第3話:旅行気分
アメリアとドライドという二頭の馬に護られて、幌馬車で王都を離れる旅は、なかなかに感慨深いものがありました。
自分がやってきたことではありませんが、この身体の持ち主がやってきた悪行の数々は、とても許される事ではありません。
自分がやった自覚がないので、全然切迫感はないのですが、捕まれば間違いなく処刑か幽閉謀殺されると思います。
乙女ゲームのエンディングがそうでしたから……
切迫感があったら、私は馬車を捨てて街道を使わなかったでしょう。
どれほど不便で苦しくても、人目につかないように行動したはずです。
ですが、油断というか、甘えがあったのだと思います。
これは乙女ゲームの世界だから、設定にない事をすれば崩壊するだろうと。
完全に設定を壊せば、動かなくなるか、対処できずに違う歴史が動き出すと。
確かに違う歴史が動き出したのですが、それは私の都合に合わせてはくれない。
そう心から理解したのは、もっと後の事でした。
だから私は、この旅を結構楽しんでいました。
乙女ゲームの世界に入るまでの私は、馬車で旅などしたことがありません。
野外でトイレしなければいけない事と、お風呂に入れない事には本当に困りましたが、焚火をして保存食を料理して食べるのは、結構楽しかったです。
私だって多少は気を付けていたので、街には入らずに幌馬車で寝泊まりして、お風呂やトイレを我慢していたのです。
まあ、どうせこの時代のトイレはオマルか汲み取りですから、臭気の厳しいどちらかよりは、解放された屋外でする方が気分はいいです。
実感はありませんでしたが、この身体の記憶では、狩猟の際は平気で屋外で排泄していたようです。
旅に出てひとつどうしても確かめたくなったことがあります。
それはこの乙女ゲームの世界で実際に魔法が使えるかどうかです。
恋愛が主体の乙女ゲームですから、魔法を使った戦闘がメインストーリーではありませんが、サブストーリーやボーナスストーリー、隠しストーリーにはあるのです。
そしてこの世界の設定では、高位貴族は遺伝子的に強い魔力を持つ事になっているのです。
いざ魔法を使おうとしたら、不意に目が覚めて夢落ちになる可能性が一番高いですが、それならそれでもいいのです。
どうせなら、この世界この夢を愉しみたいと思ったのです。
楽しめないまま時間だけが過ぎて目が覚めるくらいなら、やりたいことをしようとしてできずに、目が覚めた方が早く現実に戻れます。
だから街道の途中で広い草原を見つけた時に、ここで全力の魔法を放ってみようと思ったのです。
ですが、もしこれが本当に異世界への憑依だったら、最初から全力で魔法を放つのは危険なので、最初は弱い魔術を使う事にしました。
今までは、確かめるのも使いこなせないのも怖くて、料理を作る時も魔法で火を熾さずに、火打石と火口を使っていました。
でも、いよいよ今から魔法で火を熾してみます!
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