第10話 ダンジョンリセット!


 いま最下層のボス部屋前にいる。

 派手すぎる巨大な扉のむこうに、ダンジョンのボス――スカルドラゴンがいる。


 ヒナに聞いたら、一般竜種が死んだあとアンデッド化して、【骨竜】と呼ばれる別種に変化へんげしたものらしい。ここにいるヤツは飛竜タイプで、骨だけの体で二足歩行するんだって。


 注意すべきことは、物理攻撃がほとんど効かないことと、竜の息といわれるブレス攻撃は、こっちのレベル無視で大ダメージを与えるってこと。俺が強いからってタカをくくってると、即死に近いダメージを受けるらしい。さすが死んでもドラゴンだ。


 それにしても……。

 ここにたどり着くまで、けっこう大変だった。

 俺個人は楽勝でも、ヒナとセリーヌを守りながら戦うのが予想以上に大変だったんだ。


 地下4階の敵はさすがに手ごわかった。

 スタンピードで出くわした、あのグランドドラゴン野郎もふつーにいた。


 そのほかにも大物の邪鬼王オーガ、中堅どころだと吸血ミイラ、エナジードレインを使うワイトとか、もうアンデッド系のオンパレードって感じ。


 グランドドラゴンを鑑定したら、なんとレベル44。

 調べてみたら、こいつもブレスを吐くじゃないか!

 ヒナの魔法玉がなけりゃ、最初の転移地点についたばっかでレベル1だった俺の異世界人生、終わってたよな……。


 でも、いまのレベルは

 魔物を倒す方法さえ知ってれば負ける要素はない。

 あくまで知っていれば……だけど。


 無知のせいで亡霊騎士に苦戦した経験、ぜったいに生かしてやる。


 セリーヌも経験値獲得10倍の恩恵をうけて、レベル34になってる。

 特殊スキルも獲得したようだ。


 鑑定してみたら【馬鹿力レベル1】だって。

 効能は【短時間、全能力が3倍】。レベル1だと1分間らしい。


 このスキルがあれば、亡霊騎士やオーガ、グランドドラゴンあたりはソロじゃ無理だけど、俺やヒナがいれば大丈夫だよな? だって3倍強いから、実質レベル40くらいのステータスになるはず。


 ちなみに……。

 レベル100になって以降、俺のレベルの伸びがセリーヌにくらべて悪くなってる。


 原因は、だいたいわかってる。

 レベルアップに必要な経験値が、倍々で大きくなっている感じがする。


 なのに、ここの魔物だとレベルが低すぎて、もらえる経験値が少なすぎるんだ。

 俺個人のレベルだと、もっと強い魔物を狩らないといけないんだけど、ヒナやセリーヌのレベルが上がらないと危なすぎて無理。


 ここらへんは生前に遊んでたネットRPGでも常識だったな。合計100倍の恩恵があっても簡単にレベルが上がらない。実際に目の当たりにすると、けっこうダルい……。


 まあ、これは俺にかぎった事じゃない。だれでもレベルが高くなれば、つぎのレベルアップまでの期間は大幅にのびるもんだ。そう思って諦めることにした。


 扉をあけたら即戦闘開始だから、いまのうちに準備を万端にととのえる。

 地下4階におりてからの戦闘で、けっこう消耗した。

 そのぶんを治癒魔法とMPポーションで最良にもどす。


 いくつも持続系の防御魔法を重ねてかける。

 ヒナにも、あぶないと思ったら障壁天蓋玉をつかうように命じておく。

 事前に言っておかないと、制限時間の関係で窮地におちいる可能性があるからね。


 よし、準備はととのった!

 罠がかかってないか鑑定する。

 ……罠はない。慎重に扉をおす。


 ――ギッ、ギギッ、ギギギ――ッ!


 きしむ音がすごい。

 ゆっくりと開いていく。


「ゴアアッ!」


 雄たけび一閃。

 ただそれだけで、立っているのがやっとくらいの圧力波が襲ってくる。


「馬鹿力、不退転、覇気、隠密、身体強化!」


 セリーヌが、自分を強化する声が聞こえる。

 俺の目はスカルドラゴンに釘づけ。

 ちょっとでも目をそらすと、威圧で吹き飛ばされそう。


 ――ドーン!


