間違ってないはずだけど……。
「精密鑑定」
便利なスキルを持ってるじゃないの、俺。
(精製度が低レベルのペニシリン系抗生物質製剤。薬効基準は5万単位。外用および服用に適す。筋注および常駐は不適。外用はそのまま塗布。服用は100倍希釈し500単位として使用すること。魔力の介在により効能が倍加するため、実質的に2倍の薬効が期待できる)
うーん、ネットで見た筋注用のペニシリンは20万単位だったから、おおよそ4分の1の精製度か。はじめて作ったにしちゃ上出来かな?
それに、この世界の細菌って抗生物質にほとんど耐性ないはずだし、患者さんも体内のMPで効能が2倍になるみたいだから、これでもかなりの治療効果が期待できそうだ。
これなら、人に使っても大丈夫……。
もしダメなら、とりあえず家畜とかに使って様子を見ながら、精製度と安全性を高めようって思ってたんだ。
それにしても……なぜ魔法のある世界で抗生物質を?
俺も最初はそう思ったけど、この世界の知識を検索してみたら、治癒系の魔法は傷や炎症は治せるけど、肝心の体内に侵入した細菌やウイルスは殺せないことがわかったんだ。
抗菌剤のサルファ剤を作っても良かったんだけど、こっちの人でも再生産できることまで考えると、化学合成の手順が簡単な抗生物質のほうが普及させやすいはず。サルファ剤って、けっこう作るのメンドイのよ。
それならいっそ別の魔法、たとえば【清浄】とか【浄化】で滅菌すればいいって思うかもしれないけど、それも実際には無理。浄化系魔法やスキルは、体内にいる微生物には効かない。
この説明を見た時、俺も不思議に思った。
でも地球のネット検索で理解できた。
人間の体内には、生きるのに不可欠な【有用細菌】が住み着いてるんだって。
それから細胞の中にあるミトコンドリアは、もとは別の微生物だったそうだ。
そんな役にたつものまで滅菌してしまうと、当人まで死んでしまう……。
それなら解毒系や状態回復系の魔法はどうか?
これらは、たしかに体内の毒素や肉体の異常状態を除去してくれるありがたい存在だ。
しかし解毒は、毒素を産成する微生物までは除去できない。
状態回復魔法は癌を治せない。
癌はあきらかに肉体の異常状態なのに治せないんだ。
生物学的にいえば、癌も微生物も肉体にとっては異物なんだって。
このことから、状態回復魔法は『肉体外から与えられた状態異常を回復する作用しかない』ことがわかる。
だから細菌毒による症状が一時的に改善しても、細菌が体内にいるかぎり、またぶり返すことになる……。
それ以前に、この世界には細菌学やウイルス学の知識がまるでない。
前にヒナが言ってたけど、微生物という存在を知らない者は、それに対し魔法やスキルを行使することができないって。
だから治癒魔法や治癒スキルがあっても、絶対に病原微生物には効かない。
結局のところ感染症は、自己免疫で治すしかない。
事実、この世界ではそうなってる。
検索して驚いたけど、この世界でも毎年のように流行性の感染症――
それなら治癒系魔法と抗生物質は両立する!
生前にやったゲームとかじゃ、この手の設定はなかったもんなー。
もしかして俺が知らないだけで、ほかのゲームとかじゃデフォなの?
ちなみに感染症の基礎知識を持ってるのは、地球でウイルスのパンデミックがおこって、ネットでもその手の情報があふれてたからだ。だからネット検索ができるようになったら、真っ先にくわしい事を検索したいって思ってた。
感染症に対する根治薬のない世界に、いま特効薬がもたらされた。
だけどまだ誰も、ペニシリンの偉大な効能を知らない……。
「ボク、報告モード。この世界に抗生物質がもたらされた。スターラの心にいま大きな希望が生まれた。そしてその希望は、時がたつにつれて全世界へ大きく広がる。これにより、希望の力が盛大に発動した」
「お、おい、ヒナ……スターラさんがいるってば!」
「スターラは抗生物質の作り方を知った。だからもう、共通の秘密を知る仲間になった」
「いいのか? 影響が大きすぎるって思うけど」
「教えたのは春都。その時点で春都の決断が入っている。だから世界の未来線には、すでに織り込まれてる。あとは春都次第」
「はいはい……また、いつもの俺の決断ね。俺が責任とりゃいいんなら……もう、それでいいや」
「責任をとる必要はない。世界が破滅するだけ」
これ以上ヒナにしゃべらせると、どんどんヤバイ情報がスターラさんの耳に入ってしまう。だから都合のいい情報だけスターラさんに教えることにした。
「スターラさん……いまヒナが言ったとおりで、この抗生物質っていう薬は、全世界に凄い影響を与えるんだ。だからしばらくは、錬金術で偶然にできた特効薬ってことにして欲しい。もちろん、売ったり使ったりするのはいいけど、製法をだれかに教えるのは、しばらく待ってくれ。どうしてもっていう時は俺が立ちあうから」
いきなり訳のわからない事を言いだした俺をみて、スターラさんが茫然としてる。
でも錬金術士だから理系脳、すぐに理性をとりもどす。
「それが本当なら凄いことですよ! ぜひとも効能をたしかめてみたいです」
「ああ、構わない。ただし使用条件がある。外用薬として使う時には、このまま塗ってもいいけど、飲用にするには100倍に薄めてくれ。そうじゃないと毒になる」
「良薬は毒でもある……常識ですね。きちんと記録しました」
「飲用だと1日3回、食事の後で服用させる。そして、すこしでも苦しがったら、すぐに投与を止めること。これは絶対条件だ。たまにだけど、薬があわずにひどい症状をおこすことがある」
