第9話 冒険とはけっして後悔しないこと
「ヒナ~。なんで最初に、ソレ使わなかったんだよ~」
亡霊騎士にトドメを刺したのは、ヒナの天界浄化玉……。
そこまで強力な玉があるのなら、最初に使ってくれればいいのに。
なあ、愚痴いいたくなるよな?
「亡霊騎士の鎧は、聖属性や光属性の魔法を完全阻止する。だから春都が鎧を溶かして変質させないかぎり天界浄化玉は使えなかった。春都は、そこまで先読みして戦ったのでは?」
あ、きちんと理由があるのね。
でも……あ、いや。
これもどうせ、俺がまえもって聞いてないのがいけないんだよな?
「神様じゃあるまいし、先読みなんて、できるかー!」
でも言いたい。
まえもって気づけないのが俺なんだ!!
ううう……胸はってる自分がなさけない。
俺とヒナが認識のちがいを言いあってると、セリーヌが近づいてきた。
「なんだか……貴様たち、すさまじいことしたな」
「だって、ああでもしないと亡霊騎士は倒せなかっただろ?」
「いや……そんなことはないぞ?」
「ほえ?」
「冒険者のあいだで定番になっている倒しかたはこうだ。しんぼう強く魔法防壁をかけて、亡霊騎士の生気吸収と魔力吸収をじゃまする。そのあいだ魔法でHPを削りつづける。こうしておけば、こっちのMPが先につきないかぎり、そのうち亡霊騎士のHPがゼロになって倒せる。レベル35以上のパーティーなら勝てる相手だ」
セリーヌは自分が間違っていないことを、パーティーメンバーに確認する視線をおくる。
「だよね~。みんな知ってるし。知らないほうが変」
「あの倒しかた、ないにゃー。どんだけ魔力あまってるんだにゃー」
女の子たちに好き勝手いわれた。
俺、なにやってんだ……。
「……ヒナ。なんで前もって教えてくれなかった?」
「試行錯誤も経験のうち。おかげで春都は、いくつも魔法の効果を確認できた」
おまえ、鬼教官かよー。
「冒険者なら常識なんだよな? じゃなんで、お兄さんたちは倒せなかったんだ?」
これにはパーティーのリーダーが答える。
「金がなかったもんで、MPポーションを充分に持ってこれなかったんだ。だいいち、あいつと闘う予定じゃなかったし。だから、こっちが先にMP切れをおこしちまった。常套手段じゃMP補給が不可欠なんだよ」
なるほど……。
ことが持久戦なんだから、さきに攻撃と防御の手段をうしなえば負けるはずだ。
「でも結果的に生きのびられたんだ。よかったんじゃない?」
「ポーションは在庫があったから、自然回復もあわせて、なんとかHP吸収だけは耐えられた。でも、HPポーションと自然回復がつききれば終わりだ。あいつは俺たちが死ぬまで食らい続けたはずだからな」
そう言うと、小声で「俺の判断ミスだ。これじゃリーダーとして失格だな」とつぶやく。
「いやいや。結果論だけど、生きてさえいれば再挑戦できる。俺は、あんたたちの勝ちだと思う」
「もう引退だよ。片腕をなくしたんじゃ戦えない」
気弱になった兄の言葉に、セリーヌが激しく反応する。
「そんなことはない! かつて片腕の英雄がいたと本で読んだことがある。彼が片腕をうしなったのは、英雄になるずっとまえだ。だから兄貴も、もっと強くなれるよ!」
「そうだ、ルフィル。貴様はいまも俺たちのリーダーだ」
ヒナにHPポーションをもらって飲んだ盾役の男が、いつのまにか横にきている。
セリーヌの兄の名はルフィルさんって言うらしい。
鑑定したときは無視したから、いまはじめて知った。
「俺、春都。こっちはヒナ。セリーヌがあんたらの捜索クエストを引きうけた。俺たちはセリーヌにやとわれた荷役だ。ともあれ……無事でよかった」
「おう、礼がまだだった。俺はガース。助けてくれて感謝する」
「ガース……あんた、アルビルさんの息子だろ? 盾役の息子がいるって聞いたけど。すごく心配して、町じゅう駆けずりまわってたぞ」
「親父が? ううむ……」
なぜか言葉に詰まってる。
いろいろ思うところがあるらしい。
俺はあえて、深入りしないことにした。
「うちはウニャル。山猫種の魔法使いにゃ」
「私はエルフ種の僧侶、サーリア。もう駄目かと思った……」
つぎつぎと礼を言われる。
俺は照れくさくなって、それをごまかすため、インベントリからMPポーション4本を取りだして手わたす。
「これ飲んどけ。まだ危険が去ったわけじゃない」
「春都、これで依頼されたクエストは終了……でもボクたちは、もうすこし用事がのこってる」