 背後で大扉が閉まる。

 もう勝たないかぎり出られない。


「まとめて、ぽい。爆裂玉」


 ヒナの手から、数えきれないほどの魔法玉が飛びだしていく。

 爆裂玉は、初級魔法【爆裂】をアイテム化したものらしい。

 ちなみに俺の【殲爆せんばく】は、爆裂の上位魔法って書いてあった。


 ――ズドッドドドッドカドカドカン!


「春都。牽制してるあいだに行動の自由を奪う。もひとつ、ぽぽい」


「なんで?」


「スカルドラコンは、胸の奥にある竜核を破壊しないと高速再生する。ぽい。物理攻撃には耐性がある。ぽい。剣をつかうときは魔法付与を忘れない。ぽぽぽい」


「いや、そんな大事なことは、戦闘の前に言ってくれよー」


 ヒナの助言は具体的だけど、言うタイミングがなー。

 それに、途中にはいる、なんとかして欲しい。


「聞かれてないことは答えられない」


 うわ、言いわけにしか聞こえないけど、マジでそうなの?

 事前に聞かなかった俺が悪い?

 うーん……でも、俺そこまで気がまわらんし。


 それにしても……。

 このダンジョン、鬼畜すぎやしない?

 骨とはいえドラゴンだぞ?


「動けなくしたら次はどうする? もっとも効率的な倒しかたは?」


 もう亡霊騎士の時みたいなミスはしない。

 できるだけ具体的にアドバイスを求める。


 あ、いや……。

 これも戦闘前に聞くべきことだよな。

 うん……俺が悪い。墓穴ぼけつった。


「春都がレベル100になった時、女神の加護2が使えるようになった。10個ぽい。そこにあるを使えばいい。もいちど10個ぽい」


 擬音、なおす気なさそう。

 明らかに好んでやってる。

 もう放置することにした。


 ……レベル100。

 あの時に習得した特殊スキルといえば【地形改変1】。

 気になってたけど、まだ試し射ちすらしていない。

 それを、いきなり本番で使えってか?


「なんで最初に使っちゃダメなんだ?」


「ダメ。発動に時間がかかる。MP消費もすごい。いまの春都のMP満タンの八割。だからまず、ドラゴンを物理的に動けなくする。1秒に5発ずつ、ぽい」


 なんだよ、魔法玉を自動連発できるなら最初からそうしろよー。

 それにしても、1発でMP8割消費のスキルって……。


「わかった。とりあえずMP消費のすくない魔法とスキルを使って、ドラゴンの体力を削りつつ足を止めればいいんだな?」


「うん」


「それじゃ、ヒナがいまだと思ったら合図してくれ。特殊スキルを発動する準備にはいるから。その間、なんとかヒナの力で牽制してくれ。セリーヌは防衛優先、余力があれば魔法を使った攻撃をたのむ!」


 きちんと指示できたかな……?

 パーティーでリーダーシップを発揮するなんて、以前の俺じゃ考えられない。


 やっぱ俺、こっちにきてから変わってきてる。

 変わったのは外観だけと思ってたけど、……そのうち外観にふさわしい俺になれるだろうか。


「了解した」

「わかった、春都殿。やってみる」


 二人の返事を確認したあと、俺は魔法を放つ。


「火弾、風刀、石弾、各100連発!」


 初級魔法でも数射ちゃ効くかも?

 合計300発だけど、これでも猫ころがし5発よりMP消費はすくないんだ。


 ――ブボボボボボオボッ!

 ――シュシュシュシュッ!

 ――ドドドドドドドドッ!


 全弾、命中。

 しかしビクともしない。さすがはボス。


「ガアッ!」


 骨だけの頭部から、いきなり白い霧が発生する。


「春都、石化スキルがくる。身を守って」


「邪気防御!」

「石化阻止玉!」


 俺の魔法とヒナの魔法玉がかぶってしまった。

 でも魔法がかぶっても、邪気防御は重ねかけOKだから大丈夫。


 ちなみに邪気防御は、状態異常系の攻撃を阻止する上位魔法だ。

 当然、パーティー全体に効く。

 ここらへんの知識、事前にヘルプを見て……以下略。


 セリーヌは石化を阻止する魔法やスキルを持っていないから、俺がカバーしなきゃって思ったんだが、ヒナもおなじことを考えたらしい。


「加速、氷結、斬撃!」


 セリーヌが武器付与魔法をかけてる。

 それが終ると躊躇せずに突っこんだ。


「てやァ――ッ!」


 ――ガッ!