ペニシリンの効果は絶大……でも、まれにアナフラキシー・ショックをおこす。
この世界でも同じかわからないけど、用心するに越したことはない。
スターラさんは俺の言葉を聞き漏らさないよう、一字一句を木の板にメモしている。
この熱心さがあるなら、たぶん大丈夫だ。
「それじゃ、あとは頼んでいいかな? 俺たちは、これからやることがあるから。もしわからないことがあったら旅宿に伝言してほしい。きちんと対処するから」
そう言いつつ、そっと隠蔽ウインドウを閉じる。
「わかりました! 町にいる悪血病の患者さんで効果を確認できたら、徐々に使用範囲を広げてみます! おっと……その前にメモをきちんと整理しとかないと!」
俺たちが店をでていく時も、スターラさんは調合室からでてこなかった。
おそらく俺がペニシリンを作った手順を記したメモをもとに、自分で調合する算段をしているのだろう。俺の知ってた連中……理系脳ってそんなもんだ(友達じゃなかったけど)。
重力とかの問題があるから、たぶん最初は失敗する。
でも、マジメな性格だから、ちょっと支援してやれば解決できるだろうな。
ともかく、ペニシリンの製造法が確立されれば、ほかの抗生物質もそのうち開発される。それが世界全体に広まれば、間違いなくこの世界は変る。そうなることを願っての、俺が意識してやった最初の改革なんだ。
「ねえ、ヒナ。ちょっと気になったことがあるんだけど……」
店をでるとすぐ、ヒナに質問する。
「ん? なに?」
「俺がインベントリで金属元素を選別できるのは、元素って知識があるからだよね?」
「うん」
「だとすれば、スターラさんが元素の概念をもってなけりゃ、必要な材料を分別できないんじゃない?」
「うん、正しい」
「となると、いまのスターラさんじゃ、ペニシリンを作れないと思うんだけど……」
「知識は教えればいい。この世界の住人は、地球の科学に関して無知だけど無能じゃない。錬金術にはきちんと科学と化学、そのほか雑多な学問の基礎知識もはいってる。魔法をうまく使うには物理法則の知識が不可欠なのとおなじ。言葉はちがうけど、彼らなりに科学的な思考をしてる。だから地球の知識をうまく説明してやれば、それで理解できる」
「うーん、そうしたいけど……俺たち、あしたには公都へ行くんだよな?」
「春都……この町の人たちのこと、本気で一蓮托生だと思ってる? 本気で巻きこむ決意がある?」
いきなり、あらたまった調子で聞かれると、けっこうビビる。
でも、もう俺の心は決まってる。
「ああ、それはもう決心した。この町のことは、俺が全責任を持つつもりだ」
「わかった」
そう答えたヒナ、ポッケから魔法玉を取りだした。
「天啓玉」
なに、そのトンデモ度100%みたいな魔法玉。
「これは春都が指定した者に対して、必要な情報を【天啓】として与える作用がある。与える情報の範囲は個別に指定が可能。作用は永続するから使用には注意が必要」
「これまた、めちゃくちゃチートな玉だなー。でも、具体的にはどう使うんだ?」
「スターラさんの場合だと、ペニシリンの合成に関するすべてと、有機および無機化学に関する基礎的な知識。これには化学式や元素表の概念も含まれるけど、こっちの世界の元素表は地球のものとはちがうから独自に作らなければいけない。それはスターラさんに任せていいと思う」
「そっか……それじゃ、さっそく使ってみて。それから後日に鍛冶屋でも、その玉をつかうと思うけど、そのときは許可なしで使っていいから」
この魔法玉、名前からして常識外れだから、俺の許可なしでは使えないはず。
だから許可したんだけど、大丈夫だよね?
「ぽい」
ヒナが、いま出てきたばかりの店の玄関に、魔法玉を放りこむ。
――パッ!
一瞬、店内に光が満ちた。
「うおおおおお――っ! わかる、わかりますよー!! 神様の声が聞こえますよー!!!」
店内からスターラさんの叫ぶ声が聞こえてきた。
実際には神様の声じゃなく、たぶん天界システムのアドバイスだろうけど。
このぶんだと大丈夫だな。
ひとまず安心して、メニューを開く。カウンターの日数を見た。
182日に増えてる。
さすが、地球でも億単位の人を救ったペニシリン、ハンパない。
しかし安心はできない。
大幅に日数が増えたってことは、いきなり大幅に減ることもあるってことだ。
ヒナが言ってた【ひどい災厄】ってのも気になってるし……。
それに備える意味でも、日数には余裕があったほうがいい。
「春都、なぜ金銭の話をしなかった?」
「あ、忘れてた……」
「春都らしい。だけど、ボクはそんな春都が好き」
「……お、おう」
この前の仕返しか?
声だけじゃなく、心の底から動揺した。
けど、悪い気はしない。
「ま、ま、なんだ……すこし早いけどギルドに行ってみよう。もしまだ開拓の許可がおりてなけりゃ、ギルドでなにか食べて待ってればいいから」
ヒナは天界システムの一部だから、人間の感情をよく理解できない。
だから簡単に好きとか言ってしまう。
けっして人間の女の子が俺を好きって言ってるわけじゃない。
そんな事、これまで1度もなかったから……。
裏切られるのが怖くて、そう言い聞かせてる自分がいる。
でも半面、ほんのちょっぴり、もしかしたら本気かも?
そう思いたい自分もいる……。
「うん」
歩きはじめたヒナは、どことなく嬉しそうだ。
なんでだろ?
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