第12話 クラフトはともかく素材集めから。


 朝起きたら、宿に伝言がとどいていた。

 寝ぼけまなこで聞いたら、ギルド長のアンガスさんから、開拓の許可をだすから、昼過ぎにギルドに来い……だって。


「開拓の件は午後になったから、午前はスターラさんの店にいくかな? あ、そうだ。クラフトの材料も仕入れないと……」


 ひとり言をつぶやきながらヒナを見る。


「ふわぁ~」


 

 昨夜、ヒナがいっしょに眠りたいって言ってきたから……。


 でも俺、なんもしてないからね!

 ほんとに添い寝しただけ。


「クラフト材料を手に入れるなら、どこらへんがいい?」


「植物系の材料なら迷いの森。いまは焼け野原だから、燃えてない西のはずれあたりが良い。鉱物系材料なら古代神殿の一択」


「古代神殿? なんで?」


「行けばわかる」


「わかった。それじゃ朝飯前にひと集めしてこよう。長距離転移でいく」


 俺は着がえながら、ヒナにも準備するようにせっつく。

 じつは言ってから思ったんだけど、また俺、自分勝手な判断してるかな?


 まあ今回は、ヒナが気にしてないみたいだからセーフということで。

 ひそかに反省しつつ準備を完了した。


「長距離転移、迷いの森」


 一瞬で景色が、部屋の中から焼け野原の森にかわる。

 転移した場所は、天界からこの世界に転移してきた地点だ。


 長距離転移は、マップにあらかじめ転移地点をセットしていなければ使えない。

 だからヒナの言った西の森には、まだ長距離転移ができないんだ。


「えーと、西ってどっち?」


「あっち」


「んー。ああ、あそこに木が見えてるとこか。よし、短距離転移!」


 また風景が切りかわる。

 転移した場所は、まだ燃えてない森の手前。


 短距離転移は、見える場所ならどこでも制限なしに転移できる。

 こっちの転移は、この世界にも使える者がいると聞いた。


「さて、時間をかけずに材料を集めるには……まずは精密探索だな」


 探査範囲を最大に設定してスキャンを開始する。

 だいたい5キロ半径くらいのマップが表示される。

 あちこちに素材アイコンが表示された。


「樹林襲来。魔樹100匹召喚!」


 【樹林襲来】は、専門魔法レベル10にある究極魔法のひとつだ。

 究極魔法だけあって、本来は巨大な【魔樹の林】を召喚して戦わせるらしい。

 いまはゴーレムの代用にするため、小さな魔樹100匹を出現させる。


 魔法の行使により、魔樹――トレントと呼ばれる木の巨人(ただし今回はミニマムな2メートルサイズ)が100匹あらわれた。


 本来はトレントの集合体の林を出現させる魔法なので、この使いかたは無駄が多い。

 でもゴーレム関連の魔法やスキルを持っていないので、これで代用するしかなかったんだ。


 いっきにMPが4桁まで減った。

 あわてて初級MPポーションをがぶ飲みする。


 サイズが小さいからMP消費も少ないって思ったけど、100匹も出せばそれなりに消費する。完全に予測をまちがった……。


 パッシブスキルに【MP漸次回復レベル3】があるから、1分で1万くらい回復できる。これがあるから油断してたんだ(いまのMP総量は約90万)。


 だからは重宝してる。

 なにしろ初級ポーションでも満タンの1割――9万くらい回復するんだ。

 総量がバカでっかい俺には、まさにぴったり。


「魔樹に命じる。おまえたちには、マップに記録されたクラフト材料を取ってきてもらう。データは転送した。あとはまかせる。それじゃ開始!」


 わらわらと枝をゆらし、100匹の魔樹が森へ入っていく。

 これで、しばらく放置……と。


「ヒナ、古代神殿に移動する。うおっと! ここの長距離転移ポイントを記録しておかなきゃ……これでよし、と。それじゃ行くぞ」


「ボクは準備できてる」


「長距離転移、古代神殿」


 ホント、転移魔法って便利だなー。

 あっという間に、のあった場所につく。

 ここも登録していたポイントのひとつだ。


「えーと……」


 古代神殿にきたけど、なにをすればいい?


「ヒナ……行けばわかるって言ってたけど、なにすればいいの?」


「古代神殿の地面には、ながい年月のあいだに神殿で使われていた金属がはがれ落ち、風化して堆積している。それを利用する」


「具体的には、どうすればいい?」


「地面の土をインベントリに入れる。春都のインベントリは、入れたものを自動分別する。だから入れた土は、成分ごとに分別される。金属成分だけ保存して、残った土はあとで捨てる。説明するより、やったほうが早い。やってみて」


 いや、説明はナシって……。

 こっそりインベントリのヘルプを見る。


 自動分別は、インベントリの設定でON/OFFを切りかえられるんだって。

 いまはON状態だけど、OFFにすればそのまま入れられるわけ。


 また、間違って分別しても、インベントリの上にあるコマンドアイコン――【復帰】を押せば元にもどせる(ただし生物以外。生物は分別したら元にもどせない)。


 分解した材料さえそろっていれば、材料のひとつを指定するだけで【復元】もできる(これも生物以外)。


 【ロック】アイコンを使えばON/OFFに関わらず、個別に現状を固定できる。


 武器や防具、装飾品、食物などの一般アイテムに分類されるものは、デフォルトでロックが掛かっている。これらは、どうしても分別したい場合のみ、ロックを外して分別指定することになる……。