 ドラゴンの肋骨が1本、見事に折れる。


「治癒玉、連続50連」


 んんんー。ヒナ、なにやってる?

 だれも怪我してないぞ?


「ウガウガウガーッ!」


 初級の治癒魔法玉を食らったドラゴン、なぜかのたうちまわる。


 あっ、そうか!

 スカルドラゴンはアンデッド系魔物だから、治癒はHPを低下させる方向へ働くんだ。


 ヒナに負けてられない。俺もがんばる。


「破防、切断、熱炎、乱撃、空斬、爆砕、強速!」


 おぼえてるかぎりの付与魔法をかけまくり。


「どやーッ!」


 俺の胴体よりふとい右足の骨に神鋼剣をたたきつける。

 秒速10撃のハイスピード連撃を、同じ場所にたたきこむ。


 ――メキッ!


 ヒビがはいった。


「もいっかい!」


 ――ドガガガガガガッ!

 ――ベキッ!


 折れた!

 スカルドラゴンが、ゆっくりと右側に倒れていく。


 だが、敵もさる者。

 倒れながらドラゴン最強の武器――ブレスを吐いた。


「ガアアア――ッ!」

「障壁天蓋玉」


 ヒナ、ぐっじょぶ!


「こ、これは……威力ありすぎ!」


 ドームの周囲の床が、またたくまに溶けていく。

 もうドロドロ。溶けるだけじゃなく吹っ飛ばされていく。


 ブレスが尽きると、ドームの外縁にそって深くて広い溝ができてしまった。

 障壁天蓋玉がなかったら、みんな蒸発してたかも。


「春都、いまがチャンス。こいつ、ブレスのあと、ちょっとだけ動けない」


「よーし、おじさん頑張るぞー!」


 つい、言ってしまった。


「春都、いまは18歳。でも、この状況で冗談言えるのは良い」


 ヒナの冷静なツッコミ。


 俺、人前で冗談言えるようになった……。

 アピールしたかったんだ。

 そこを認めてもらえたんだから、とっても嬉しい。


 取っておきの上級MPポーションを飲み、MPを全回復する。

 まだMPは8割くらい残ってると思うけど、これは余裕をもつため。


 最後にスキルのヘルプを横目で見て、【地形改変1】スキルの使用法と効能を確認する。ああ、これも事前に見ておくべき……ううう。


「地形改変1!」


 両手に魔力をあつめ、高圧縮したエネルギーボールを作る。

 魔法じゃなくスキルに使用するためだから、魔法転換しないままのエネルギーの塊だ。

 いま見てるヘルプにそう書かれてる。


「春都、バリア切れる」


「もうすこし……よしッ!」


 エネルギーボールが両手をひろげたより大きく育った。

 自分でやってるのに、まぶしくて目が痛い。


「とりゃー!」


 ドラゴンの足もとへ放りなげる。


「地殻穿孔!」


 ――ふっ。


 ぎらぎら輝くエネルギー玉がふいに消える。

 魔法エネルギーがスキル効果に転換された。


 音もなくドラゴンの足もとに巨大な穴がひらく。

 直径50メートルくらいあるぞ、これ!


 俺たちのいる場所のすぐ手前に穴のふちがきてる。

 まさか距離の取りかたを間違えてたら、自分たちも落ちてた?

 いや自分のスキルで、それはないだろ。ないよね?


「ガアッ?」


 ドラゴンが支えを失い、漆黒の穴へ落ちていく。


「穴の深さ、1万メートル。


 ヒナがすかさず解説する。

 ……きちんと現地語で言ってるんだよね?