ヒナがみょうな事を言いはじめた。
「これで帰るんじゃないのか?」
「ボクたちは、これから地下4階にある最深部の部屋にいく」
ヒナの言葉に、ガースが強く反応する。
「おいおい! 地下4階はA級指定だぞ。しかも最深部はまだ未踏だ。その前にいるダンジョンボス部屋のスカルドラゴンは、まだだれも倒していない。あいつ、レベル60だぞ!?」
「春都、ステータスを見て。ただし隠蔽モードで」
隠蔽モードだと、他人には見えない。
隠してまで、いま見る必要があるんだろうか。
「はやく」
「わかったよ、ステータス隠蔽モード」
俺だけに見える状態で、ウィンドウが開く。
「うわっ!」
「どうした?」
俺が驚いたので、セリーヌが心配している。
「い、いや、なんでもない……」
氏名・種族 神崎春都 18歳(ハイヒューマン)
職業 超級魔剣士
レベル 140
ステータスポイント 3600
HP 756200
MP 863400
物理攻撃 18520 物理防御 20630
魔法攻撃 21550 魔法防御 22140
素早さ 3950 知力 3120
幸運 6140 器用 4140
希望 ∞
ものすごく上がってる。
レベル140って……もうこれ人間じゃない。
ヒナが隠蔽しろって言うわけだ。
魔法やスキルのレベルも、あちこち上がってる。
しかも昇級条件が厳しいはずの女神の加護がレベル2になってる。
まあ、それで増えたのは【地形改変1】とかいうスキルひとつだけど。
「いまの春都なら、地下4階をソロでも踏破できる」
「おい、お嬢ちゃん、冗談が過ぎるぞ」
また左腕の切断箇所が痛みはじめたのか、ルフィルさんが顔をしかめたまま言った。
「ボクは、たまにしか冗談いわない。あなたたちの処遇は春都がきめる。ボクとしては、セリーヌの護衛でアナベルにもどることを推奨するけど」
えっ? ここで俺に振るのー?
「春都殿とヒナ殿をのこして帰ることはできない!」
せっかくのヒナの推奨だったが、セリーヌは即座に断わった。
「うーん……」
俺が決めかねているとセリーヌが口を開いた。
「私は春都殿と一緒にいく。ダンジョンには、かならず【安息所】という名の安全地帯がある。兄たちには悪いが、安息所でしばらく待ってもらう。そのあいだに用事を済ませる」
「いや、それは駄目だ」
俺によい案があるわけじゃないけど……。
ここで分かれて行動するのはダメな気がする。
「春都、これ」
ヒナがポーチから魔法玉を取りだして渡した。
「なんの魔法玉?」
「相手を指定できる念話玉。それを使ってギルド長に連絡する。迎えにきてって」
「そりゃグッドアイデアだな。よし、それなら先に進んでいい。そうしよう!」
「春都が決断してくれて嬉しい」
ルフィルさんたちと分かれても、あの筋肉のバケモノみたいなギルド長――アンガスがいっしょなら、きっとなんとかしてくれる……はず。
言ってからなんだけど、俺ってとことん他人まかせだなー。
「春都殿、ちょっと待って……」
異論があるのか、セリーヌが制止しようとした。
だが、もう遅い。
――プーン!
玉をつかうと変な音がした。
なんか回線がつながったみたい。
『おっ、なんだなんだ!?』
俺だけじゃなく、ここにいる全員に、アンガスの声が聞こえてる。
「アンガスさん、俺だ、春都。念話アイテムをつかった。ルフィルさんをふくめた4名、無事に確保した。怪我人がいるので、ダンジョンの地下3階にある安息所まで迎えにきてほしい」
『お、おう……ほんとに春都か? あー、聞こえているか?』
「はっきり聞こえてる」
『そうか、すげーなこれ。ええと……そこにセリーヌさんもいるんだろう? なんでおまえらが連れて帰らないんだ?』
俺が返事に困ったので、ヒナが助け船をだす。
「こちらヒナ。ボクたちはこれから、地下4階のスカルドラゴンを倒したあと、ダンジョンコアを取りにいく。そう春都が決断した。コアを遺跡の祭壇に奉納してダンジョンを安定化する。そうすれば、もうスタンピードは起こらない」
さらなる行動は、スタンピードを完全終了させるためだったのか。
そりゃ、やっとくべきだな。
『お、おまえら、F級だろうが! 無理だ、ぜってー無理!!』
「冒険者は自己判断、自己責任、そう聞いたけど? これは春都が決めたこと。だからだれにも止められない。そうでしょ?」
おい、いつ俺がきめた?