 これらすべての操作が面倒なら、インベントリの【ページング】という機能もある。

 ページングは、インベントリに入れるものを最初から種類ごとに分けて収納する機能だ。


 これをONにすると武器防具・機能性装飾品などの装備アイテム、食品や生活雑貨・調理器具・工具などの一般アイテム、素材などの材料アイテム、貨幣や貴金属その他の貴重アイテムなどにページが分けられる。


 さらには、オリジナルのページを作成する機能もあるので、大事なものは保存アイテムとかの名前で別にページを作っておくと便利だ。もちろん、ページごとに分別機能を指定できる。


 ここらへん、かなり考えて作られてるみたい。

 生前に遊んでたゲームでも、こういうの欲しかったなー。


 もっとも、これは無限収納だからできる前提だもんで収納制限があるタイプだと意味がないかも。


「実際にやったほうが早い? それじゃ……」


 地面に手をついて、土をインベントリに収納する。

 1回の作業で10メートル四方くらいの土が根こそぎ消えて、下にあった石畳が現われた。掘った深さは1メートルくらいある。ずいぶん昔から積もり積もったって感じ。


「その調子。どんどんやって」


「これもう採取じゃないよー。まあ、いいけど」


 無駄口をたたきながら、次から次へ収納していく。

 まるで神殿の発掘をしてるみたい。


 30分後……。


「こんなもん?」


 インベントリを見ると、残土と書かれた分別後の土が5000トンを越えている。


 鉱物成分は……。

 金、銀、白金、琥珀金、神銀、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、チタン、コバルト、タンタル、マンガン、鉄、タングステン、シリカ、純炭素、マグネシウム、ニッケル、アルミニウム、クロム、銅、錫、鉛、水銀……うわー、ありすぎ!


 鉄なんて100トン単位である。

 シリカにいたっては、土中の岩石成分まで選別したみたいで2000トン……。


 他の金属も、貴金属をのぞくとトン単位。

 古代神殿、どんだけ金属使ってたんだよ。


 余談だけど、土の中にいた虫や魔物も分別されてた。

 最初はいらないかなって思ったけど、よく調べてみたら、けっこうクラフト素材として使えるみたいなので、そのまま保存することにした。


「春都。それくらいで足りる?」


「たぶん大丈夫……っていうか、多すぎるって」


 生前の俺って理工系だったけど、残念ながら化学系だったから冶金学は通りいっぺんの知識しかない。


 それでも、これだけあれば色々作れそうでワクワクしてくる。

 あとで地球のネットを検索して、冶金学について勉強しようっと。


「よかった、役にたてて」


「お、おう……それじゃ、朝ご飯の時間も近くなってきたから、とりあえず森にもどろう。おっとその前に、選別したあとのいらない土を捨てなきゃ……破棄っと」


 チリひとつなかった石畳が、また土塊つちくれで覆われてしまった。

 捨てたんだから土の山ができそうだけど、なぜかきれいに整地されてる。


 もしかして、インベントリから取りだすときに破棄を選択すると、採取した場所にもどす――地形の現状復帰になるのかな?


 観光名所にするなら、発掘後のままのほうが良かったかな……。

 まあ、この件は町の人と相談して決めよう。


「じゃヒナ、いくよ! 長距離転移、西の森!」


 到着すると、魔樹トレントたちが勢揃いしていた。

 木の幹にあたる部分に空間格納庫を装備してるみたいで、そこから採取した品を取りだして、種類ごとに地面にならべてる。


 どうせインベントリで分別するから、ここで分けなくてもいいのにと思ったけど、そういう指示を出してなかった自分に気づき、心の中でヘマしたって叫ぶ。


「ごくろうだった。召喚を解除する!」


 なんの褒美もやらなかったけど、これは魔法だからいいんだよね?

 そう思ってヒナを見たら、首をちいさく縦にふってる。

 マジで以心伝心? うん……そうゆーことにしておこう。


「収納する」


 地面に盛られた膨大な量の材料を、片っぱしから収納していく。

 ただ触れるだけだから、ものの1分弱で完了する。


 集めたのは各種薬剤の材料、燃料としての木の枝、武器や防具にする植物由来の材料、魔樹が狩った魔物や動物(魔物の体もクラフト材料になる)。すこしだけど植物の種もあった。


「これで終わりだな。ヒナ、帰ろう」


「ボク、ご飯たべたい」


「ああ、俺もだ。じゃ長距離転移、宿屋自室!」


 戻ってきた……。

 俺とヒナの衣服と体を浄化する。

 これは生活魔法のひとつで、使うと体全体が暖かい光に包まれて、汚れや汗、匂いとかを除去してくれる。


 ちなみに【浄化】は、俺がもってる【清浄】の下位スキルだ。

 セリーヌは【浄化】として持ってる。

 清浄は浄化の機能にくわえて、体表面の毒素や病原微生物なんかも除去してくれるから便利だ。


「さて、食堂に行くか」


 ヒナを待たせるのも悪いから、そそくさと部屋を出て1階へむかった。




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