 そうじゃないとセリーヌには意味不明だぞ。


 それに俺、知ってるぞ。

 地球だと海の底なら10キロでもマントルにとどくけど、日本とかの場合だと地殻の厚みはもっとあったはず。生前に科学系の動画でみたことある。



 俺は言語理解スキルを持ってるから、勝手に地球の言葉に翻訳されてる。

 そのため、この世界の距離とか重さの単位がどう呼ばれているか、じつは知らないんだ。


 ところで……この世界にも、地殻とかマントルとかあるの?

 ヒナが言うんだから、あるんだろうな……。

 妙なところが気になった。


 ドラゴンの姿が消えると、巨穴は何事もなかったかのように閉じた。


「地殻穿孔スキルは、アンデッド系最強のスカルドラゴンでも逃れられない。1万メートルもの地中に封じられ、猛烈な圧力と高熱にさらされる。骨のカケラも残さず消滅する」


 さすが女神の加護、これ天災級の破壊力じゃん。

 人間相手につかうと国を滅ぼせるかも?


 いや……やめとこ。

 1発でハルマゲドン・カウンターが激減しそう。


 3分ほど経過したころ、ヒナが報告した。


「スカルドラゴンの消滅を確認。春都の総合レベルが150になった。セリーヌはレベル35に上昇。専門魔法3が追加。武器付与魔法に乱撃1、空斬1が追加された。一般スキルに……」


「報告はいいよ。あとでステータスを見るから」


 言ってしまってから、セリーヌは自分のステータスを自由に見れない事を思いだす。

 しかたがないから俺が確認しよう。


「セリーヌ、ステータスを見ていい?」


「ああ、かまわん。好きなように見てくれ」


「あれ? セリーヌのスキルに鑑定1がある? ためしにステータスって言ってみて」


「そんなはずは……ステータス……おおう、私にも見えるぞ!」


 驚きながら、俺とヒナに披露する。



 氏名・種族 セリーヌ 17歳(人間)

 職業 公領一般騎士


 総合レベル 35

 スキルポイント 50


 HP 2250

 MP 1240


 物理攻撃 165 物理防御 155

 魔法攻撃  78 魔法防御  74

  素早さ 70 知力 65

   幸運 40 器用 55


 生活魔法 種火/浄化/温水


 専門魔法1 石つぶて7

 専門魔法2 投岩2/火炎弾2

 専門魔法3 魔法盾1/魔法槍1/目潰し1


武器付与魔法 加速7/氷結4/斬撃3/空斬1/乱撃1

防具付与魔法 強固1


一般スキル 剣術4/片手剣4

      槍術3/馬上槍2

      身体強化2/眼光2/隠密2/鑑定1

      料理5/覇気1/不退転1


特殊スキル 馬鹿力1(短時間、全能力が3倍)