あ、いや、先に進むって言ったっけ。
自分で忘れてりゃ世話ないなー。
『そりゃー、原則はそうだが……』
セリーヌが話にはいる。
「アンガス、セリーヌだ。春都殿とヒナ殿なら大丈夫だ。きっとやり遂げてくれる。それに私もいっしょに行くから……信じてくれ。あとで安息所で会おう。それから、つぎにさん付けしたら殴る」
セリーヌの声には虚勢がない。
ごく普通に話している。それはアンガスにも伝わったようだ。
『セリーヌさ……セリーヌ、あんたがそう言うんだから勝算があるんだろうが、絶対無理はするな。スカルドラゴンはA級パーティーでも討伐できなかった強敵なんだからな。もし無理だと思ったら、さっさと安息所にもどってくれ』
「つべこべ言わず、全速で迎えにこい。なんなら、あんた1人でもいい。地下3階の安息所までならこれるはずだ」
『ムチャ言うなよ……そりゃ俺は元S級冒険者だから、以前なら地下3階まではソロでも楽勝でいけたけど、あくまで元だぜ?』
「ふん、おっさんになったもんだ」
『あ、それ聞き捨てならんぞ。わかった、俺が迎えに行ってやる! ただし、いまギルドにたむろしている冒険者もみんな連れていく。ちょうどいい訓練になるし、クエスト指名金も払ってやれるからな。それじゃ待ってろ!』
「春都、玉を割って。それで通話が切れる」
玉は基本、使い捨て。
でも1通話ごとに破壊するなんて、なかなか豪快な使用法だ。
――パン!
床に落とすと、澄んだ音とともに粉々になる。
つぎの瞬間、光の粒子に変化して消えた。
「さてと……アレ、開けるか」
いろいろ算段も終わったことだし、ずっと気になってたアレをなんとかする気になった。
「あの、ルフィルさん?」
あらたまった口調で声をかけたもんだから、ルフィルさんから怪訝そうな目で見られてしまった。
「あそこにある宝箱なんだけど、開けちゃっていい? あ、いや、見つけたのはルフィルさんたちだから、権利はそっちにあるって承知してるんだけど、もしかして罠とかかかってたらと思って……」
本音は、この世界にきてはじめて出会った宝箱だから、ともかく中を見てみたい……。
「俺たちは助けてもらった身だ。それに亡霊騎士を倒したのはあんたなんだから、宝箱の権利もあんたにある。だから遠慮せず開けてくれ」
「そうだぞ、春都殿。兄のいうとおりだ」
「そんじゃ開けさせてもらうぞ? 本当にいいんだな?」
「しつこい男は嫌われる」
ヒナ、そこでそれ言う?
「わかったよ。精密鑑定」
宝箱の近くまでいき、そこで鑑定スキルをつかう。
(遺跡ダンジョン地下3階、フロアボス部屋の宝箱。亡霊騎士を討伐することにより解錠される。解錠条件を満たさず開けると即死の呪いで例外なく死亡する)
「ルフィルさんたち、これ開けなくてさいわいだったね。即死の呪いがかかってる……」
俺の言葉に、全員ドン引き。
「でも、亡霊騎士をたおすのが解錠の条件になってるみたいだから、もう安全に開くはず……開けるからね」
――ギッギギーッ!
宝箱の蓋を両手で押しあげる。
中には巻き物がひとつ入ってるだけだった。
「精密鑑定」
(特殊スキル【煉獄の断罪】のスクロール。
「うーん……俺のもってる魔法だと付与魔法の乱撃に近いかな? だれかこの【煉獄の断罪】スキル、必要?」
使えそうなのは、俺、ルフィルさん、ガースさん、セリーヌくらいか。
「俺はいらん。片腕じゃ、どうせ使えない」
真っ先にルフィルさんが断る。
「ならば俺も必要ない。あんたらの手柄なんだから、あんたが決めろ」
ガースは律義さゆえに断っているようだ。
「なら、セリーヌにあげる。俺は似たようなの持ってるから」
「春都殿、いいのか?」
もらえるならすごく嬉しい、そう顔に書いてある。
「ほい」
スクロールを放り投げる。
勢いで、丸めるのに使われていたヒモがほどけた。
――カッ!
まばゆい光がうまれ、セリーヌをつつむ。
同時にスクロールが燃えあがる。
跡形もなく燃え尽きた。
「………!?」
「春都、ステータスを見てやって」
そういえば一般人は、自由にステータスを見れないんだった。
「んー。おっ、あった。セリーヌ、きちんと特殊スキル【煉獄の断罪】を体得してるぞ。でも、ここで試すなよ。なんか物騒な効果があるみたいだから」
「本当に私のものに? あ、ああ……もちろんいまは試さない」
「さあ、ここでの用件は終わったことだし……安息所まで移動しよう」
俺は地下3階のマップを見ながら、設定で【安息所】のアイコンをONにする。
安息所は地下2階への登り階段に近いところにあった。
「極光」
レベル2になった極光で、地下3階の魔物を一掃する。
倒した魔物は、すべて自動でインベントリに入る。
なんかこれ、俺の思ってた冒険とずいぶん違うような……。
「よし、移動開始だ!」
俺たちは、安息所にむけて歩きはじめた。
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