第2話:家出
私は動きやすい狩猟用の服に着替えました。
ありがたい事に、残虐な悪役令嬢は動物を殺す狩猟が大好きでした。
そのお陰で、煌びやかなドレス以外に動きやすい服があったのは、幸運でした。
ですが、乗馬服を着る前に、下着に全ての装飾品をつけます。
乗馬服や外套に装飾品をつけてしまったら、治安の悪いこの国では、自分から襲ってくださいと言っているようなものです。
準備を整えた私は、馬小屋に行きました。
残虐非道な悪役令嬢の私も、自分の愛馬だけは可愛がっていました。
何故かと私に聞かれても困りますし、私の前にこの身体を使っていた本物の悪役令嬢に聞いても無駄です。
全てはゲーム会社が決めた設定通りなのですから。
私は誰にも見つからないように、こっそりと馬小屋にいきました。
すると愛馬アメリアが、静かに甘えて来てくれました。
この身体の中身が入れ替わった事に、アメリアが気が付いているのかいないのか、私には分かりませんが、甘えてくれたことに心からほっとしました。
私がアメリアに家出するための馬装を整えようとすると、頭をつけてクイクイと私を押しやります。
最初は何を訴えたいのか分かりませんでしたが、馬房の戸を開けて自由にさせてあげると、アメリアはキビキビと他の馬房に近づきました。
アメリアが近づいた馬房は、ボードン公爵家で一番力持ちの輓馬で、一頭で六頭立ての馬車を牽ける桁外れの牡馬、ドライドの所でした。
ただあまりに気性が激しくて、他家の牡馬を蹴り殺したことがあるので、仕方なく荷物運搬用の荷馬車を牽かせているほどです。
アメリアとドライドが何か話し合っているようですが、その態度を見ると、明らかにアメリアの方がドライドよりも上位者のようです。
暴れん坊のドライドがアメリアに指示されているのを見ていると、気の強い女性の言いなりになっている、気の好い大男のように見えてしまいます。
私のそんなのんきな考えを咎めるように、アメリアが厳しい眼で私をみます。
そこではっと気が付きました、アメリアは私に馬車を使えと言っているのです。
アメリアと二人だけで逃げるのでは、持っていけるものに限りがあります。
ですが、ドライドがついてきてくれて、馬車を牽いてくれるのなら、たくさんの物を持ち出せるので、死ぬまで働かずに生きて行けるかもしれません。
私は急いで馬車置き場に行って確認しましたが、公爵令嬢に相応しい立派な馬車は、盗まれないように厳重に保管されています。
またアメリアがクイクイと私を押しやります。
アメリアに押されるまま進むと、使用人が買い物に使う幌馬車がありました。
見た目は庶民が使う馬車と代わりませんが、ボードン公爵家は屋敷の維持のために大量の買い物をするので、それを運ぶための馬車はとても頑丈なのです。
戦時には補給につかう事も考慮されているので、中身は軍用馬車なのです。
それに、幌があるので雨が降っても大丈夫です。
私は急いで部屋の私物を馬車に乗せて家を出ました。
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