Good night
霜月はつ果
第1話 雨催い
朝が来る。午前六時。
眠らないというのには語弊があるかもしれない。眠れないのだ。眠らなくても生活できる。どうしてそうなったのか。それは、実に信じがたい理由だ。
帆刈藍が生まれる少し前、帆刈藍の母は子供ができずに長いこと悩んでいた。そこで神社にお参りに行ったとき出会った神様と取引したのだ。子供を授ける代わりにその子供の一生分の眠りをくれと言われたらしい。まさか本当に神様に会えたのも驚きだが、そこで迷わず取引をした帆刈藍の母にも驚きだ。
眠らなくてもいいなんて羨ましいと思うだろうか。多くの人が眠らなくてもよかったらいいのにと思ったことがあるだろう。しかし帆刈藍に言わせるとそうでもないらしい。
目覚ましがなる。もちろん私は目が覚めているのだが、まあ雰囲気というやつだ。よく眠って、爽やかに目覚ましの音で起きるというのに憧れるのだ。私は午前五時に布団に入り、体を休めることにしている。たとえ眠れなくても目を閉じて横になるだけで脳が休まるとテレビでやっていた。そして六時に布団から出てくる。一時間の休息は活動時間が長い私には欠かせない。
私が眠らないことを知っているのは親だけだ。赤ちゃんのころは夜泣きが激しかったのよ、とお母さんから聞いたが当然だと思う。そりゃあ起きているのに何十分も放って置かれたらどんな赤ちゃんでも泣くだろう。
自分が普通じゃないことに気づいたのは保育園のころだ。昼寝の時間が大嫌いだった。なぜみんな話しかけても返事をしてくれないのか。なぜ先生は私が起きていると怒るのか。目を閉じなさいと言うけれど、そんなことをして何の意味があるのか。眠るというのは何なのか。誰に何を言ってもわかってもらえず悲しかった。そして、人は普通「眠る」という意識をなくす行動をできるのだと知った。
小学校に入るまでは毎日、お母さんに眠れないと泣きついていた。お母さんはどう頑張っても眠れないことをわかっていたが、その度に一緒に布団に入ってくれた。しかし気づくとお母さんが眠っていたことを覚えている。
小学生になるとひとりで夜を過ごすのもできるようになり(電気はもちろん廊下から何まで全てつけてたが)、無理に布団で過ごすのではなく、ひとりで本を読んで過ごすようになった。本には随分救われた。眠れないと嫌なことがあっても、眠って逃避という手が使えなかったが、本を読んでる間はそんなことも忘れられた。
中学生になり、本を読む他に、勉強をするようになった。他の人より自由に使える時間がある分、成績はよかった。だがそれだけだ。空を飛べるだとか、魔法が使えるだとか、他と違うならもっと生きていく上で楽しい違いにしてほしかった。図書館で借りれる面白そうな本はあらかた読んでしまい、読む本も尽きてきた。
そんな私も今や高校生だ。眠れないというのは相変わらずで、他のみんなが羨ましかった。
年を重ねるに連れ、夜との付き合い方は上手くなったが、夜の憎さも深くなった。何で自分は人と違うのか?
窓から見える、ひたすら黒い世界。
ひとりぼっちの夜が大嫌いだった。
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