 すかさずヒナが、セリーヌをフォローする。


「スキルは持ち主が自覚しないと発動しない。セリーヌはさっき鑑定1を覚えたばかりだから、知らないのは当然」


「そういうもんなんだ……」


「骨竜のドロップアイテムとか素材、無駄にしたな。もったいない」


 心の底から残念そうなセリーヌ。

 けっこうな良品が手に入るような口ぶりだけど、だれもまだ倒してないって聞いたような……。たぶん、ってことだろうな。


 うん、そう解釈しよう。

 けっしてセリーヌが憶測でしゃべったなんて思ってないぞ。

 うんうん……。


「春都、無駄話はあと。転送魔方陣が起動する」


 なにもなかった床に、光で魔方陣が線刻されていく。

 ものの数秒で完成した。


「ヒナ、あの転送陣、どこに繋がってる?」


「ダンジョンコアのある中核部屋」


「危険は?」


「敵はいない」


「わかった。セリーヌ、行こう!」


 ボスを倒しただけでは、クエスト終了にはならない。

 それは前もって知らされていたことだ。


 転送陣にはいると、かるい浮揚感とともに目の前が真っ白になった。

 つぎの瞬間、壮麗な大広間の中央に立っている。


 中央奥には、台座の上に空中浮遊しているダンジョンコアがある。紫色に輝く大きな結晶体だ。


「春都、をとる」


 ヒナがはじめて聞く単語を口にした。


「これ、ダンジョンコアだろ?」


「くわしいことはあと。さっさと取る」


「さわっても大丈夫なのか?」


「ふれないとインベントリに収納できない。ただしふれるのは春都だけ。ほかの者がふれると肉体が分解される」


 まさにセリーヌがさわろうとしていた。

 びくっと手を引っこめると、おそるおそる後ずさりする。


「取るぞ」


 さわった瞬間、根元宝玉はインベントリへ収納された。

 同時にダンジョン機能が停止する。

 壁面発光による照明が部屋を照らしてたのが、一瞬で真っ暗になった。


 台座の奥の床に、新たな転送魔方陣が出現する。

 この魔方陣だけは機能を停止していない。


「地上の古代神殿遺跡、中央祭壇への転送陣。春都、いそぐ。長時間のダンジョン機能停止は、ダンジョン崩壊の原因になる」


 言われるままセリーヌの手をひいて魔方陣へはいる。

 瞬時に、地上にある祭壇が目に飛びこんできた。


「台座に根元宝玉をおいて」


 インベントリから取りだし、慎重におく。


 ――キュバッ!!


 すさまじい光の奔流。

 神殿全体から、巨大な光の柱が天空へと立ちのぼる。

 雲を裂き大気を巻いて、はるか星辰の世界まで延びていく。


「あ、あれ?」


 体の中で、なにかが解除される感触がした。


「春都。さっき報告するなと言われたけど、今回は特別だから許して」


 ヒナが、ごめんなさいと言いたげな顔をしてる。


「特別なら仕方ないけど……なに?」


 俺が許可すると、ヒナは突然、完全な無表情になった。

 早口で報告しはじめる。


「根元宝玉の力で古代神殿の機能が復旧された。古代神殿はリムルティア世界の地脈を安定化する働きをしている。だが女神リアナの失態で、すべて機能停止に追いやられた。今回が最初の復旧となる。これで現在地点のスタンピードは完全阻止された」


 ……ヒナが変になってる。

 どっちかっていうと、自発的にしゃべってるんじゃなく無理矢理に言わされてるって感じ。言わしてるの、天界システム? これ、ナビゲーションじゃなくインフォメーションだよなー。


「そんな重要なことなら、もっと前に、だれかが復旧させてれば良かったのに」


 それこそ勇者とかにやらせる事だろ、これ。


「直近の80年間、勇者は出現していない。根元宝玉を奉納できるのは勇者資格の持ち主のみ。普通の者がおこなうと消滅させられる。。したがって資格がある。資格があるゆえに、これは春都の義務となる」


「うーん、面倒な設定だなー。あ、そういやダンジョンコアのことを根元宝玉って言ってるけど、あれ、なんで?」


「根元宝玉は、天界システムが設定した勇者専用の。一時的にダンジョンコアを変性させてある。根元宝玉は女神の加護の能力を解放する。すでに解放は終わった。春都の特殊スキルに【万物隷属】が追加された。さらにはが適用された」


 もうヒナの口調、インフォそのもの。

 もしかして回路が切りかわってる?


「イベントアイテム? なにそれ、ゲームっぽすぎるんですけど?」


「これまで聞かれなかったから説明しなかった。この世界も地球も、かつておなじ雛形世界から作られている。だから伝説とか神話も似ているし概念も似てくる。住人たちの潜在意識に刷りこまれている世界設定も基本的にはおなじ。地球ではやってるネットゲームの世界がリムルティア世界と似ているのも、その雛形の設定を、ゲームクリエーターや原作者がインスパイアしてるから」


 うわー。一気に重要そうな説明きたー!

 でも説明されたら、あたり前のような気がしてくるから不思議だ。


 つまりイベントアイテムっていう言葉自体、地球のゲーム用語じゃなく、もともとあった言葉のたんなる翻訳ってことか。


 まあ、どっちみち、いま真剣に考えることじゃないよな?

 あとで寝る前とかに、ヘルプを見ながらじっくり考えることにしよう。


 そうそう、【万物隷属】……。

 なんか不穏な感じがダダ漏れしてるスキル。

 ステータスポイント10倍のほうが、ずっと有り難い気がする。


 ステータスポイント自体は、総合レベル30を越えたら、だれでも入手できるらしい。


 前にステータスを見たときあったから、生前に遊んでたネットゲームと同じように、ステータスの数字にポイントを割りふる仕様じゃないかとは思ってたんだ。


「そういやステータスポイントって、まだ割りふってなかったな」


 いまのステータスポイントは3000くらい。

 ゲームでは、1ポイントで各数値が1上がった。HPとMPは10ずつ。

 これを当てはめると、いまの物理攻撃が20900だから、全フリすると23900。


 レベルに換算すると10UPぐらい?

 全フリでこれなんだから、バランスを考えて配分すると、ますます微妙な強化になってしまう。


 だいいち生前の俺は、『敵に勝てなくなるまで戦い続けてレベリングして、勝てなくなったら、それまでため込んだ各種強化法を使って勝てるようにする』ってプレイスタイルだったんだ。


 だから今回も、無意識にポイントを溜めてた……。


「これから先、春都には特例が適用される。HPとMPの場合、1ポイントにつき500が増加する。他のステータスは1ポイントにつき10増加。ポイント自体は1レベルで10増加する。配布したぶんのやり直しはできない」


 聞いて驚いた。

 溜めてたの、超ラッキーじゃん!


 今後は10倍も強くなれる。

 HPとMPは1000を割り振っただけで10万も増える。


 そうとわかれば、さっそく割りふりしたくなるけど……。

 再配分ができないんなら、落ちつける場所でじっくり考えながらやらないと、あとあと後悔しそう。うん、あとまわしに決定!


「特別報告がまだある。女神の加護1および2の全解放によって、【希望∞】の力が発動した。セントリーナ王国の上空に吉兆の星が出現。人々の心に強い希望が生まれた。その結果、ハルマゲドン・カウンターが100日延長された」


 うわー、いっきに100日、なんて太っ腹!

 思わずメニューを開いて残日数を見る。


 破滅まで130日。

 よっしゃー、大台突破だ!


「あっ、宝玉が消える!」


 1人だけ会話に参加してなかったセリーヌが、台座を見て叫ぶ。


「根元宝玉がダンジョンコアにもどった。これから元の最深部へ転送される。その後は通常のダンジョンコアとして、ダンジョンを維持するための機能にもどる」


 ヒナが無表情のまま解説する。

 見ているあいだにコアが消えた。


「ダンジョン機能が正常にもどった……」


 ヒナの表情が微妙に変化しはじめた。


「……春都、いまのボク、うざかった? もしそうなら、ごめん」


 あ、やっぱ別人格だったんだ。


「いや、大丈夫。どっちもヒナに変わりないし、


「……はうっ!」


 ヒナが大袈裟にのけぞる。


 おおっ、予想外の反応だ。

 さりげなく好きって言った俺も俺だけど。


 よくまあ俺、こんな大胆な事、言えたもんだ。

 内心、冷や汗ドバドバで溺れてしまいそう。


 照れ隠しするため言葉をかさねる。


「これで、全部終わり?」


「うん、終わり。あとは地下3階にもどって安息所に行くだけ」


 もうヒナ、元にもどってる……。


「えーと、空間転移すればいいんだよな? 2人とも俺のそばにきて」


 こっちに来る前、ボス部屋の直前で転移ポイントを登録した。

 本当は地下3階の安息所に設置したかったけど、そうするとルフィルさんたちの前に出現しちゃうから、いろいろ問題がでるって思って断念したんだ。


 マップをひらいて転移地点を確認する。

 転移する前に、地上の祭壇前をあらたな転移ポイントとして登録した。


 2人がぴったり俺の両側に寄りそう。

 うふふふ……これ役得だよな?


「長距離転移、ボス部屋前!」


 ――シュッ!


 俺たちの前に、開け放たれたままの巨大な扉があらわれた。

 転移して気づいた。

 ボスに挑戦する冒険者がいたら、その前に出現してた……。


 まあその時は、『短距離転移スキルを試してた』とか言いわけするけど。

 あうう……それなら安息所を登録しても良かったじゃん!

 俺のアホー。


「さあ、もどろう。みんな待ちわびてるはずだ」


 この時、ステータスにあらたな項目【称号】が付け加わっていた。

 それに気づいたのは、安息所についてから。

 はじめて獲得した称号は【ドラゴンバスター】だった。




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